Seed-Ace_ACES_1-2

Last-modified: 2008-06-09 (月) 22:25:54

機動戦士ガンダムSEED ACES
Phase1 Misson2
 
 モビルスーツ。 ジョージグレンが木星探査時に使用した、動力付き船外活動服を起源に作られた兵器である。
 18メートルもの巨体と、その並はずれた機動力、そして『手』を持つことによる汎用性の高さ。
 他にもモビルスーツの持つメリットはあるが、当然デメリットも存在する。
 それは操作が非常に煩雑であるということである。
 指の関節一節ずつ曲げられるほどの自由度の高さには、メリットとデメリットが同居する。
 指が一本一本自由に動かすことができることにより、ものをしっかりと握ることができる。
 握るだけでなく、銃なら引き金を引くということも当然できる。
 握るものによっては、かける力によって軽くつぶれてしまうものもあるので、力を調節することも必要である。
 しかし、それを実行しようとすると、どうしてもオペレーターの手元には幾つものボタンやキーボードといったものが必要になる。
 また人の形をしている以上、モビルスーツには手だけではなく、腕も、足もあり、そのほかスラスターもある。
 すべてを手動制御するとなると、コックピット内部は操縦装置の山で埋め尽くされ、かといって自動で制御すると、細かい適応性が失われることとなる。
 しかも機械にはプログラムがなければ動くことはできないし、その肝心のプログラムが稚拙であればまともな動作は望めない。
 地球連合軍総合研究所の報告書の中に、鹵獲したジンが無様に転げまわる動画があることも、仕方のないことである。
 


 
「鹵獲したジンを連合のナチュラルで操縦した結果が、このざまですか」
 
 アズラエルは溜息をつく。
 鹵獲したジンとはいえ、実際に動くものであり、ザフトならば軽く整備してもう一度、前線へ送りなおすぐらいの状態の良いものであった。
 しかし、ナチュラルのパイロットが操縦しようとすると、動画のような醜態をさらけ出す羽目になるのである。
 もうひとつの動画を見ると、先ほどと同じジンが今度ははっきりと歩き、走り、飛び跳ねる様子が映されていた。
 まさか違う機体では、と思うが機体のそこかしこについた土や泥が、先ほどの惨めな機体であることを表している。
 データ取りが終了しジンが膝をつきそこからパイロットが下りてくる。
 パイロットスーツの胸元の名札にしっかりと刻み込まれた”ジャン・キャリー”という名前。彼は連合軍に協力している数少ないコーディネイターの一人である。
 ナチュラルかコーディネイター。その差によって、モビルスーツが『おもちゃ』か『兵器』かに分かれるのである。
 パソコンの報告書のファイルを閉じ、別の報告に目を通す。
 
「やれやれ、ハルバートンもこんなおもちゃ、よく使う気になりましたね」
 
 次の報告書は、デュエイン・ハルバートン准将主導の『G兵器開発計画』の報告書である。
 ハルバートンの方針により、G兵器はオーブのモルゲンレーテと、子飼いの技術者だけでの開発であるため、この報告書は彼ら自身による連合軍上層部向けの報告と、こちら側の内通者による情報のまとめである。
 その報告書の中では、オーブのコーディネイター技術者やテストパイロットの協力で、どうにかジンのデッドコピーが製造可能になったと書かれていた。
 
「まったく、デッドコピーができても、コーディネイターにしか使えなければ意味がないでしょうに。優秀な戦術家でも、戦略家や技術者としては二流以下といったところですか」
 
 当然のことながら、地球連合はプラントと比べて、はるかにコーディネイターの数が少ない。その代り総人口では相手にならないほどの開きがある。
 国としての特性を考えるなら、いかに実戦で5:1というキルレシオを出されても、それが人口比を超える数にならない限り、不利を承知で大多数が使えるモビルアーマーを量産するのが一番の良策である。
 にもかかわらず、ハルバートンは現在コーディネイターしか使えないモビルスーツの量産を目指している。モビルスーツさえあれば勝てる、としか考えていないかのように。
 
