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Last-modified: 2011-06-05 (日) 16:12:50

「兄上、クロード兄上。僕ももう、全部の杖が使えるようになりました!」
 切り揃えられた金の短髪を揺らしながら、クロード神父の部屋へ少年が入ってきた。
「おや・・・コープル、それは良く頑張りましたね」
「兄上、今度こそ僕にもバルキリーを使わせてくれませんか?」
「気持ちは分かりますが、急いてはいけませんよ。
あの杖は早々使う機会はありませんし、あまりあって欲しいものではないのですから」
 微笑みながら語りかける兄に、少し残念そうな顔を向ける弟。
それでもまだ話したいことがあったのか、口を開いた時だった。
「クロード兄様! って、コープルもいたのね? まぁいいから聞いてよ。ほら、リーンも!」
「もー、シルヴィア姉様! 引っ張んないでってば!」
 入ってきたのは良く似た緑の髪の姉妹。クロードが「シルヴィア、それにリーンまで」と微笑む。
二人を見るに、制服から着替えるのも忘れるくらいの話題らしい。
「今日実はね、中等部ですっごい爆発が起きたの!」
「あ、それ僕も授業中に聞きました。何があったんですか?」
 不思議そうに聞くコープルに、リーンは首を振るが、そこに言葉を続ける。
「あたしも高等部で聞こえただけなんだけど、リーン、その現場にいたんだって」
「そうなの! またユリアとユリウスが喧嘩を始めちゃってさ。それも授業中に!
最初はヨツムンガンドとリザイアだったんだけど、仕舞にはロプトウスとナーガ持ち出して!
ホントにさー、なんか知らないけど今日はマジックリング付けてたから特に凄くってさー」
 そこで残りの三人からあぁ、とため息のような納得の声が漏れる。
クロードはそれは隣の校舎にも聞こえるだろうと。別校舎にいた二人はやっぱりそれかと。
「うん、それで、皆逃げたんだけど、リーフだけ吹っ飛ばされちゃって」
「この人でなし・・・その声も初等部まで聞こえてましたよ」
「・・・・・・そのまま行方知れず、なんだよね」
 それもまたいつものことだが、繰り返されることに呆れて全員がため息を漏らす。
そのとき、部屋の電話が鳴り始め、シルヴィアが名乗り上げて受話器を取った。
「はい、エッダですけど・・・あぁはい、行っておりますが・・・・・・グラド大学に?
しかしそちらでしたら――あ、えぇ、えぇ、分かりました。今すぐ向かわせていただきます」
「それでシルヴィア。今日は誰が?」
 受話器を置いたのを見てから、珍しく鋭い眼光を見せながらクロードが問いかける。
「あー、のね? リーフがグラド大学に突っ込んだから、バルキリーを回して欲しいって」
「マギ・ヴァル区まで、ですか・・・でもそちらなら、バレンシア区の聖なる井戸のが近いのでは?」
「もう今月の使用制限量に達したから駄目らしいの」
 バレンシア区の聖なる井戸はただなのがウリだが、何せ制限がある。
やれやれとクロードが椅子から腰を上げたとき、何かに引っ張られる感覚がした。
横に目をやればコープルが法衣の裾をつかんでいる。
「・・・僕に、行かせてくださいっ! 絶対にリーフ先輩を甦らせますからっ!」
 一瞬の沈黙。背が高めな兄を見上げ目を輝かせ訴える弟。
その一生懸命なさまに兄姉はくすりと笑い、そしてすぐに返事が返ってきた。
「いいでしょう。しかし、失敗しては困りますから、私も行かせてもらいますよ」
「やったぁ! じゃあ僕、法衣に着替えてきます!」
「えー、じゃああたしも行くっ! ついでにどっか寄ろうよ!」
「いいかもそれー! マギ・ヴァルの美味しいお菓子屋さーんっ!」
 遠足気分の楽しい雰囲気が兄弟の中に流れる。
姉妹と弟は早速着替えに部屋へと戻り、兄は杖を取りに部屋を出て行った。
教会のきょうだいの、今日も穏やかで賑やかな会話。

おまけ
「このひとでなしぃーっ!! って、あれ? 僕は一体??」
「ふぅ・・・っわぁああ! やった! 兄上も姉上も見ました!? 僕、使えましたよ!!」
「ええ、よく頑張りましたね、コープル」
「すっごぉーいっ!」「さっすがー!」
「わぁ! りりリーン姉上、しっシルヴィア姉上も! 二人とも抱きつかないでくださいー!」
「「えー? だってあたしたちも嬉しいもの!」」
「ふふ、これからは時々こうして頼むことになるかもしれませんね。今日のこの気持ちを忘れてはいけませんよ?」
「はいっ!!」
「え、あの・・・いや、此処、何処・・・・・・? 何で僕ハブられてるの・・・・・・?」