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Last-modified: 2008-06-03 (火) 22:43:37

578 名前: GKNJプロジェクト 前編 [sage] 投稿日: 2008/05/06(火) 21:16:13 ID:Z1U3WB0F
 ~紋章町、某所~

???  「……首尾はどう?」
?????「ハッ。根回しと工作は大方終了いたしました」
?????「例の施設も、工事は最終段階に近づいております。あの工務店は仕事が速く
      て助かりますな」
???  「そう……気取られてはいないわね?」
?????「あの一家の何人かは不審に思い始めているようですが……
      ご安心下さい、対策は万全です。こちらの計画の全容が知られることは絶対
      にあり得ないと断言できます」
???  「そう……では、いよいよ計画を次の段階に進めましょうか」
?????「GKNJプロジェクト、最終段階の発動ですか」
???  「いい? 一番重要なのは速さよ。兄弟家の皆が何らかのリアクションを起こ
      す暇すら与えず、全ての準備を終えるの。いいわね?」
?????&?????「イエス、ゴッデス!」
???  「フフフ……いい感じ、いい感じだわ。みんなの驚く顔が目に浮かぶようね……!」

 ~翌日、兄弟家~

マルス  「……」
ロイ   「どうしたの、マルス兄さん。難しい顔して」
マルス  「いや……妙だと思わないかい、ロイ?」
ロイ   「なにが?」
マルス  「あれだよ」

 と、マルスが指差す先、兄弟家を囲む塀の向こうには……

シノン  「おいボーレ、そこのハンマー取ってくれや。釘打つのに使うからよ」
ボーレ  「あいよー」
シノン  「……ってオイ、豆腐じゃねーかこれ!」
ボーレ  「大丈夫、俺の豆腐なら釘ぐらい楽勝に打てっから!」
シノン  「……実際に打てるのがむしろムカつくぜ……!」

ロイ   「あー、いよいよ工事も大詰めって感じだね。それにしても、あの豆腐って一
      体何で出来てるんだろう……?」
マルス  「そんなことはどうでもいいんだよ。重要なのは、一体何を作ってるのかってことさ」
ロイ   「さあ……? 工事に加わってるアイク兄さんも、アパートを作ってるらし
      いってこと以外は知らないらしいからね」
マルス  「それも一軒や二軒じゃない。あれだけの数のアパートを同時に建てようなん
      て、正気の沙汰とは思えないね」
ロイ   「うーん……って言うか、兄さんは知らないの? なにを建てようとしてるんだか」
マルス  「それがねえ……僕の情報網を駆使しても、さっぱり分からないんだよ」
ロイ   「兄さんの情報網でも? それは凄いね」
マルス  「一体何が起きようとしているんだ、僕らの近所に……」
リン   「あーもう、これで何軒目よ!?」
ロイ   「どうしたの、リン姉さん」
マルス  「ひょっとして、また?」
リン   「そう。曲がり角のところに住んでたご夫婦が引っ越すんですって」
リーフ  「ねえ姉さん、どうでもいいから早く戦利品を確認しようよ」
リン   「戦利品って……別れの挨拶代わりの粗品でしょ。包み破らないでよ」
リーフ  「分かってるって。さあて、何が……なんだ、またハムの詰め合わせか……」
ロイ   「明らかにアイク兄さんを意識した粗品だな、これ……」
マルス  「……今月に入って、これで三十軒目ですね」
リン   「そうよ。このままじゃ、このご近所から人が一人もいなくなっちゃうわ」
ロイ   「ゴーストタウンみたいだね……凄く不気味な状況だよ、正直」
リン   「マルス、本当にあんたでも何も分からないの?」
マルス  「……僕も知りたいんですけどね。一体何がどうなってるんだか……」
ロイ   「……ひょっとして、その内シグルド兄さんも転勤命じられて、僕らも町を出
      て行くことになるんじゃ」
579 名前: GKNJプロジェクト 前編 [sage] 投稿日: 2008/05/06(火) 21:16:55 ID:Z1U3WB0F
マルス  「いや、それはあり得ないよ」
リン   「そうね。その場合シグルド兄さんが一人寂しく単身赴任するだけだろうし」
ロイ   「ごくナチュラルにそういう結論になるのはさすがにひどくない?」
リン   「そんなことは今はどうでもいいのよ。問題は、この一連の動きが一体なんな
      のかってこと」
ロイ   「うーん……」
ジュリアン「マルス様!」
ロイ   「うわっ、ビックリした!」
リン   「きゅ、急に現れないでよ、ジュリアンさん」
ジュリアン「おっと、こいつは失礼」
マルス  「ジュリアン。何か分かったのかい?」
ジュリアン「ええ。さすがに全貌まではつかめませんけどね。
      ここ最近、この一帯から立ち退く人たちが急増している現象……
      どうやら、竜王家の上の方とか、ベグニオン財閥のお偉いさんとかが一枚噛
      んでるみたいですね」
マルス  「具体的な目的は分からないのかい?」
ジュリアン「さあ……? ここら一帯に何か重要な資源がある、みたいな噂は聞きませんし、
      町の中心区からも離れてるから、経済的な価値も大してありませんし……
      ここの辺から人を減らして、得をする人間なんていないはずなんですけどね」
マルス  「そうか……ありがとう、今後も調査を続けてくれ。この怪奇現象の全貌が分
      かった暁には、僕の全権限を使って、マチスさんをレナさんから引き離すこ
      とを約束しよう」
ジュリアン「ハハーッ! 有難き幸せ!」
ロイ   「行っちゃった……マルス兄さんってホントに人を使うのが上手いよね」
マルス  「その人が一体何を望んでいるのか、正確に把握するのがコツだよ。時代は情
      報戦なのさ、ロイ」
リン   「……その割にはあんまり分かったことはないのね」
マルス  「……そうですね。いや、こんなことしそうな人に、一応心当たりはあるんですが……」
ロイ   「え、誰?」
マルス  「……肝心のご本人が、ここ最近姿を見せないからね……問い詰めようにも問
      い詰められないし」
エフラム 「……ただいま」
ヘクトル 「……」
エリウッド「……」
リン   「お帰り……? どうしたの三人とも、変な顔して」
エフラム 「いや……今、そこの曲がり角のところでヘクトルと手合わせしたんだが」
リン   「曲がり角っていうと、ついさっき引っ越されたご夫婦の家?」
ヘクトル 「ああ、そうだ」
ロイ   「路上で喧嘩しないでよ、兄さん達」
エリウッド「僕は止めたんだけどね……いや、でも今重要なのはそこじゃないんだ」
ロイ   「どういうこと?」
エフラム 「……ちょっと白熱しすぎてしまったせいで、そこの家を倒壊させてしまってな」
ロイ   「ちょ、何やってんの!?」
リン   「謝りにいかなきゃ……って、あそこはいま人がいないんだったわね……」
エリウッド「そう。だからどうしたものかと途方に暮れていたんだけど」
ヘクトル 「……そこに、変な黒服の連中が現れてよ」
リン   「黒服……?」
ヘクトル 「怪しげな連中だったぜ」
エリウッド「その人たちが言うには、『ここは元々壊す予定だったから、気にしなくても
      いいですよ』とか」
リン   「……はい?」
ヘクトル 「それどころか、『よろしかったら、この辺一帯の家は全部壊しちゃっても構
      いませんから』とも言い出してよ」
エフラム 「手合わせする気も失せて、狐につままれたような気分で帰ってきたというわけだ」
リン   「……これは……」
ロイ   「……なんなんだろう、一体……」
580 名前: GKNJプロジェクト 前編 [sage] 投稿日: 2008/05/06(火) 21:17:29 ID:Z1U3WB0F
 ~さらに数日後、兄弟家、夕食の席~

