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Last-modified: 2009-05-16 (土) 15:41:42

49 名前:シレジアの風が涙に沁みる:2008/12/14(日) 22:13:37 ID:/nCXtxZv
このスレにおいて、レヴィンとセティは親子ではなく、
兄弟として扱われていることが多い(9-442等)ので、
このネタでもそれに従い、ともにフォルセティ直系の兄弟とさせてもらいます。
(親)ラーナ (子)レヴィン、セティ、フィー こんな感じでお願いします。
それと、私が書いた「その名はAKJ」と多少話がつながっているので、
よろしければ先にそちらをお読み下さい。

第1話 悲しみをもたらす3人の男

セティ  「ふう・・・」

―ペンを置き、一息つく。ようやく3分の1が終わった。
わが名はセティ、シレジア家の次男にして、シレジア社の副社長を務めている。
まだ10代で副社長というのも妙な話だが、
血統を重視するわが社としては、シレジア直系が要職につかざるを得ない。

セティ  「・・・う・・・胃が」

―机の中の胃薬を取り出して飲む。
10代の身でこれでは先が思いやられるが、決して体が弱いわけではない、この胃痛は精神的なものだ。
そう、私は今、多大なる苦労と苦悩を背負っている。
そして、この苦しみは、私の周りにいる3人の男によって、もたらされているのだ。

レヴィン 「やあ、ご機嫌いかかがかな、マイブラザー?」
セティ  「誰かさんのおかげで最悪ですよ、兄上」
レヴィン 「何!?私の大切な弟の機嫌を悪くするヤツがいるだと!!?
      どこの誰だ、私がやっつけてやる!!」
セティ  「あんただ、あんた!!」

―早速1人目が現れた。私を苦しませる男の1人、レヴィン。
シレジア家の長にして、わが実兄、本来なら私の仕事をしなければならない男だ。
ところがこの男ときたらチャランポランで、会社の仕事など一切せずに放蕩の限りを尽くしている。
おかげで、弟の私が全て兄の仕事を肩代わりしなければならないのだ・・・。

セティ  「兄上、遊んでばかりいないで少しは仕事をしてください」
レヴィン 「遊んでいるわけではない、俺には俺のやらなければならないことがあるのだ」
セティ  「女性と遊んだり、女性と遊んだり、女性と遊んだりすることは
      やらなければならないことではありませんよ」
レヴィン 「意地悪いうなよ、マイブラザ~」
セティ  「気色悪いから離れてください。
      いいですか、兄上。あなたがやらなければならないのは、わが社の社長としての仕事です」

―そういって、私は兄上の目の前に、大量の書類を置いた。

レヴィン 「うわ、何これ?見ただけで吐き気がする。正気の沙汰じゃないな。
      こんな仕事をやる奴なんて、変態じゃねえの?」
セティ  「全 部 あ ん た の 仕 事 だ」
レヴィン 「無理無理無理、こんなの俺には無理。もっと俺に相応しい仕事無いの?」
セティ  「相応しい仕事というと?」
レヴィン 「諸国漫遊したり、歌を歌ったり、女の口説いたり」
セティ  「そんなものは仕事とは言わねえ!!」
レヴィン 「面倒だな~、なんで社長なんかになっちゃったんだろう、俺?」
セティ  「それは仕方ありません、フォルセティ直系の血を引く兄上の責務なのです」
レヴィン 「そうか、なら決めた。セティ、今日からお前が社長だ!!」
セティ  「・・・・・・・・・」

―もう我慢できない。私は机の上においてあった魔道書を手にとって開き、詠唱を開始する。

セティ  「兄上・・・今、フォルセティは私の手元にあることをお忘れなく」
レヴィン 「げ!!」

50 名前:シレジアの風が涙に沁みる:2008/12/14(日) 22:14:14 ID:/nCXtxZv
―フォルセティ・・・読者の方もご存知の通り、12聖戦士が残した神器の1つだ。
一般に、聖戦の系譜ではナーガに次ぐ性能を持つとされる。
この魔法のおかげで我がシレジアは、いまだ他からの干渉なく、繁栄している。
本来なら、兄上が持つべきなのだが、『重いから要らない』の一言で放り出され、
現在は私が所持している。
フォルセティで重いって・・・ドズルの者が聞いたら怒り狂いそうだ。

レヴィン 「おい、まて、落ち着け」
セティ  「流石の兄上も、この魔法だけは怖いようですね」
レヴィン 「馬鹿、家が壊れるだろ」
セティ  「グレイル工務店が直してくれるので大丈夫ですよ。
      さあ、兄上、素直に部屋に戻って仕事をするか、
      フォルセティに切り刻まれるか、お好きなほうをお選び下さい」

