Zion-Seed_51_第二部第21話

Last-modified: 2009-01-20 (火) 19:57:57

「お兄ちゃん、どこいくの!」
「オノゴロ島だよ」
「いいかげんジャンク屋の真似事なんてやめてよ!」
「無理言うなよ。いっぱい稼いで、お前を大西洋連邦の学校に入れてやるからさ」
「そんなこと、マユは頼んでないよ!」
「俺が勝手にやってるだけさ」

 シン・アスカは家の前に止めてある車に飛び乗った。

「お兄ちゃん!!」
「夕飯までには戻る。しっかり勉強しとけよ」
「バカァ!」

 親指を立ててウインクするシンに、マユは頬を膨らませるのだった。

「まったくマユの奴、ちっとも分かろうとしないんだから……」

 オーブ連合首長国――シン・アスカがコーディネイターとして生まれ育った国を、彼は嫌っていた。
 シンはオーブに、特にアスハ家に激しい憎悪を持っている。連合国との外交の窓口を締め切り、中立という
耳障りのいい偽善の上で、ぬるま湯のような架空の平和を作り上げたホムラ。そんな政策を非難して、自分の
行ったクーデターを正当化するカガリ。そしてくだらない理念を国民に押し付け、国を滅茶苦茶にした挙句、
テロに走ってシンの両親を殺したウズミ。何れもアスハ家が起こしたものだ。
 ウズミ、ホムラとアスハ家から続いてオーブの代表が選ばれ、数年後にはカガリの代表就任も決定している。
そんなオーブにシンは居たくはなく、金を稼いだら妹のマユと共に大西洋連邦に移り住むつもりだった。
 定期船でオノゴロ島に着いたシンは、作業用MSに乗って辺りを探索しだした。

「……ん? MS発見!」

 コーディネイターのシンにとって、それは楽な仕事だった。作業用MSに乗り込み、オノゴロ島を歩き回る
だけで、獲物があちらこちらに落ちているのである。
 未だオノゴロ島にはクーデターとテロの後が残っている。前者は主にMSの残骸、後者は倒壊したモルゲン
レーテ関係の建築物だった。これらを片付けるのに、モルゲンレーテ社およびオーブ政府はジャンク屋組合に
作業の依頼を出していた。
 そんな中から使えそうなものを拾い、本職のジャンク屋に売り払うのが、シンの仕事というわけだ。それが
14歳の少年の仕事として相応しいものかどうか、実際のところシンにも分からなかったが、マユの留学費を
捻出しようと考えた時、これ程手っ取り早い金儲けの方法はなかった。作業用MSも、両親がモルゲンレーテ
で働いていたコネがあり、安くレンタルすることができるのだから。
 だが、そんなシンの仕事も、妹のマユは否定的だった。自分の為に働いてくれるのは嬉しいが、その所為で
シンが学校にも行けない生活を送っているのだから。

「機体は壊れてるけど、この空戦ユニットは高く売れるぞ!」

 そんなマユの心配を余所に、シンはジャンク収集に精を出していた。
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――――第2部 第21話
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「遅い。船一つ手配するのにどれだけ時間をかけるつもりだ」

 不満をぶつけながら、男は港へと歩き出す。その男は嘗てオーブの代表を務め、現在では指名手配を受けて
いるウズミ・ナラ・アスハであった。サングラスをかけ、自慢の髭を剃り落とすことで変装をし、実際の年齢
よりも若い印象を持つようになっている。
 ウズミは先の政変後、カガリ派の手によって監禁されていたが、オーブ理念の信奉者達によって助け出され、再び理念を取り戻す為に地下に潜った。手始めにジオンがオーブの技術を奪わないようにモルゲンレーテ社を
爆破し、その後も関連施設を次々に破壊していった。おかげで指名手配となってしまったが、政府はオノゴロ
島の復旧活動を優先しており、ウズミはある程度自由に行動する事が出来た。

