18-309

Last-modified: 2011-06-04 (土) 12:10:54

カオスな流れが出来てる中ひっそりと続き
(前回:17スレ目>>477-482)

-1F-
リーフの強烈な踵落としにより3Fから虹シグルドが急落下した頃
リンとエイリークも探索はしていた…が
ただ探索するだけではやはり退屈なのだろう、
探索を始めて間もなく、最近身の回りで起こった事とか
他愛もない話をしながら二人は探索をしていた
2F組も話をしながら探索をしていたが、それと比べると
この二人は話が主で探索はそのついでといった感じになってしまっている
加えて女性同士の話というのは話のキッカケが小さくてもそこからあらゆる方向に話のネタが伸びる
要約すると話のネタに事欠かないわけで…
エイリーク「――やっぱり…そうですよね」
リン「そうに決まってるわよ、我が家の男共には絶対わからないでしょうけどね」
何の話をしているのかはわからないが、話が一区切りついたようだ、しかし
リン「あ、そうそう、話変わるけどアレって」
今度は別の話題が上った、さながらその辺の奥様方の井戸端会議である
話題の提供はほぼリンでエイリークはそれに一つ一つ丁寧に受け答えしている
女同士、積もる話があるのだろうが…やめろとは言わないが長いと言いたくはなるかもしれない
しかし今二人の周りには会話に水を差すような人間はいない、むしろ二人以外いない
歯止めがない分、話のペースに拍車がかかるのは必然と言える
仮に会話のブレーキ役がいたとしても
二人の緊張感が薄れてるだけで、探索が大雑把になってない以上文句は言えなかっただろうが…

1Fに部屋はそう多くなく、十数分もあれば全部見回れてしまう程度しかない
荷物やら何やらまでしっかり捜索するのであればかかる時間は二倍も三倍もかかるかもしれないが
ベグニオン社ビルの跡地なのだ、必要な物資やらはほとんど持ち出されてるので
実質部屋をざっと見て終わりで十分だ
もうすでに二人はすべての部屋は見て回っていたが相手は移動する
同じところを二度三度見るだけでは足りない、会話を絶やさず何度も同じところを見て回る
長々だらだらと二人の探索状況を語ってしまったが
最初から『探索<話』になってしまったのはあながち無理もないかもしれない
何故ならこの二名にとって探索開始直後の虹シグルドの最新位置情報は
『ついさっき3Fで見つけ、逃がしたばかり』だったのだ
1F~4Fまでで3Fから最も遠いこの1Fで遭遇する確率は最も低い
最もいる可能性の高い3F&4F組はもちろん、2F組に比べると
緊張感が最初から若干薄くなってしまいがちである
そもそも虹シグルドの現在位置がどこなのかリアルタイムで知る術などない、ゆえに
虹シグルドが2Fを通過している以上、1F組が遭遇する確率が飛躍的に上がった事も知るはずもない
だからといって、探索始めてもう数分は経ち
1Fに虹シグルドが出没してもおかしくない状況になったにも関わらず
話に熱中するのは良しとは言えないのもまた事実なのだが…

そろそろ1F探索組に視点を戻そう、二人が現在いるのはおそらくゴミ置場だと思われる部屋だった
4Fにも使用回数が残り少ない武器やら置いているほとんどゴミ置場のような部屋はあったが
どちらかというと1Fのゴミ置場のほうが使用頻度が高かった形跡がみられる
後でゴミを出す時の労力を考えればそれも当然だが…
リン「あ、そうだ姉さんに聞きたいことがあるんだけど」
部屋のその辺にほっとかれてるボロボロの棚の裏側やらを捜索しながらリンが話題転換をする
エイリーク「何ですか?」
同じ部屋にいるとはいえ捜索している場所が違うのでエイリークは目線を向けずに意識だけリンに向ける
リン「それが…」
捜索の手を止めることなく、次におそらくゴミ箱と思われる箱の蓋に手をかけて
蓋を持ち上げ、中を覗き込みながらリンは会話を続け…られなかった

