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Last-modified: 2011-05-30 (月) 21:59:25

以前私が書いた「潔白の証明」(12-35)「潔白の証明 2nd Season」(14-20)と多少話が繋がっているので、
よろしければ先にそちらをお読み下さい。

序章 若さを失った少女

―ある平日の夕方、リンが帰宅すると・・・

リン   「ただいま~、うう、寒い、ねえ、お風呂沸いてない?」
エリンシア「ごめんなさい、実は、お風呂壊れちゃったみたいなの」
リン   「ええ!!?」
エリンシア「悪いんだけど、今日は我慢してもらえないかしら?」
リン   「うう・・・こんなに寒いのに・・・」
エリンシア「どうしても入りたいのなら、ちょっと遠いけど、
      お風呂屋さんに行ってきたらどう?」
リン   「え、この町に銭湯なんてあったの?」

―そこにタオルその他お風呂用の荷物を持ったエイリークが2階から降りてきた。

エイリーク「お風呂屋さんでしたら、私が場所を知っています。
      今から行きますけど、リンも一緒にどうですか?」
リン   「行く行く、すぐに支度するからちょっと待ってて」

―兄弟家から30分強歩いたマギ・ヴァル区の小高い山のふもとに、銭湯はあった。

エイリーク「ここですよ」
リン   「結構歩いたわね・・・『風呂屋 根霊羅巣』。
      ええっと、『ふろや ねれらす』でいいの?」

―リンが暖簾をくぐると、なんとそこには一匹のゴーゴンが立っていた。

ゴーゴン 「キシャアアアアアアア」
リン   「な!!?ま、魔物!!?」
エイリーク「心配要りません、ここの店員さんです」
リン   「て、店員!??」
エイリーク「ここはリオンの会社が経営しているお風呂屋さんで、
      人間と魔物の共存社会を作る第一歩として、
      実験的に魔物を働かせているらしいですよ」
リン   「だ、大丈夫なの、それ?」
エイリーク「厳しい審査を通った魔物ばかりですし、
      その後もリオンが厳しい教育と研修を行っているので
      大丈夫ですよ。
      私は何度も来ていますが、皆さん、とても親切ですし」
リン   「へ、へえ・・・」
エイリーク「この山は火山ですから、お湯も温泉を使えますし、
      温泉卵も美味しいのですよ」
リン   「食べられるの、そんなの?」
エイリーク「経験値たっぷりで評判ですよ、さ、入りましょう。
      学生2人お願いします」
ゴーゴン 「ヒャクゴールド、キシャアアアアアアア!!」
リン   「・・・やっぱり心配」

―店番はゴーゴン、清掃員はスケルトン、番犬はケルベロスという
魔物尽くしの異様な銭湯だが、中はいたって普通の銭湯だった。
無論、客は全員人間である。

リン   「うーーん、いいお湯、中は普通の銭湯なのね」
エイリーク「わざわざ歩いてきた甲斐がありましたね」
リン   「いまどき銭湯なんて、とおもったけど、けっこうお客さん多いのね」
エイリーク「リオンの話だと、この辺の名物となっているみたいですよ」
リン   「そうなんだ。あー、それにしても、極楽極楽」

―しばらくすると、30歳位の女性と、5歳位の少女が湯船に近づいてきた。
どうやら母娘のようだ。

母    「さあ、入りなさい」
娘    「ええー、あついからやだ」
母    「寒いから温まらなきゃだめよ」
娘    「あつくないところがいいーーー」
エイリーク「あの、よろしければ、こちら、いかがですか?」
リン   「前の人が水を入れていったから、この辺はそんなに熱くないですよ」

