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Last-modified: 2007-06-14 (木) 22:23:22

ユリウス 「あー、ったく、ようやっと終わったよ家庭科の課題……」
ツェーン 「不器用ですからねユリウス様……あいたっ」
ユリウス 「お前は自分の主に向かって何言ってんだこの野郎」
エルフ  「……」
ユリウス 「しかし、どうするかなこのエプロン」
ツェーン 「ってか何ですかこの刺繍。ブサイクなワニみたいな」
ユリウス 「竜だよアホ! あー、家に持って帰ったってユリアに笑われるのがオチだしなー」
アハト  「確かにキツいですなあ、ユリア様の失笑は。普段穏やかな分、心にグサッと突き刺さり
      ますからな」
ユリウス 「ああ。クソッ、しかし一体どうすれば……捨てるのもなんかもったいないし……お」
アハト  「どうしました……ああ、あれは例の大家族のセリス君ですな」
ユリウス 「ちょうどいいところにちょうどいい奴が……おい、セリス」
セリス  「(ぱっと顔を輝かせながら)なあに、ユリウス」
ユリウス 「やるよこれ。半年遅れぐらいの誕生日プレゼントだ。まさかイヤとは」
セリス  「(心底嬉しそうに)わあ、ありがとうユリウス。大切にするね」
ユリウス 「……」
セリス  「どうしたの?」
ユリウス 「何でもないよ、クソッ」
ツェーン 「どうしたんだユリウス様は?」
アハト  「嫌味のつもりが爽やかな笑顔でさらっと流されたので、己の器の小ささを思い知らされ
      て煩悶中なのだろう」
エルフ  「……」
ユリウス 「お前らなに要らんことダベッてるんだ! オラ、さっさと行くぞ」
ツェーン 「へーい」
アハト  「しかしユリウス様もずいぶんセリス君に突っかかりますな。何か因縁でも?」
ユリウス 「……あいつめ、事あるごとにユリアに近づきやがってな。楽しくお喋りなんかしてやが
      るんだ」
アハト  「はあ」
ユリウス 「これというのも十数年前の夏の日、いじめられてたあいつを助けたことが原因で……あれ?」
ツェーン 「どうしたんスか?」
ユリウス 「いや……なあ、セリスって男だよな?」
エルフ  「!!」
アハト  「そのはずですよ? まあ、確かにセリス君は女性と見間違うような顔をしてはおられますが」
ユリウス 「……そうだよな。いや、何か違う思い出とごっちゃになってるんだな。そういうことに
      しておこう」
ツェーン 「何が?」
ユリウス 「どうでもいいだろ。そんなことよりユリアだユリア。チクショウ、セリスの奴め、僕な
      んて最近じゃ冷たい目で見下ろされながら『お兄様、邪魔です』とかそのぐらいしかま
      ともな会話がないってのに!」
ツェーン 「いやそれはまともな会話とは……はうっ!?」
ユリウス 「あん? どうしたツェーン」
ツェーン 「……ヘル」
ユリウス 「うぎゃあっ! ち、血迷ったかツェーン!?」
アハト  「大変だユリウス様のHPが1に! おいエルフ、急いでフィーアを呼んで……」
エルフ  「……」
アハト  「エルフ!?」
エルフ  「ぶつぶつ……(ユリウス×セリス……いやむしろセリス×ユリウス……? ユリア×ユ
      リウスの逆レイプ近親相姦も捨て難い……)」
ツェーン 「ククク、ユリアサマニサカラウモノミナコロス」

セリス  「あれ、どうしたのユリア、バサークの杖なんて持って」
ユリア  「いいえ、何でもありませんわセリス様(……お仕置きですよ、お兄様……)」
セリス  「それにしても、ユリウスは本当に優しいね。何もないのに僕にいろいろプレゼントして
      くれるし」
ユリア  (それはただお兄様がいらないものを押し付けているだけなのですが……)
セリス  「ユリアは幸せだね、あんなに素敵なお兄さんがいるんだもの」
ユリア  (……セリス様は相変わらず人を見る目がありません……わたしが守って差し上げなくては)
セリス  「ユリア?」
ユリア  「あ、はい。そうですね……」

