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Last-modified: 2011-06-05 (日) 16:14:40

ガッシャァァァァァァァァァン!!!!!!
床に叩き付けられた金の宝玉が粉々に砕け散る。
従者からの報告を受けたクルベア公バルテロメは激怒して叫んだ。
バルトロメ「おのれおのれおのれゼルギウスぅぅぅうううう!!!!伯爵位の分際でこの私の誘いを、
ことごとく断るとは!!!許せません!ぜっっっったいに許せません!!!」
従者達が慌てふためいて自らの不手際を詫び、メイド達が怯えた表情で宝玉の破片を片付ける。
バルテロメは普段は優雅な立ち振る舞いを自らに課しているのだが、かなり短気だ。
その怒りの矛先を向けられないうちに、彼らはそそくさと主人の部屋を退出した。

そんな平民どものありさまがバルテロメの苛立ちに、拍車をかける。
バルテロメ「ええい!どいつもこいつも!!!それにしてもゼルギウスめ・・・
この私が至高の美の題材に選んでやったというのになにが不満なのか・・・」
バルテロメの美へのこだわりは主に人物に対して向けられる。タナス公オリヴァーなどは
音楽や絵画や彫像をこよなく愛しているのだが、彼とバルテロメとは美へのアプローチがいささか異なる。
2人とも自分自身と白鷺の民への異常なまでの執着という点では似た者同士であるのだが・・・

そんなオリヴァーが自らの美術館で催した音楽会は貴族たちの間で大評判となった。
とりわけエイリークという少女のバイオリンは満場の拍手で称えられた。
対抗意識を燃やしたバルテロメは自らコーディネイトした美の象徴を
モデル業界に送りこんでオリヴァーの鼻をあかしてやろうと思ったのである。

実際バルテロメの人物美に対する執着は凄まじく、モデル業界では多くのトップモデル達を
コーディネイトしてきた。今では服飾品や装飾具のメーカーのアドバイザーとしても引っ張りだこである。
そんな彼がオリヴァーに対抗すべく、選んだ今回のテーマは美と筋肉の調和である。
バルテロメは肉体美と端麗な顔立ちとを併せ持った素材として、幾度もゼルギウスを誘ったのであるが、
鎧に引篭もる彼は一度も首を縦に振らなかった。

バルテロメ「・・・あんないかつい黒鎧で自らの美を隠してしまうとは!これは美に対する冒涜です!」
とは言え本人が承知しない以上他の候補者を探さなくてはならない。
数日前の紋章町筋肉祭り事件の際は、バルテロメも素材をもとめて
現場に駆けつけたのだが満足いく結果は得られなかった。
とにかく汗臭く見苦しい。筋肉があればいいというものではなく、
古代の彫像のような整った肉体と、端正な美貌こそをバルテロメは求めていたのである。
首謀者のダグダなどは論外である。アイクという男はそれなりかとも思ったが、
肉体美はともかく荒削りで美貌などというタイプではなく、バルテロメの眼鏡にはかなわなかった。

バルテロメ「はぁ・・・私の目にかなう美とは宝石よりも貴重なもの・・・
せめて私の100万分の1でも美貌を持った者がいれば、すぐにでもスカウトしますのに・・・」
なかなか気に入った素材を得ることができないバルテロメは、散歩に出かけることにした。
ちょっとした気分転換になるし、運が良ければよい素材を見つけられるかもしれない。

ニノ「やったー!リン!すごいすごーい!!ホームラン!!!」
ワァァァァァ!
歓声のなか、リンはホームベースを踏みガッツポーズをとる。今日は中学校のクラス対抗体育祭である。
運動神経の良いリンは女子のほとんどの種目にエントリーして大忙しだ。
リンのクラスの女子といえばフロリーナやレベッカ、ニノ達であるが、
レベッカはともかく、フロリーナはあまりスポーツが得意ではないし、ニノも魔法系でどちらかというと文型だ。
他のクラスに比べると女子の種目の不利は否めない。
負けることが大嫌いなリンは率先して多くの種目にエントリーしている。

午前中の第一種目はいきなり剣道だった。夏の暑さに蒸れた臭い防具を纏って強敵ラクチェと対戦した。
ラクチェ「ちぇすとぉぉぉぉぉぉ!流☆星☆剣!!!!」
リン「のわ~~~!!!のっけから大ピンチ!?」
フロリーナ「がんばれリンーーー!負けないで~~~!!!」
リン(っ!?フロリーナの前で無様な姿を見せるわけにはいかないわ!)
ヘザー(キュピーン!百合の気配!)
リン「うりゃああああーーーー!!!分身!!突きーーーーーー!!!!」
ラクチェ「ぐはぁぁぁぁぁ!げほっげほっ!!!」

