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Last-modified: 2011-06-05 (日) 22:29:18

夏ということで、続きの投下
前回(>>61->>65)

マルスとリーフは言葉を失いながら、
リンは訝しげにマルス、リーフ両名を見据えながら、
セリスは凍ってしまった空気にどうしたものかと、とりあえず苦笑いを浮かべながら、と…
なんの因果かその場に介してしまった四人は言葉も交わさず立ち尽くす
いや、語弊があるか…言葉を交わさないのでなく、言葉が見つからなかったのだ、リン以外…
リン「とりあえず質問に答えなさいよ」
埒があかないと判断したのかついに口火を切るリン、
その声にはやや荒っぽい感情が見え隠れしていた
マルス「なんでここにいるのさ…」
リン「質問に質問で返さない、とにかく答えなさい」
だめだこりゃ、と言いたげにリーフは肩をすくめた
こういうときのリンはもはや何を言っても誤魔化すことはできない、
それはマルスもリーフ同様把握していた、ゆえに――
マルス「…ビルを借りる条件を果たしに来たんですよ」
素直に白状した、少し自棄になったのか丁寧語で吐き捨てる
観念してしまったことで脱力してしまったのか深いため息をつく
そのため息に諦めにも似た感情をも含ませていたかもしれない
セリスはしばらく傍観、傍聴態勢を決め込んだようでただ行く末を見守る事にしたようだ
リン「ふーん、条件付きだったのね、でもなんでわざわざコソコソする必要があるのよ?」
納得いかないのはそこだった、家族の肝試しのための条件は自分たちで負う、
それは立派な心構えだ、褒めたたえてもいいだろう
ただ全員を帰した後で秘密裏に行おうとしていたのがどうも解せない、
何か裏があるのかとリンは思えてならなかった、だから詰問しているのだ
それに対してのマルスの返答はというと
マルス「わざわざコソコソしている時点で察してもらえるとありがたいかな」
詳細は語りたがらないようだが、裏事情であると示唆しているようだ
その意図をリンが読み取ったのか、これ以上聞くべきでないと判断したらしい
リン「…ま、いいわ」
だからだろうか、これ以上の追及をやめたようだ
仮に条件がどうであれ、その責を負うことで家族を楽しませようとしたのは事実である
それに思慮に欠けている訳でもないし、彼自身もちゃんとその辺の線引きはしている
マルス「で、今度はこっちから質問、なんで二人ともここへ来たの?」
先ほど一蹴された質問をもう一度問う、それに対して最初に口を開いたのがセリスだった
セリス「ロイから聞いたんだ、二人だけで後片づけしようとしてるって、
    でもやっぱり悪い気がしてさ、だからここに来たんだよ、手伝おうと思って」
リン「私も同じよ、あんた達だけに任せるってのも気が引けたから、
   セリスも同じだったようだから二人でまたビルに入ったわけ」
セリス「まあ…僕一人だったら入れなかったんだけど」
はは、と再び苦笑いをするセリス、同行者が居たからこれた、と言いたいのだろう
リン「そしたら急に大きな音が響いたわけ、当然気になるでしょ」
リーフ「あの音か…」
言わずもがな、マルスの最後の切り札で扉を吹っ飛ばした時に生じた轟音である
リン「そうよ、さすがに何事かと思うじゃない普通」
マルス「あー迂闊だった…まさか戻ってくる人が居るとは」

