GUNDAM EXSEED_B_52

Last-modified: 2015-11-28 (土) 23:11:49

戦いが始まる。一国の存亡をかけた戦いだ。しかし戦いにかける思いは、守る側と攻める側では全く異なる。
攻める側は、虫を潰すような思いで軍勢を動かす。
対して、守る側は大事な物を守るために、全てをかけた必死の思いで、僅かな兵力を動かす。
「敵艦隊に動きあり!」
見張りをしていたジェイコブからの通信を聞きクランマイヤー王国の兵たちは一斉に動き出した。
寝ていたハルドは目を覚まし、ゆっくりと乗機のヴァリアントガンダムに向かう。その脇をセインが歩く、ハルドは無言で横を歩くセインに拳を突き出す。
それに対して、セインは同じように無言で拳を突き出し、二人の拳が打ち合わされた。その直後、ハルドは瞬くような速さでセインの肩を掴み、抱き寄せ、耳打ちする。
ハルドは言い終えると突き離し、セインの先を歩きながら、セインの方を振り向きつつ強く言う。
「いいな、約束だ!」
そう言ってハルドはヴァリアントガンダムに乗り込んだ。セインはハルドから耳打ちされた言葉を心の内で噛みしめ、オーバーブレイズガンダムに乗りこんだ。
「摂政自ら出陣ですか」
クリスがキャリヴァーの元に向かうアッシュをからかうように言った。
「コックピットの中が一番安全だからね」
状況的に冗談っぽくない冗談にクリスは苦笑する。
「僕は絶対に死なないように立ち回りますが、あなた方以外の人の下につく気はないので帰ってきてもらわないと、今後の人生、無職になるので、よろしくお願いしますよ」
「善処するよ」
そう言って、アッシュはキャリヴァーのコックピットに乗り込んだ。どうやら機体の起ちあがりは自分が一番早いかと思い、アッシュは出撃の言葉を発する。
「アッシュ・クライン。キャリヴァー、出撃する」
アッシュのキャリヴァーが格納庫のハンガーを離れ、宇宙港を経由して、宇宙へと出る。今更だが、この構造に関しては改修しておけば良かったなと思った。宇宙港とコロニー側の格納庫が直通は楽だが色々と問題がある。
生きて帰って、何とかしなければなと思い、アッシュは戦場の自分の配置へとつくのだった。
セインはフーっと息を吐くと、機体の操縦レバーに手をかける。絶対に死ぬわけには行かなくなった。セインはハルドから耳打ちで聞かされた言葉を思い出し、強い決意を抱いて叫ぶ。
「セイン・リベルター。オーバーブレイズガンダム・ブラスター、行きます!」
オーバーブレイズガンダムがハンガーから離れ、動き出す。その背中にはレビーとマクバレルが設計した超大型キャノンが装備されており、本来の炎の翼を放出する大型スラスターは取り外されているが、セインは機体の機動性に関して問題を感じていなかった。
キャノンはスラスターも内蔵されており、充分な機動性が確保されていたからだった。セインのオーバーブレイズガンダムはアッシュのキャリヴァーが通ったのと同じルートで宇宙へと飛び立っていた。
「さて、行くか」
ハルドは、コックピットの中で首を回したり肩を回して軽く準備運動をしていた。ハルド自身に生きなくてはという思いは無かった。死ねば最愛の人物があの世で待っているから、いつ死んでもいいと思っている。
ただ、最愛の人物は必死で生きた。ハルドは簡単に死んでしまうのは、その人生の冒涜になると自分勝手に考え、必死に生きて、最後は全力を尽くして死ぬことを望んでいた。
間違いなく、クランマイヤー王国側では自分だけが場違いな考えの持ち主だろうが、その点については勘弁してくれと思い、ハルドは機体を起動させる。
「ハルド・グレン。ヴァリアントガンダム、出すぜ」
全身に大量の武器を纏ったヴァリアントガンダムがハンガーから離れ、死地を求めて、戦場へと駆け出す。

 
 

続々と出撃するMSを眺めながら、マクバレルは車椅子に座るレビーに手を伸ばしていた。レビーは何も言わず、その手を握った。
「ここにいると辛くなる。私は何をしてきたのだろうと思ってな。何も考えず、自分の才能を見せつけるためだけに、MSを設計してきた。それに乗った人間が何をするかも考えずにな。人の生き死になど考えず、ただ強いMSを作ることだけに酔っていたんだ。私は」
レビーはギュッとマクバレルの手を強く握った。
「教授のおかげで生きている人もいることを誇ってください」
レビーはそれしか言えなかった。だが、その言葉だけで良かったのかもしれない。マクバレルは目から一筋の涙を流しながら、出撃していく機体を見送っていた。

