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Last-modified: 2007-06-16 (土) 15:10:03

ミカヤ? 「ロイちゃん、ロイちゃん!」
ロイ    「うわぁ、ど、どうしたのミカヤ姉さん急に抱きついて……って何だ、ユンヌさんか」
ミカヤ? 「あ、なにその言い方、ひどーい。
       折角いつも体使わせてもらってるお礼に、ミカヤの弟ちゃんと遊んであげようと思ったのにぃ」
ロイ    (どっちかと言うと、遊んであげてるのはこっちの方だと思うんだけど……)
ミカヤ? 「ま、いいや。許したげる。ね、ね、何して遊ぶ」
ロイ    (うわ、凄い目が輝いてる……体はいつもの静かな姉さんのままだから、余計ギャップがあるなあ)
ミカヤ? 「よーっし、じゃ、鬼ごっこしましょ! ロイちゃんが鬼ね!」
ロイ    「いや、この年になって鬼ごっこは」
ミカヤ? 「それじゃ、よーい、スタート!(ヒューン!)」
ロイ    「って、リワープはずるくないですかユンヌさん!?」

 一時間後。

ロイ    「はぁ、はぁ……や、やっと追いついた……」
ミカヤ? 「うんうん、よく頑張った、偉いぞロイちゃん! ご褒美に抱きしめて撫で撫でしてあげる」
ロイ    「うわ、ちょ、苦しいよユンヌさん!」
ミカヤ??「……ようやく見つけた」
ロイ    (あ、あれ、また雰囲気が変わって?)
ミカヤ? 「あ、アスタルテ姉さん!?」
ミカヤ??「いい加減にするがいいユンヌ。姉上がお怒りだ」
ミカヤ? 「げっ、アスタテューヌ姉さんが!?」
ミカヤ??「ああ。今の内に帰っておれば少しは罪も軽くなろう」
ミカヤ? 「うえぇ、帰りたくなーい」
ミカヤ??「そんなことを言うとまた押入れに閉じ込められるぞ」
ミカヤ? 「ひぃぃ、メダリオンの中はイヤァ!」
ロイ    (押入れなんだ、あれ)
ミカヤ? 「暗いよ狭いよ怖いよぉ」
ミカヤ??「分かったら速やかに帰るのだ。ロイ少年、いつも世話をかけるな」
ロイ   「あ、いえ」
ミカヤ? 「しくしく、鬼姉がいぢめる……じゃあねロイちゃん、また今度遊んであげるからね」
ロイ   (相変わらず一人漫才見てるみたいだなあ、これ)

ミカヤ  「ふう……やっと満足したのね、ユンヌったら」
ロイ   「ああ、いつものミカヤ姉さんだ」
ミカヤ  「ただいまロイ。ごめんねユンヌの相手させちゃって。いつも仕事を手伝ってもらってるから、断りにくくて」
ロイ   「別にいいよ、今日は特にやることもなかったし」
ミカヤ  「そう……あら、ロイったら髪の毛がぐしゃぐしゃよ」
ロイ   「あ、本当だ。さっきユンヌさんに思いっきり撫で回されたから」
ミカヤ  「こっちに来て。梳かしてあげるわ」
ロイ   「い、いいよ、こんなの適当に」
ミカヤ  「駄目よ。少しは身だしなみに気を使いなさい。そんな風に無頓着では、リリーナちゃんが可哀想だわ」
ロイ   「……分かったよ。お願いします」
ミカヤ  「そうそう。いい子ね、ロイ」
ロイ   「……」
ミカヤ  「(髪を梳かしながら)でもロイの髪は素直でいいわね。
      アイクやヘクトルなんか凄い剛毛だから、寝癖がつくと直すのが大変だったのに」
ロイ   「……」
ミカヤ  「それにしても、こうやってロイの髪を梳かしてあげるのも凄く久しぶりね……最近はずっと忙しかったから」
ロイ   「そうだね。僕も、すごく久しぶりな気がする。いつも面倒くさいと思ってたのに、その、何ていうか……」
ミカヤ  「なあに?」
ロイ   「な、なんでもない……」
ミカヤ  「ふふ、変なロイ。さ、終わったわ」
ロイ   「ありがとう、ミカヤ姉さん」
ミカヤ  「どういたしまして」
エリンシア「ロイちゃん、ちょっと晩御飯の買出しに……あら、今日は何だか美男子さんなのね」
ロイ   「か、からかわないでよエリンシア姉さん」
エリンシア「そうだわ、買出しついでにリリーナちゃんに会ってきたら」
ロイ   「行ってきまーすっ!」
エリンシア「あらあら、何を買うのかも聞かずに飛び出していっちゃった」
ミカヤ  「きっとすぐに戻ってくるわね」
エリンシア「ええ」
ミカヤ  「……」
エリンシア「どうかなさいました、お姉様?」
ミカヤ  「あ、ううん。ちょっとね、昔のことを思い出しちゃって」
エリンシア「昔のこと、と言いますと」
ミカヤ  「父さんや母さんが、まだ生きてた頃のこと。わたしも、あんな風に母さんに髪を梳かしてもらってたなあと思って」
エリンシア「懐かしいですね……」
ミカヤ  「ええ。だけど二人とも急に死んじゃって、わたしやシグルドが働かなくちゃならなくなって……
      毎日毎日疲れ果てて帰ってきては、少し眠ってまた出て行く、それだけの生活。
      ある日鏡を覗き込んだら、顔の痩せ具合よりまず先に、髪がすっかり痛んでるのに目がいったのね。
      わたしって、こんな色の髪でしょう? 痛むと白髪みたいになっちゃって、自分が百も年を取ってしまったような気分になったわ」
エリンシア「そんなこと……」
ミカヤ  「ええ、もちろん大袈裟すぎたんでしょうけどね。でも、痛んだ髪を見てたら、急にとても寂しくなった。
      また母さんに髪を梳かしてもらいたいだなんて、子供みたいなことを思ったりもしたのよ。
      その頃、路上で占い師をやってた先生に出会ったの」
エリンシア「先生、と言うと、お姉様が時々話されているニイメさんという方のことですか?」
ミカヤ  「ええ。先生に、わたしには巫女としての才能があるって言われてね。もちろん、最初はとても信じられなかったけど、
      同時に凄く惹かれもしたの。ひょっとしたら、なんて」
エリンシア「もしかして、姉様が今の道に進まれたのは……」
ミカヤ  「そう。巫女としての修行を積んだら、また父さんや母さんに会って、話が出来るかもしれない。
      あの頃みたいな、柔らかい、優しい手で、髪を梳かしてもらえるかもしれない。そんな風に思ったの」
エリンシア「そうでしたの……」
ミカヤ  「まあ、動機が不純だったせいか、降りてくるのはユンヌやアスタルテみたいなよく分からない神様ばかりなんだけど」
エリンシア(それはそれで凄いことのような……)
ミカヤ  「でも、誤解しないでね。わたし、この道に進んだことは後悔していないの。
      ときどき、ふっと、ほんの少しだけ寂しくなることはあるけど」
エリンシア「……」
ミカヤ  「ねえエリンシア。わたし、ちゃんとお母さんの代わりになれてるかしら。
      ロイたち、寂しい思いをしていないかしら。いつもね、少しだけ不安なの」
エリンシア「……お姉様」
ミカヤ  「ん?」
エリンシア「話している傍から、髪が少し痛んでいるようですわ」
ミカヤ  「そう?」
エリンシア「ええ。私が梳かしてさしあげます」
ミカヤ  「別に……ああ、ううん。それじゃ、お願いしようかしら」
エリンシア「ええ」