先ほど二人の緊張感の薄さ、及びその要因、状況を長々と語っていたわけだが
要するに何が言いたかったかというと

虹シグルド「ディアドラ!ディアドラ!」
――油断してる所に畏怖の対象が現れたらどうなるかというわけで

リン「嫌ぁーーー!!!」
案の定一度目の当たりにしてると言うのに
鳥肌を立たせながらリンはゴミ箱ごと虹シグルドを壁にぶんなげることとなった
突如部屋にリンの絶叫が響き渡ったためエイリークはビクッと肩を震わせ視線をリンの方へ向け、
次に肩で息をしているリンの目線の先を追うとひしゃげた形のゴミ箱が…
エイリーク「い、居たのですか?」
半分否定してほしいと願った質問をリンに投げかけるとリンはコクコクと首を縦に振った、
ゴミ箱からはまだ何もでてこない、しかしガタガタと何やら音がする
すぐ近くに虹シグルドがいる事を確信し、エイリークにも緊張が走った
リン「多分、もうすぐ出てくるはずよ…不覚にも驚いちゃったけど、もう大丈夫…!」
エイリーク「わ、私は…」
何かを言いかけたがそれはゴミ箱から出てきた虹シグルドの存在によってかき消された
虹シグルドが何故か少し黒ずんでいる
リン「出たわね…もう恐れたりはしないわよ!」
そんな虹シグルドの状態を気にもせず、リンの瞳には揺るがない覚悟があった、
恐れずに虹シグルドに迫り
リン「はぁっ!」
力強く虹シグルドを殴りつけた、吹っ飛び、壁に叩きつけられる
どうやら壁及び床のすり抜けは必ず発動するわけでもないらしい
しかも何故か殴ると同時に虹シグルドからむせかえるような煙も上がった
リン「ゲホッ…何よコレ、埃塗れじゃないの!」
咳きこむリンを余所に、虹シグルドはよろよろしながら今度はエイリークの方に迫る
エイリーク「えっ、えっ!? こっちに…!」
まだ腹を括ってなかったのだろう、
エイリークは迫りくる虹シグルドにおろおろと迷ってしまっていた

リン「エイリーク姉さん、思いきってガツーンといくの…ゲホッ、ゲホッ…」
それを察してか後押しするように未だ咳きこみながらリンがエイリークに力弱く呼びかける
エイリーク「わ、わかりました…!」
瞳の奥にはまだ困惑の光があったがやらなければならない
言うと同時にエイリークは右手を振り上げ…

エイリーク「えいっ!」
――ペチン

軽い平手打ちが見事に決まった、威力0、もちろん NO DAMAGE!

何事もなかったかのように部屋を去る虹シグルド、呆然とするリン、凍る空気
リン「ちょっとエイリーク姉さん! もっと思いきりやらないと!!」
その場の空気を動かしたのは回復したリンの叱咤
エイリーク「す、すみません…」
元々の真面目さ故叱られる事自体少なかったエイリークは
妹、むしろ家族に叱られるのは極めて稀だったため、思わず肩を落としてしまう
エイリーク「(次、次こそ…シグルド兄上をなぐ、殴らないと…でも…)うぅ~…」
そして苦悶の表情で唸りながら頭を抱え悩み始めた
リン「あ、ゴメン…ちょっと強く言い過ぎたかも」
それを自分の先ほどの発言が
よほど気にする事だったのかと勘違いしたリンはやや慌てて謝罪をいれる
エイリーク「ち、違いますよ、気にしないでくださいリン」
妹にお叱りを受けたのは確かにやや情けないとは思ったが
自分の覚悟がなっていないだけの問題だったのだ…
リン「ところでどっちに逃げたっけ?」
エイリーク「あ…」
完全に見失ったようだ
ひとまず取り繕い、二人で部屋を後にし、
逃がしてしまった虹シグルドを気持ち新たに再び捜す事にした
エイリーク「そういえば、さっき何を言いかけたんですか? それが、の続き…」
リン「完璧に頭から吹っ飛んだわ…」
エイリーク「…そうですか」
今後再び遭遇した時エイリークが決心してるかは定かではないが、
少なくとも緊張は薄れることはない――かもしれない

取り逃がしてしまった虹シグルドを探すため、見失ってからすぐに近場を捜索したが発見できなかった
この分では別の階層に逃げてしまったのかもしれない、しかし巧妙に隠れてる可能性もある
先ほどの緊張感のなさを反省しながら二人はその後も探索を続けた
エイリーク(あれは…)
その過程で当時来賓の方を迎え、案内をするために使用していたと思われる
煤け、埃塗れになってしまった受付台がエイリークの視界の端に飛び込んできた
エイリーク(当時はほぼ毎日使われていたのでしょうね…一体どのぐらいこんな寂しい場所に…)
エイリークは思わず足をとめ、その受付台に目を奪われた

