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Last-modified: 2008-05-22 (木) 22:01:13

224 名前: 助けて!名無しさん! 投稿日: 2008/04/13(日) 02:08:53 ID:eMk4ykXF
毎日のように暴れまわる兄弟の行動に頭を抱え、勘弁してほしいといつも思う。
けれど、けして嫌いにはなれないのは何故かといつか考えたことがある。
近所に謝罪にいくのも、フォローするのも理不尽な役割。
それに嫌気がさしながらも結局はそれをしてしまう。
そこが兄弟の嫌いな部分だ。「嫌いだ」とはっきりと言える。
だけど仕方がない。
嫌いな部分よりも好きな部分の方が圧倒的に多いのだから。

「エリウッド兄さん」
「ロイか。どうしたんだい?」

そんな取り留めのないことを考えているエリウッドに、ロイが声をかけてきた。
末っ子でありながらも甘えないしっかりした子。
かわいいことに違いはないのだが。

「兄さん、いつもヘクトル兄さん達のフォローばっかで…疲れない?
僕にも何かできることがあれば…」
「ああ、ありがとう」

元気な兄達を見て育ち、よくこんな性格に育ったものだといつもながら思う。
ロイは外見の似ない兄弟の中で、珍しくエリウッドに似ていた。
似たのは外見だけでなく、中身もなのかもしれない。

「エリウッド兄さん、体があんまり強くないのに…」
「大丈夫、昔よりはずっと強くなったよ」

そう、昔はこんなものではなかった
225 名前: 助けて!名無しさん! 投稿日: 2008/04/13(日) 02:10:53 ID:eMk4ykXF
本当に、走るだけでも辛いほどに弱々しい子どもだったのに。

「そりゃあ、みんなのフォローは結構辛いものはあるけど…
でも、僕はみんなが好きだから」
「…?」
「ロイが生まれる前の話なんだけどね」

エリウッドは幼い頃に思いを馳せる。
昔は元気にはしゃぎ回る兄弟と違い、体が弱くて寝込みがちだった。
ミカヤやエリンシアはそれはもう心配したものだ。成長すれば強くなるだろうか、など、幻想にも近いような祈りを抱えるほどに。
勿論兄弟と駆け回ることなどできず、いつもそれを眺めているだけだった。

何故自分だけ?

誰にでもなく、幾度となく問い掛けた。
強く生まれた兄弟達を恨みもした。
だけど…

「エリウッド、遊びに行こうぜ!」
「はやくはやくっ!」

誰も、仲間外れにはしなかった。
例えばサッカーなんか、ほんの数分で倒れそうになるほどだったのに、必ず一緒に遊んでくれた。
嫌そうな表情すらせず、エリウッドが疲れるとすぐに休ませて今度はお喋りに花を咲かしたのだ。

「ねえ、僕と遊んでもつまらないでしょ?
気にしなくていいから、みんな…」

226 名前: 助けて!名無しさん! 投稿日: 2008/04/13(日) 02:12:04 ID:eMk4ykXF
そんな親切に耐えきれなくなった時に言った言葉。ヘクトル達は皆驚いて目を見開いていた。
エリウッドはそれを気にすることなく続ける。

「僕、すぐに疲れちゃうし…サッカーも野球もおにごっこも、全部台無しにしたゃうから」

そう言って顔を上げると、目の前にはヘクトルの怒った顔があって、今度はエリウッドが驚く番だった。

「俺らはなぁ、別にシンセツでやってるわけじゃねーんだぞ!」
「え…」
「エリウッドだけが楽しめないなんて、そんなのおかしいだろ!」

言葉が出なかった。
エリウッドは、自分に対する態度はすべて同情だと思っていたから。
だけど、それは間違いだった。
ヘクトルも、リンも、エフラムも。ただエリウッドに楽しんでもらいたかっただけなのだ。

「へぇ…あのヘクトル兄さんが…」
「それ以来、少しでも長く遊べるように、体を鍛えるようになったんだ」

一番効果があったのは、みんなで遊ぶことだったと笑いながらいうエリウッドに、ロイも自然と笑みが零れる。

「みんなと一緒に剣もやり始めて、普通に駆け回れるようにはなった。そうなるほどあの時の言葉は響いたんだ」

ロイはエリウッドのように体が弱いわけではないから、その気持ちを完全に理解できるわけではない。
それでも、嬉しかったことや、エリウッドが兄弟達のことが好きだということははっきりと伝わってきた。

「いいなぁ、そういうの」
「僕らは、ロイのことも好きだよ。みんな素直じゃないから、代わりに言っておくよ」

二人は思わず声をあげて笑う。
やはりエリウッドは憧れの兄の内の一人であると同時に、どこか憎めない兄の内の一人、なのだ。

笑い声がやむ頃、庭が騒がしくなってきた。
怒鳴り声や、武器のぶつかり合う音。
また喧嘩でもしているのだろうかと、エリウッドはゆっくりと立ち上がった。

「この人でなしー!」

お決まりの叫び声が聞こえ、二人は苦笑を漏らす。
続いて立ち上がったロイは、そうすることが当然のようにエリウッドの後を追った。

「あ…胃が痛くなってきた…」
「大丈夫?後で胃薬出しておくね」

そう言いながらも笑顔を浮かべ、エリウッドは元気よく庭へ飛び出していった。

end