―私の右手に、風の魔力が集中していく。断っておくが、私は本気だ。

レヴィン 「え、あ、そ、そうだ、急に仕事がしたくなったな~。
      遊びもいいけど、やっぱ男は仕事だぜ。
      それに、なんといっても俺はシレジア家当主だからな。
      HAHAHAHAHAHAHA」
セティ  「ええ、その通りです。
      それでは、お部屋に戻ってこの書類を片付けてください」

―私から大量の書類を手渡されると、兄上は自分の部屋に戻っていった。

セティ  「はぁ~~~~~~」

―魔道書を机に置き、椅子に座ってため息をつく。
疲れた・・・

セティ  「それにしても兄上には困ったものだ」

―シレジア家当主としての自覚が、今の兄上にはあまりにも足りない。
これでは、ダッカーやマイオスといった親族に乗っ取りの口実を与えてしまう。
実際、彼らはかなり前から画策をしているのだが、それの対応と始末も全部私がやっているのだ。
もともとの激務に加え、この気苦労・・・私の胃も痛くなるというものだ
・・・すこし、気晴らしをしてこよう。

セティ  「散歩をしてくる、兄上の監視を頼んだぞ。
      逃げようとしたら、遠慮なくライトニングをぶっ放して構わない」
ホーク  「かしこまりました。それではいってらっしゃいませ」

―秘書のホークに兄上の監視を頼み、私は家の外に出た。
シレジアは紋章町でも最北端であり、もっとも気温が低い。
よその者にはこの寒さがこたえるらしいが、ここでずっと育った私にとっては、
この冷たさがむしろ心地よい。
特に、この北風・・・これを感じるたびに、私はシレジアの生まれだということを実感するのだ。
この北風を感じるのにもっと相応しい心理状態があるのだが、とりあえず、今はおいておこう。

セティ  「あれは・・・」

―トラキア区に足を伸ばした私は、遠くで少女を確認した。
遠目からでもはっきりとわかる・・・。
彼女はティニー。フリージ家の令嬢にして、私が最も愛する少女だ。
華奢で可憐な少女だが、内には強い意志を秘めたあまりに魅力的な少女、
私の宝物だ。
彼女の笑顔を見れば、私の疲れなど、すぐに吹き飛ぶ・・・・はずだったのだが・・・

51 名前:シレジアの風が涙に沁みる:2008/12/14(日) 22:15:43 ID:/nCXtxZv
注:リーフと四人娘のやりとりにつき、セティ君の目には相当なフィルターがかかっていますので、
以下では「」でセティ視点を、その下の()で客観的な事実を記載します。

ティニー 「リーフ様、今度一緒にデートしてくださいね」
      (リーフ様、今度同人のモデルになってくださいね)
リーフ  「この間したばかりじゃないか、また?」
      (この間付き合ったばかりじゃないか、また?)
ティニー 「だって、リーフ様のこと、すきなんだもの」
      (だって、リーフ様のキャラ、受けなんだもの)

―ぐ・・・やはり、いたか。
ティニーは私の宝物だが、彼女の傍にはいつも憎きあの男がいる。
私を苦しませる2人目の男、兄弟家のリーフだ。
どうやら彼女はリーフを愛しているらしく、いつもリーフと一緒にいる。
これでリーフとティニーが本気で相思相愛というのなら、構わない。
私の想いが通じなかっただけであり、彼女の幸せを願って2人を祝福するだけだ。
しかし、現実はそうではない。

ナンナ  「リーフ様、昨日アマルダさんとデートしてたでしょ、妬けちゃうわ」
      (リーフ様、昨日アマルダさんをナンパしてたでしょ、許せないわ)
リーフ  「もう、ナンナはヤキモチ妬きなんだね、可愛いよ」
      (ちょ、ナンナ、いくらなんでも嫉妬しすぎ、怖いよ)
ミランダ 「浮気者のリーフ様にはおしおきよ。えい!!」
      (浮気者のリーフ様にはおしおきよ、この!!)
リーフ  「こらこら、ミランダ、抱きついたら恥ずかしいじゃないか」
      (やめて、ミランダ、首絞めたら苦しいじゃないか!!)
サラ   「ミランダばかりずるいわよ、あたしだって、えい」
      (ミランダだけじゃすまないわよ、あたしだって、この)
リーフ  「サラまで勘弁してくれよ~」
      (サラまで勘弁してえええええ!!)
四人娘  「リーフ様、今日はたっぷり愛してくださいね」
      (リーフ様、今日はしっかり覚悟してくださいね)
リーフ  「まいっちゃうな~、HAHAHAHAHA」
      (この人でなしー、UGYAAAAAAAA)