「あの機体は今もアカツキ島にあるというのだな。確かなのか?」
「はい。関係者から直接に聞いた話です」
「そうか。これならマルキオ導師も私に一目置くだろう」

 ウズミは、新型MSをマルキオに提供する為、アカツキ島に向かおうとしていた。それは代表の頃に開発を
進めていた試作品で、その性能は従来のMSを遥かに越えるカスタム機である。1機でM1アストレイ20機
以上に相当する金をかけており、ウズミが是が非でも取り戻したい機体だった。

「しかし、再びアカツキ島に戻るとは思わなかったな。大丈夫なのか?」
「オーブ政府は、ウズミ様が監禁されていた場所に戻るなど、夢にも思っていないでしょう」
「だといいのだがな」

 マルキオの孤児院という隠れ家もあるアカツキ島。身を隠すのには問題は無いが、それでも完璧ではない。
何処でサハク家やセイラン家の手の者がいるか分からないのだ。自分の存在がバレたら、躊躇無く殺しに来る。コトーとウナトの性格をよく知るウズミはことさら慎重になっていた。
 その時、ウズミの体に何者かがぶつかった。考え事の所為か、それが暗殺者であると思い込む。

「何者だ!?」

 大声で叫ぶも、"暗殺者"の姿を見てウズミは安堵する。そこにいたのは子供だったからだ。

「まったく。脅かせ……っ!!?」
「ウズミ様?」
「やられた。スリだ!」

 直ぐに追うよう命じたが、既に子供の姿は人々に埋もれて影も形も無かった。

「あのれ……すさんでおる!」

 歯軋りをしながらウズミは言った。

「子供がすさむのは社会が悪いからだ。私が代表ならば、あのような子は生ません。あの子達は間違った社会
の被害者なのだ。そうだ、そうに違いない!」

 スリに遭ったのは現政権の責任と、無理矢理納得するウズミであった。
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               *     *     *
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「わーお、大漁だ」
「どうした。何か見つけたのか?」

 帰りの船の上で、シンは隣に座っていた少年に話しかけた。彼はシンと同じ孤児院に住むナチュラルである。澄んだ目の色をした、優しい少年だ。

「大物をゲットしたんだ」
「凄いじゃないか!」
「当然さ。俺の仕事はいつも凄いんだ」

 彼はシンに笑いながら持っていた財布の中身を見せた。
 こんな少年がスリを行うのは、シンも良い事だとは思っていない。しかし、子供ではシンのようにジャンク
収集も殆ど出来ない。良い悪いは別にして、彼もどうにかして金を稼がなくてはいけないのだ。

「シン兄ちゃんも嬉しそうな顔してるね」
「おっ、分かるか?」

 シンの本日の収穫は、空戦ユニットの"シュライク"に"71式ビームライフル"を2丁と中々のものだった。
これだけで半月は楽に暮らせる額になる。尤も、シンの場合は大半を貯金に回してしまうので、そんな生活は
できないが……。

「シュライクは無傷で手に入れたのが大きかったなぁ~」

 そんな雑談をしている間に、船がアカツキ島に到着する。港からは車を使って孤児院に向う。その途中で、
2人は立ち往生している車を見つけた。無視してもよかったが、碌な修理屋もないこの島でそれは忍びないと
思い、声をかける事にした。

「どうしました?」

 話を聞くとパンクしてしまったようだ。予備のタイヤを提供することにしたシンは、車から降りようとする。その時、横に座る少年が青い顔をしているのに気付いた。

「やばいよ、シン兄ちゃん。逃げよう」
「いきなりどうした?」
「俺、あの車に乗ってる奴からスッた……」

 一瞬の硬直後、額に手を当てるシン。

「顔は?」
「見られてないと思う……」

 シンは「胸を張って怪しまれないように」と少年に囁いた。面倒な事になったが、放置する事も出来ない。

「どうかしたのかね?」
「い、いえ。何でもないです」

 シンは大急ぎでタイヤを交換する。相手は、あまりの手並みに唖然とするが、直に礼をすると言ってきた。
財布を盗んだ相手から礼を貰うわけにもいかず、2人は逃げるように車を発進させた。