 

戦場にはクランマイヤー王国のMS、全機が並んでいた。敵艦隊が、砲撃を仕掛けてくるが、それに関してはマクバレル謹製の装甲板で防いでいた。装甲板はマクバレルがアマツクニで増産していたようで、さらに数多くの装甲板が宇宙に浮遊していた。
「向こうは突撃隊がいるようだが?」
アッシュがハルドにも聞こえる通信でクリスに尋ねる。
「中央を戦艦、両サイドを突撃隊先行のMS部隊の突撃で攻める感じだと思います」
ふーん、といった感じでハルドは聞きながら、敵もガチンコだなと思うのだった。ガチンコならば、取り敢えずやっておきたいことがハルドにはあった。
「全軍、敵にも聞こえる全周波通信をオンにしろ、そして叫べ」
ハルドはそう言うといっせーの、と合図をした。クランマイヤー王国側の兵は訳が分からなかったハルドに従った。
ウオオオオオ!と言う叫びが通信を飛び交った。
「声が小さいんだよ!気合入れろ、敵をぶち殺す叫びをあげるんだよ!」
そうハルドが言った直後、うおおおおおお!と言った、凄まじい叫び声が轟いた。
「まだだ、怒りを憎しみを叩きつける叫びをあげろ!」
最後は声として聞き取れないものだったが、途轍もない大絶叫だった。それも恐ろしい殺意がこもったものだとアッシュは感じたのだった。。
「敵の突撃してくる奴をぶち殺すぞ!イオニスは俺の左の隊を先導、殴り合いに自信があって逃げ足にも自信がある奴は、俺とイオニスついて来い!」
そうハルドが叫ぶとヴァリアントガンダムが最大加速で突撃を始める。
「勇者よ、一番槍は私がもらうぞ!」
ハルドの機体に合わせて、イオニスのフレイドも突進する。そのフレイドはアマツクニでレビーがイオニス専用にカスタムした特別製のフレイドであり、射撃武装を使わないイオニスのために射撃武装を全て排除しスラスターを代わり搭載した機体だった。
クリスがごちゃごちゃ言っているのがアッシュには聞こえたが無視をした。戦場勘に関してハルドは誰より頼りになるが、何故自分を指名しなかったのかが、アッシュには不服だったため無視をしたのだった。
急に突撃を始めた二機を前にして、クランマイヤー王国の一般兵は、若干臆する様子を見せたが、それは僅かの間であり、すぐさまハルドとイオニスを追って突撃する。
「叫べ!突撃の声だ!」
ハルドが全軍に叫ぶと、当然のように地鳴りのような叫び声が響く。その声を受けてハルドは自身も突撃しながら、バックパックの右側面にマウントされたペネトレイターライフル抜き放ち、突撃してくるシャウトペイルに狙いを定める。
「親父を喜ばせろ、ペネトレイター!」
親父とはマクバレルのことだ。設計者が喜ぶ威力があるだろうとハルドは確信を持ってトリガーを引いた。その瞬間に、稲光のようなものが走り、突撃してくるシャウトペイルの部隊を縦に貫いた。
「ホント、クソ武装だな」
ハルドは言いながら、ペネトレイターをバックパックにマウントし、両膝にマウントしてあるヘビーマシンガンを両手に持ち、連射を始めた。ヘビーマシンガンは大容量ドラムマガジンと大口径の実体弾を連射するカスタムされたマシンガンであった
ペネトレイターライフルは確かに敵に損傷を与えていたが、それは綺麗な穴であり、機体の動きを止めるには至っていなかった。
ヴァリアントガンダムは前へと進もうとするシャウトペイルの突撃隊を押しとどめるようにヘビーマシンガンを両手に一丁ずつ持ち、ひたすらに連射していた。だが、それでも、突破する機体はある。その機体の対処に関してハルドが叫ぶ。

 
 

