Seed-Ace_ACES_1-1

Last-modified: 2008-06-09 (月) 22:31:16

機動戦士ガンダムSEED ACES
Phase1 Misson1
 
――CE70 某日――
 
 大西洋連邦某所。窓のない会議室に声が響く。
 
「では盟主はプラントの破壊には反対であると? あの宇宙の化け物たちの巣窟の破壊を?」
 
 ロード・ジブリールが怒りをこめて弾劾する。
 周りを見渡してもメンバーの半数以上は似たような顔だ。
 
「なぜ、あれほどまでコーディネイターの抹殺を唱えた盟主が? 理由をお聞かせ願いますかな?」
「ロゴス側の総意、と言わせてもらいましょう」
 
 そう言って椅子に深く座り、目を閉じる。こちらに答える気がさらさらないことを知り、舌打ちしつつジブリールが席に着く。
 結局、今日の会議は成果のないまま解散となった。会議室から出て車に乗り、一度自分の家へと向かい身支度を整えまた家を出る。行先は大西洋連邦でも最上級のホテルでのパーティである。
 


 
 あちこちののテーブルで談笑の花が咲く。
 たわいのないわが子自慢から、軍機にかかわるようなものまで、その種類はいろいろだ。
 大西洋連邦やユーラシア連邦、東アジア共和国といった地球連合軍関係各国の政治家や軍人、それもかなりの大物が集まる会場だがこのパーティの主催は大西洋連邦でも地球連邦軍でもなく、ある一部の企業連であった。
 ロゴス、軍産複合体ともいわれる企業のトップ達による秘密結社。
 国家予算をしのぐほどの資金と、国をまたぐ販売網をもつ彼らであったが、プラントとの戦争には無傷ではいられなかった。
 ザフトによるエイプリル・フール・クライシスにより基礎インフラがずたずたにされ、工場の操業も不可能となり、一般向け商品の販売も満足にはできなくなった。そして何よりプラントは彼らの資金も出した『プラント』であったのだ。
 その結果として、どの企業もかなりの業績、そして体力を落としている中、自分の組織をまとめ上げ、企業成績が多少落ちただけで済ませたからこそ、他の年上のロゴスメンバーから一目を置かれ、軍、そして政治に口出しできる今のロゴス代表という立場がある。
 ふと会場の中心のほうを見ると、少し小太りの男がワインを持ち、東アジアの高官と談笑している。
 彼は僕を見つけると、相手と会釈し別れてこちらへとやってきた。
 
「やあ、ムルタ・アズラエル代表。どうでしたかな、ブルーコスモスでの会議は?」
「あまり芳しいとは思えませんよ」
 
 そう言って肩をすくめて見せると、彼…ディエゴ・ギャスパー・ナバロ氏は豪快に笑った。
 
「それはそれは、さぞや苦労なされているのでしょうな。今度うちの本社でゆっくりして行きなさい。ブルーコスモスとは違って陽気なもんですから」
 
 そう言って、彼はまた、パーティの喧騒の中に消えていった。
 
「……苦労している原因はあなたなんですよ、ディエゴ・ギャスパー・ナバロ」
 
 ぽつりとこぼれたつぶやきは、決して誰にも聞かれることがなかった。
 


 
 ゼネラルリソース。 現在、南アメリカ経済を独占している企業である。
 南アメリカが地球連合に併合されたとき、本来は参加各国連合で統治する予定だったが、補給の負担・統治地域の治安改善等の問題で会議が難航していた。 早くも連合軍瓦解かと思われたときに、彼らから提案があったのだ。
『自分たちが雑務をするから任せてはくれないか』と。
 当然反発も大きかったが、彼らが南アメリカ出身の企業ということで話がまとまった。
 自分たちが直接統治をすれば、住民の反発は直接こちらに来るが、彼らのような出身が南アメリカの人間に間接的に統治させれば、住民の反発もこちらではなく、言わば裏切り者の彼らにかかり自分たちは利益のみありつけると踏んだからだ。
 実際、占領地統治の方法としては現地人の協力者にやらせることが上策とも言われている。
 最終的には基本的な統治は彼らに任せ、地球連合は軍のみを派遣し、それらの補給の確保、および保障費用の提供が彼らに課せられるということとなった。
 これにより、連合軍は苛立たしい補給の手間と費用を考えず軍を送るだけで、保障費用として膨大な金銭が手に入るはずであった。
 いや実際にそのようにはなった。代償として、ロゴスに危険視されるだけの大企業が生まれたのだ。
 軍が解体され、人口があぶれている現状を、大規模工場制手工業を採用、元軍人の多くを雇用することで打破する。できた物品は格安で連合軍およびその本国に売りつける。
 発生した利益は、その後起きたエイプリル・フール・クライシスによるインフラの壊滅を逆手にとった世界各地の企業を買収に充て、次々と傘下に入れ肥大化してゆく。
 期待していた住民の反発はなく、むしろ彼らを歓迎する声のほうが多かった。これは彼らの精力的な広報活動に基づく所が大きい。
 彼らは住民にこう言ったのだ、『我々はこれからの苦境に立ち向かう諸君らの手助けをするべくやってきたのだ』と。
 実際には血を見るような事件が当初は多かったが、多くが旧軍のゲリラ的犯行であり、逆に民意をつかんでしまった彼らによって、最終的に排除されたのであった。
 すべてがあっという間の出来事であり、プラントとの戦争にうつつを抜かし、またエイプリル・フール・クライシスの対処に手間取っていたロゴスメンバーが気づいた時には既に手遅れであった。
 彼らは以前の南アメリカ合衆国と同等の『国力』をつけ、PMC(民間軍事企業)という形で『軍』すら持つ巨大『国家』となっているのである。
 そしてその社長が、ディエゴ・ギャスパー・ナバロである。
 


 
 アズラエル財閥。 巨大な軍需産業をメインとした財閥である。
 ロゴスの代表を務めるムルタ・アズラエルは、自分の予測通りに進まない現状に対して不機嫌であった。
 
「そもそも一発の核弾頭だけで、全滅なんて出来るはずがないんだ。その忠告を無視してジブリールがあんなことをしでかした。言う事を聞かない南アメリカを併合してやればいい見せしめになると思ったら、あんな化け物が生まれ出た」
 
 誰も聞く者のいない執務室で本音を吐露する。そうでもしないと精神がいかれてしまいそうだった。
 
「あんな化け物のせいでプラントの全破壊はできなくなった。そんなことしでかせば今までの投資が無駄になるし、化け物との差がほんとになくなる。くそ、忌々しい」
 
 急激に彼が方針を変換した最大の理由がこれであった。本来、彼の財閥は他の追随を許さないほどの大企業であった。エイプリル・フール・クライシスの直後もその地位は健在であった。彼の財閥も被害があったがそれを最小限に押しとどめ、逆に他社と大きく差をつけたはずだった。
 だがゼネラルリソースだけは違ったのだ。彼らはあのエイプリル・フール・クライシスの中唯一業績と体力を上げてきたのだ。
 企業内トップの座を死守すべく、アズラエルはプラントの存続を選ばざるを得なかったのだ。
 5分後、彼は愚痴ることをやめ、さっさと今日の業務を終わらせることにし、自分の机の上にある最初の書類を手に取った。