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Last-modified: 2007-06-14 (木) 22:39:19

ミカヤ 「いってきまー……あ、いけない」
リーフ 「? どうしたのミカヤ姉さん?」
ミカヤ 「あ、リーフ。ちょっと、部屋に忘れ物しちゃって。取ってきてもらえないかしら?」
リーフ 「いいけど……何を取ってくればいいの?」
ミカヤ 「このぐらいの、水晶玉。演出に使うの」
リーフ 「分かったよ」
ミカヤ 「お願いね。あ、それと……」
リーフ 「それと?」
ミカヤ 「余計なものは、見ないようにね?」
リーフ 「(ゾクッ!) は、はい……」

リーフ 「で、ミカヤ姉さんの部屋に来たけど……実は入るの初めてだったりして。
     うわっ、少女趣味な部屋だなあ。こんなにぬいぐるみがある部屋なんて、他には……
     ……あったよ。セリスの部屋だ。むしろセリスの部屋はここよりもっとぬいぐるみが……
     いや、深くは考えまい。しかし壁紙といいカーテンといい、
     無闇に可愛い色ばっかり使ってるなあ……おっと、あったあった」

 化粧台の上の水晶玉に手を伸ばすリーフ。

リーフ 「全く、姉さんもウッカリしてるよ、こんな目立つもの忘れるなんて……ん?」

 そして、リーフは気がついた。たくさんの「普通の」化粧品が並んだ化粧台の下、
 押し込まれた椅子のさらに奥に、妙な存在感を放つ箱が存在することに。

リーフ 「……何だろう、これ……こ、これは!」

 その箱には、見覚えのある文字でこう書かれていた。
 『秘密の化粧箱』

リーフ (……ミカヤ姉さんは若作りで、僕はいつもそのことが気になっていた。
     アマルダ先生やセルフィナ先生が『若さを保つ秘訣を聞いてきてくれない』なんて言うもんだから、
     それとなく訊ねたこともある。でも、姉さんはいつも『ずっと女の子の心のままでいることよ』
     なんて、あり得ない答えを返すだけで、本当のことを教えてはくれなかった。
     その答えが、この箱の中にある……!)

 リーフの記憶が正しければ、一家最年長であるミカヤの年齢は今年で(ダキュンダキュン!)才のはずである。
 無論、見た目は少女そのものだ。変なエキスでも啜ってるんじゃないか? と疑いたくなるほどの若作りぶりだ。
 本当の歳を聞いたら「うわぁ!」でなくて「うわぁ……」と反応したくなるほどなのである。

リーフ (あの、弟ですら気味が悪くなるほどに若々しい外見の秘密が、今僕の目の前に)

 リーフはごくりと唾を飲み込んだ。背中を汗が伝い、喉がからからに渇く。

リーフ (だが大丈夫か。冷静になるんだリーフ。この箱に手をかけた瞬間ミカヤ姉さんが現れる、なんて
     トラップが仕掛けてあるんじゃないのか。そうだ、いつだってそうじゃないか。
     それでレクスオーラかまされて『この人でなしーっ!』って叫ぶことになるんだ。そうに違いない)

 結局、リーフは寸でのところで手を引っ込めた。
 臆病者と笑いたければ笑うがいい。触らぬ神に祟りなし。これ、生きていくための秘訣である。

リーフ 「……姉さん、はい、どうぞ」
ミカヤ 「ありがとう……なんだか遅かったわね、リーフ?」
リーフ 「(ビクッ) は、ははははは……そ、その、探すのに手間取っちゃってさ……」
ミカヤ 「ふーん、そうなの。……良かったわね?」
リーフ 「え」
ミカヤ 「黒焦げになってなくて……」
リーフ 「!!」

 余談だが、以前緑風さんが黒焦げになって歩いているところを目撃されたことがあるそうな。