「抜けてったのは無視だ。俺たちはこのまま、まっすぐ行く!」
ハルドは元から突撃隊の完全阻止など無理と見込んで、最前線へと突撃していたのだった。ハルドの機体を追ってクランマイヤー王国所属のMS隊が進んでいく。
「アホか、突撃隊だからって、何が何でも突撃していいわけねぇだろうがっ!」
ロウマは椅子から立ち上がり、椅子を全力で蹴り飛ばした。
「ガルム機兵隊、イザラ、行け!」
ロウマは何故、よりによってハルドを通すのか理解できないと突撃隊の指揮官の脳味噌の出来の悪さを思いながら、命令した。
イザラ達で足止めできるとして、どうするかだ。とロウマは思考を巡らせていた。ガルム機兵隊とハルドが対戦、時間稼ぎにしかならないとロウマは確信していたので先を考えることにした。
MSと戦艦では相性が悪すぎる、もしもの時は自分が出て、近寄ってくるMSを潰せばいいが、ハルドに関してはそう簡単にいかない。
時間稼ぎは何とかなるとして、それでどうする?ロウマは考えても仕方ないと思い決断した。
「右に寄せる。艦隊は右舷側に寄りつつ、敵陣を突破する」
これではハルドに怯えて逃げたみたいではないかと、ロウマは自尊心が傷つけられるような思いを抱いたが、ハルド率いるMS隊が迫ってくるのは事実だ。作戦成功を考えるならハルドの突破を許すわけには行かない。
「ハルドが核弾頭をまだ持ってるならなおさらだ」
ロウマは呟きながら、自分の判断は間違っていないと思い込むのだった。

 

「アンチビームの粒子が薄いな」
ハルドは敵艦に接近しつつある中で、周囲の状況を見ながら独り言をつぶやいた。これならば高出力のビーム兵器を持ってきても良かったか。そう思った瞬間だった。ビームがヴァリアントガンダムに飛来する。
ハルドは苦も無く回避し、撃ってきた敵を見定める。何機かあるが、どれもエース向けに改造された機体だと判断した。
「相手にならねぇよ。お前らじゃ」
傲慢極まりない言葉だったが、ハルドにしてみれば事実だ。対して、明らかに侮りを含んだ言葉をかけられたのはガルム機兵隊であり、その隊長であるイザラはハルドに言葉を返す。
「窮鼠猫を噛むという言葉を知っているか?」
イザラがそう言った瞬間、イザラは敵が明らかに馬鹿にしたような溜息をついたことに苛立ちを覚え、乗機の純白のシャウトペイルの対艦刀を抜刀する。
だが、先手を取ったのは、ゼロの操る機体コンクエスターのドラグーンであった。
ヴァリアントガンダムに四方八方からビームが襲い掛かるが、ハルドは苦も無く機体を操り全てのビームを躱しつつ、連携をかけて突撃してくる赤いザイランを蹴り飛ばし、
同時に左手に持ったヘビーマシンガンを連射し、赤いザイランと同時に攻撃を仕掛けようとしていた褐色のザイランを牽制する。
直後、ヴァリアントガンダムは右手のヘビーマシンガンを捨て、ペネトレイターライフルを抜き放つと、ロックオンもせずペネトレイターの引き金を引いた。超高速で発射される弾丸。その先にはジョットのゼクゥドが狙撃態勢を取っていた。
「やべぇっす」
ジョットは遥か遠くにいる、ヴァリアントガンダムの持つライフルの銃口がこちらを向いており、弾丸が発射されたことに気づき、機体を動かすが間に合わず、手に持っていたスナイパーライフルに直撃する。
ジョットはやられたか?イザラは一瞬、仲間の安否に注意がそれたが、そんなことをしていられる相手ではないことをすぐに思い出し、機体を操る。
イザラの純白のシャウトペイルが対艦刀を構え、迫ると、ヴァリアントガンダムは背を向けて逃げる。だが、その逃走方向はゼロのドラグーンによって塞がれている、逃走は不可能だそうイザラが確信した直後だった。
ヴァリアントガンダムは、ドラグーンから発射されたビームによって作られた檻の僅かな隙間をすり抜けていく。異常な操縦技術だとしかイザラは思えなかった。
「まだですよー」
アリスの乗る重武装のザイランが全ての火器をヴァリアントガンダムに向けて発射するが、イザラは、結果も見ずに無駄だと諦めた。
そのイザラの諦観は正しく、ヴァリアントガンダムはアリスのザイランの全弾発射を軽く躱しながらペネトレイターライフルをアリスのザイランに撃った。

 
 

