SEED-IF_30years_10

Last-modified: 2009-05-30 (土) 11:49:04

アスランはホテルで遅めの朝食をとりながら昨日のことを想い返していた
「キラ。俺達はどうしてこんなになっちまったんだろう」
そうつぶやくと、ただ窓を眺めていた……
アスランは思い立ったように駐車場に向かうと車に乗り、八王子の方にある寺へ向かった。
すこし渋滞にあったが、途中で茶菓子と花を用意した。
寺に着くと、水汲み場で桶に水を汲みながら
「あいつ、サクラソウが好きだとか言ってたけど、どれだか判らないからこれにしちまったな」
そう独り言を言うとメイリンの墓に向かった。
短いお経を読み、僅かばかりの菓子を供えるとメイリンの墓に水をかけ、話し出した
「君にこうやって話すのは10年ぶりだな。
皆元気でやってるか。俺は寂しい。
な、俺もそっちに行くかもしれない。
そん時は迎えに来てくれ」
そう云うと立ち上がり、桶を持って歩いて行った。

偶然ある墓の前に行くと、若い青年に目が留まった。
濃紺の外套に白い軍帽。線香を添えて拝んでる。
赤毛の入った茶色い髪、どことなくその面影が重なる。
「キラ!」
青年は振り帰って立ち上がり、答えた
「え、なにか御用ですか。和尚さん」
「失礼。人違いだったようですな。
何分年を取って老眼が酷いもので……
余りにも貴方が私の友人に似ていたもので。
どちらの方のお墓参りに来られたのですかな」
「戦死した父です」
「失礼ですが、どちらで……」
「ヤキン・ドゥーエ戦役、第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦で……」
「というとMAパイロット?
いやMSパイロットか。
軍は東アジア共和国軍か」
「詳しいことは聞いてませんが連合でヤキン・ドゥーエで戦死したとしか……」
アスランは頭に手をやり
「悪いことをしてしまったな」
「いえ、いいんです」
「見たところ、軍人かね。
ところで、アスラン・ザラという人を君なら、どう評価する」

「え、私には……」
青年は少し答えに困ってる様子だった
「遠慮することはない本当のことを話したまえ」
「戦争を止めたということは評価できるかもしれませんが。
もし私がザフト軍人ならば、父親に託された最新機を持ち出して母国の敗戦を招き、
軍法会議が嫌でオーブに逃げ込み、 厚遇されると裏切った母国に舞い戻って、被害妄想の末、脱走。
恩を仇で返すように母国の軍事行動を妨害・破壊した売国奴と評価されるでしょう 」
アスランはきつく睨み返して
「お前のような分らず屋が居なかったら地球とザフトの間には戦争はなかったと思うよ」
「貴方こそ何ですか、その言い方は!
言っておきますがね、そもそも黄道同盟とかいう連中がプラントを暴力で奪い取らなければこんな事態にはならなかった」
「若造、言わせておけば。
あれは核ミサイルがユニウスセブンに撃ち込まれたのが原因だ。あれで二十四万の尊い命が失われた」
「でもあのコロニーを違法改造して、生物化学兵器を作っていなければそんなことにはならなかった。
それにニュートロンジャマーが落されて10億が死んだんですよ!
そのせいで戦争が酷くなって、俺の祖父と父は死んだんです」
アスランは熱くなって叫んだ。
「なんだと!」
ちょうどその時、赤毛の長い髪を結ったスーツ姿の女性が近づいてきた。
アスランは縁無しの眼鏡をかけていたのに中々気が付かなかった
「母さん。仕事は?」
「今日は早いの。
あら、こんにちわ」
アスランも
「今日は。お若いお母様ですね。
てっきりお姉さまかと思いましたよ。
ではこれで」
母親は息子と思しき男に声をかけ
「お知り合い?」
「いんや」
女性はアスランに声をかけた
「どこかでお会いしませんでしたか?」
「さあ。何分、世俗での生活を捨てた時間が長いので」
そういうと編み笠をかぶり、駐車場まで歩いて行った。