―そういって、リンとエイリークは自分達がいた場所を母娘に譲る。

娘    「あ、ほんとうだ、あつくない」
母    「どうもすみません」
リン   「いいんですよ、小さい子はあまり熱いお湯に入れると
      よくないですから」
母    「さあ、あなたもお礼を言いなさい」
娘    「うん、ありがとう、
      お ば ち ゃ ん と お ね え ち ゃ ん」
リン・エイリーク「!!!!!!!!」
母    「こ、こ、こら、なんて事言うの!!」
リン   「ねねねねねね、ねえ、ちょっと聞きたいんだけど、
      どっちがおばちゃんで、どっちがお姉ちゃんなのかな?」
娘    「(リンを指して)おばちゃん。(エイリークを指して)お姉ちゃん」
リン   「・・・・・・」
母    「ここここここの子は・・・す、すみません、悪気はないんです」
エイリーク「あのね、私達二人はね、私がお姉ちゃんで、こちらが妹なの」
母    「え!?」
リン   「ちょっと、お母さん!!なんですか、その意外そうな顔は!?
      と、とにかく、私の方が年下なの。わかったかな?」
娘    「ええ~うそだ~」
リン   「ど、どうしてそう思うのかな?」
娘    「だっておねえちゃんよりおばちゃんのほうが、おっぱいがおおきいもん」
エイリーク「!!!!!!!!!」
娘    「ままがいってたよ、おんなのひとは、おとなになったら
      おっぱいおおきくなるんだって。
      だからいちばんおおきなおばちゃんが、いちばんのおばちゃん。
      つぎにおおきなままが、にばんめのおばちゃん。
      いちばんちいさなおねえちゃんが・・・あれ?
      でもおねえちゃんのおっぱいってあたしとおなじくらいだね?
      あ、わかった!!おねえちゃん、あたしとおなじで5さいなんだね!!」
エイリーク「・・・・・・・・・(バシャーーーン!!!)」
リン   「ちょ、姉さん、だめ、お湯の中で気絶しちゃだめええええええ!!」
エイリーク「ブクブクブクブクブク・・・」

―湯から上がり、帰宅しようとしたリンら2人、しかし、エイリークの魂は完全に抜けていた。

リン   「姉さん、しっかりして!!」
エイリーク「ふふふふ・・・そうですよね、
      妹より胸の小さい私に、姉を名乗る資格など・・・
      あは、あは、あはははは・・・・」
リン   「だめだ、こりゃ、完全に魂が抜けてるわ・・・歩いて帰るのは無理そうね、
      (銭湯の店員に向かって)すみません、この辺に飛竜便ってあります?」
ゴーゴン 「キシャアアアアアアア!!」

―店員の声に応える様に、店の前に一匹の飛竜が舞い降りてきた。

ジル   「毎度ありがとうございます、飛竜便です。
      お客様は2名様ですね?」
リン   「はい、中央区住宅街○○の××までお願いします」
ジル   「その住所だと・・・兄弟家様・・・でよろしいですか」
リン   「ええ、そこです」
ジル   「かしこまりました、出発しますのでつかまっていてください」

―魂の抜けたエイリークを担いで飛竜に乗るリン。数分後、飛竜は兄弟家の前に着陸した。

ジル   「到着いたしました」
リン   「ありがとうございます、確か町内は一律料金でしたよね?」

―そういって、リンは200ゴールドをジルに手渡した。
飛竜便は町内一律、成人150ゴールド、未成年100ゴールドである。
ところが・・・

ジル   「あ、あの、お客様・・・?」
リン   「何か?」
ジル   「あの、申し上げにくいのですが、金額が不足しております」
リン   「え?だって100ゴールド2人で200ゴールドじゃないんですか?」
ジル   「100ゴールドというのは未成年の方のみでして、
      成人の方は150ゴールド頂くことになっているのですが・・・」
リン   「ええっと、それなら200であっていません?」
ジル   「そちらで眠っている方は100ゴールドで結構なのですが、
      あの、その、あなたについては150ゴールド頂くことになっていまして・・・」
リン   「・・・あの・・・」
ジル   「?」
リン   「私・・・未成年なんですけど・・・」
ジル   「・・・え?」
リン   「15歳、中学生です」
ジル   「ええええええええええ!!?わ、私より年下!!?」
リン   「・・・これ、証拠です」

―リンは財布から学生証をとりだし、「うっそだあ、ありえない」という表情のジルに渡した。
 
ジル   「エレブ学園中等部3年、リンディス・・・し、失礼しました!!」
リン   「・・・・・・いいんです、よく勘違いされますから」
ジル   「ええっと、あの、その、ま、またのご利用をお待ちしております!!」

―ジルは逃げるようにその場を飛び去っていった。

リン   「・・・・・・・・・・・・・・・・・
      ・・・・・・・・・・・・・・・・・
      とりあえず、2階で笑っているそこの男、
      今から処刑しに行くから、首洗って待っていなさい!!!」
マルス  「(2階の窓から)アヒャヒャヒャヒャ!!
      お、お、大人料金だって、いやあ、さすがはお姉様!!
      アダルトの魅力たっぷりですな、あーっはっはっはっは!!」