 一方の助けられた男――ウズミは、風の如くいなくなってしまった2人の車を見つめていた。

「この道を行くとなると、あの2人は孤児院の者か」
「そのようですね」
「すばらしい!」

 ウズミは感嘆の声を出して、2人を褒めちぎった。

「正に導師の教育の賜物だな。そうは思わないか」
「まったくです」
「コトーと私のどちらが正しいのか、これだけでも証明された」

 傍らに居たウズミの部下は、彼の思い込みの激しさにウンザリした。

「ところであの少年、瞳の色からコーディネイターだな」
「そのようですが?」
「フッ……いい考えが浮んだぞ……」

 ウズミは自分の閃きに、唖然とする部下を尻目にし、大声で笑った。
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               *     *     *
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 シン達が孤児院に戻る頃には日も暮れていた。孤児院からは食欲をそそる匂いが漂ってくる。腹をすかせた
2人は家に入るなり、出迎えたマユにこっ酷く叱られる事となった。

「2人とも、帰って来るのが遅いよ!」
「悪い悪い」
「ゴメンね、マユ姉ちゃん!」

 悪びれる様子もなく戻ったシンは、席に着くなり、テーブルの上にある料理に手を伸ばす。

「お兄ちゃん!!」
「いいだろ。腹が減ってるんだ」
「シン君、マユちゃんが怒っているのは、そう言う事じゃないの」

 口を挟んだのは孤児院の手伝いをしているカリダである。

「手も洗わないで、汚いでしょう」
「ああ、そうだった」

 慌てて流し台へ足を運ぶシンの姿にマユは思わず目を見張った。カリダは孤児にとって母親のような人物で、シンでも彼女の言い付けは素直に従うのだ。手を洗い終えたシンは、冷蔵庫を開き、マユのオレンジジュース
のパックを勝手に取り出す。それにはマユも怒りが込み上げる。

「お兄ちゃん!」
「今日は儲けたんだ。ジュースなんていくらでも買ってやるさ」
「準備を手伝え!!」

 そんな騒がしい孤児院の前にウズミの車がやって来た。彼が扉を叩くと、カリダが出迎える。

「まぁ、ウズミ様……」
「今は"ウツミ"で通っている」
「分かりました。ウツミ様」

 カリダは、ウズミの正体を知った上で、孤児院の中を案内した。食堂に集まった孤児達は、突然現れた男に
ざわつき始める。その中で、シンは見覚えのある顔に驚いた。

「ゲッ! アイツは!」
「皆さん。この方はこの孤児院に寄付をなさってくれるウツミさんです。挨拶をしましょう」

 まさか財布を盗んだ男が孤児院までやってくるなど、予想もしていない。

「そんなに畏まらなくていい。私は君達の為を思って寄付しているのだからね」

 寄付というのはウズミの建前である。権力を得ていた頃は孤児院に金を流していたが、指名手配犯となって
からは寄付どころではなくなった。そんな背景もあってシンのような子供も働かなくてはいけないのだ。
 ウズミは子供達を見渡すと、その中にシンの姿を見つける。

「やあ、君はさっき助けてくれた少年だな」
「……どうも……」
「やはりこの孤児院の出身者だったか。私の見る目は間違っていなかった!」

 勝手に盛り上がるウズミを鬱陶しく思い、急いで夕食を済ましたシンは、後片付けも手伝わずに自室へ戻る。案の定、マユが文句を言っていたが、いつもの事なので気にしない。
 部屋に戻り、今日の儲けの勘定を始めたところ、誰かが扉を叩いた。

「シン君だったね。先ほど君に助けられたウツミだ」

 関わりたくないのに何故やって来るのか。シンは目眩がした。が、ふと考えると、財布を盗んだのは自分で
はない。それなら何で自分がビクビクしなくてはいけないのか、そう思い至り、堂々とする事にした。

「入ってもよろしいかな?」

 部屋に入ってきたウズミを見て、シンは首を傾げた。相手の顔を正面から見ると、何処かで見た顔なのだ。
ウズミは元オーブ代表なのだから、シンの反応は当然のものだ。しかし、髭の有る無しが印象を大幅に変えて
いる為、目の前の男が両親の仇であることに、シンは全く気付かなかった。
 一方のウズミは値踏みをするようにシンを見た。妹思いのコーディネイター。妹の学費の為にジャンク集め
を生業としており、おかげで自身の学業が停滞気味。