ヘクトル 「……」
エフラム 「……」
リーフ  「……姉さん、おかわり」
エリンシア「ええ、ちょっと待ってね……」
ロイ   「……なんか、家の中の空気が重いね」
リン   「仕方ないわよ。あの後もどんどん人が出て行っちゃって……」
リーフ  「いまや、この辺り一帯で残ってるのって、僕ら一家ぐらいのものだもんね……」
マルス  「しかも、一体何が起きてるのか、未だに分からないままだし……」
セリカ  「窓の外が真っ暗……なんだか怖いわ」
アルム  「大丈夫だよ、何が起きてもセリカは僕が守るから」
シグルド 「……」
ロイ   (うわっ、シグルド兄さんがKINSINに反応しない!?)
エリウッド(セリカとアルムにしても、『アルム……』『セリカ……』と見詰め合うやり
      取りが抜けてるしね)
エイリーク(……やはり、皆さんそれぞれにこの状況の不気味さを感じているみたいですね)
ミカヤ  「本当、一体何が起きているのやら……」
アイク  「……よく分からんが、しばらく肉に困らなさそうなのはいいことだ」
ロイ   「アイク兄さんは本当に動じないよね」
アイク  「別に、危険なことが起きているわけじゃないからな。それに」
リン   「それに?」
アイク  「あまり、嫌な空気は感じない。多分大丈夫だろう」
エフラム 「さすがアイク兄上だ……!」
ヘクトル 「こんなことで気を重くしてる自分の弱さが情けないぜ……!」
ロイ   「いや、これはさすがにただ鈍いだけなんじゃないかな……」
シグルド 「まあ、実際心配してもどうにもならないだろう」
セリカ  「……シグルド兄さんは大丈夫なの? 転勤させられそうな気配とかない?」
シグルド 「いや、相変わらず課長にこき使われる日々さ。全くアルヴィスの奴ときたら……」
セリカ  「そう、よかった。それじゃあ、わたしたちがここを離れなきゃいけない、っ
      てことにはならないのね」
ヘクトル 「……その場合はシグルド兄貴が単身赴任になるだけじゃねーの?」
エフラム 「俺たちが出て行く必要性は特に感じないな」
シグルド 「そ、それはさすがに冷たいんじゃないかお前達!?」
ヘクトル 「……っつーか、むしろこういうことはセリカが真っ先に言うと思ったんだけどよ」
セリカ  「え?」
エリウッド「そうだね。セリカが『シグルド兄さんが転勤命じられたらみんなで町を離れ
      なきゃならない』って発想に自然に行き着いたのはちょっと意外だったかな」
エリンシア「まあ、セリカちゃん、シグルドお兄様と離れたくなかったのね?」
セリカ  「そ、そういうわけじゃ……!」
リーフ  「セリカ姉さんってツンデレ?」
エイリーク「ツンデレってなんですか?」
セリカ  「べ、別になんでもないから、気にしなくてもいいから!」
シグルド 「セリカ……お前って子は……!」
セリカ  「ちょ、な、涙ぐまないでよシグルド兄さんったら! もう、恥ずかしいんだから……!」
リーフ  (ツンデレ?)
マルス  (ツンデレツンデレ……いまどき流行らないのにね……)
セリカ  「聞こえてるわよマルス兄さん!」
マルス  「顔真っ赤だよセリカ」
アルム  「……」
ロイ   (『ツンデレなセリカもいいなあ……』とか思ってる顔だな、あれは……)
セリス  「……」
エフラム 「む……どうしたセリス、箸が進んでないぞ。具合でも悪いのか?」
セリス  「ん……ううん、そういうわけじゃないけど。ただ……」
ヘクトル 「ただ?」
セリス  「なんか、さみしくて。ご近所の人たちがみんな出て行っちゃって……」
エリンシア「……そうね。しかも、こんな急な話で、ゆっくりお別れの挨拶をする暇もな
      かったものね」
ミカヤ  「みんな、どこに行っちゃったのかしらね」
581 名前: GKNJプロジェクト 前編 [sage] 投稿日: 2008/05/06(火) 21:18:03 ID:Z1U3WB0F
アイク  「別に、どこでもいいんじゃないか?」
リーフ  「相変わらず淡白だね兄さんは」
アイク  「なにがだ? 死んでしまったわけじゃないんだ。会おうと思えば会いに行け
      るだろう。何が問題なんだ?」
エイリーク「アイク兄上……」
セリス  「……そうだね。永遠のお別れじゃないんだし、寂しがる必要なんかないよね」
ヘクトル 「……だな。ま、今までいた連中が出て行っちまっても、いつまでも無人って
      わけじゃねえだろうよ」
ミカヤ  「そうね。この辺りって町の中心部から離れてるおかげでそんなに地価も高く
      ないし、その内他の人たちが引っ越してくるはずだわ」
ロイ   「すぐに元通り、ひょっとしたら元以上に賑やかになるかもね」
リーフ  「きれいなおねいさんたちがたくさん引っ越してくればいいなあ」
リン   「あんたはいつもそればっかり……」
マルス  「そういうリン姉さんだって、ラスさんが引っ越してきたら小躍りして喜ぶん
      じゃないですか?」
リン   「な、なに言い出すのよ!? 大体ね、ラスは遊牧民でサカの民なんだから、
      こんなところに引っ越してくるわけないでしょ?」
マルス  「そうですね。僕も分かってて言いましたから」
リン   「マルスゥ……! アンタ、わたしのソール・カティの錆になりたいみたいね……!」
マルス  「試作型ワープリング起動!」
リン   「待てやコラァ!」
エフラム 「騒がしいな、全く……」
ヘクトル 「ヘッ、ンなこと言っといて、お前もちっちゃい子供がたくさん増えるといい
      なーとか思ってんじゃねーの?」
エフラム 「……死にたいらしいな、このデブ野郎」
ヘクトル 「誰がデブだコラ!?」
エフラム 「やるか!?」
ヘクトル 「おうよ! 今日こそ頭カチ割ってやるぜ!」
ミカヤ  「こら、食事中に騒がないの!」
リーフ  「巻き添え喰らう前に逃げようかな」
ロイ   「そうした方がいいと思うよ」
マルス  「……ま、僕ら一家だけでもこれだけ賑やかなんだし、別に心配する必要はな
      いんじゃないのかな?」
セリス  「……そうだね。ごめんね、なんだか暗くなっちゃって」