「彼のモビルスーツへの入れ込みよう、ほとんど信仰としか言えませんね」
 
 そんな彼ではあるが、こと戦術面においてならば地球連合軍の内部で主流、非主流問わずトップクラスの実力の保持者である。自分の子飼いの部下であるサザーランド大佐とは反対の性質である。
 
「……まあ、彼のことはほおっておくにしても、いい加減、モビルスーツの対抗策を考えなくてはなりませんね」
 
 いかに巨大な国力があるとはいえ、全力を出し『尽くして』の消耗戦で勝ったのではその後の展開が恐ろしい。
 手元に計画があるにはあるのだが、その計画もあまり良い進み具合だとはいえない。
 理由としては、ハルバートンのモビルスーツ開発以上に手間もかかり、開発の方法も主任の方針により少々過激で、しかも自分の組織の暗部にもかかわる部分も大きい。
 よって、何かしら別の、かつ大規模でも反対の起きにくい方法を探しださなければならない。
 彼が思考の海にまさに入ろうとした瞬間、耳障りなベルの音が響く。彼は舌打ちをひとつ打ってから、手元にある受話器を上げた。
 
『アズラエル理事、連合軍の技官の方が至急お会いしたいと、言ってきているのですが……』
「……いいでしょう。そうですね、今なら第三会議室があいているので、そちらに向かうよう伝えてください」
 
 そう言うと彼は受話器をもとへ戻した。
 
「連合軍の技官? そんな予定はなかったと思うのですが……まあいいでしょう。わざわざ出向いてくるのなら、話だけでも聞いてみましょう」
 
 そう言って彼は自らが指定した会議室へと足を向けた。
 


 
 地球連合軍総合研究所のとあるラボ。ここは連合軍の特殊兵器開発を専門的に扱う部門である。
 
「やっと覚悟を決めたみたいだねぇ」
「そうですね。やっぱり彼女にとって、恩師を裏切るような行為でもあるわけだから、躊躇していたみたいですよ」
「彼女の恩師は、MSにご執心だからねえ。何度も説得しに行ったんだろう? 設計図と企画書をもって」
「最後は門前払いらしいですよ。一緒に居酒屋に行ったら、ぽつりぽつり話してくれましたから」
「……彼女と一緒に居酒屋に行ったのかい? 勇気があるなあ」
「そんなに飲む方ではないですよ。彼女も私も」
「……君らとは一緒には飲みには行けないな。僕は下戸だからねえ」
 
 そう言うと、このラボの主、サイモン・オレステス・コーエンは肩をすくめ、机の上に置いていたコーヒーに手を伸ばした。
 机の上には設計図と企画書のコピーが置かれていた。彼は設計図を眺め次に企画書にもう一度目を通す。
 
「なかなかいい発想だと思いますよ。新型MAのコンセプト。あれならばあの守銭奴も理解してくれるはずです」

 上司も同僚も、実際のパイロットも理解し、応援してくれたのに、後援者たる恩師だけは理解してくれなかった、というのはもはや喜劇である。
 そして今、恩師の敵に新たに後援者になってもらうよう説得に行くのならばなおさら。そう思いながら設計図と企画書を机の中に放り込む。
 
「理事ならばきっと支援してもらえるでしょう。何より博士の計画も支援してますからね」
「なに、あの計画には私はプランを出しただけにすぎない。それよりもむしろ、君の計画といったほうがいいのではないかね?」
「そうかもしれませんね。では、私は実験がありますのでこれで」
 
 そう言うと彼女は部屋を出て行った。
 
「自分すら被験者にする……か。まあ正気とは言えない計画ですねぇ」
 
 そう言ってコーヒーをすする。そして机から、自分がプランを描き、現在彼女が現場主任である計画のファイルを出した。
 
「ENSI計画か……」