何故かはわからない、その荒れようがどこか寂しさを訴えているように感じ、
長い間この静寂の中孤独であり続けたその台を哀れに思ったのか…
それともそこから感じられる年月の長さを実感したのか…
両方か、もしかしたら今心の中で浮かぶ様々な感情全てが答えなのか
ただ、少なくとも悲しい、寂しいという切ない気持ちは確かにあった
それが反映されたのかエイリークの目にも同様の感情の光が現れた
かつては入口に近いという事もあり様々な人と出会っただろう
当時このビルが賑わってた頃、来賓の方を導くための道しるべであり続けた受付台
夜になれば帰宅する人たちを見送り、また人で賑わう朝を待っていたはずだ
しかし――突然、その日は来なくなった
もしその受付台が自分だったら何を思うだろう?
突如自分の目の前から当り前だった明るさが消え、暗い中一人孤独でただ時だけ過ぎゆく
エイリーク(寂しい…)
自分の中で切ない感情がせめぎ合う、何故だか急に心が寒くなった気がする
足が、動かなかった

リン「あれ、エイリーク姉さん?」
立ち止まったエイリークに気づかず先に行ってしまっていた事に気づき、元来た道をあわてて戻る
廊下を少し駆け足で通り過ぎると廃ビルの入口にエイリークが立ち尽くしているのが見えた
無事見つけられたことに安堵しながらも、全く気付かなかった自分に喝をいれつつ姉の元へ
リン「エイリーク姉さん、どうかしたの?」
エイリーク「あ、いえ…ちょっと目にゴミが入ったので取ってただけです」
リン「なんだ、そうだったの…」
リンも安心したような表情をして再び探索するために背を向け向こうへ歩みだした
とっさに出た嘘だったが埃っぽい場所にいた事が幸いしたのか
疑われる事がなかった事に心の中で安息する
我ながら感情移入しすぎたのではないかとエイリークは思った
長い間放置された台を見て浮かんだ感情の数々、周りに話したら大袈裟だと笑われるだろうか
しかし、あの時浮かんだ感情は嘘ではない、偽りにしてはいけない
歩みを進める妹の後姿を見ながら、そう思った
エイリーク(孤独ではない事って幸せなことですよね)
今度は笑みを浮かべながら再び先ほどの台を見やる、でもさっきまでとは違って見えた
まるで、自分の背を後押しするような、そんな感じだった
今自分の周りに友人、家族といった存在がある事の有難さを教えてくれた
その台に背を向ける、振りかえってはいけない
この肝試しの後、家族と共に再びいつもの騒がしい日常を過ごすのを楽しみにしながら…
エイリーク(まあ…騒がしいに限度はありますけどね)
内心苦笑いをしながらリンの後を追った

-3F-
マルス「んー…大丈夫かな」
リーフ「何が?」
ところ変わってこちら3F、
リンとエイリークが虹シグルドと一悶着していた時、唐突にマルスが何かを案じ始めた
マルス「さっき君がスマボに”強烈”な踵落としを決めたことさ」
強烈、を強調して言ったのはリーフにも理解できたが、それが何を言わんとするのかがわからない
リーフ「それがどうしたの?」
マルス「僕言ったよね、このビルは地下があるって」
リーフ「うん、知ってる、で?」
マルス「っていう…じゃなくて、勢いあまって地下に行っちゃってたら手がつけられないなーって」
リーフ「あ…入れないんだっけ」
マルス「…うん、まあそういうこと」
肝試しルール説明時、地下について少し触れたのを覚えているだろうか?
仕掛け人達も仕掛け準備時間に鍵がかかっている事は確かめたし、鍵はない
いわゆる、開かずの間状態
もし地下に行ってしまってたら攻撃のしようが無くなるのだ
エイリークとリンが踵落としの後
1Fで発見していたためその心配は杞憂ではあるが、その事を知る由もない
リーフ「地下いっちゃってたらどうしよ…」
マルス「その時は君に全責任を押しつけるから安心してくれたまえ」
リーフ「連帯責任じゃないの!?」
マルス「だって地下に行ってしまったらその原因は間違いなく君だよ
    君のせいで詰んだなら、当たり前でしょ? 知ってる通り地下に入る術はないんだ」
リーフ「うわー! どうかこの心配が杞憂でありますように、神様ー!」
手を擦り合せながら、祈りを捧げ始めるリーフ、
それを面白そうに見るマルス、他人を陥れるのが好きな彼らしい反応だ
果たして彼に慈悲を与えるお優しーい神様はいるのだろうか
しかしその心配が杞憂で終わってる辺り、もしかしたら物好きな神様がいたのかもしれない
未だ祈りをささげてるリーフの後ろ姿から目を外し、マルスは背後を振り返る
何もない、ただ日が傾いた影響で場所によっては明るかったりはたまた暗かったりする
無人の廊下があるだけだ、今自分の視界に広がるは黒一色で塗りつぶされた暗闇の世界
マルス「――今はね」
そんな暗闇に向かってポツリと呟く、言の葉が無音の空間に飲み込まれ、消える
意識ここにあらずだったリーフはそれに気づく事はなかった