―見ての通り、あの男はティニーだけでなく、複数の少女を一度に従えている。
ノディオンのナンナ、アルスターのミランダ、ロプト教団のサラ、
いずれも名家の令嬢だが、全員リーフにぞっこんのようだ。
それをいいことにあの男は、4人の少女全員にいい顔をし、
誰か一人に決めることなく、全員を手篭めにして、弄んでいる。
おそらく少女達も心の奥底では不満を感じているはずだが、
リーフ愛しさゆえ、それを口にすることもできないのだろう。
ティニーもその中の1人だというのだ・・・考えただけで忌々しい。

リーフ  「あれ、セティじゃないか。おーい、セティもこっちきなよ~」
      (あれ、セティじゃないか。お願い、セティたーすーけーてー!!!!)
セティ  「く・・・」

―リーフに見つかった、なにやら私を呼んでいるようだが、話しても不愉快になるだけだ。
そう思った私は、気づかない不利をして彼らに背を向け、足早にその場を去った。
ティニー、彼女の存在だけが心の支えだったのに、その宝物をあの男は・・・・。
これでは散歩をしても気分は晴れないだろう、私は帰宅することにした。

セティ  「今帰った」
ホーク  「おかえりなさいませ、セティ様。お客様がおいでになっています」
セティ  「客?」
アーサー 「やあ、セティ」
セティ  「あんたか・・・」

52 名前:シレジアの風が涙に沁みる:2008/12/14(日) 22:16:50 ID:/nCXtxZv
―無駄にさわやかなオーラをまとって私を訪ねてきたこの男が、私を苦しませる3人目、アーサーだ。
フリージ家の御曹司で、ティニーの実兄である。
なぜ、この男が私を苦しませるのかというと、
ティニーはリーフLoveだが、それと同時に重度のブラコンなのだ。
まあ、実の兄妹なのだから大したことではないと思いたいのだが、
以前この兄妹から自分達の話を聞いたときには・・・

アーサー 「ティニーは甘えん坊でね、いまだにおれとお風呂に入りたがって
      困ってるんだよ」
セティ  (全然困っていないように見えるのは気のせいか?)

アーサー 「まったく、ティニーったら、雷が怖いから一緒に寝てくれだって
      初期装備エルサンダーのくせに笑っちゃうよね」
セティ  (笑えねえよ!!)

ティニー 「だって・・・にいさまのこと、すきなんだもの」
セティ  (涙)

このように、やたら物騒な言葉ばかりが出てきた。
嘘だと願いたいが、真実である可能性が高いらしく、
噂ではあのノディオン家のラケシスと同等のブラコンぶりらしい。
要するに近親相姦を本気で疑ってしまうレベルだ、よってアーサーは私の敵である。
我ながら大人気ないとは思うが、ただでさえティニーはリーフにぞっこんなのだ、
その上べったりな兄がいては、私の立場は完全に無くなってしまう。

セティ  「で、今日は何の用だ?」
アーサー 「ティニーから聞いたんだけど、君、今仕事がとっても大変なんだって」
セティ  「ああ、チャランポランな兄のおかげでな」
アーサー 「それでさ、おれが君の負担を少し軽くしてあげたらな、と思ってさ」
セティ  「何!?本当か!?でも、フリージのほうはいいのか?」
アーサー 「うん。おれの家ってさ、当主の嫁が全部仕切ってるし、
      娘のイシュタル姉さんもよくやっている上に、
      ラインハルトっていう超有能な部下がいるから、
      おれみたいな傍系は出番が無くて暇なんだよね。
      だから気にしなくていいよ」
セティ  「うう・・・すまない」
アーサー 「遠慮するなよ、おれ達友達だろ。
      君の負担を軽くできるのなら、喜んでやるさ」
セティ  「アーサー・・・私は君を誤解していたようだ。
      それでは早速この書類の整理を」
アーサー 「だからフォルセティをおれにくれよ」
セティ  「・・・はい?」

―おもわず間抜けな返答をしてしまった。
い、今、この男はなんと言った?「フォルセティをよこせ」だと?

アーサー 「いやあ、セティも副社長なんて重大な仕事をやっている上に、
      神器なんて物を持っていたら大変だろう。
      だからフォルセティはおれがもらってあげようかなって思ってさ」
セティ  「な、何をいう!!そんなことより仕事を・・・」
アーサー 「いやいやいや、仕事よりも神器だよ。
      今君の身にはそのフォルセティが重くのしかかっているはずなんだ」
セティ  「重くない、重さ5だから全然重くない。それよりも、仕事の方がよっぽど重い」
アーサー 「いいからおれにくれって。おれの方が強いんだからさ。
      フォルセティよりもフォルアーサーの方が使えるっていうのは、
      エムブレマーの常識だよ」
セティ  「そんなことはない、ステータス上限も期待値も私の方が上だ」
アーサー 「変わんない、変わんない。
      フォルセティのチート補正の前では多少の上限の差なんて意味ないから」