 主人公家居間

ヘクトル 「……」
リン   「ただいまー。何やってるのヘクトル、珍しくボーっとしちゃって」
ヘクトル 「いや……なあリン、変なこと聞くんだけどよ」
リン   「何よ」
ヘクトル 「俺にさ、妹がいた気がするんだよな」
リン   「……いるじゃない。エイリーク姉さんとセリカ」
ヘクトル 「いや、そうじゃなくてよ。もう一人、青い髪の女の子がいたような気が……」
リン   「……」
ヘクトル 「悪ぃ、んな訳ないよな。思い違いだ思い違い。聞かなかったことにして忘れて……」
リン   「やっぱり、ヘクトルもそう思ってたんだ」
ヘクトル 「!! ってことは、やっぱり」
リン   「そう。わたしたちが五歳……ぐらいの頃までかしら? 確かにこう、青くて長い髪の可
      愛らしい女の子が微笑んでる記憶が。エイリーク姉さんはあのころから凛々しいって感
      じの印象だったから、多分違うと思うし」
ヘクトル 「何なんだろうな……近所の子供か?」
リン   「そんな子いないじゃない。ここ数年で誰かが引っ越した記憶もないし」
ヘクトル 「そうだよな。一体どういうことなんだ」
リン   「謎は深まるばかり、ね」

 とそこへ、例のエプロンをつけたセリスが笑顔でぱたぱたやって来る。

セリス  「あ、お帰りなさいリン姉さん。ご飯もう少しで出来ますから」
リン   「……」
ヘクトル 「……」
セリス  「? どうしたの?」
リン   「いや、ねえ?」
ヘクトル 「そのエプロン、似合ってんなあと思って」
セリス  「えへへ、ありがとう。友達からもらったんだ。とってもいい子でね」
エリンシア「(台所の方から)セリスちゃーん、ちょっと手を貸してちょうだーい」
セリス  「はーい。ごめんね二人とも、もうすぐ出来ますから」
 またぱたぱた駆け去っていくセリス
リン   「……エリンシア姉さん、またご飯作ってくれてるのね。自治会長の仕事で疲れてるだろ
      うからわたしがやるっていつも言ってるのに」
ヘクトル 「いやリン、話をそらすなよ。お前、今のセリスを見て俺と同じことを考えたはずだぜ」
リン   「……でも、まさか」
ヘクトル 「分からんぜ。自分の家に対してこう言うのもなんだけど、何が起こってても不思議じゃ
      ねーからな」
ミカヤ  「ただいま。あらどうしたの二人とも」
リン   「おかえりミカヤ姉さん」
ヘクトル 「なあ姉貴。今から俺が言う単語で思い当たることがあったら何か教えてくれないか」
ミカヤ  「なあに? 珍しいわねヘクトルがわたしに何か聞きたいなんて」
ヘクトル 「セリス 女装」
ミカヤ  「!! ……ゴメンネ、ネエサンチョットヨウジヲオモイダシチャッタ」
ヘクトル 「待てコラァ!」
リン   「やっぱり何か知ってるのね姉さん!」
ミカヤ  「知らない! わたしは何も知らないわ! 純情可憐な銀の髪のヲトメを捕まえてなんてこ
      というのかしらこの子たちは!?」
ヘクトル 「その慌てぶりが何よりの証拠だろ! 隠すとタメに」
エリンシア「まあまあどうしたんですか皆さん、そんなに大騒ぎして。今日は折角のすき焼きなのに」
リン   「エリンシア姉さん……」
ヘクトル 「姉貴」
エリンシア「なんでしょう」
ヘクトル 「セリス 女装」
エリンシア「!!」

 ヒューン……バシャーン!

リーフ  「ギャアアァアァァァァァァッ!」
ロイ   「ああ、どこかから飛んできたすき焼きの鍋がリーフ兄さんに直撃したァーッ!」
リーフ  「こ、この人でなしーっ!」
エリンシア「ななななな何のことでしょう。わたわたわたくし世事には疎いものでして」
ヘクトル 「……姉貴よぉ。隠すとタメにならんぜ?」
リン   「二人とも。私達は別に、姉さんたちがセリスに何をしていようと、それを責めようとい
      う気はないの。ただ、真実を知りたいだけで」
ミカヤ  「……」
エリンシア「……」
二人   「ごめんなさい!(土下座)」