再び溜息をつくマルス、ハンカチでマスクをしていた所為で吐いた息がやけに暑く感じ、
いったんマスクを取り払う、リーフも今は不要かと判断し、マルスにならい一度外す
先ほどからずっと暗がりに居るリーフ、マルスに対し、今さっき入ったばかり、
かつリンのような野生の…いや、
肥えた目を持ってる訳でもなかったセリスはまだ目が慣れてなく、
暗めでうっすらとしか見えてなかったが、
布が擦れる音と何か自分の顔から取り除く様な動作はセリスに伝わったようだ
セリス「マスクしてたってことはやっぱり地下にいくつもりだったんだね」
リーフ「今更隠し通せもしないか…そうだよ」
まだ何をしに地下へ行くのかは聞いていないが、地下へ行くことだけは明確だった
わざわざマスクまでしてたし、開かないはずの地下への扉が開いている、これで言い訳できる方がおかしい
マルス「んで、どうするの? 僕達は地下にいかなければならないんだけど」
リン「ついて行くわよ」
即答だった、間髪入れず一言、ノーウェイト
マルス「…本気で?」
ある程度予想は出来ていたが、希望としては見ないふりをして欲しかったが…
リン「さすがに、ここまできて見ぬふりはできないわよ」
リーフ「ですよねー…」
やっぱりか、とマルスは後頭部をガシガシと掻く、まあ仕方ない
セリス「…僕もついていくよ」
マルス「え…?」
リンに関してはやはりこうなるだろうと思ったがセリスに関しては予想外だった
肝試し時の反応からいってこういったことは避けると思ったのだが
セリス「リン姉さんと同じ、見ないふりはもう出来ないし…
    それに、たまには勇を鼓してみようと思ってさ…」
どうやら何か思うところがあるらしい、その声には決意が含まれていた
マルス「…」
それに対して言葉を発することなく、もっていた袋を漁り
ある物を取り出し、ため息とともに二人に放る
リン「?」
セリス「これって…」
咄嗟に受け取ったそれはハンカチだった
マルス「予備で持ってきてたやつ、使うことはないと思ったんだけどね」
セリス「ありがと、使わせてもらうよ」
リン「気が利くわね」
二人とも受け取って早速装着する、一旦外していたマルスとリーフも着け直す
リーフ「じゃあ、そろそろ行こうよ」
マルス「はいはい…」
セリス「元気ないみたいだけど大丈夫?」
マルス「…」
無言を貫きながらマルスは地下へと足を運ぶ、その足がやや重く感じたのは気のせいではない

マルス(なるべく内密にやるよう言われてたんだけどなぁ…)
でも嘆いていても仕方ないか、と気を取り直し、
ハンカチがちゃんとマスクの役割を果たしている事を確認してから
マルスは地下へと続く階段の一段目を踏みしめた
マルス(まあ、二人とも口は堅い方だろうし、大丈夫かな)
カツーン、と靴音が響く、全く光が入らないこの暗闇の空間はどこまで続いているのだろう
暗い中で目が慣れてしまっているはずの自分でも次の二、三段目ぐらいまでしか見えない
はたと光が入らない事を思い出し、袋から懐中電灯を二つ取り出す
その内の一つを点け、もう片方を後続のリーフに手渡す、
一瞬何を渡されたのかと思ったリーフだったが、マルスの手に懐中電灯が握られていることで
同じ物を手渡されたのだと認識し、明かりを点ける
決して広くはない地下への階段、一段、また一段と降りるごとに視界を黒が塗りつぶしていく
その黒を手にしている懐中電灯の光が切り裂く
マルス「足下に気をつけて、僕が先行する、後ろの人は前の人の肩に手を置くかなにかした方がいい」
リーフ「わかった、じゃあ肩借りるね」
セリス「ひゃあ!? いきなり手をおかないで! リン姉さん!」
リン「あ、ゴメン…」
リーフ(こんなんで大丈夫かな…)
リーフはマルスの肩、セリスはリーフの肩、リンはセリスの肩に手を置きながら、
足を踏み外す可能性は十分にあるので、用心に用心を重ねて次の段を踏みしめる
リーフ「そうだ、マルス兄さん」
マルス「うん?」
リ―フ「そろそろ話してよ、地下へ何しに行くのか」
マルス「あ、そっか…」
思わぬ乱入者の介入で頭から飛んでしまっていた、自分の頭を小突き、マルスは口を開いた
マルス「ありがちかもしれないけど、極秘資料の入手」
リン「やけにあっさり白状したわね、さっきは語りたがらなかったのに」
マルス「さっきはまだ見ぬふりをしてくれる可能性があったからね、結局期待は裏切られたけど」
リン「ご期待に添えなくてすみませんね、それにしても定番ね、極秘資料か」
マルス「ちょっと前に家にサナキ社長から電話が来たでしょ? あの時に頼まれたんだ」
セリス「ああ、ミカヤ姉さんが電話取っちゃって、ちょっと慌ててたアレ?」
マルス「そう、秘密の計画だったからね、あの時はさすがに焦ったっけ」