 ~深夜~

セリス  「……ふう。本当に、窓の外が真っ暗だなあ……こんな急に皆がいなくなっ
      ちゃうなんて、一体どうなってるんだろう」
???  「セリスちゃん、セリスちゃん!」
セリス  「だれ!? ……あ、ユンヌさん」
ユンヌ(鳥)「こんばんはー」
セリス  「はい、こんばんは……? なんか、凄く久しぶりですね」
ユンヌ(鳥)「あー、うん、まあいろいろ忙しくてねー」
セリス  「そうなんですか?」
ユンヌ(鳥)「そうなのよー。それでね、ちょーっとセリスちゃんを安心させようと思ってー」
セリス  「え、安心って?」
ユンヌ(鳥)「まずねー、このご近所に住んでた人たちだけど、そんな遠くには行ってないから」
セリス  「じゃあどこに?」
ユンヌ(鳥)「全員紋章町内にいるから、会うのはそんなに難しくないはずよ。
       具体的な住所はマルスちゃんにでも調べてもらってちょうだい」
セリス  「はい、分かりました」
ユンヌ(鳥)「でね、もう一つ。その人たちが住んでたところに、明日の夜に新しい人が
       引っ越してくるから」
セリス  「へえ! ずいぶん急なんですね?」
ユンヌ(鳥)「まあ、準備自体はずっと前からやってたし」
セリス  「え?」
ユンヌ(鳥)「あー、なんでもない、なんでもない。とにかく、そういうわけだからよろしくねー」
セリス  「はーい、おやすみなさーい」
582 名前: GKNJプロジェクト 前編 [sage] 投稿日: 2008/05/06(火) 21:19:13 ID:Z1U3WB0F
 ~翌朝~

セリス  「……ってことがあって」
マルス  「……」
リン   「……」
ロイ   「……」
セリス  「あれ、どうしたのみんな?」
リン   「いや……」
ロイ   「どうしたもこうしたも……」
マルス  「やっぱりユンヌさんの仕業だったか……! 予想は出来てたけど」
ロイ   「……でも、一体何が目的なんだろう?」
リン   「嫌な予感しかしないわ、正直……」
セリス  「大丈夫だよー。ユンヌさん楽しそうだったし」
リン   「……いや、なおさら心配なんだけど、それ……」
ロイ   「一体何を企んでるんだ、ユンヌさん……」

 ~夜~

ヘクトル 「……」
エフラム 「……」
セリカ  「……」
セリス  「ど、どうしたの? なんだかみんな雰囲気が怖いよ?」
ロイ   「仕方ないよ……あのユンヌさんがなんか企んでると分かった今とあっては、ね」
セリカ  「あの邪神……! 我が家のご近所さんをみんな追い出すなんて、いい度胸
      じゃないの。今日こそメダリオンに永久封印してあげるわ……!」
アルム  「き、気合入ってるね、セリカ……」
ロイ   「正直怖いよ姉さん……」
マルス  「とは言え、結局何が起きるのかは分からずじまいか」
ミカヤ  「今夜、いなくなった人たちの代わりに誰かが引っ越してくる……だったわよね」
セリス  「うん。一体どんな人たちが来るんだろうね?」
セリカ  「暁原作に習って『正の使徒』ならぬ『混沌の使徒』とかが来るに違いないわ!
      そしてわたしたちを徐々にアスタテューヌ教徒として洗脳しようって魂胆なのよ!」
エイリーク「落ち着いてください、セリカ」
エリウッド「なんにしても、実際に何かが始まるまで、僕らにはただ見守ることしか出来
      ないってことか……ああ、胃が痛い!」
リーフ  「……ねえ、みんな? なんか、外がやけに明るくない?」
リン   「そう言えばそうね……ここ数日は真っ暗だったのに」
アイク  「ん……向かいのアパートに人が入ったんじゃないか?」
ロイ   「向かいのアパートって言うと、グレイル工務店が建てようとしてたやつ?」
アイク  「そうだ。今日完成したばかりだが、管理人は早速入居者を募集すると言っていたぞ」
リーフ  「今日完成したばっかりなのに!? ずいぶん気が早い管理人さんだね」
アイク  「ああ。まあ俺たちの知人だがな。奴が管理人だったことは、今日初めて知ったが」
マルス  「……その管理人って、誰?」
アイク  「漆黒の騎士だ」

全員   「な、なんだってーっ!?」

アイク  「……何を驚いてるんだ?」
ロイ   「だ、だって……え? 漆黒の騎士さんが賃貸アパートの管理人を始めたってこと?」
アイク  「そうだ。その名も『めぞん漆黒』」
リーフ  「なにそのどっかで聞いたような名前!?」
マルス  「しまった……! そういうことだったか!」
ロイ   「どうしたの!?」
マルス  「漆黒の騎士さんといえばセフェランさんの部下で、
      そのセフェランさんは女神ユンヌの忠実な僕……これらが示すことはただ一つ……!」
ミカヤ  「み、みんな、大変よ! 空を見て!」

