BLUE REFLECTION SUN

Last-modified: 2025-12-29 (月) 13:53:06

美岐の死、そして詩帆の決意

日ノ社学園の保健室に、鉛色の重厚な空気が澱んでいる。
瀟美岐(シャオ・メイチー)は、硬く閉ざされた遮光カーテンの隙間から、まるで懺悔室のステンドグラスのように細く切り裂かれて差し込む、
微弱な午後の光の下に横たわっている。
簡素な白いシーツが掛けられた冷たいベッドの上で、美岐は深淵の眠りに就いたように静かに寝ている。
彼女の顔色は、まるで数日前の雪のように青白く、生気というものが微塵も感じられない。
額とこめかみには、激しい苦痛の戦いを物語る冷たい汗が油膜のように滲んでいる。
その側にいるのは、春日詩帆(かすが・しほ)である。
詩帆は、美岐の異常な状態を前に、不安と緊張で硬い表情を浮かべている。
静寂な室内に、生命の維持を告げる心電図モニターの規則的な電子音と、微かに響く高周波のインバーターの駆動音が、この場の緊迫感をかえって際立たせている。
美岐のベッドを囲むように、制服姿の他の女子高校生達、森崎アレシア優(もりさきアレシアゆう)、星谷かんな(ほしや・かんな)、生駒彩未(いこま・あやみ)、安住菜々花(あずみ・ななか)もまた、神妙な面持ちで立ち尽くしている。
彼女達は今、個人的な日常を遥かに超越し、この世界の存亡にも関わる極めて重要な局面に立たされている事を理解している。
美岐が浅い、途切れ途切れの呼吸を、絞り出すように繰り返している。
(美岐の喉の奥で微かに軋むような浅い呼吸音)
美岐「…みんな…そこに…いるのか…」
美岐の喉奥からか細く絞り出された声は、微弱で掠れており、今にも途切れそうである。
詩帆「はい、ここに居ます。詩帆も、皆も、傍を離れていません。どうか、今の状態では、無理に言葉を発しないで下さい。安静にしていて下さい。」
詩帆は微かに震える手で、ベッドサイドの冷たい鉄枠に触れながら、美岐の手を優しく握り締める。
そして、心配そうに顔を美岐の頬が触れるほどまで近付ける。
美岐はゆっくりと、まるで全身が鉛で出来ているかのように重々しく、その身体を臥せった状態から起こそうと試みる。
(ベッドのスプリングが重さに耐えかねて軋む鈍い摩擦音)
(シーツと皮膚が擦れる微細な衣擦れの音)
動作は非常に重々しく、困難を極める。
次の瞬間、激しい痛みの奔流が美岐を襲い、その苦痛は胸部の中央、心臓の真下を鋭利な爪で抉られたかのように美岐を貫く。
美岐は「ぐっ」と喉を詰まらせ、激しい苦痛に顔を歪めて胸部を押さえる。
(美岐の激しい連続的な咳き込みの音)と、(短く絞り出された呻き声)が保健室の静寂を切り裂く。
詩帆「いけません!瀟さん!絶対にいけません!安静を保っていて下さい。その激しい動きは、戦闘で受けた傷が深く開いてしまう可能性を極めて高めてしまいます!」
詩帆は瞬時に焦りの表情を浮かべ、反射的に美岐の華奢な肩を両手で支え、再び優しく横たわらせようと試みる。
美岐は荒く、途絶えがちな息を何度も深く吸い込みながらも、最後の力を振り絞るように詩帆の手を力強く掴み返す。
その手のひらには、乾いた皮膚の感覚と、汗の湿り気が混ざっている。
美岐「私は…もう…駄目だ…この身体は…限界が来た…これ以上は、肉体の器が持ちこたえられない…」
美岐の瞳は、目の前の詩帆ではなく、遥か遠くの、誰にも見えない虚空の一点を見据えている。
その視線には、避けようのない切迫した状況を受け入れた、悲壮な決意が満ちている。
美岐「詩帆…お前は私の…この世界に襲い掛かる、最大かつ最悪の脅威である原種(げんしゅ)と、この先も戦い続けなければならない運命にある…」
詩帆「えっ?今、何を仰いましたか?原種と、ですか?私達が、あの途方もない怪物と戦わなければならないんですか?」
詩帆達4人の女子高校生の顔色と表情は、美岐の言葉を聞いた瞬間、恐怖と困惑、そして驚愕によって一気に蒼白く変わった。
美岐「だが…詩帆…今の、覚醒直後のお前だけでは…強大過ぎる原種という存在には…絶対に打ち勝つ事は出来ない…私の残された最後の、全ての強大な力を受け継いで、この使命を最後まで果たし、この世界全体を確実に守る為に戦うんだ…いいな?これは、私の最初で最後の、お前に対する絶対的な命令だ。」
