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Last-modified: 2011-06-04 (土) 11:52:02

「馬鹿は死んでも治らない、っていうのはよく言ったもんだねぇ・・・」
一家の末弟ロイが呟いた。

「何さ、いきなり物騒なこと言ってさ」
と、アルムが訝しげな顔をして聞く。
それを聞いたロイはアルムを一瞥し、視線であっちを見てよ、と促す。
その視線の先にはリーフ。
彼は明後日の方向を向きながら叫んでいた。
「よーっし! 今日こそ「とらえる」で
おねぃさんたちを捕えてからあんなことやこんなことを・・・!」

「なんか決意表明をしているけれど・・・それがどうしたの?」
「・・・見てたらわかるよ」
と、見たままの感想を述べるアルムと、傍観を決め込んでいるロイ。
リーフが決意表明をしてから数拍後、居間の隅の空間が乱れた。
その歪みから現れたのは、見覚えのある少女たち。

「リーフが馬鹿なことを考えていると聞いて飛んできました」
「げぇっ! ナンナ、サラ、ミランダ、ティニー!」

「毎度お馴染みの四人が来たね」
「相変わらず情報が回るの早いよね」
と、変なところで感心しているアルムとロイ。助ける気は全くない。むしろ助けられるわけがない。
リワープの杖で現れた彼女らは、彼らの方へと向きなおり一言。
「とりあえず折檻しておきますね」
と、満面の笑みで四人が同時に言った。
それを聞いたリーフの顔は血の気を失った。どんな酷い目に遭うかを想像したのだろう。
「え、ちょ、待っ・・・合掌なんかしてないで助けっ・・・この人でな」
リーフがいつものセリフを言うか言わないか、
そんな微妙なタイミングで彼らは家から消え去った。

展開が若干急すぎたので情報処理が追いついていないアルムは
「・・・で、どうわかるってのさ」
と、ロイに尋ねた。
「もう少し経ったらもっといい例が見れると思うけど・・・」
「どういう意味?」
発言の意図を読めないアルムは、遠い眼をしているロイに困惑していた。
「まぁ、すぐわかるって・・・あ、いいタイミングで」
ロイが言い終えた瞬間、扉が開け放たれた。
何事かとアルムが扉の方に振り向くと、結構必死な形相のマルスが駆け込んできた。
一拍おいて、今度はさながら鬼の形相といったリンが駆け込んだ。

「あんたはなに人様に誤解を与えるような情報を回してんのよーっ!」
「姉さんがフロリーナさんとレズ疑惑があるのは昔からのことで
僕はそれにほんの少しのスパイスを加えただけでっ!」
「だからその情報の根本から間違ってるって言ってんのよっ!」

「こりゃまた毎度お馴染みの光景で」
「相変わらず懲りないよねぇ」
日常の風景と化しているこの騒動に別段驚きもしないで眺める二人。
部屋の端から端へと騒がしく走り回る二人を目線で追いかける。
と、十数秒くらい経った後、リンがマルスを捕まえた。
「あんたは余程あたしに潰されたいらしいわねぇ・・・?」
獅子は兎を狩るのにも全力を尽くすという。そんな言葉が二人によぎった。
身の毛もよだつようなどす黒いオーラを発しながら、静かな口調でリンが喋る。
そんなリンに捕まってるものだから、マルスはかなり青ざめているわけで。
「ちょっ! サブミッションはやめっ・・・!!」
と、意味のない要求を出してしまうほどに怯えていた。
「丁度新技を開発したところなのよっ! 食らいなさいっ!」
「あだだだだだだだだだっっ!!! 痛い痛いいたアッー!!!」
効果音としては「ゴキィッ!」といった感じの音がピッタリだろう。
そんな音がマルスの身体から響いた、と同時にマルスは頭を垂らした。
その様子を見て二人は思った。あ、死んだな、と。
リンが関節技を解くと、案の定マルスはその場に崩れ落ちた。
焼きを入れてすっきりしたのか、リンは足早に居間を離れた。どこかに出かけるのだろう。
今、彼女に話しかけるには代償として命が必要だろう。そう思ってスルーを決め込んだ。

「・・・で、何がどうわかるってのさ」
ロイに挙げられた実例を見たアルムだが、まだロイの意図を理解できないようだ。
「まだわかってないの?」
と、ロイは若干呆れ気味。
軽くため息を吐いてアルムに説明を始める。
「リーフ兄さんはあの四人の好意に気がつけば、っていうか多少なりとも「おねぃさん嗜好」を控えたら
いぢめは少なくなると思うんだ。
そこはリーフ兄さんが気づくかどうか次第なんだけど。
マルス兄さんは自分の気持ちに正直になれば逐一痛い目を見なくて済むんだよね。
それなのに自分の心に対して天邪鬼になるなんてちゃんちゃら可笑しいと思うんだ」
「つまり、そこらへんがぶっちゃけ馬鹿だと」
頬杖をつきながらとんでもないことを言いのけるロイに驚きながらも、
この突飛な理論は強引だけど間違いはないなぁ、と何となく納得してしまうアルム。
「そういうこと。まぁ、我が家には同じ穴の貉がもっといるんだけどね」
遠い目で、僕もそうかもしれないし、とロイが付け加えた。
その言葉の先には、あらゆる意味で常軌を逸している兄や、
ロリコン疑惑をかけられている兄達がいるように思われた。
相も変わらず我が家の末弟はやけに人生を達観している、と感じるアルムだった。

後日談。
「そういえばサブミッションを決められた時、視界がホワイトアウトしたかと思ったら
この世のものとは思えないほどの綺麗な花畑と、とても大きい川が目の前にあったんだ。
そういえば川の向こうには顔も覚えていない父さんと母さんがいた気がするなぁ。
あ、そういえば川の真ん中くらいにリーフがいた気がするんだけれど、どうしてだろ?」