―CE104年 2月11日―
ニューヨーク

ザフト陸上軍の軍服を着た男たちが市庁舎周辺に集まってきた。
人々はそれが軍事行動ではなく、映画撮影や催し物だと勘違いしていた。
偶然、近くを通った騎馬警官に誰何されたことを発端に全市的な暴動へと発展した。
そして暴動開始から数時間後、市庁舎には翩翻と翻る赤旗とザフト軍旗……
市庁舎周辺では商店が破壊され、各所から黒煙が立ち上り、廃材が散らばっている。
その暴力集団の頭領と思しき人物が演説を始めた。
「これは、連合の強欲な権力、ブルジョア権力、国家権力に対する闘いである。
我々の望みは収奪ではなく、各人の能力に応じて、各人の必要に応じた生活要求である。
各国の、労働者、農民、文化知識人、青年、学生、婦人たちよ、立ち上がれ!
ブルジョア政府から解放された、封建主義から解放された人民の政権を、
民衆の集中的な政治権力を、人民主体の政府の樹立を。
現実にそれ以外に人民の生活は望めない!
歴史は証明した。人類最底辺であった、持たざるものであったコーディーネーターが
独裁の権力を得て、黄道政治同盟を作り、プラントを得た」
違法電波で放送したものであったがすぐさま世界中にその様子が中継された。
……

―CE104年 2月12日(日本時間)―
巨大なモニター。
数十名の兵士たちが立っている
電源が入り、モニターの画面に画像が現れた
ゆったりとした長衣を着た男が映り、一言二言喋った。
「俺達を坊様の兵に戻れと」
軍服を着た兵士が訊ねた。
「そうです。今日は貴方方はザフト極東方面軍兵でもなく、ジャンク屋組合(ギルド)でもなく、乱軍としてです。
しかし私の手の中でですがね」
そして男はこう叫んだ。
「さあ!行きなさい
焼き尽くしなさい、奪い尽くしなさい、殺し尽くしなさい!
日本を混乱させて、連合に付け込む隙を作りなさい
混乱の後に新しい世界を作るのです!」
男たちは指令を受けると右手を握りしめ、胸において
「ザフト、栄光たらんことを!!」
と叫んだ。

早朝、トラックの車列は神奈川方面から現れて、都内に入り、西麻布の大使館区域に向った。
大使館区域に入ると数十台のトラックが止まる。
後ろのドアが開き、男たちが駆け降りてくる。
偃月刀や手斧を持った兵士たちが大西洋連邦大使館に駆け寄る。
「連合の帝国主義の元凶め!死ね」
大使館の門を壊そうとした時、機械音が響き渡った。
火花が飛び、薬莢が落ちる。
ザフト兵達は倒れこむと動かなくなった。
その瞬間、トラックからロケット弾が飛んだ。
大使館の2階に着弾し、炎上した。
手投げ弾を投げこむと、重機の音が消えた。
「今だ、中に入りこめ!」
塀を飛び越えて入ると、中はもぬけの殻で中庭では物が燃えていた。
「遅かったか」
兵士の一人が火を消して、燃え残った紙を手に取る
「隊長、これを」
「これは……でかしたぞ」
高笑いが響いた……