美岐の言葉の底流には、相手に一切の拒否権や議論の余地を与えない、鋼のように強固な意志が込められている。
かんな「待って!どうして詩帆が、私達の中で瀟さんの代わりに、その途方もない化け物と戦わなければならないの?瀟さんのような強大な力と、その生命を、何の事前準備も心構えも無く受け継ぐなんて、一体、何の魔法なの?」
かんなの言葉には、現状に対する強い反発と、理不尽な運命に対する怒りが滲んでいる。
美岐「あの老人は…遥か古来より伝わる、魂のバトンを渡す『伝承法』という秘術を…命と引き換えに私に教えてくれた…」
美岐の虚ろな視線は、天井の一点に固定されたまま、瞬き一つしない。
美岐「伝える者と、それを受け継ぐ者、その両方に、いかなる状況でも揺るぎない、強い意志さえ完全に存在していれば…その志と、全てを凌駕する特殊な能力を、残さず完全に受け継ぐ事が出来る…ただの出まかせや、荒唐無稽な迷信に過ぎないかもしれない…だが、お前達と、そしてこの世界全体が生き延びていく為には…この唯一無二の、常識外れの方法に頼る…他無いんだ…」
(突如として激しく、窓ガラスを叩く風の音が、不安を煽るような不規則なリズムで鳴り響く)
(窓枠の古い木材が微かに軋む音)。
美岐「私達人類が、原種に最終的に勝利する為の唯一の希望は、この場で、お前が私の全ての力を継承する事に…全て懸かっている。」
詩帆は、握られた美岐の手を、今度は強い覚悟を込めて強く握り返した。
優「瀟!まさか…貴女は、この伝承法を実行する為だけに、自らの身体と命を犠牲にしてまで、原種と命懸けで、そして単独で戦ったというの!?そんな、馬鹿な話があるもんですか!」
優の悲痛な問いかけは、美岐の行動の背後にある狂気的なまでの自己犠牲に戦慄している。
菜々花「あのジジイ…ふざけやがって…!よくも瀟をそそのかし、こんな危険な術法を実行させようとしてくれたわね…!」
菜々花の声は、怒りと悔しさによって微かに震えている。
美岐「何を…愚かな事を言うんだ…今は、この世界の存亡にも直接関わる、一刻を争う一大事だ…私の命なんて、私自身の運命なんて…どうでもいい…どうでもいいんだ…お前達が生き残り、私の代わりに戦う事が、今、この瞬間における最優先事項だ…」
美岐の激しい息切れの音が、不規則で重く続く。
(美岐の喉奥で連続的に響く激しい息切れの音)
詩帆は、今にも決壊しそうな涙で瞳を潤ませながら、顔を横に、そして強く振り続ける。
彩未「どうでもよくないよ!瀟さんは、私達にとって大事な仲間なんだよ!それに、私達は、そんな怪しい、そして不確実な、命懸けの魔法など、聞いた事すらないよ!信じられる訳がない!」
美岐「私も最初は、あの老人の言葉を、ただの戯言、半信半疑で疑った…非科学的で、現実的では無い、ただの妄言であると切り捨てようとした。」
美岐の言葉の中には、過去の、孤独な状況下での激しい葛藤と諦念が垣間見える。
美岐「だがその後、あの老人が語った恐ろしい言葉は、血塗られた現実として目の前に現れた。恐るべき原種は、この世界を徹底的に破壊しようと、既に具体的な行動を開始している…古代の伝承では、原種は世界を救ってくれるという預言が確かに有る…だが、実際はどうだ…お前達は眼前の事実をよく見ろ…あの原種には、世界を救済する意思など微塵も感じられない。奴が伝説を装った偽物なのか、それとも古代の伝説自体が根拠の無い物語に過ぎないのか…そのどちらの場合にせよ、お前達は、その強力過ぎる原種の猛威に、今、立ち向かわなければならないんだ。」
(美岐がベッドシーツの下で、硬い拳でシーツを強く握り締める微かな摩擦音と布が擦れる音)。
美岐「奴らを完全に打ち倒し、二度とこの世界に現れないようにしない限り、世界の平和も、善良な人々の平穏な暮らしも、永遠に訪れる事はない。詩帆、お前は…その、あまりにも重すぎる使命の為に、自らの人生の全てを犠牲にしてでも戦う覚悟が有るのか?」
詩帆は、美岐の壮絶な自己犠牲の覚悟と、命を賭した最後の願いという重すぎる現実の前に圧倒され、感情が堰を切ったように溢れ出し、目頭を押さえ泣きそうになり、言葉を喉の奥に詰まらせる。