597 名前: GKNJプロジェクト 中編 [sage] 投稿日: 2008/05/07(水) 02:27:29 ID:1DwDou0M

 ミカヤの声に従って全員が外に出ると、地上から放たれた眩い照明の中に、
 夜空を覆いつくさんばかりの竜の影が浮かんでいた。

エリウッド「何じゃこりゃああああああああぁぁぁぁぁぁっ!?」
ロイ   「お、落ち着いて、エリウッド兄さん!」
エフラム 「どういうことだ……!? いつかのように、我が家を竜の群が狙っているとでも言うのか?」
ヘクトル 「へっ、上等だ。それならあのときみたいに、戦って戦って戦い抜くまでだぜ!」
マルス  「……いや、違うと思うよ」
ヘクトル 「なに?」
マルス  「双眼鏡貸してあげるから、見てみなよ。あの竜の腹のところ」
ヘクトル 「……なんか、見覚えのあるマークが描いてあるな」
ミカヤ  「……あれって、確かベグニオン財閥のシンボルマークじゃない?」
サナキ  「その通りじゃ!」
リン   「誰っ……あら、幼女会長さん」
ロイ   「あ、ホントだ、幼女会長だ」
リーフ  「こんばんは、幼女会長」
サナキ  「幼女とか言うな無礼者が!」
タニス  「サナキ様。そんなことよりも、まず事情を説明して差し上げたほうが……」
サナキ  「ええい、分かっておるわ。あー、兄弟家の諸君、わざわざお出迎えご苦労じゃ」
ミカヤ  「いや、別に出迎えとかじゃ……」
サナキ  「冗談じゃ」
ロイ   (……なんか、随分上機嫌だねサナキさん)
リーフ  (そうだね、今にも踊り出しそうなぐらいだよ)
リン   「冗談はいいから、この状況が一体なんなのか説明してほしいんですけど」
サナキ  「分かっておるわ、そう急かすでない。オホン。あー、まず、この一ヶ月間ほ
      どの間で、お主らの周囲の環境が変化していたことには気付いておったか?」
ミカヤ  「環境の変化って言うと、ご近所さんたちが次々にいなくなってたことですか?」
サナキ  「そうじゃ。やはり気付いておったか」
リーフ  「そりゃ、あれだけ大っぴらにやられちゃねえ……」
サナキ  「そして、この家の周囲に5軒ほど建築された昔ながらのアパート、その名も
      『めぞん漆黒』。この二つは一見無関係だったかもしれんが、その実両方と
      もある計画の一端であったわけじゃな、これが」
ロイ   「ある計画、って言うと……」
マルス  「……GKNJプロジェクト、ですか……」
ロイ   「え?」
サナキ  「ほほう……よもやその名を知られようとはな。なかなかの情報収集能力じゃ」
マルス  「組織にしろ計画にしろ、巨大になればなるほど情報統制は難しくなりますか
      らね。それでも名前以外はほとんど分からなかったんだから、大したもんですよ」
サナキ  「フフン、我がベグニオン財閥の諜報部は優秀じゃからな。それに、今回はさ
      るお方の協力もいただけたのでな」
ロイ   「さるお方っていうのは、やっぱり……」
ユンヌ(鳥)「はーい、皆さんお待たせしましたー☆ みんなのアイドル、混沌の女神ユ
       ンヌちゃんでーす!」
セリカ  「出たわね邪神! 兄さん、今すぐメダリオン持ってきて、メダリオン!」
ヘクトル 「落ち着けよセリカ」
エフラム 「そうだ。まずはそのなんとかプロジェクトというのについて説明してもらわ
      なければな」
ロイ   「GKNJプロジェクト、だっけ?」
ユンヌ(鳥)「そう。ちなみにGKNJはご近所の頭文字ね」
リン   「いや、頭文字って……ほとんどそのまんまじゃないの」
エリウッド「ご近所、っていうのは、やっぱり我が家のご近所って意味ですか?」
ユンヌ(鳥)「もっちろん。うふふ、マルスちゃんに計画の全容を知られずにここまで進
       めるのは苦労したわー。知られちゃったら邪魔されちゃったかもしれないもんね」
セリカ  「つまりそれだけ邪悪な計画ってことでしょう!? 兄さん、早くメダリオン」
シグルド 「落ち着きなさいセリカ……それで、その計画とこの近辺一帯に降下しつつあ
      る竜騎士の集団には、何か関連があるのですか?」
598 名前: GKNJプロジェクト 中編 [sage] 投稿日: 2008/05/07(水) 02:28:43 ID:1DwDou0M
サナキ  「当然じゃ。何を隠そう、あの竜騎士の集団はベグニオン財閥系列の運送会社
      の者たちじゃからな」
ロイ   「運送会社?」
セリス  「あ、本当だ。なんかたくさん荷物下ろしてるよ」
リーフ  「人も運んでるみたいだね」
リン   「……つまり、あの人たちが新しく引っ越してくる人たちってこと?」
ユンヌ(鳥)「そーよ。そしてここからがGKNJプロジェクトの凄いところ!」
ロイ   「って言うと……」
ユンヌ(鳥)「なんと、引っ越してくる人たちの8割ぐらいが、兄弟さん家のお知り合い
       なのでーす☆」
アルム  「は……」

兄弟家一同「はい―――――っ!?」

 と、兄弟たちが驚く暇もなく、彼らの前に停車する車が一台。

ヘクトル 「うお、なんだこの長い車!?」
リーフ  「ええと、ほら、あれだよ兄さん、テムジンってやつだよ!」
ロイ   「いやリムジンだよ兄さん!」
マルス  「いくら貧乏生活でこんな高い車見慣れてないからって、その間違いはないでしょうよリーフ……」
シグルド 「(ピキーン!)ハッ……このうるわしき気配、まさか……!」