発射された弾丸は、一瞬でアリスのザイランの胸を貫通し、風穴を開けるが、大破には至らなかった。単純に穴が空いただけで、行動不能にさせるまでのダメージを与えられないのが、ペネトレイターの難点であり、さらに――
「チっ」
ハルドは舌打ちをして機体が右手に持つペネトレイターライフルを見る。ライフルは各部が展開され、冷却及びクリーニングモードに入っている。その上、弾切れとバッテリー切れだった。
ハルドはもういらねぇと思い、ペネトレイターを放り捨てる。その間にも、ドラグーンのビーム照射とアリスのザイランの砲撃は続いていたが、ハルドは一顧だにせず、容易く全てを回避していた。
だが、イザラはそこをチャンスと考え、背後からヴァリアントガンダムに突進する。いくら腕が良かろうが、砲撃を回避している最中の敵の背後をつくならば、いくらなんでも攻撃を当たられるだろうとイザラは考えたが、甘かった。
ヴァリアントガンダムは左胸のホルスターからビームピストルを素早く抜き放つと背後に迫っているイザラのシャウトペイルに、振り向くこともせずにビームを連射する。
イザラは咄嗟に対艦刀で受け止めたが、それにより一瞬、イザラのシャウトペイルの足が止まる。ヴァリアントガンダムは即座にビームピストルを収め、ドラグーンのビームを回避しながら、イザラのシャウトペイルがいる方向へと振り向きながら、
左胸のホルスター裏に隠して収納されている、スローイングナイフをイザラのシャウトペイルへと投げつける。投擲されたナイフの速度はビームより遥かに遅い。だが、ビームピストルのビームを防いだ直後では、イザラはそちらの防御にまで気が回らなかった。
その結果、イザラのシャウトペイルの頭部メインカメラにヴァリアントガンダムのスローイングナイフが突き刺さり、それと同時に爆発する。スローイングナイフは柄の部分に強力な爆薬を内蔵した装備であり、当たり方次第だがMSも簡単に破壊できる。
「イザラっ!」
ドロテスが即座にイザラの機体のカバーに入る。具体的には、両手に持ったライフルを連射しながら、イザラのシャウトペイルの前に立ちはだかりつつ、ハルドのヴァリアントガンダムに突進していた。
ゼロのドラグーンは攻撃を止めていないが、当たる気配は誰が見てもしなかった。ヴァリアントガンダムは、ただユラユラと動いているだけ、四方八方から不規則なタイミングで連鎖されるビームを問題なく回避していた。
ドロテスはこれが、バケモノだと以前に殺した相手に目の前の敵を見せてやりたくなった。人間の限界をどこかに置き忘れてきたような奴ら。目の前のガンダムタイプのパイロットは間違いなく、その類だとドロテスは思った。

 
 

「ガウン!」
ドロテスは仲間の名を呼ぶ。応答はないが、意図は読んでくれるはずだ。ギルベールもアリスも連携のために動き出し、イザラも動いている。
「……ガルム機兵隊、総員に告ぐ。これより我らの任務は時間稼ぎと生存とする!」
イザラがそう言いながら、自機のシャウトペイルを黒と白のツートンカラーのガンダムタイプに突進させる。
「面倒はないが、面倒だな」
相手をするのに手こずる気はしないが、相手にすること自体が煩わしいとハルドは呟いた。一緒に最前線まで突撃させた部隊は上手いこと、コイツらとは接触せずに、敵の艦隊を追っているだろう。状況はそれなりに良しとハルドは考えることにした。
ドラグーンは鬱陶しいが、気にしてどうこうするほどでもない、褐色の機体があからさま派手に動いてこちらを誘っているが本命は白いのか青いランス持ちだろう。ピンクのと赤いのが見える範囲にいないが、おそらく後詰だろうとハルドは考えた。
ハルドはドロテスのザイランの攻撃を避けながら、右腰のアーマー内から実体刃のナイフであるソリッドナイフを素早く取り出し、瞬く間に投擲し、褐色のザイランの胴と左肩を繋ぐ関節部に直撃させる。
ドロテスは深くは突き刺さっていないと確認し、乗機が持つ両手のビームライフルをヴァリアントガンダムに乱射する。
「ま、あんなもんか」
褐色の機体に与えたのは多少、左腕のライフルの精度が落ちたぐらいのダメージだとハルドは分析しつつ、左腕に持っていた、ヘビーマシンガン放り捨てる。
何も考えず捨てたわけではなく、ランス持ちが接近戦を仕掛けてくる際に通りそうなルートにぶつかるように投げたつもりだった。たいして意味はないと思うがちょっとした意地悪だ。
ヴァリアントガンダムは右肩にマウントされた対艦刀を左手に持ち、左腰にマウントされているブレイドライフルを抜き放ち、右手に持つ。
「さて……」
ハルドはあまり深く考えず、機体をゆらりと動かした。とりあえず褐色から行くか。そう思い、ブレイドライフルのビームライフルを褐色のザイランに撃つ。
褐色のザイランがいくら撃っても当たらなかったビームが、ヴァリアントガンダムが撃つと、いとも簡単に褐色のザイランの右胸を貫く。
ハルドはコックピットを狙ったつもりだが、ギリギリで褐色は回避した。案外優秀だとハルドが思っていると、ヴァリアントガンダムの背後にはガウンのシャウトペイルが迫っていた。
だが、ハルドは気にせず、ゆったりとした感覚で機体を振り向かせることもなく、左手の対艦刀を振るう。ガウンのシャウトペイルのランスは対艦刀によって簡単に受け止められていた。
だが、そこへ頭部を失ったイザラのシャウトペイルが対艦刀を振り下ろすが、ヴァリアントガンダムも同時にブレイドライフルを振るう。一瞬の衝突。イザラはそのまま鍔迫り合いになると考えたが、違った。
対艦刀のビームの刃とブレイドライフルの刃がぶつかり合っていたのは一瞬であり、その一瞬が終わった瞬間にイザラのシャウトペイルの対艦刀は真ん中から切断されたのだった。

