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Last-modified: 2008-05-22 (木) 22:08:06

289 名前: 王子様注意報 [sage] 投稿日: 2008/04/16(水) 01:01:23 ID:yTsOImcT
今、紋章町ではある事件が起きていた。
多くの人が道端に座り込み、放心した状態で見つかっているのだ。

その人達の共通点は、女性であること。

何を尋ねてもはっきりとした回答は得られず、それどころか思考が違う世界へ飛び立つ人や、うふふ、とひたすら悦に入ったように笑い続ける人すら出ていた。
警察はこれを魔法による催眠、あるいは薬物投与の可能性を示唆して調査を進めている。

「まあ…こんな事件が起きていたのですか…」
「気をつけるんだぞ。今までの被害者が女性だけだからといって、男が襲われないとも限らないのだからな」

休日の緩やかな昼食の時間を過ごしていた兄弟達に、エリンシアとシグルドの心配そうな声が響く。
物騒になったものだと思う者と、そんなことよりも飯だとばかりに料理に手を伸ばす者。
二つに分かれるのもお馴染みだ。

「とは言え…やっぱり女子の方が危険みたいだし、みんな気をつけてね」

ミカヤの言葉に頷いたのは、女性陣で、男性陣はほとんど聞いてはいない。
勿論しっかりと聞いてる者もいるのだが。

「姉さん、今日の買い物は僕が行ってきます」

そう言ったのはエリウッドだった。

290 名前: 王子様注意報 [sage] 投稿日: 2008/04/16(水) 01:03:02 ID:yTsOImcT
女子を行かせるのは危険だろうと、真っ先に手を挙げたのだ。
いくらエリウッドが他の兄弟に比べて体が弱いとはいえ、男であることに変わりはない。
それに、デュランダルにはその重さに振り回されてしまうが、剣だってなかなかの腕だ。

「そうね…じゃあ任せようかしら」

ミカヤは素直に任せることにし、エリウッドに買い物メモを手渡したのだった。

「しかし…気になるね」
「何が?」

エリウッドが家を出て、他の兄弟達も皆それぞれに思い思いの時間を過ごしていると、マルスがぽつりと呟いた。
その言葉をしっかりと拾ったのはリーフで、興味を引かれたように近寄ってくる。

「女性だけが狙われているんだろう?シーダに何かあったら大変じゃないか。
これは調べてみる必要があるね。」

リーフは、マルスがやると言えば全て成されることは今までの経験でよく知っていた。
だから、今回の真相もしっかりと掴むだろうと、付き合うことにした。

「シグルド兄さん、パソコン借りますよ」
「ああ、構わないよ」

軽く了承を得、マルスはシグルドの部屋へ向かう。
リーフは、今更パソコンで得られる情報などあるのかと首を傾げながら付いていった。
普通にパソコンを起動させたマルスの隣に立ち、その行動を見つめる。
するとマルスはおもむろに携帯を取り出し、どこかへ電話をかけた。

「やぁ、ジュリアンかい?今話題のニュースについてちょっとね……うん、よろしく」

情報集めでも頼んだのかとリーフはただ黙って様子を見ている。
マルスはそれも気にせず、マウスを動かし始めた。

「……え、何それ…?」
「はは、すごいだろう?紋章町全土が見れるんだ」

どこから撮っているのかいまいちよくわからない映像が、ディスプレイに映し出される。
公共のものではないらしく、つまりはマルス専用の映像のようだ。

「一番簡単なのは、監視しちゃうことだよね」
「まぁ、そうだね」

それならばジュリアンに連絡を取ったのは何故なのか、リーフにはよくわからなかったが、こういうことに関してはマルスはとにかく腕が立つ。
なので、それ以上の疑問を持つこともなく、じっと画面を観察してみた。

しばらく経つとマルスの携帯が震えた。
取ってみると相手はジュリアンで、どうやらマルスに頼まれたことで連絡を入れたようだ。
部屋の中は静かなので、その声も聞こえてくる。

『見つけましたよ!放心状態の女性!』

291 名前: 王子様注意報 [sage] 投稿日: 2008/04/16(水) 01:03:58 ID:yTsOImcT
なるほどつまり、ジュリアンは被害者を探していたのだ。
その場所を映すと、確かに女性が一人座り込んでいる。

「うわわっ、きれいなおねぃさ…じゃなくて、どうするの?」
「ジュリアン、近くに…別の女性はいないかい?」
『え、っと……あ、いましたよ!』

そちらの方へ画面を動かすと、今度は二人の女性が立ち尽くしていた。

「このまま追っていけば、犯人が見つかるかな」
「なるほど」

一本の道沿いに女性はいて、犯人がこの道を通ったことがわかる。
カメラ(詳しくは企業秘密らしい)が追い付くのも時間の問題だろう。

「こうして見ると、本当に女の人ばっかりだね」
「そうだね。これならエリウッド兄さんに危険はなさそうだ……あれ?」

画面から目を離さずにリーフに応えていたマルスが、突然間抜けな声を上げた。
リーフが慌てて画面を見ると、そこに映っていたのは見慣れた姿だった。

「これ…エリウッド兄さんだよね?」
「うん…犯人は兄さんの側を通ったのかな?」

そのまま何ともなしに買い物帰りらしいエリウッドを追い続けていくと、その前方から女性が歩いて来ていることに気付く。

「この人は無事みたいだね…きれいなお姉様ハァハァ」

294 名前: 王子様注意報 [sage] 投稿日: 2008/04/16(水) 01:11:40 ID:yTsOImcT
「リーフ自重。…って、あれ?女性が座り込んだ…」
「えっ?どうして?だってここには誰も……」

エリウッドとすれ違った途端に女性はその場に座り込んでしまった。
やはり意識は違う所へ飛んでいるようだ。

「どういうこと?」
「…まさか、これは……」

続けてエリウッドを追っていくと、曲がり角からまた女性が現れた。
今度は女子高生ほどだが、エリウッドとすれ違うとやはり動きを止めてしまう。

『マルス様!』
「なんだい、ジュリアン?」

今の女子高生に駆け寄るジュリアンの姿が映る。
何か声をかけ、その返答を聞いているようだ。

『さっきの女性もそうだったんですけど…』
「?」
『なんか、

王子様

って、ひたすら呟いてるんですけど…』

瞬間、静かだった部屋が更なる沈黙に包まれる。

「「それって…」」

呆けた二人の言葉が重なった。

事件は未だに解決されず、それでも被害者は一定の時間が経つと正気を取り戻し、皆一様に

「幸せな夢を見ていた」

と、うっとりと話すのだというーー。

終わっとけ