 震えながらその車のそばに歩み寄るシグルドの前で、後部座席の窓がゆっくりと開き……

ディアドラ「……こんばんは、シグルドさま」
シグルド 「ディアドラーッ! ああ我が愛しき人よ、ついに運命の日は来たり」
リーフ  「落ち着いてシグルド兄さん! なんかちょっとヨハンさん入ってるよ!?」
シグルド 「ハッ……危ない危ない、危うく変なセンスに目覚めるところだった……い、
      いや、それよりもディアドラ、何故こんなところに……!?」
ディアドラ「はい……実は、このご近所に引っ越すことになりまして」
シグルド 「キタ――――――――ッ!」
ロイ   「興奮しすぎだよ兄さん!」
クルト  「間違えてはいけないよディアドラ。バーハラ家の本邸はあくまでもユグドラ
      ル地区にあるからね。この近所に構える新居は、いわば別邸というわけだ」
ディアドラ「あ……そうでしたわねお父様」
シグルド 「お養父様ぁぁぁぁぁぁっ! わ、私はシグルドと申しましてグランベル総合
      商社勤務のサラリーマン」
クルト  「いや、挨拶は結構だよシグルド君。君のことは娘からいろいろと聞きつつあ
      れこれと情報収集させているからね。真面目で誠実な若者だと聞いている。
      これからも娘のことをよろしく頼むよ」
シグルド 「ハッ、お任せ下さい! 不肖シグルド、全力でディアドラさんをお守りする
      所存であります!」
クルト  「ああ、それと、まだ君にお養父様と呼ばれるかどうかは決まっていないから」
シグルド 「ハッ、申し訳ございませんクルト閣下! 以後注意いたします!」
ロイ   (ああ、兄さんがすっかりダメな人に……)
リーフ  (閣下呼びってのもどうなのかな……)
セリス  「こんばんは、クルト校長」
クルト  「おや、君は我が校の『光の生徒会長』をやっている……」
セリス  「はい、セリスです。兄のシグルドともども、これからよろしくお願いします」
クルト  「うむ。君もなかなか将来有望な若者だと聞いているよ。これからもその美貌
      で、我が学園を大いに盛り立ててくれたまえ!」
セリス  「はい! ……って、美貌? ええと、あの、僕は一応男の子……」
599 名前: GKNJプロジェクト 中編 [sage] 投稿日: 2008/05/07(水) 02:29:33 ID:1DwDou0M
ディアドラ「セリス君」
セリス  「あ、ディアドラさんも、こんばんは。これからよろしくお願いしますね」
ディアドラ「ええ。我が家の場所は後で教えるから、いつでも遊びに来てちょうだいね。
      セリス君みたいに可愛い子だったら大歓迎だから……」
セリス  「可愛い……」
ロイ   (微妙に不満そうだねセリス兄さん)
リーフ  (一応褒められてるから、はっきりと拒絶もできないんだろうね)
シグルド 「ふふ……ふふふ……ハーッハッハッハ! 我が世の春が来たのだーっ!」
ロイ   「ちょ、なに興奮してるんですか兄さん」
リーフ  「どこの御大将ですかあんたは」
シグルド 「ふふ……これが昂ぶらずにいられるものか! よもや愛しのディアドラとご
      近所さんになれるとは! その上お父上のクルト閣下もご一緒! これはポ
      イント大幅アップでアルヴィスに差をつけるチャンスだな!」
アルヴィス「わたしがなんだと?」
シグルド 「うおぉっ!? あ、アルヴィス……! いつの間に……!」

 振り向いた先には、夜空を背景に堂々と立つ駿馬に乗ったアルヴィスの姿が。

セリス  「うわぁ、アルヴィスさんカッコいいなあ……」
シグルド 「クッ……いや、ディアドラの前だということを忘れるなわたし。紳士的、紳
      士的に振舞うんだ……!」
アルヴィス「……」
シグルド 「やあアルヴィス、いい月夜だね。こんなところで会うとは奇遇だなあ」
アルヴィス「そうだな」
シグルド 「こんな珍しいことは滅多にない。悪いことが起きる前触れかもしれないから
      早く帰れ」
ロイ   「全然紳士的じゃないよ兄さん!?」
シグルド 「し、しまった! つい本音が……!」
アルヴィス「フッ……ならばお言葉どおり帰らせてもらうとしようか」
シグルド 「お、おおっ!? いやにアッサリ引き下がるな……!?」
アルヴィス「別段問題はないからな。さて、それでは行きましょうか。クルト閣下、ご自
      宅までこのアルヴィスが先導いたしましょう」
クルト  「うむ、よろしく頼むよ」
シグルド 「え……えぇーっ!? ちょ、どういう関係なんですかそれは!?」
クルト  「ん……彼はお隣さんだ」
アルヴィス「わたしも引っ越してくることになったのだよ……バーハラ家別邸の隣の敷地に、な」
シグルド 「な……なんですとーっ!?」
クルト  「まあそう落胆するなシグルド君。心配せずとも、ディアドラの相手はこの私
      が才知溢れる眼差しでしっかりと見定めさせてもらうつもりだよ」
ディアドラ「いやですわお父様ったら……」
クルト  「では、やってくれたまえアルヴィス君」
アルヴィス「ハッ!」

 やたらと上流階級的高貴な空気を振りまきつつ、アルヴィスたちが道路の向こうに去っていく。

ロイ   「……よく分かんない威厳に溢れてるね、クルト校長って」
セリス  「うん。才知溢れるお方だからねえ」
シグルド 「そう、才知溢れるお方なのだ……! ええい、この上は今まで以上に仕事を
      頑張り、必ずやクルト閣下の目に留まってみせるぞ!」
エリンシア「頑張ってくださいね、お兄様」
シグルド 「うむ!」

ユンヌ(鳥)「……とまあこんな感じなわけ」
サナキ  「GKNJプロジェクトがどんなものか、これで分かったじゃろ」
ロイ   「ええ、痛いほどよく分かりました」
セリカ  「なんて大規模かつ意味不明な……! 一体何が目的なの、邪神!?」
ユンヌ(鳥)「むぅー……いい加減邪神呼びは止めてほしいんだけど……
       そうね、じゃあ説明してあげるわ。そもそもの始まりは、ほんの一ヶ月ほど前……」
600 名前: GKNJプロジェクト 中編 [sage] 投稿日: 2008/05/07(水) 02:30:07 ID:1DwDou0M
 ~某日、紋章町某所~