 
 

「なんだと……?」
イザラが呆然とし、機体の挙動が一瞬止まった隙に、ヴァリアントガンダムはブレイドライフルを手放し、素早く左胸のホルスターのビームピストルを抜き放ち、背後でランスを突きつけている、ガウンのシャウトペイルにビームピストルを連射する。
ビームピストルが向けられた瞬間にガウンはヒートランスを手放し、距離を取ろうとする。それを援護するように褐色のザイランが両手にビームアックスを持ち、突進する。
それに対して、ヴァリアントガンダムは素早く足を突き出し、褐色のザイランの左肩と胴体の接続部に突き刺さったままのソリッドナイフを蹴り、ナイフの刃を押し込む。それによって褐色のザイランの左腕が肩から千切れる。
ハルドは即座にビームピストルをホルスターに戻すと、一旦手放して宙を漂っていたブレイドライフルを適当に掴むと、褐色のザイランに対して、その刃で斬りつける。
ドロテスは直感的に機体を上昇させた、その結果、ドロテスのザイランは腰から下を失ったものの、ドロテスの命は無事で済んだ。
ヴァリアントガンダムは褐色を行動不能にしたのを確認するより早く、ブレイドライフルを手放し、右胸のホルスター裏に隠しているスローイングナイフをガウンのシャウトペイルの方へと投擲する。そして一瞬手放した、ブレイドライフルを即座に掴みなおす。
イザラは呆然から回復し、既にシャウトペイルのビームサーベルを抜き放ち、ヴァリアントガンダムに斬りかかろうとしていた。
それと同時に赤いザイランとピンクのザイランも動く、アリスの乗るピンクのザイランは全ての武装をパージし、軽量モードとなり手にはビームサーベルを持ち、ヴァリアントガンダムの背後を取って突撃する。
真上からは赤いザイランがシールドを構えながら、ヴァリアントガンダムに突撃している。
一斉攻撃とは必死なことだと思いながら、ハルドは苦もなく対処する。
純白のシャウトペイルは斬りかかろうとした姿勢のままで動きを止める。その腹には対艦刀が深々と突き刺さっていたからだ。
ハルドは即座に対艦刀を手放し、右腰にマウントされていたビームライフルを抜き放つとその場で回るように振り向き、ライフルをピンクのザイランに向ける。
だが、既にビームライフルで射撃する間合いではなく接近戦の間合いだった。しかし、ハルドは関係なくビームライフルを叩き付けるように振る。
その時、ビームライフルの銃身からビームの刃、ビームエッジが出力された。ビームの刃を銃身に帯びたビームライフルは近接兵器としてピンクのザイランの胸を水平に切り裂き、胸部から上と下とに機体を分割させ、機体を行動不能にする。
そして、ハルドはヴァリアントガンダムのブレイドライフルを真上に振るい、苦も無く赤いザイランのシールドを斬り裂くと、赤いザイランの懐に一瞬で入り込み、ビームエッジを出力させた、ビームライフルを縦に振り下ろす。
ビームエッジは赤いザイランを縦に切り裂き、行動不能にする。そして、その直後に右手のブレイドライフルと左手のビームライフルから、ビームを同時に撃つ。
ガウンはナイフが投擲され、自機に迫っているのを理解しており、ナイフの機動を見切って回避した。だが、それもハルドの予想通りであり、ハルドはそもそも最初からガウンのシャウトペイルを狙ってはいなかった。
ハルドが狙ったのは、放り捨てておいたヘビーマシンガンであった。スローイングナイフはヘビーマシンガンに直撃し、突き刺さる。こういう戦法も使うからと言ってレビーにはヘビーマシンガンの安全性は最低にしてもらっていた。
突き刺さったスローイングナイフは爆発し、同時にその爆発はヘビーマシンガンのドラムマガジンにまで飛び火し、ドラムマガジンが炸裂し、弾薬や弾薬の破片がグレネードのように拡散した。
そして、その爆発はガウンのシャウトペイルの真後ろで起こったものだった。大量の弾薬や金属片がガウンのシャウトペイルの背中を襲い、その威力はバックパックが機能を失うほどであった。直後、二条の光がガウンのシャウトペイルに向かってくる。
それは間違いなく、ビームの光だった。ガウンは回避をしようとしたが、バックパックが機能をしないせいで身動きが取れず、ガウンのシャウトペイルはビームに貫かれたのだった。