――――――
肝試しをしようという計画を立てたのは約一週間前の事、
立案者であるマルス、リーフ、ロイは肝試しに使えそうな場所を探していた
マルスは持ち前の顔の広さを発揮し、どこかいい場所はないだろうかといろんな所へ聞いて回っていた
当たりが来たのが、ベグニオン社だった、廃棄してそのまま残っている廃ビルがあると教えられ
そこを借りられないかと頼み込んだところあっさりと了承をもらえたのだ
廃ビルにしてるだけあって、埃とかも溜まってるだろうし
水はもちろんのこと、電気もガスも何もかも止まってるし、
更にボロボロで危険かもしれないと言われたが、場所を借りられればなんでもよかったのだ
その時特別条件を押しつけられたりなどはなく、場所が決まり、
後は次の休日が来るのを待つだけとなった、休日でないと全員そろわないからである
そして、休日が訪れた、決行は昼をちょっと過ぎた頃の予定、
心待ちにしながら立案者三名が部屋でこっそり肝試しの仕掛けの準備に勤しんでいる時に
家の電話が鳴ったのが聞こえた、その時はただ、電話か、と軽く流していた…
――音が鳴り止んだ、誰かが取ったのだろう
そう思い、そのまま作業を進めようとした時だった
ミカヤ「え? 廃ビル…? 借りる? 話が良く…」
このとき聞こえてきた一家の長女の言葉でマルス、リーフ、ロイは部屋からすごい勢いで飛びだした
紛れもなく計画に関しての電話だったのだから…
極力怪しまれぬようマルスがミカヤから受話器を奪い、
ミカヤに関してはリーフが慎重に言葉を選びながら誤魔化すことが出来たのだ

さすがに電話の主が誰かは隠せなかったが…
ちなみにロイは部屋を飛び出した際に思い切り開けたドアが
たまたま通りがかったアルムに直撃し、吹っ飛んでしまったのに気づき謝罪をしていた
極秘資料の入手はその時に頼まれ、詳細を話すから一度来てほしいと言われ
マルスは騒動の始末をリーフとロイに頼み、一度外出したのだった
冒頭でマルスが外出していたのはそのためである
なるべく内密に行うことを同時に言い含められたのも、その時だ
――――――

リン「ミカヤ姉さんが突然で不思議がってたわね、リーフが誤魔化してたみたいだけど」
リーフ「ははは、正直、あの時は気が気じゃなかったね、マルス兄さんも慌てたのは珍しかった」
マルス「…」
リーフ「マルス兄さん?」
マルス「あ、ああ、うん、不覚にも取り乱しちゃったよ、あはは」
リーフ(?)
何か様子がおかしいと思ったが、リーフは特に気にしない事にした
マルス(なんだ…? この違和感)
肝試し開始前の一騒動を思い返したら、何か引っかかる感覚があった
足下を確認しながら考えるが思い当たる事が出てこない
セリス「そういえばここを手放してどのぐらい経ってるの?」
マルス「え? んーと…推測だけど、7、8年は経ってるかな」
思考の海に漬かりつつあったが、話を振られたため、一旦考えるのを中断することにした
考え事をしながら階段を下りるのも危険だったし
セリス「そんなに経ってたんだ、あくまでベグニオン社の廃ビルを使うとしか
    聞かされてなかったから知らなかったよ」
マルス「ああ、そうだったっけ」
リーフ「ん…そうすると、なんか今更すぎない? この廃ビル捨てて結構経ってるし、それに…」
マルス「資料庫のことだね?」
リーフ「うん、その通り」
3Fにあった資料庫の資料がほとんど持ち出されていた事を考慮すれば
今、極秘資料とも呼ばれている程のそんな大事な資料だけ忘れたとは考えにくい、
いくら地下への鍵が消失してしまったとは言え、合鍵作るなり、色々手段はあったはず
取りに行けないからあきらめる…という扱いで済まされないはずだ、大事なものだし
たまたま忘れたと言えばそれまでだが、資料だけでなく、
他の部屋も必要な物はほぼ持ち出されていたという事実から、その可能性は極めて薄い
リン「ふーん、資料庫があったのね」
セリス「なんだろう…本当にちょっとした疑問なのに、なんか気味が悪い…」
リーフ「大袈裟だなぁ、たかがよく知っている一企業のちょっとした行動の疑問じゃないか」
セリス「自分でもそう思うけどね…こんな場所でそんな話されると…さ」
リン「まあ、前向きな思考ができる場所ではないわね」
階段を下りていることで、すでに視界はほとんど黒一色で前の人の輪郭すら危うくなっている