かろうじてラクチェを破ったリンだが死ぬほど疲れた。しかしワレス先生に叩き込まれた根性で次々と
各種目で好成績を収めていく。

水泳ではダロスと対戦した。スク水をきたダロスははっきりいって気持ち悪い。
リン「ちょっと!?なんで男が女子の種目に出ているのよ!しかもどうみても中学生じゃないでしょう!」
ダロス「そんなこたぁ知らないぜ、俺が男だって証拠はあるのかい?」
どうやら隣のクラスが性別と年齢を誤魔化して助っ人をよんだようだ。
リン「卑怯な!えい正面から叩きのめしてやるわ!」
審判にクレームを付けて失格にすればいいのだが、ワレス先生の教えはたとえ相手が卑怯な手を使っても
正面から戦うべし!というものである。
水の上を走るダロスにリンの不利は否めなかったが、気合と根性と怒りで50メートルを
水しぶきをたてて泳ぎ切り、かろうじて勝利した。

続けてリンは10キロマラソンを完走した。400人中7位という好成績である。
Sドリンクが飲みたくなったが、今大会では使用禁止である。
リン「ぜ~~~!ぜ~~~!次は弓道ね!レベッカと2人組みか・・・」

弓道場ではすでに胸当てをつけたレベッカがリンを待っていた。
レベッカ「だ、大丈夫!リン・・・少し休んだほうが・・・」
リン「大☆丈☆夫!この世の事は気合と根性でたいていどうにかなるものよ!」

対戦相手はタニア・ネイミー組である。
先にレベッカとネイミーが対戦した。結果はレベッカの圧勝である。
レベッカの矢は見事に的の中央を射抜いた。実力的にはネイミーも劣るものではないのだが、
いかんせんメンタル面が弱い。大勢のギャラリーの視線にドギマギしながら放った矢は
中心を4センチほど外していた。

ネイミー「ふぇ~~~ん、緊張したよぅ~~~ゴメンタニアちゃん」
タニア「気にすんなよ、私が挽回してやるよ」
リン「できるかしら!いざ勝負!」
リン(とは言ったものの私、弓は剣ほどには使えないのよね・・・・えい!根性でなんとかする!)
ヒュッ!ドスッ!
リンの放った矢は的の中心から7センチほど離れた場所に当たる。
タニアが的の中心を射たら負けてしまう。
タニア「へへっ!この勝負もらった!」
弓を構えるタニア、その時タニアの視界の隅にギャラリーの1人が写った。

タニア「っ!」
とっさに向きを変え、ギャラリーに矢を射るタニア。
リーフ「ちょっ、ボク見てただけ・・・コノヒトデナシー!」
タニア「しまった!いつものクセで!」
ネイミー「い、今のは不可抗力だよ。もう一回やらせてもらおうよ!」
タニア「・・・いや、言い訳はしねぇ、私の負けだ・・・」
肩を落として弓道場を後にするタニアとネイミー。その背中に声がかけられる。

待 て い !

リン「もう一度勝負よ!こんな勝ち方納得できないわ!」
タニア「馬鹿言うな!葉っぱに気を取られた私の負けだろうが!」
リン「いいえ!一対一の勝負で弟の助けを借りて勝つなんて、私を卑怯者にするつもり!」
どちらも我が強く一歩も引かない。ついに「勝負しろ!」「お前の勝ちだ!」で
取っ組み合いのケンカが始まる。

ワレス「よさぬか!!!!!」

リン&タニア「!!!!!!!」
審判をしていたワレス先生の一喝に固まる2人。
ワレス「人生とは戦いの連続、勝つときもあれば負けるときもある」
そして先生の訓話が始まる。
ワレス「よいかタニアよ。その潔さは立派だ。この負けに甘んじる事無く、
悔しさを己のバネにして強くなるのだ!」
タニア「・・・せ、先生・・・」
ワレス「そしてリンよ。勝負に賭けるお主の意地と誇りを見た!
この勝ちに驕る事なく更なる高みを目指すのだ!」
リン「ワレス先生・・・」

リンもタニアも・・・いやレベッカもネイミーも涙を流してワレスの言葉に耳を傾けている。
ワレス「ガハハハハハ!いかんいかん!つい説教臭くしてしもうたわ!
さあ、夕日に向かって走るぞ皆!努力だー!!!!」
タニア&ネイミー「気合だー!!!」
リン&レベッカ「根性だー!!!」
弓道場を飛び出して真昼なのに太陽を追いかける6人。
なぜか矢で射られたリーフも一緒に走らされている。
リーフ「僕の手当ては無しですか!?この人でなし~~~!
・・・それにしても3分の2が女の子なのにこの暑苦しさ・・・」

