第06話『運命の始まり』
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そのMSを一言で形容するならば『ガンタンク』――
――文句は言えまい。
颯爽とコックピットに乗り込み、コンソールを操作してシンの援護へと向かう。
キュラキュラキュラキュラ……
キュラキュラキュラキュラ……
遅い!日が暮れるわ!
はっ……!可変機構を有しているのか?
ならば!
ガシンガシンガシンガシンガシン……
ガシンガシンガシンガシンガシン……
お そ い !
その時だった。
「逃げるのか!?」
奪取されたであろう三機は、旗色が悪いと判断したのか、コロニーの外壁へと向かっていく。
穴を開けて撤退するつもりなのだろう。
――そこは、Bブロックの真下である。
「飛んで火に入るカトンボォ!」
機体の一つに狙いをつけ、フルバーストをお見舞いする。
無論、コックピット直撃コースだ。
『うわぁぁぁ! ……オクレニーサンッ!』
言葉が走った!オクレニーサンとは何だ!?
推力を失い、落下して行くカオス。
間髪入れずに、慌てふためく残りの二機に対して牽制を掛ける。
「ちぃぃぃ!」
しかしながら、私の牽制にもシンと白いザクの追撃にも怯まなかった敵は、まんまと宇宙に逃げていった。
「まだだ!」
バーニアを目一杯使って、連中が出ていった穴に飛込んだ。
『ガンタンク』で。
私は諦めが悪いのだ。
『無茶です!』
インパルスからの通信――しかし捨て置く。
「女は、この宇宙を作り上げていく存在だ!
それがこうも簡単に失われるのは、残酷なことなのだよォォ!」
カミーユ・ビダンのせせら笑いが聞こえた気がしたが、今は気にしない。
「むっ!」
オールレンジ攻撃を察知し、とっさに回避運動へ入る。
『かわした!?』
「見えるぞっ!」
しかし、重鈍さ故に長時間の回避は不能。ならば、サイコミュ兵器を落とすしかあるまい。幸い、火力は一丁前である。
「そこっ!そこっ!そこっ!そこっ!」
マシンガンを感覚に従ってばら蒔く。
四方から爆音が響き、サイコミュ兵器は塵と化した。温い温い!
『逃げるんだよぉぉ!』
『うわーん、やっぱり!』
また言葉が走った!
敵は踵を返して逃げて行ったが、追撃は不可能とみなし、私は周囲を確認した。ミネルバが既に出港していた。
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「挨拶が遅れました。
私が副長を務めさせていただくパプテマス=シロッコです」
白服を纏った女艦長に恭しく敬礼をした。
この職場には期待が持てそうだ。
「タリア=グラディスよ。貴方はパイロットも兼任ね?」
「左様で」
「貴方の機体はカオス……貴方が落とした機体よ。
修理が済みしだい、任に着いて頂戴」
「了解しました」
流石に『ガンタンク』は厳しいと思っていたので、私は胸をなで下ろし、副長シートにもたれかかった。
中々の座り心地だ。
「パプテマス様!」
シン・アスカだ。
「流石ですね!ガズウートで落とすなんて」
「お前も良く持ち堪えた。私は感謝している。 そういえば、白いザクのパイロットは?」
「レイですよ。ちなみに、赤いザクはルナです」
「あの赤髪もこの艦か……まあいい……ん?」
艦長の隣には議長殿……何故ここにいるかは知る由もないが、やはりいけ好かない。
「シン、MSの調整に行くぞ」
私はシンとともにブリッジを出た。
カオスとかいうMSを把握しておきたかったからもあるが、議長殿がいけ好かなかったのも原因だった。
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「コックピットの修理に、3日は下さい」
「1日で頼む」
「ちょwwww」
メカマンの嘆息を聞きながら、私はカオスを見上げていた。
メッサーラに通じるデザインに感嘆を隠せなかったのだ。
「おまけにサイコミュ付き……うむ、これはいい」
様々な角度からカオスを観察し、ウットリとしていた時だった。
「綺麗事はアスハのお家芸だな!」
シン・アスカである。
私の下僕となってから本来の激情は身を潜めていたにも関わらず、
彼はその性質を開放してしまっていたのだ。
彼の睨む先には――
「あのアベックか!?」
一体何者なのだろうか、何故か男の目が気にくわない。
いたたまれなくなったのか、シンは走り去ってしまった。
「(私といい、シンといい、覚えておけよ)」
アベックを冷淡に睨み付け、私はシンを追い掛けた。
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「俺の家族は(ry」
「あい、分かった」
よもや彼にこんな過去があったとは……。
短気とも取れる激情にも説明が付く。
「……しかし、あの女……一国の代表とはな」
女性を為政者とするのは、私の目指すべき点でもある。
そこは評価せねばならん。
私はオーブという国が気になり、自室に篭って自分なりの調査を始めた。
――パプティマス様が読書中です。暫くお待ち下さい――
ほとほと呆れた。
「何だ!?他国の侵略を許さず(ryだと!
国とは臨機応変に動き、民の生命、民の財産を守ってこその国だ!
シンが憤怒する訳だ!
断言する!オーブとは虚なりッ!オーブとは国に非ずッ!
うわべに騙されてはいかんという、いい例だッ!」
思わず論説風になってしまうのはご愛敬。
観客は居ないが。
『コンディションレッド発令!コンディションレッド発令!』
「むっ……行かねばな」
機体が無い(ガズウートは借り物である)ため、
私は副長席に着いた。
ふはははは!私は指揮も得意なのだ!
――これが私の運命の始まりだったのだ――