SEED-IF_30years_11

Last-modified: 2009-06-08 (月) 02:29:28

「あんた達、なんでこんなところにいるんだ。
自分の立場を弁えろよ」
シンが粗雑な言葉で返した相手はその場にふさわしくない人物であった
「シン、元気そうで何より」
「ルナマリアさんと結婚なさったそうで」
「ええ。まあ……」
シンは深く項垂れた。
「子供はいくつになる?」
「俺ら、子供出来なかったんです
あいつ産めない体だったんです……」
「それは悪いことしたね……」
「何か、お辛いことでも…」
シンは心配をかけないようにと、気を取り直し
「いえ、別に。
ただ眠いだけです」
男は紙を取り出し、ペンで何かを書いた
「これ、何かあったら連絡して
僕の日本での連絡先だから」
「え、キラさん……俺に」
キラ達はすっと立ち上がって
「楽しかったよ。何かあったら力になってあげられるかも知れないかは、分からないけど……」
「ではお体をお大事に」
そういうとキラとラクスは店を出て行った。
シンの心の中は複雑だった。
…ルナマリアさんと結婚なさったそうで…
―ラクスの何気ない一言が重く響く―
ルナ、俺はお前を幸せに出来たんだろうか……
マユ、ステラ、ルナ……俺の愛した女はなぜ俺を置いて行くんだ……

シンは店員を呼んだ
「ウイスキー、一つ」

 

 

CE104年2月14日
プラントにおいてこの日は「血のバレンタイン事件」とよばれる諸事件の発端の日
地球連合に参加した諸国家間の間、特に大西洋連邦とアフリカ大陸においては忘れがたき惨劇の日でもあった。
かつてよりは規模が小さくなったものの、世界各地で異例集会が開かれた。
この忌むべき日にあってザフト政治局は一つの決定を出した。

地球連合が参加する国々の大使館およびその国民に対し渡航手続きを禁止したを持って宣戦布告と受け止め、
即座に積極的攻防行動に移るべし

その夜、プラント外交部はザフトのドイツ語機関紙「ゲストアルバイター」紙上でこう発表した
「先の悲劇的な事件は、冒険主義的な一部の前近代的思想を持つ過激派とそれを先導した国際金融資本家の謀略である」と
それは名指しこそされなかったがブルーコスモスとロゴスへの当てつけであった……

 

 

アスランはカナダに国交交渉に向かったイザークたちと別れて、山梨の禅寺にいた。
頭を剃り上げた作務衣の男がお茶を注ぎながら聞いてきた
「幻尽さん、チベットはどうでしたか」

―幻尽―
アスランの出家後の名前であった。

アスランは
「思いのほか寒くて、暑くて、大変なところでした。
が、人々は優しくて親切でしたよ。
和尚、実は大切なことを言いに来ました。
今日はお別れの挨拶に……」
和尚は
「では如何様な事で」
アスランは頭に手をやりながら
「なんといっていいのか、父の後を継ぐことになったというべきか……
昔の友が来まして、国に戻って仕事のしてほしいと……」
「それは素晴らしいことではないでしょうか」
アスランは汁粉を食べて
「こうして汁粉を喰うこともかないませんが……
妻に先立たれて蛻の殻になってしまった、こんなだらしも無い私を拾ってくださって……
私のような人の道を見失ったものを……」
スーツを着た男が来て
「アスラン・ザラ、お時間です
下に待たせてあります」
アスランは茶を飲むと
「判った」
和尚に深くお辞儀をすると
「では」
和尚は笑顔で
「人は誰しも道を誤る時があります
また道に迷ったら来なさい」

 

 

―オーブ代表首長府―
「カガリ様、非公式に、カーペンタリアまで行かれると言うのですか!」
「ああ。我が国はプラントとの友好関係を30年近くも結んでいるし、戦前まではかなりの関係であった
それに今度の議長はウズミ代表の御仁政をよくわかっている。
つまり話は早いということだ」
眼鏡をかけた若い男が
「しかし先進5カ国がザフト軍服を着た男たちに襲撃を受けている状況で即時講話などありますまい。どうか考え直されては」
カガリは睨みかえすと
「シズミマ、お前はなんも分かってないな。この30年間のオーブと国際関係を見てみろ。あの大西洋連邦ですらオーブと友好関係を結んでいるではないか
ということは、つまり、ウズミ代表の中立の理念が正しかったということの結果ではないか!」
その場にいた全員が黙り込んだ。
「あの悪辣なロゴスの支配の国ですらオーブとの関係を復活させたということは、それは中立の理念が認められてたという証明だ。
つまりプラントとの即時講話も出来るはずだ。元にディランダル議長が戦死した際も即座に和平宣言まで持ち込めた」
その場にいた全員はこう思った。
ああ、また御大の政治講義が始まったと……

シズミマは一言言った
「ディランダルではなく、デュランダル議長です」
「五月蠅い!
さあ、行くぞ」
そう云うと、カガリは首長公邸の中庭に待つヘリの方へ歩いて行った。

立ち去る姿を見る一人の大臣が涙を流している姿をみたカガリは不安になって
「安心しろ!戦争に行くというわけじゃあるまい。泣くな!」
そう云うとヘリに乗りこみ、ヘリは発進した。

 
 
 

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