詩帆「そんな…そんな重過ぎる決意を、今すぐ私にしろなんて…私には…ありません…!瀟さんが…瀟さんが側にいなければ…私は…何も…何も出来ません…!」
詩帆は、その場に崩れ落ちるように美岐の胸元に顔を深く埋め、声を押し殺しながら、嗚咽を懸命に堪える。
詩帆の喉の奥から漏れる、微かで悲痛な啜り泣きの声が、空間の静寂の中で特に悲しく響き渡る。
美岐は、もう自由に動かせない腕を微かに持ち上げ、力の限りを尽くして詩帆の髪を優しく、愛おしむように撫でる。
美岐「残念ながら…詩帆…私の生命の炎は、もう蝋燭の火のように…消えかかっている…誰にも…助からない…この原種との戦いは…長く、果てしない、苦しい戦いになるだろう…だが…その重すぎる決意を、今、この場で、持ち合わせる者にこそ…この強大な力を、私は残さなければならないんだ…」
美岐の生命の力の奔流が、既に身体の核から急速に抜け出し始めている事が、近くにいる詩帆には感じられた。
美岐「詩帆…私の魂は…常に…いつも…お前と共にある…そして、仲間達と共に…必ず…戦え。」
詩帆「瀟さん!駄目です!私達を置いていかないで下さい!お願いです!瀟さん!」
詩帆の悲痛な叫び声が、冷たい保健室の壁と天井に木霊する。
美岐の呼吸は、ますます浅く、そして不規則になり、その美しい瞳の光が急速に失われ、焦点を失っていく。
美岐「みんなも…世界を…私の代わりに…頼んだぞ…私の…分まで…」
美岐の最後の微かな、そして冷たい吐息が、詩帆の頬にかかる。
美岐が詩帆の手を掴んでいた力が、徐々に緩み、抵抗無く美岐の手から離れていく。
美岐は、詩帆の震える腕の中で、静かに、そして完全に息を引き取った。
心電図モニターの規則的な電子音が途切れ、けたたましい一本の長い高周波の警報音に変わる。
詩帆「…瀟さん?瀟さん?嘘…嘘でしょう…冗談はやめて…目を開けて下さい!瀟さん!瀟さぁーん!!」
詩帆は、急激に冷たくなった美岐の身体を、その全身の力を込めて強く抱き締め、制御不能な慟哭と共に、悲痛で魂を揺さぶる叫びを上げた。
詩帆の制御不能な激しい泣き叫びが、保健室という小さな空間を満たし、壁に反響する。
優「詩帆…もう…」
詩帆「瀟…瀟…さん…私…」
その時、耳朶を劈くような鋭い閃光と、鼓膜を震わせる高周波の電子音と共に、詩帆の身体全体に圧倒的な、そして温かい光の奔流が照らされる。
虚空から、美岐の力の結晶である数多の光の粒が、まるで流れ星のように詩帆に向かって次から次へと激しく降り注ぐ。
(光の粒子が、詩帆の皮膚と接触し弾ける、微細で連続的なスパーク音)
詩帆の脳裏には、過去の美岐の凄まじい戦闘の様子や、彼女の生きてきた私的な記憶の画像、経験、そして技術の全てが、膨大な情報量となって、洪水のようにフラッシュバックし、次々と刻み込まれていく。
詩帆「魂の奥底から、根源から奮い立つような、この途方もない力と、この重すぎる使命の感覚…!次々と、まるで自分の事のように鮮明に蘇る、瀟さんが戦い続けた歴戦の膨大な記憶の断片…これは…間違いない…瀟さんの…全て…!!」
詩帆は、この瞬間に美岐の持つ全能力、全ての技術、そして世界を守るという全ての志を完全に受け継いだ。
詩帆は、溢れ出る涙を荒々しく手の甲で拭い、美岐の冷たくなった亡骸を、慈しむように静かにベッドに寝かせる。
彼女の表情は、先程までの深い悲嘆から、冷徹なほどの強い覚悟と決意へと完全に変わっている。
詩帆「見てて下さい…!瀟さん…!私は、貴女の命を賭した最後の意志を継ぎ、原種と徹底的に戦い抜きます!この世界の平和と、未来永劫の平穏を守り抜く為に…必ず!」
詩帆の身体からは、美岐から受け継いだ強大な力が、彼女のオーラとなって強く発光し始めた。
それは、この世界に新たに誕生した、一人の戦士の誕生を告げる、静かでしかし力強い宣言であった。
能力の奔流が詩帆の体内に完全に収束する、重厚で深く響き渡る残留音が最後に響き渡り、やがて静寂が戻る。

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