 その夜……

リン   「と、いう訳で、第百四十七回家族会議をセリスとエリウッド抜きで決行することとなっ
      た訳ですが」
リーフ  「なんでエリウッド兄さんまで?」
リン   「こんな事実を知ったら心労で倒れちゃうわよ……」
ヘクトル 「さて、まずはキリキリ白状してもらおうか姉貴たちよ」
ミカヤ  「仕方なかったのよ! いわば心を血の誓約書で縛られたかのような状態で」
エリンシア「子供の頃のセリスちゃんがあんまり可愛らしかったものですから……もちろん今でも可
      愛いですけれど」
マルス  「可愛さなら僕だって負けてはいないと思いますけどね」
リン   「お黙り。で、セリスをあたかも着せ替え人形のように扱った訳ね、姉さんたちは」
ミカヤ  「そんな、人聞きの悪い」
エリンシア「ああ、でも本当に可愛かったわセリスちゃん。特に甘ロリ系の服を着せたときなんかも
      う、お人形さんどころか天使もかくやという可愛らしさで」
マルス  「なるほど、僕とは方向性が別の可愛さという訳で」
リン   「黙れ。……はーっ。まあ、言いたいことは分からないでもないけど」
リーフ  「納得しちゃうんだそこで!?」
リン   「だって……リーフ、試しに想像してみなさいよ。今のセリスが女装したらって」
リーフ  「……ありかもしれな」
ロイ   「リーフ兄さん!?」
リーフ  「はっ!? あ、危ない危ない、変な世界に足を踏み入れるところだった」
エリンシア「ちなみにこれがわたしとミカヤお姉様秘蔵の、セリスちゃんアルバムですわ」
エイリーク「まあ……本当、お人形さんみたいですね」
ヘクトル 「あー、そうそう、これだこれ、俺の記憶にある青い髪の女の子!」
マルス  「クッ、こうなったら僕もシーダに化粧を習って」
リン   「おやめ。はぁ。謎は全て解けた、けど……」
ヘクトル 「けど、なんだよ?」
リン   「シグルド兄さん、アイク兄さん!」
シグルド 「ん?」
アイク  「なんだ?」
リン   「なんだじゃないでしょ! 横で見てたなら止めてちょうだいよこういうことは!」
シグルド 「何故だい? 実際セリスは可愛かったんだし、止める理由もないと思うが」
リン   「どういう倫理観!? だって、セリスは男の子なんだし」
シグルド 「リン、そういう物言いはいけない。いいか、世の中にはいろいろな人がいて、確かに私
      達の常識から逸脱した人々もいる。だが同じ人間である以上、そういった人々の多様性
      も認めてあげなくては、また過去の弾圧の悲劇を繰り返すことにもなりかねないんだ」
リン   「いや、そんなレベルの話じゃ」
シグルド 「それともリンは女装したいという願望を持つ人々には人権がないとでも言うのか? そ
      んなことではいけない。それでは世界平和の恒久的な持続など不可能だ。我々は宇宙船
      地球号の乗組員として、常に地球市民であるという自覚を持ってだね」
リン   「うう……」
ヘクトル 「アイクの兄貴はどうなんだよ?」
アイク  「何がだ?」
ヘクトル 「だからよ、セリスを女装させてた姉貴たちを見て、何も思わなかったのかとかそういう」
アイク  「別に、どうでもいいけどな」
リン   「アイク兄さんはいつもそうやって!」

エフラム 「……なあエイリーク」
エイリーク「はい、なんですか兄上」
エフラム 「セリスって、男だったのか?」
エイリーク「……兄上はもう一度中学校に戻って保健体育の授業をやり直してきて下さいね」
リーフ  「まあでも、いいんじゃないの? 今のセリスは普通に男やってるんだし」
ロイ   「リーフ兄さん……」
マルス  「ついにあっちの趣味に」
リーフ  「ち、違うよ!」
セリカ  「でも、本当に可愛いわね子供の頃のセリス」
アルム  「僕はセリカの方が可愛いと思うな」
セリカ  「アルム……」
アルム  「セリカ……」
シグルド 「(ピーッ!)はいそこ、兄妹で変な雰囲気作らない! 兄さん許しませんよそういうの。
      兄妹同士なんて異常です、隣接しても飛ばすのは星だけにしてくださいハートマークな
      んか出さないで下さい! 兄妹で変なことしようとしたら家からたたき出しますよ兄さんは!」
リン   「シグルド兄さんさっきと言ってることが全然違うんだけど!?」
ロイ   「兄妹同士で……っていうのにだけは異様に厳しいからねシグルド兄さん」
ミカヤ  「ま、まあ何にしても、リーフの言う通りよね!」
エリンシア「そうですわ、セリスちゃん、今は立派に可愛い男の子なんですし、何の問題もありませんわ」
ヘクトル 「……本当にそうか?」
ミカヤ  「え?」
ヘクトル 「セリスの奴、男というには趣味が編み物やら刺繍やらぬいぐるみ作りやらだったり……」
リン   「そう言えば料理もお菓子も絶品よね」
アイク  「ああ。あれはうまいな。そうやって褒めると『やだ兄さんったら』なんてエプロンの裾
      つかんでもじもじとこう」
リーフ  「洗濯とか買い物とかも好んで引き受けるし……」
ロイ   「少女漫画と恋愛小説で本棚が埋まってたなあ、そう言えば」
マルス  「男で内股なのに全然違和感がないんだよね……」
エイリーク「そう言えば、バレンタインデーでチョコを作っているときに何の違和感もなく私達の輪
      に溶け込んでいたりして……」
アルム  「前間違ってセリス入っているときに風呂のドア開けたら『キャア!』ってやたら可愛い
      悲鳴上げてたような」
セリカ  「そんなアルム、お風呂だったらわたしがいつでも一緒に」
シグルド 「キエェェェェェェェェ!」
アルム  「うわっ(回避)」
セリカ  「キャッ(回避)」
リーフ  「ぐはぁっ(直撃)」
ロイ   「ああ、シグルド兄さんが振り下ろしたティルフィングでリーフ兄さんが真っ二つにされ
      ちゃった!」
リーフ  「この人でなしーっ!」
エフラム 「ほら見ろ、やっぱり女なんだろ、セリス」
リン   「そんな」
エリンシア「気のせいですわ、きっと」
リーフ  「本当にそうなのかな」
ロイ   「復活早いねリーフ兄さん」
シグルド 「まあ、大した問題ではあるまい」
アイク  「そうだな。男だろうが女だろうが、セリスが家族の一員であることに変わりはない」
マルス  「いや、そりゃまあそうですけどね」
エフラム 「女なんだろう。大体セリスって女の名前じゃないか」
エイリーク「いい加減にしてください、兄上」
アルム  「女だろうと男だろうと、か」
セリカ  「ええそうよアルム、兄弟だろうと兄弟でなかろうと」
シグルド 「……どうやらティルフィングの☆が二つほど増えそうだな」
ロイ   「ああ、逃げてアルム兄さんセリカ姉さーっん」