 
 

「あと一機か二機かだが」
ヴァリアントガンダムは両手の武器を腰にマウントすると、左肩のガトリングガンを手に取り、襲ってくるドラグーンをガトリングの斉射で全て破壊した。
「で、どーすんのかね?」
ドロテスは一番最初にやられた身なので、色々と諦め、コックピットの中で煙草を吸っていた。
「降伏だな、降伏」
二番目にやられたイザラは潔く負けを認めた。時間稼ぎは微妙だが、現状、ガルム機兵隊の全員が生きているので良しとしようと思った。
「おーい、ゼロ坊。降伏だってよ」
ギルベールがそう言うと、ゼロの機体コンクエスターは両手を挙げた。ハルドはそれを見て、ヴァリアントガンダムの武器を収めた。それを見てイザラがハルドに向けて通信する。
「私たちは降伏する。とりあえず、破壊された機体と、その灰色の機体のパイロット全員は捕虜ということでよろしく頼む」
イザラは別に屈辱とも思わなかった。正直相手が悪すぎた。最初は窮鼠猫を噛むと粋がったが、結果は全く相手にされずにほぼ全滅だ。屈辱を抱くより恐ろしく強い相手に尊敬といった気持ちの方が強かった。
「なに、おまえら全員生きてんの?スゲーな」
ハルドは心から感心した。何人かは死んでいてもおかしくないダメージを与えた気がするが、全機がギリギリで反応し、自分の身を守ったのだ。やはり、それなり以上のエースだなとハルドは思った。
だがまぁ、それは現在どうでもいいことで、ハルドは先を急ぐ身だ。ハルドはガルム機兵隊のことは後でなんとかするとして、とにもかくにもロウマのいる艦隊を追って殲滅しないといけないという仕事があった。
ハルドのヴァリアントガンダムは使った装備で回収できそうなものは全て、回収しさらに、イザラのシャウトペイルからブースターボードを奪い、アリスのザイランがパージした武装から使えるものを選んで、いただいていった。
マクバレルが火器管制システムやら何やらを、相当に弄ってくれたおかげで、ヴァリアントガンダムは基本的に全てのMSの武装が使えるのだった。
「大口径キャノンに、連装ミサイルは使えるな。対艦刀を捨てて、ガトリングガンを手で持てば大口径キャノンは肩にマウント可能で、連装ミサイルは膝脇にマウント可能、ヘビーマシンガンは手で持ってりゃいいや。あと赤い奴のハサミシールドは腕にマウント可能か」
そうして、ガルム機兵隊の装備で武装を整えたヴァリアントガンダムはサブフライトシステムであるブースターボードに乗り、艦隊を追うのだった。
「おい!俺の機体の武器盗られた!」
「私の機体なんかもっと酷いですー」
「言うな。敗者は奪われるのが定めだ」
イザラは自分の機体の装備も奪われ、あまり良い気持ちではなかったが、そう言うことで我慢したのだった。
「ところで、俺たちはこのままなのか?」
ドロテスが疑問を口にする。ほぼ全員の機体が大破した状態で、戦場の真っ只中に放り出されている状況だった。
「まぁ、まて。すぐに捕虜を連行する部隊がやってくる」
イザラはそう言ったが、クランマイヤー王国にはそんな部隊など無く。ガルム機兵隊の面々は、ハルドが思い出すまで、放っておかれることとなるのであった。

 
 

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