ユンヌ(鳥)「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン☆」
???  「おお、見よ?????! 我らが神が降臨なさったぞ!」
?????「落ち着いてください???さま。あれは女神アスタルテではなく混沌の女神
      ユンヌ様です」
???  「分かっておるわ。このような願い、アスタルテ神には到底頼めんからな……」
ユンヌ(鳥)「んー? なになに、わたしに何の用ー?」
???  「ハッ……! 実は、私はかねがねある場所に引っ越してみたいと考えておりまして」
ユンヌ(鳥)「? 引っ越せばいいじゃないの」
???  「それが……」
?????「……そこはある家のご近所なのですが、そこに引っ越そうとするたびに、各
      方面から謎の横槍が入りまして……」
???  「全く……抜け駆けは絶対に許さん! とは生意気な連中じゃ」
ユンヌ(鳥)「なるほど。それで、この混沌の女神ユンヌちゃんの力を借りたいってわけね?」
???  「是非とも! 願いを叶えてくださるのならルカンやらオリヴァーやらを何人
      でも生贄に捧げますので」
ユンヌ(鳥)「いや……そんなんいらないし。そうねー、別にやってあげてもいいけど、
      わたし自身あなたとは恋敵っぽい立場だしー。それに、あなただけ引越しさ
      せてもそれほど大きな騒動にはなりそうにないかなー」
???  「そ、そんな……!」
ユンヌ(鳥)「(ピーン!)閃いた! それじゃ、恋敵全員あの辺に集めちゃいましょーっ!」
???  「なんですと?」
?????「そ、そのようなことが可能なのですか?」
ユンヌ(鳥)「もっちろん。なにせ神様だし、わたし。それに、あなた一人だけなら問題
       あるけど、恋敵全員同じ条件にするんだったら、ある程度バランスが保た
       れるはずだしね」
?????「そのようなものなのですか……」
???  「むう……しかし、全員、となると……」
ユンヌ(鳥)「あらー? 全員一緒の好条件下で、恋敵に勝つ自信がないのかなー?」
???  「ムッ……そ、そんなことはありませぬ!」
ユンヌ(鳥)「そうよねそうよね、なんたって財閥の会長様だもんね!」
???  「その通りです。ようし?????、今から我が財閥はユンヌ神に協力し、こ
      の一大プロジェクトをなんとしてでも成功に導くのじゃ!」
?????「ハッ、了解いたしました。プロジェクト名はいかがいたしましょう」
ユンヌ(鳥)「あ、それならGKNJプロジェクトで! この財閥だけじゃちょっと不安
       だから、竜王家の方にも連絡取っといてね。他の貴族の人たちとか、あの
       ご兄弟のご近所に住みたがってる人たちとかにも。やっぱ邪魔になりそう
       な巨大勢力には、早々に話をつけておかないと」
???  「ようし、では本日ただ今を持って、紋章町一大プロジェクト、GKNJプロ
      ジェクトを発令する! 計画内容は無論S級の機密……特にあの兄弟には絶
      対に知られぬように活動するべし、じゃ!」
?????「了解!」
ユンヌ(鳥)「フフ……こりゃー面白くなってきたわ! 折角だからこの機会にいろんな
      人集めちゃおーっと!」

ユンヌ(鳥)「……ってなわけよ」
サナキ  「プライバシー保護のためフィルターをかけさせてもらったが、まあ計画の概
      要は理解してもらえたじゃろ」
ロイ   「いや、あのフィルターバレバレすぎて全く意味がないように思えたんですけど……」
リン   「……なんにしても、予想通りろくでもない計画だったわね……」
ロイ   「……ってことは、僕らの知り合いがみんなご近所に引っ越してくるのかあ……」
ユンヌ(鳥)「そ。貴族とかの金持ち連中は家新築するなり別邸建てるなり、貧乏な人た
       ちは援助金出して『めぞん漆黒』に住まわせたり」
エリウッド「そのためのアパートだったんですね、あれ」
ユンヌ(鳥)「そーよ。んじゃま、みんなお友達に適当に挨拶してねーっ」