 ガラッ

全員   「!!」
エリウッド「あれ、どうしたの? こんな夜中に皆揃って」
リン   「い、いや何でもないのよエリウッド」
ヘクトル 「そうそう、別に大したことじゃねえよ」
アイク  (……漆黒の騎士が来たのかと思った)

 一方その頃、同町内竜王さん家。

ファ   「にいちゃっ、にいちゃっ!」
チキ   「遊んで遊んでーっ!」
ミルラ  「……オママゴトです」
ユリウス 「だーっ! 引っ付くなお前ら! いいか、お前らと遊ぶたびに僕は死にかけてだな」
イドゥン 「……ユリウス」
ユリウス 「!! い、イドゥン姉上」
イドゥン 「……ユリアから聞いたわ。またセリス君をいじめたそうね」
ユリウス 「ハハハ、何を馬鹿な。いじめてなんていないですよ」
イドゥン 「……どうしていじめるの?」
ユリウス 「……だって、あいつ事あるごとにユリアに近づこうとするんだよ。兄としてはやっぱり
      妹に変な虫がつかないように守ってやらなくちゃ」
イドゥン 「……そう」
ユリウス 「ふん、いい迷惑さ。十数年前の夏の日にいじめられてたアイツを助けて以来、いつも僕
      とユリアが遊んでるところに入ってきてさあ」
イドゥン 「……それが、ユリア目当てだと?」
ユリウス 「そうだよ。だってあいつ、僕らに『一緒に遊ぼ』って言うたびに顔赤らめてもじもじし
      ててさあ。オマケにユリアもまんざらじゃなさそうだし。あー、ムカツク! ちくしょ
      うアイツめ、僕の目の黒い内は絶対ユリアに近づけさせないからな!」
イドゥン 「……」
メディウス「婆さんや、飯はまだかい」
イドゥン 「……さっき食べたばかりですわ。それに、お婆様はとっくにお亡くなりです」
メディウス「そうだったかの……」
ファ   「じいちゃっ、じいちゃっ!」
チキ   「遊んで遊んでーっ!」
ミルラ  「……暗黒竜退治ごっこです」
メディウス「うう、鬼孫がいぢめる……」

 同時刻、セリスの部屋

セリス  「……ふぅーっ、今日の宿題、終わり。ああ、星が綺麗だなあ」

 セリス、ユリウスにもらったエプロンを持って、ベランダに出る。

セリス  「ふふ。大事にするからね、ユリウス」

 エプロンをぎゅっと抱きしめたとき、夜空を流れ星が横切る。

セリス  「あ、流れ星。……とずっと一緒にいられますように。……とずっと一緒にいられますよ
      うに。……とずっと一緒にいられますように」

 流れ星の消えた空を見上げて、穏やかに微笑むセリス。
 彼が誰の名前を唱えたのか、それは永遠の秘密なのである。

ラナ   「きっとわたしの名前ね……」
マナ   「え、急にどうしたんですかラナ様」
ラナ   「ううん、なんでもないのよマナ。ふふふふふ……」
マナ   (さすがラナオウ様、素晴らしい闘気です……)

便乗ネタ1-341