ロイ   「いけないいけない、焦りすぎて何を買うのか聞くの忘れちゃったよ……エリンシア姉さーんって、うわっ、お客さん……」
セリス  「どうしたの、ロイ。そんなに慌てて」
ロイ   「あ、ああ、セリス兄さんか……」
セリス  「そうだけど……どうして?」
ロイ   「いや、別に。 (髪を下ろしてたせいで知らない女の子に見えた、なんて言えないよな)」
ミカヤ  「お帰りロイ。相変わらず慌てん坊さんなのね」
ロイ   「今度はセリス兄さんの髪を梳かしてあげてるの?」
ミカヤ  「ええ。なんだか楽しくなっちゃって」
セリス  「僕も楽しいな。それに、なんだか凄く懐かしい感じがする」
ミカヤ  「小さい頃はこうやってよくセリスの髪をいじってたからね」
セリス  「それに、可愛い服もたくさん着せてもらってたんだよね。懐かしいなあ」
ロイ   (覚えてるんだ、そのこと……っていうか、少しも気にしてないんだ、そのこと)
リン   「え、エリンシア姉さん。わたしはいいってば別に」
エリンシア「駄目よリンちゃん。もう、あなただって女の子なんだから、もう少し可愛い髪型にしたらいいのに」
リン   「こうやって適当に束ねるのが一番動きやすいのよ」
エリンシア「だからって、お手入れを欠かしちゃいけません。もう、お馬さんだってブラッシングしてあげればもう少し喜ぶのに」
マルス  「一緒にしたらお馬さんがかわいそうですよ」
リン   「マルス、あんた後で覚えときなさいよ」
マルス  「おお恐ろしい。さあロイ、一緒に買い物に行こうじゃないか」
ロイ   「あー、うん、そうだね」
リン   「逃げるな!」
エリンシア「リンちゃん! もう、動いちゃ駄目でしょ」
リン   「うううう……」
マルス  「ははは、ロイ、実に気分がいいね。まるで反撃できない相手をチクチクといたぶっているかのようなこの快感!」
ロイ   「兄さんはもう少し自分の趣味について考え直した方がいいと思うな……」

セリス  「……えへへ」
ミカヤ  「どうしたの、セリス」
セリス  「ううん。僕ね、小さい頃、こうやってミカヤ姉さんに髪を梳かしてもらうのが大好きだったんだ」
ミカヤ  「そうなの」
セリス  「うん。今でも覚えてるよ。ミカヤ姉さんの、とっても柔らかくて、優しい手」
ミカヤ  「……」
セリス  「どうしたの?」
ミカヤ  「ううん。何でもないわ。そうだセリス、髪を梳かし終えたら、あのころみたいに可愛い服も着てみない?」
セリス  「わあ、本当? それもすごく久しぶり」
リン   「ミカヤ姉さん!」
ミカヤ  「冗談よ、冗談」