601 名前: GKNJプロジェクト 中編 [sage] 投稿日: 2008/05/07(水) 02:31:32 ID:1DwDou0M
マルス  「……やられたよ。まさか君が裏切っていたとはね……」
ジュリアン「……すんません、マルスさま。だって、あの鳥がレナさんが住んでる教会で
      一緒に暮らせるようにしてやるっていうから……!」
マルス  「これだからチェリー……いや、純情野郎は……!」
ユンヌ(鳥)「ぷくくっ……相手が何を欲しがっているのか把握しておくのがコツなのよね?」
マルス  「クゥッ……さすがに今回ばかりは僕の完敗か……!」
ユンヌ(鳥)「まあまあ。それよりも、彼女に挨拶してあげなさいよマルスちゃん」
マルス  「……ってことは、やっぱり……」
シーダ  「あ、マルスさま!」
マルス  「シーダ……君も引っ越してくるのかい?」
シーダ  「はい! こ、これからは、ずっとおそばにいられますね……」
マルス  「そうだね」
シーダ  「……あの、もしかして、ご迷惑でしたか……?」
マルス  「いや、君が引っ越してくること自体は凄く嬉しいんだけど、多分余計なオマケが……」
オグマ  「……やあ、お久しぶりだねマルス君」
マルス  「……おや、これはこれは。盗撮覗き疑惑その他で学校を懲戒免職になったオ
      グマ先生じゃないですか」
シーダ  「マルスさま、あれは冤罪で……」
オグマ  「ええ、こちらのシーダさんにかばっていただいたものでね……今はグルニア
      孤児院の手伝いをしつつ木こりの真似事をして働かせてもらってますよ」
バーツ  「俺らってこのスレでも木こりだったんだな!」
サジ   「マジかよ!」
マジ   「いや、お前はサジだろ!」
バーツ  「俺はバーツだよ!」
二人   「知ってるよ!」
オグマ  「……まあこんな連中と一緒に」
マルス  「そうですかーそりゃーよかったですねー」
オグマ  「ちっとも心のこもっていない挨拶どうもありがとう。まあそういうわけでよ
      ろしく頼みますよ。あ、ちなみに一人引っ越してきたシーダさんの身辺警護
      頼まれてますんで、私」
マルス  「な、なんですとーっ!?」
シーダ  「……マルスさまだっていつも私のおそばにはいてくださらないでしょうし、
      その間の護衛は必要だろうとお父様が……」
マルス  「クッ……木こりごときがSP気取りですかオグマさん」
オグマ  「なんとでもお言いなさい。私はシーダさんにこの命を捧げると誓ったのだ」
マルス  「このロリコンがっ!」
エフラム 「なんだとっ!?」
マルス  「いや、エフラム兄さんのことじゃ……!」
オグマ  「まあそういうわけなんで、これからよろしく。さて、なんだか取り込み中の
      ようだし、タリス家の別邸に荷物を運び込むとしましょうか、シーダさん」
シーダ  「そうね。それではマルスさま、失礼いたします」
エフラム 「なんだ、俺のことじゃなかったのか……」
マルス  「ええ、ある意味兄さんよりよっぽど性質の悪いロリコンですよ……クソッ、
      なんてことだ。どうせ自爆野郎のロレンス爺さんとか、詐欺野郎のカシムと
      かもこの辺に引っ越してくるに違いないし、むしろシーダとのフラグが潰れ
      かけてるじゃないかこれは……!」
ジェイガン「ご安心下さいマルスさま!」
ゴードン 「我々も引っ越してきましたので!」
マリク  「これからは二十四時間いかなるときも、全力でマルスさまをお守りいたします!」
マリーシア「わたしもーっ!」
カチュア 「え、ええと……い、一応わたしもいますので……」
マルス  「……ええい、チクショーッ! こうなったらトコトンやってやろうじゃない
      か! 初代FE主人公の根性なめんじゃねーぞーっ!」
ジェイガン「おお……最近どこか醒めておられたマルスさまがあんなにも燃えておられる……!」
マリク  「今回の話……止められる可能性は皆無だったからと半ば自棄で乗りましたが、
      どうやら正解だったようですね」
ジェイガン「うむ。いいか者ども、必ずやマルスさまとシーダさまのお二人を、我々の力
      で結ばせて差し上げるのだ! どのような妨害があろうとも必ずや任務を果
      たせ! いいな!?」
一同  「イエス・サーッ!」
602 名前: GKNJプロジェクト 中編 [sage] 投稿日: 2008/05/07(水) 02:32:45 ID:1DwDou0M
エフラム 「……それにしても、あちらこちらで物凄いスピードで新居を立てている竜族
      ……どこかで見覚えがあるような……」
幼女戦闘竜「がおー」
エフラム 「……」
ミルラ  「あ……い、いました、エフラムです!」
イドゥン 「こんばんは、エフラムさん」
エフラム 「ミルラ……それにイドゥンか。君たちも、やはり……?」
ミルラ  「はははは、はい! デギンお爺様にお願いして、竜王家の別邸をこの近所に
      建ててもらうことになったのです!」
イドゥン 「……これからお世話になります。ふつつかものですが」
エフラム 「いや、だからこういうときに三つ指突くのは間違っていると……」
ラーチェル「オーホッホッホッホッホ!」
ターナ  「ちょっと、騒ぎすぎよラーチェル……!」
ラーチェル「いいではございませんの。見たところ、この近所に引っ越してきた皆様は、一
      癖も二癖もある方々ばかりのよう……重要なのはファースト・コンタクト。
      挨拶回りで、この正義の絶世美王女ラーチェルの存在を嫌というほど思い知
      らせて差し上げなくてはね!」
ドズラ  「ガハハハ、さすがラーチェルさまですな!」
レナック 「……つまり、別邸に移ってもやっぱりこの人の無茶につき合わされんのね、
      俺は……トホホ……」
ラーチェル「……オホン。ま、まあ、そういうわけですから、たまにはあなたの遠出に付
      き合って差し上げてもよろしくてよ、エフラム?」
エフラム 「ん……そうか。まあ、とりあえずよろしく頼む」
ターナ  「え、エフラム、わたし、わたしも引っ越してきたから……!」
エフラム 「ああ。となると、やっぱり……」
ヒーニアス「その通り! 当然わたしも一緒だ!」
エフラム 「ヒーニアスか。早速やるか?」
ヒーニアス「うむ。引越し直後、記念すべき最初の手合わせぶぎゃあ」
ターナ  「……恥ずかしいから自重してくださる、お兄様?」
ヒーニアス「た、ターナ……最近制裁が過激になってきたので兄はとても心配だぞ……」
ターナ  「誰のせいだと思ってるの、もう! ……それじゃエフラム、わたしたちはエ
      イリークにも挨拶してくるから……」
エフラム 「ああ。また後でな」
ミルラ  「うー……」
エフラム 「どうした、ミルラ?」
ミルラ  「せっかくエフラムのご近所さんになったのに、二人で話せる時間が減ってし
      まいそうなのです……」
エフラム 「? 何故だ? これからはさっきの連中も交えて、今まで以上に賑やかにやれば……」
ミルラ  「そ、そういう意味ではなくて……」
エフラム 「……よく分からないな」
イドゥン 「この年頃の女の子は難しいものですから」
エフラム 「そういうものか……」

エイリーク「……それにしても、ビックリしました」
ターナ  「ホントよね……最初に話を持ちかけられたときは、てっきり冗談だとばかり……」
エイリーク「あら、ラーチェルは……?」
ターナ  「ラーチェルなら、あっちで似たような人たちと盛り上がってるみたいよ」

セーラ  「ちょっと、あんたなにあたしのキャラパクッてんのよ!? そういうの、マ
      ジムカツクんだけど」
ラーチェル「ハァ!? 何ですの、この無礼千万な貧乏庶民は!? あなたこそ、いくら
      私の威光にあやかりたいからと言って、明らかに劣化した立ち振る舞いで周
      囲の人々に迷惑をかけるのはお止しになったらいかが?」
クラリーネ「まあ、お下品な人たち! ここは由緒正しきエトルリア貴族であるこの私が、
      じきじきに正してあげるべきですわね!」
エルク  「……やめなよセーラ、君が起こす面倒の尻拭いはもうたくさんなんだ……」
レナック 「落ち着いてくださいよラーチェルさま……っつーか、よく見てみれば三者三
      様それぞれタイプ違いますって」
クレイン 「クラリーネ……貴族の令嬢たるもの、もう少し慎みを持ってだね……」