早朝の事件は各国の大使館のみならず大使館地域の近辺の住宅街も餌食にされた。
その近所にあったシンの家も例外ではなかった。
ドアがこじ開けられ、中に武装した兵士たちが闖入した。
兵士に叫び声が飛んだ
「あんた達はいったい何だ!
何のつもりなんだ」
「金目のものを出しゃ、何もしねぇよ。旦那」
そういって男は兵士の胸倉をつかんだ。
「あんた、ザフト軍の兵士か」
「ああ、そうだ。俺達は極東方面軍の……」
奥から女が出てきて、兵士の一人を棍棒で殴った。
そして
「いい。よく聞きなさい。
この人はザフト軍人で、FAITHのシン・アスカ。
アスラン・ザラの義弟よ。
いわばパトリック・ザラの養子(むすこ)よ」
不意に兵士の一人が笑い出した。
「その俺達は今度アスラン・ザラって人が部隊長を務めることになった戦闘MS軍団の陸戦隊だ。
つまりあんたの義兄さんの命令で来た様なもんだ。
野郎共、とっととやっちまいな!」
そういうと兵士たちは手斧やナイフを持って襲いかかった。
「このアマ!」
そういうと女は数人の兵士に羽交い絞めにされ、着衣を剥がされ始めた。
「やめろ!ルナ!」
シンはそういうと敵の兵士から手斧を奪い、ルナマリアを羽交い絞めにしてる兵士へ投げた。
斧は外れて床に落ちた。
押し倒されたルナマリアの上に兵士が馬乗りになる
「おい、此奴は上物だぜ
赤服のルナマリア・ホークと来たもんだ。ま、婆だが女には変わりはねぇ」
そういった兵士が下から蹴り上げられて飛びあがった。
兵士の一人がシンの方へ拳銃を向け、発砲した。
その刹那、ルナマリアがシンの方手飛び込んだ。
パーン。
乾いた音と共に薬莢が落ちる。そしてルナマリアが崩れ落ちた。
「ルナ!」
ルナマリアは動かない。辺り一面が血に染まる……
「ルナを!」
シンは立ち上がり、兵士の方へ頭突きを喰らわせた。
「この野郎」
兵士が銃を向けた。
シンは撃たれる!と思った瞬間、兵士達が血を噴いて倒れた。
散弾銃で武装した警官隊が立っていた。
「お怪我はありませんか!」
「ル、ルナが!妻が……」
警官の一人が駆け寄って来て血塗れになったルナマリアの脈を取っている。
首を横に振った。
「ルナァー!うあああー」
シンはルナマリアの身体を抱き抱えて叫んだ。涙が流れ落ちる。
「ここは危険です、さあパトカーまで」
「頼む、もう少しここに居させてくれ!」
20分ほどして救急車が来て、冷たくなり始めたルナマリアを運ぼうとした時、シンは縋り付いた。
「待ってくれ、持ってかないでくれ。
こんなはずじゃなかった。なんでこんなことに……ルナァー!うあああー」
サイレンが鳴り、救急車が発進する。
シンは立ち竦んだまま泣いていた。
若い警官が声をかけてきて
「さあ、避難所まで行きましょうか」
シンは項垂れたまま、警官の指示に従った。
パトカーに乗って、避難所まで行く間中泣いていた。
シンは避難所に指定された公会堂に着くと住所氏名と怪我の状況を確認され、手当てを受けると毛布を渡されて端の方へ歩いて行った。
「俺は……」
毛布をかぶると、横になった……

翌朝、シンはボランティアの看護婦に起こされると背広姿の数人の男に囲まれて目が覚めた。
「シン・アスカさんですか。少しお時間頂けないでしょうか」
そして別室に呼ばれ、黒い手帳を見せられた。
公安調査庁と見えた。一枚の紙を取り出す
裁判所からの捜査令状。
彼らの自己紹介が終わると、開口一番
「あなたの家に来たお坊さん、どのような関係?」
「私の……義兄です
妻の妹の夫で、義兄弟の契りを結んだ仲です」
「で、そのお義兄さん、何で来たわけ?」
「俺達夫婦をプラントに連れて行きたかったって」
別な男が缶ジュースを渡しながら
「あの昨日の事件知ってる?誰が犯人だって」
「まさか……」
「心当たりがある?」
シンは缶ジュースを飲むと
「昨日来た犯人の一人が《俺達はアスラン・ザラって人の命令で来た》って言ったので」
警官が封筒からカラー写真を数枚出して、テーブルに広げる
「そのアスラン・ザラって人とこのアレックス・ディノって人は同一人物で間違いないよね」
シンは写真の一つにに指をさして
「はい。その人です。間違いありません、私の義兄です」
「義兄さんの話、詳しく聞かせてもらえないかな」

シンは深夜になって解放された。
そのまま避難所には戻らず、近くのレストランまで行って遅めの夜食を食べに。
ウエイトレスに喫煙席まで案内されると、オムレツとサンドイッチのコーヒーセットを頼んだ。
ふと、タバコが吸いたくなり、ライターを探した。
どうやら忘れたようだ……隣の席に夫婦連れがいる。
「スンマセン、火借してもらえませんか」
男の声で
「これでよければ」
そう云ってオイルライターを投げてきた。
受け取って手に取ってみると、重い
「これ、純銀じゃないか」
どこかで聞いたことがある声のようだったので振り返って礼を言った
「ありがとうございます……
どうしてあんたっ !!、何でここにいるんだ」
「30年ぶりだね。シン」
「お元気にしてましたか、シン」

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