53 名前:シレジアの風が涙に沁みる:2008/12/14(日) 22:17:40 ID:/nCXtxZv
セティ  「ス、スキルの差は大きいだろう。フォルアーサーには追撃が無いぞ」
アーサー 「大丈夫、大丈夫、これ見て(指にはめた指輪を見せる)」
セティ  「そ、それは!!」
アーサー 「そ、追撃リング。アーダンって人がくれたんだ。
     『すぐにレヴィンにとられるからやるよ』だって」

―アーダン・・・今度の涙目グリーンは私がおごろう(涙)。

アーサー 「ね、だからステータスとかスキルの差はないんだって。
      それなら登場も早くて機動力のあるおれの方が、
      フォルセティにふさわしいと思わないかい?」
セティ  「思わん!!
      いいか、フォルセティは、今やこのスレにおける
      私の唯一のよりどころなんだ!!
      それまで失ってしまったら、私の立場はどうなる!!」
アーサー 「セティ・・・」

―アーサーは私の肩に手を置き、真剣な表情をした。

セティ  「な、なんだ?」
アーサー 「ここまできたらトコトン涙目になった方が
      ネタ的においしいって(さわやかな笑顔で)」
セティ  「ふ ざ け る な ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ !!」

―アーサーを蹴っ飛ばして、家から追い出し、塩をまく。

セティ  「ゼェ、ゼェ・・・まったく、私の周りにはろくな男がいない」

―それにしても、アーサーは恐ろしいことを言う。
私からティニーを奪っただけで物足りず、フォルセティまで奪おうというのだ。
2つの宝物を奪おうとするアーサー、やはり奴は私の敵だ。

セティ  「ふう・・・さて、兄上はきちんと仕事をしているかな」

―気を取り直して、兄上の部屋に向かう。
ホークが監視しているとはいえ、兄上のことだから油断ならない。

セティ  「兄上、仕事の具合はどうですか?」

―そういって、兄上の部屋のドアを開けた私が見たもの・・・
それは、窓にロープを垂らし、今まさに、外に脱出しようとする兄上だった。

セティ  「・・・何をなさっているのですか、兄上?」
レヴィン 「え、いや、書類にさ、
     『窓にロープを垂らした際の魔力上昇について』っていう項目があったから
      その実験を・・・」
セティ  「つくなら、もう少しマシな嘘をついてください」
レヴィン 「セティ、見逃してくれ。シルヴィアからデートしたいって電話があったんだ」
セティ  「・・・言いたいことはそれだけですか?」

―私は魔道書を取り出し、詠唱を開始する。今回は警告は無しだ。

レヴィン 「ちょ・・・室内でフォルセティはやめろ、家が壊れる」
セティ  「もう許さん、この放蕩兄貴が!!」
レヴィン 「ご乱心、マイブラザーがご乱心!!」
セティ  「仕 事 し ろ お お お お お お!!」

54 名前:シレジアの風が涙に沁みる:2008/12/14(日) 22:18:44 ID:/nCXtxZv
―攻撃力120の必殺フォルセティが、私の手から放たれた。
ふふふ、アーサー、魔力上限25の君には出せない威力だ。
当然屋敷は倒壊、しかし母上も妹も外出中だし、使用人たちは慣れているので全員無事だ。
屋敷についても、グレイル工務店に頼めば2日で直してくれるので、たいした害はない。
修理費は兄上の小遣いから引いておくことにしよう。

セティ  「ゼェ・・・ゼェ・・・・さ、兄上、いい加減懲りたでしょう?
      ホテルを取っておりますので2日間は目一杯仕事を・・・あれ?」

―兄上が消えている!?
倒壊した直後には間違いなくいたから、私が一瞬目を離した隙に逃げたのだ。
崩れなかった柱に目をやると、そこには一枚の紙が張ってあった。
『誰も俺を縛ることはできない、なぜなら、俺は風だからだ。
ということで、今日はシルヴィアのとこに泊まるから、あとはよろしくね(はあと)。
れびんお兄ちゃんより』

セティ  「・・・あのろくでなしがああああ!!何がれびんお兄ちゃんだ!!」

―私は絶叫し、その場に座り込んでしまった。
怠け者の兄レヴィン、最愛の女性を弄ぶリーフ、2つの宝物を奪おうとするアーサー、
このような者達に囲まれて、私の人生はどうなってしまうのだろうか・・・?
途方にくれ、空を見上げた私に、冷たい北風が吹き抜けた。
「シレジアの風を感じたくば、涙を流せ」これは、シレジアに古くから伝わる言い伝えだ。
シレジアの北風は泣いている時に最も心に響くらしい、確かにその通りだろう。
風が吹くと涙に濡れた頬の部分だけが一層冷たくなる、それが一層悲しみを駆り立てるのだ。
嗚呼、今日もシレジアの風が涙に沁みる・・・。

第2話に続く