「君がMSに興味があると聞いてね。話が合うと思ったんだ」
「……ウツミさん、ジャンク屋組合の人?」
「その通りだ」

 相手が本物のジャンク屋と聞いて、シンの目の色が変わる。本物のジャンク屋は国際条約で護られており、
戦場に転がるジャンク品を拾い放題なのだ。その為に組合員になるのは確かな腕と相応のコネが必要であった。シンには腕は有ってもコネは無く、しかも子供なので組合員にはなれない。

「あの! 俺をジャンク屋組合に入れてくれませんか!?」
「残念だが、子供に組合マークを与える事は無理なんだ」

 予想通りの返答にガックリと肩を落とすシン。ウズミは諭すように語り掛ける。

「どうしてジャンク屋になろうとするのかな。他にも仕事はあるだろう?」
「マユの、妹の学費を稼ぎたいんだ。他の仕事じゃあ、留学させるのに何年もかかっちまう」
「そうか。ならば私と組まないか」
「ウツミさんと組む?」
「実は、この島にオーブの最新技術を詰め込んだMSがある、と聞いてね。手に入れるのに君の力が欲しい」

 その発言はジャンクの回収ではなく、MSの強奪であった。反対しようと思ったシンだったが、次のウズミ
の言葉が彼の思考を引き止めた。

「情報によると、アストレイ20機分に相当する予算で作られたそうだ。ところが政権が変わり、放置されて
いる状態らしい。つまり、今のオーブにとっては無用の長物なのだよ」

 アストレイ20機分。それはシンの考えを変えさせるのに十分の額だった。
 シンがジャンク収集で金を稼いでいたが、最近は不景気が続いている。初めの頃は、修理可能なMSが手に
入ったが、次第に頭部や腕部のような各部のパーツに変わり、最近はMSの兵装しか拾えない。オーブの内戦
は1日で終わった。島に転がるジャンクも数に限りがある。今日のように空戦ユニットを見つけられたのは、
運がいいだけだ。明日以降、これよりも上質なものは見つけられないだろう。

「利益は?」
「私が8、君が2」
「……少ないな」
「フフフッ、君が頑張れば7:3にしてあげよう」

 単純計算でアストレイ6機分の金が懐に入る事となる。それだけあればマユと一緒に大西洋連邦へ行くには
十分な額だ。これなら相手の考えに乗ってもいいかもしれない、とシンは思った。
 何よりオーブが無駄に造ったMSを盗むというのが、シンの心を振るわせた。

「乗った。やらせてくれ!」

 力強い答えに、ウズミは満面の笑みを浮かべた。
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 オーブ沖にてアークエンジェルが撃沈した1週間後、ブルーコスモスはアズラエルが行方不明になった事を
公表した。その情報は波紋の如く伝わり、各界に衝撃を与える。何せ、アズラエル財閥の御曹司であり、国防
産業連合理事でもあるアズラエルが行方不明となったのだ。今後に与える影響はかなりのものとなった。
 数日後、ブルーコスモスは新たな盟主にロード・ジブリールが選出された事を発表する。内部で行なわれた
選挙にサザーランドは負けたのである。当初はサザーランドの中立派とジョージ・アルスターの穏健派が組む
事で、ジブリールら強硬派を圧倒する構えだったが、予想に反してジョージがジブリール側に付いたのだ。

『――この盟主選出選挙でジブリール氏は圧倒的な得票数を――』

 TVに映る選挙戦の結果を見るのは地上攻撃軍のトップ2、ガルマ・ザビとマ・クベ両中将である。

「どうやら騎士団の登場が、穏健派を動かしたようだな」
「さようで。アルスター氏も人の親であったのでしょう」
「フレイ・アルスターだったか? 一体何を考えているのやら」

 全ては宇宙で決起した"歌姫の騎士団"が原因だった。
 騎士団の意思表明時に、フレイの姿が映っているのを確認したジョージは、どんな手を使ってでも直に娘を
助け出すと息巻いた。だが、地球圏の制宙権はジオン公国が握っており、連合軍は容易に艦艇を出すわけにも
いかなかった。そこをジブリールが突いたのだ。
 ジブリールは、自分が盟主となったら早急に戦争を再開させ、宇宙にいるフレイを助け出そうと揺さぶりを
かけた。悩んだジョージであったが、グズグズしていたら愛する娘がジオンの毒牙にかけられる、という言葉
も重なって、彼の提案を受け入れてしまった。