真夏の海岸を走っていたワレス一行が体育祭の最中だったことを思い出して
慌てて転進したのはそれから1時間後の事である。

そしてソフトボールでホームランを打って活躍したリンはさすがに休憩するべく校舎に戻ってきた。
リン「ふぃ~~~いい汗かいた~~~!」
マルス「やあ、リン姉さん、お疲れ様、でもそんなに走ってばかりいると
また足が太く・・・」
リン「(#^ω^)」メキメキメキ
マルス「あががががががぉあdにおんふぃっびあぼd」
倒れたマルスを打ち捨ててリンは教室に戻った。
たまたま皆出払っており教室で一人になったリンは、水を飲んで一休み。
リン「まったくマルスの奴だれが大根足よ!」

その時開けっ放しだった窓の外から、話し声が聞こえてきた。

リン「・・・?校舎裏から?」
リン達の教室は2階、窓の下は狭い校舎裏で2メートルほど先はフェンスをはさんで道路である。
その校舎とフェンスの間でサボっている男子生徒2人が雑談しているようだ。

男子A「だり~~~!体育祭なんてやってられっかっつ~~~の」
男子B「でもよぉ、女子のブルマやスク水はたまんねぇと思わねぇ?」
男子A「言えてる言えてるwwwうはぁフロリーナちゃんたまんねぇ~~~」
リン「(#^ω^)」ピキピキピキ
男子B「お、同感、でもあの娘、男苦手なんだってよ、もったいねぇ」
男子A「そういや、よく一緒にいるあのリンってのとレズだって噂だしなぁ」
男子B「なぁお前、そのリンはどうだよ?」
リン「!!!!!!!!」
男子A「へ?ぎゃははははは!馬鹿ゆうな!あいつの女らしいとこなんて乳だけじゃん!」
男子B「だよなだよなぁ~~~!あんな暑苦しいのと付き合いたがる野郎なんているのかねぇ」
男子A「ガサツだしなぁ、さっき女子のスク水見に水泳見にいったらえらい勢いで泳いでやんの」
男子B「マジで?あの大根足全部筋肉なんじゃね?野獣みてえなもんか!」
リン「大根足で悪かったわねコンチクショー!!!!!!!!」
男子A&B「!?」

窓から飛び降りたリンは身軽な動きで着地すると男子2人をどつきまわす。
男子A「い、いてぇ!悪かったよ!」
男子B「よせっ!ゲブッか・・・勘弁」
リン「やっかまし~~~い!この野郎ども成敗してやるわ~~~!」

新人兵士LV3の男子Aとかけだし戦士LV2の男子Bなどリンの敵ではない。
あっというまに気絶してアスファルト上でオネンネするはめになった。

リン「・・・たくっこの野郎ども!このくらいで勘弁してやるわ!・・・でも女らしさかぁ・・・」
溜息をつくリン。
リン「こんなことばっかやってるからガサツとか言われるんだろうなぁ」
幾度か女らしくしてみようとチャレンジしてみた事もある。
結果はマルスやヘクトルの爆笑で終わった。
それに対して結局リンも大暴れしていつものパターンになってしまうのである。
リン「うちの女らしさ担当はエイリーク姉さんやエリンシア姉さんだしねぇ・・・
かなわないか」
ちょっとおセンチな気分になって立ちつくすリン。

バルテロメは不機嫌だった。散歩の途上でたまたま中学校のそばを通ったため
体育祭の様子を見てみたのだが、満足な素材を得ることはできなかった。
バルテロメ「ふぅ・・・期待はしていませんでしたが・・・」
校門を出て校舎裏側の道路を歩くバルテロメ。その時校舎裏でダベッていた
男子ABの会話が耳に入ってきた。
バルテロメ「・・・ふん、下賤な民は下世話な話が大好きなようですねぇ」
至高の美を追い求めるバルテロメにとってこのような者達は、
眼中にもない。そろそろ屋敷に戻ろうと足を進めた瞬間リンの
「大根足で悪かったわねコンチクショー!!!!!!!!」という怒声が響き渡った。
驚いて振り向いたバルテロメが見たものは、ポニーテールをたなびかせて
2階から飛び降りるリンの姿だった。
野生の豹のような俊敏さで2人の男子を、打ちのめす姿は、
野蛮極まりないはずなのに強くバルテロメの胸を打った。

バルテロメ「・・・これは・・・なんという躍動感、引き絞られた弓の弦のような・・・
しなやかな体、ひきしまった足、鋭い瞳・・・ベグニオンの貴族の令嬢達とはまた違った・・・」

フェンスの向こうでの立ち回りが終わり、ボヤくリンからバルテロメは目を離すことができなかった。

リン「っていけない、次は障害物フレイボム走だっけ、そろそろいかなきゃ」
バルテロメ「・・・おっお待ちなさい!そこの貴女!」
リン「へっ?」

ふりかえるリン、それが二人の出会いだった。

続く