―魂の抜けたエイリークを寝かせ、マルスに一通り関節技を決めた後、
リンは自分の部屋で苦悩していた。

リン   「はあ、銭湯の女の子といい、飛竜でのことといい、
      私ってそんなに老けて見えるのかしら・・・?
      私、ピッチピチの15歳なのに・・・
      うう、このままじゃいけないわ、もっと若さを前面に出して、
      私が『少女』だってことを証明しなくちゃ!!
      ・・・でも、どうすれば・・・うーん・・・」

―翌日

リン   「ふわ~あ、あれこれ色々考えてたら、いつの間にか寝ちゃったみたい。
      もう11時、ま、休日だからいいか」

―着替えてリビングに向かうと、ミカヤと3人の人物が談笑をしていた。どうやら来客中のようである。

リン   「おはよう・・・って、あれ、お客さん?」
ミカヤ  「随分寝ていたわね。
      あ、わたしの友達でセフェランにニイメにハンナね。
      皆、妹のリンディスよ。ハッちゃんは会ったことあるわよね」
ハンナ  「ひっひっひ、久々じゃのう、リン」
セフェラン「おじゃましてま~す」
ニイメ  「じゃましてるよ」
リン   「こ、こんにちわ。ええっと、お友達って、ど、どこで知り合ったんですか?」

―目の前にいるのは少女1人、青年1人、老婆が2人、どう見ても接点がありそうにない。

ミカヤ  「うーん、どこでって言われても、随分古い付き合いだし・・・
      まあ、歳が近いし、気がついたら仲良くなっていたわ」
リン   「と、歳が近い?」
セフェラン「ミカやんが<ダキュン>歳、私が<ピー>歳、
      ハッちゃんとニーちゃんが<コノヒトデナシー>歳だから、似たようなモンでしょ」
ハンナ  「まて、セフェラン、あたしゃまだ<ヒドイアリサマデス>じゃ!!
      肝心なところを間違えるんじゃないよ」
セフェラン「ええ、そうだっけ?」
ミカヤ  「そもそも、乙女の年齢を人前で言わないの」
ニイメ  「まったくこの男は、昔からデリカシーがなくての」
セフェラン「あはは、ごめ~ん」
リン   「は、はあ・・・」
セフェラン「そんなことより、ぜーたんの新作お菓子、その名も『しっこく饅頭』。
      リンちゃんも一緒に食べましょ」
ハンナ  「こいつもどうかえ?実家の干し芋じゃよ」
ニイメ  「最高級の羊羹だ、心して食いな」
リン   「わあ、いいんですか?いただきまーす」
ハンナ  「どれ、あたしらもいただくとするかの」
セフェラン「ハッちゃんの干し芋はいくらでも食べられちゃうよね~」
ニイメ  「おまえさんの息子とやらが作った饅頭も中々じゃよ」
ミカヤ  「ニーちゃんの羊羹も絶品よ」
リン   「どれも最高!!」
ミカヤ  「はい、お茶。美味しいお菓子には濃い目の抹茶が一番よ」
リン   「わあ、姉さん、気が利く~」

―老人ズ&リンは同時にお茶をすする。

老人&リン「ズズ~~~~~~」

―そして・・・

老人&リン「ハァ~~~~~~~~~~~~~~~~」

―くつろぐ。

リン   「・・・・・・・・・って、違ーーーーーーう!!!」
ミカヤ  「きゅ、急にどうしたの!!?」
リン   「なに、何なの、なんでこんなに馴染んじゃってるの、私!!??
      いい、私は15なの、青春真っ盛りのピチピチ乙女なの。
      休日にお菓子囲んで、お茶啜ってくつろいでちゃダメなの!!
      そんなのは枯れ果てて先行き見えた人たちのやることなのよ!!
セフェラン「あれ?なにげに酷い事言われてない?」
リン   「もっと、活発に、若さあふれることをしなくちゃだめ!!!
      私は、私は『少女』なのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

―リンは叫びながら、家を飛び出していった。

ミカヤ  「・・・ど、どうしたのかしら?」
セフェラン「う~ん、ま、リンちゃんもそういうお年頃なんですよ」
ニイメ  「まったく、若さがどうだのこだわっていること自体が
      若い証拠だというのに、それがわからないかねえ?」
ハンナ  「いずれあの子も気づくだろうて、60年経ちゃ、み~んな一緒。
      ま、中には例外もおるがの、ひっひっひっひっひ」
ミカヤ・セフェラン「例外で~す」

―さまざまな要素が絡みあい、15歳でありながら老けて見られる少女リンディス。
若さを失った彼女が、歳相応の若さを取り戻し、自らが少女であることを証明することはできるのか?