「これで我々は従来の戦略を変更せざるを得なくなりました」
「うむ。この、ジブリールなる者はどのような人物か?」

 マ・クベの瞳に浮んだ微笑は、するどく不適なものだった。

「ムルタ・アズラエル以上のコーディネイター排斥論者。有能ではあるが柔軟性がなく、故に論理より感情を
優先する人物。そして"血のバレンタイン"を立案した張本人だそうで……」
「ふむ、やっかいだな」

 アズラエルは強硬なコーディネイター排斥論者だったが、優秀な経営者でもあった。だからこそ自分の利益
になるなら、コーディネイターであるロンド姉弟とでも交渉する柔軟性を持ち合わしていた。つまり最低限の
筋は通す人物なのだ。そうなると、アズラエルが主導で連合の戦争が再開されるのは、五カ国協議の終了後で
あることが容易に推測できる。
 ところがジブリールは、アズラエルとは反対に感情的な人物。しかも、プラントに核ミサイルを撃つ作戦の
立案者とくれば、彼がどのタイミングで戦火を交えるのか予測がつかない。

「交渉の最中に撃ってくる可能性も出てきたわけだ」
「今直ぐとは言いませぬが、1ヶ月も経てば攻めて来る可能性は高くなります」

 マ・クベの見積もりでは、最低3ヶ月は連合の攻勢は無いとの計算だった。それが1ヶ月に変わってしまう。これにはマ・クベも頭を悩ませた。
 プラントとの戦争を終結させた、いわゆる"ヤキンドゥーエ攻防戦"において、ジオン軍はすくなからぬ人的
資源を消耗した。この消耗を補うべく、新兵と元ザフト軍人を数多く登用したが、彼らに全幅の信頼を置いて
いなかった上層部は、ガルマの地上攻撃軍から多くの熟練兵を引き抜いたのである。つまり今現在の地上軍は、一部の部隊を除いて、新兵と元ザフト軍人なのだ。
 彼らは戦闘に馴れる為に大規模な訓練を行っているが、新兵が一人前になるには経験と時間が必要であるし、元ザフト軍人も"ナチュラルとの連携"に馴れていないので、生粋のジオン軍人となるには時間が必要だ。

「さらに言えば、ジブリールは殲滅戦を仕掛けてくるでしょう」
「交渉は無用という訳か」
「我々がコーディネイターを有している以上、不可能です」

 ジブリールの詳細を知るうちに、ガルマは髪を弄りながら考え込む。はっきり言ってガルマとマ・クベは、
ジオンが連合を相手に完全勝利するとは考えられなかった。ジオンの国力は連合の30分の1しかない。大西
洋連邦一国と比較しても10分の1。戦線が拡大すればどちらが不利となるかは一目瞭然であった。
 今まではザフトを含めた三つ巴の状況を利用して戦線を縮小できたが、それも既に出来ない。

「殲滅戦か。連合は出来るかもしれんが、我々はやろうと思っても出来ないな」
「ジブリール以外に交渉の窓口が必要です」

 どんな状況であれ、交渉の窓口をふさいでしまえば、戦争は泥沼に落ち込んでしまう。国力の乏しいジオン
にとって最悪の状況だ。

「そうなると彼らを生かしたのは良かったかもしれん」
「はい。彼らはアズラエル直属の部隊でした。生死は別にしてもブルーコスモスの反ジブリール派である彼ら
と繋がりを持つに越した事はありません。さらに以前はハルバートンとも親交があったと聞きます。奴が協力
するかは別にして、交渉の窓口は複数空けておくのが賢明かと」
「しかし良かったのか? 兄上に相談も無く、外交に首を挟もうとするのは……」
「閣下が独断で外交を行なえば問題でしょうが、連合に借りを作る分に問題はありません」

 そういうものかと納得したガルマは、今後の対連合戦をどうするか、思考するのだった。