603 名前: GKNJプロジェクト 中編 [sage] 投稿日: 2008/05/07(水) 02:33:34 ID:1DwDou0M
ターナ  「……似たような人たちって、どこにでもいるのね……」
エイリーク「ええと……」
ゼト   「やあエイリーク君」
サレフ  「このたびこの近所に引っ越してくることになったので」
ヒーニアス「今まで以上によろしく頼もうか!」
三人   「「「邪魔するな貴様ら!」」」
ターナ  「……困った人たちがますます困った人たちになってるし……」
エイリーク「あの、ターナ、皆さんは何故いがみあっておられるのですか?」
ターナ  「……あー、まあ、知らぬが仏ってことで」
フォルデ 「やや、どーもどーも」
エイリーク「フォルデさん? あなたもこのご近所に?」
フォルデ 「そーなんすよ。同人仲間の姉さんたちと一緒に、めぞん漆黒の部屋借りるこ
      とになってましてね。これでますます絵描きに打ち込めるってもんだ」
エイリーク「そうですか。今も、絵を?」
フォルデ 「もちろん。いやー、こんなお祭り騒ぎ、そう滅多にあるもんじゃないですか
      らねー。しかも、こんだけ濃い連中が揃ってるもんだから、どこに行っても
      喧々囂々の大騒ぎ、描きがいがありますよこれは」
エイリーク「人の群に押し潰されないように気をつけてくださいね」
フォルデ 「ええ、そりゃもう。出来た絵、よかったら見てくださいよ。それじゃ!」
エイリーク「はい。……フォルデさん、やっぱり明るい方ですね。わたしもあの快活さは
      見習いたいものです」
ターナ  (……お兄様たちも、このぐらい爽やかにアプローチできたらなあ……無理か)

ノール  「……リオン様、エイリーク様に挨拶なさらないのですか?」
リオン  「その前に早く研究素材とかを新居に搬入しないと、危険だからね……申し訳
      ないけど、その辺りは後回しさ」
ノール  「そうですか……」
リオン  「うーん、魔導士の人たちも多いみたいだし、これからは今まで以上にいい環
      境で研究が出来そうだね、ノール!」
ノール  「そうですね。少々騒がしいのが気になりますが……」
604 名前: GKNJプロジェクト 中編 [sage] 投稿日: 2008/05/07(水) 02:34:07 ID:1DwDou0M
ヘクトル 「おいおい、お前らまで……」
フロリーナ「へへへ、ヘクトル様! わたわたわた、たわし!」
ヘクトル 「落ち着け。いいからまず深呼吸して落ち着け」
フロリーナ「は、はい! スー……ハー……そ、それで、たわしは!」
ヘクトル 「全然落ち着いてねえ! いいよ、事情はお前の姉貴に聞くからよ」
ファリナ 「……っつーか、見りゃ分かんでしょ」
ヘクトル 「だからってなーお前ら……三姉妹でめぞん漆黒に部屋を借りるって?」
ファリナ 「いいでしょ別に! ここ、今の勤務先には割と近いし、部屋代格安だし……
      そ、それに、姉貴とフロリーナがどうしてもって言うんで仕方なく……べ、
      別に、あんたのことは何の関係もないんだからそこんところは」
ヘクトル 「? いや、そりゃ俺はお前らとは何の関係もねえけどよ」
ファリナ (そ、そこまでアッサリ納得されるのもそれはそれで困る……!)
ヘクトル 「でもよ、心配だろ」
ファリナ 「へ?」
ヘクトル 「こんな時分に若い女が三人きり……そりゃ、この辺は治安がいいけどよ。ま
      たぞろ住人が入れ替わるってんで、これからはどうなるか分かんねーしな。
      知り合いが変な揉め事に巻き込まれたら、なんて、気持ちのいい想像じゃ
      ねーわな」
ファリナ 「……」
ヘクトル 「……ま、近くに住んでるなら好都合だ。なんかあったらいつでも俺の家に来
      いよ。厄介ごとなら力になる」
ファリナ 「このけだもの!(バチーン!)」
ヘクトル 「いてっ!? い、いきなり平手打ちってどういうことだオイ!?」
ファリナ 「う、うっさい! そうやって優しい振りして……悪人面のくせして実はいい
      人。的なギャップで、フロリーナのこともたぶらかしたのねこの変態野郎!」
ヘクトル 「あぁ!? なんでそこまで言われなくちゃなんねーんだよ!?」
ファリナ 「うるせーっ! いい、あたしらの部屋の半径10メートル内に近づいたら問
      答無用でぶっ殺すからね!? 覚えときなさいよ!」
ヘクトル 「おーおー、こっちだって頼まれたって近づかねーよアホ!」
ファリナ 「ほら、行くわよフロリーナ!」
フロリーナ「そ、それで亀の子たわしってとっても長持ち……あ、あれ? ま、待ってお
      姉ちゃーん! し、失礼します、ヘクトルさま!」
ヘクトル 「……ったく、なんだってんだ一体……!」
ライナス 「いよぉヘクトル!」
ヘクトル 「あん? ……ライナスか。お前らも引っ越してきたのか」
ライナス 「おうよ。『黒い牙』一家、本拠を移して活動再開だぜ」
ヘクトル 「ケッ、この辺で悪事働きやがったら、問答無用で潰すぜ?」
ライナス 「ヘッ、やれるもんならやって……」
ニノ   「あーっ、兄ちゃんったらまた喧嘩してる!」
ライナス 「げっ、ニノ……!」
ニノ   「ダメだよー、ご近所さんとは仲良くしなくちゃ! あ、ヘクトルさん、これ
      からよろしくお願いしますね!」
ヘクトル 「おー……」
ニノ   「じゃ、わたし、他の人たちのところにも挨拶してくるから!」
ライナス 「……正直な、ニノが来て以来親父がすっかり子煩悩になっちまって、悪事ど
      ころじゃねーんだわ」
ヘクトル 「……ヤクザにしちゃ平和だよなお前らって……」
ライナス 「だが、個人的な喧嘩はやめるつもりはねえぞ!」
ヘクトル 「お、早速やるか!? こっちはいつだってやってやるぜ! ちょうどイライ
      ラしてたとこだしな」
ライナス 「……そういやお前、その頬についたでっかい紅葉は……」
ヘクトル 「こ、細かいことを気にすんじゃねーよ! おら、とっととかかってきやがれ!」