リーフ「じゃあムード的に盛り上がってきたところで階段の途中ってことで一つ怪談話でも」
セリス「やめてー!!」
マルス「しょうもないギャグいれたね、さりげに」
リン「寒いわよ…」
リーフ「ゴメン、お詫びにちゃんと怪談話するよ」
セリス「お詫びになってなーい! というか僕の抗議無視しないでー!」
リン「まあ、話は面白そうじゃない、退屈だし、聞かせなさいよ」
セリス「ちょっ、リン姉さ…モゴモゴ」
丁度セリスの後ろにいる事を利用し、リンがセリスの口を塞ぐ
マルス「僕が先導してるから安心して話していいよ、僕もただ先導するだけじゃ退屈だし」
リーフ「大丈夫、言うほど怖くないから、その辺にありそうな話でしかないよ」
未だ抗議の声を上げようとするセリスだが言葉を発せない上に、
前の人…つまりはリーフの肩だが離すわけにもいかないので耳も塞げないという状況下で
半ば強制的にリーフの怪談話に付き合うことになった…
リーフ「ある学生の話、とある学校で奇妙な出来事に遭遇したんだってさ…」

―――
学校、それは今後の人生のための知識を得たり、心から信頼できる仲間を作る場所でもある
おそらく大抵の人は通うところであろう
ただ、知識を得る…平たく言えば勉強の事なのだが、嫌いな人も当然多く、
その学生も、勉強が嫌いな人のカテゴリに分類される学生だった
季節は秋が終り、本格的に冬に入ろうとしていた時期の事である
同級生が次々と帰っていく中、その学生は教室でノートに一心不乱に字を書いていた
勉強にやる気が出たわけではない、周りを見ると同じ事をしている同級生が他に三人ぐらい居た
…早い話が「居残り」である
理由としては必ず出さなければならない提出物を出していないという単純なもの
やろうとしていたのだが、完璧に忘れていたのだ
面倒くさい、と思ったが、これはやり忘れた自分が全面的に悪い、自業自得だ
一度そう認めると仕方ないか、と事実を受け入れ、不思議と集中する事が出来たという
集中力が高まったことが幸いしたのか割と早い内にその作業は終了、
早い内に、とは言っても本来の下校時刻を2時間は過ぎてしまっており、
先にも述べたが、季節はもうほとんど冬、当然ながら日が落ちるのも早い
窓から外を見るとかなり暗くなっていた、慌てて完成した提出物を担任に見せ、
期限内に出すよう少し注意を受けながらも、OKのサインを貰い、帰宅してよい事となった
自分の荷物を引っ掴み、横にスライドさせて開閉するドアを開け、廊下に出る
その学生の通っていた学校は3F建てで、自分の教室は3Fだった
…面倒な事に一番下駄箱に遠かった
廊下には電気が点いていなかった、他の教室を見ても明かりは点いていない
廊下にいるのは、今自分だけ…
暗い中に一人という状況にちょっと躊躇したが、廊下を通らねば帰れない
意を決し、やや早足で下駄箱へ向かうことにした…
3Fから2Fへ続く階段へ到着した、さっさと下りて帰ろうと階段を下り始めた
3Fから1Fまで階段は続いているのだ、ここを下りきってしまえば下駄箱は目の前だった
自分の足音だけがするというちょっと不安感を煽られる状況の中、
一段、また一段と階段を下りていく
2Fまであと3段、2段、1段…2Fへ到着した――その直後だった

――カカカカカカカッ!!

突如木製の打楽器を連打するような音が響いた、2Fの廊下に響き渡る耳障りな音だった
2Fの階段のすぐそこの教室から聞こえてくる
おかしい、とその学生は思った、この時間に他に人がいるはずがないし
何より、部屋に電気がついていない、仮に人がいるとして暗い中で何を?
正直なところ、不気味だった、さっさと1Fへ下りて帰りたかった
しかし不思議と足はその音がする教室へ向いていた
何をしてるんだ、と自分でも思ったが吸い寄せられるように足だけ動く
そしてとうとうその教室の扉の前にきてしまった
この先に何があるのか全くわからず、不気味な音源が目の前の扉の先にあるというのに
心は何も感じていなかった、恐怖も、不安も…
自分の意志で手を扉に伸ばし、取っ手に手をかけた、依然として音は鳴り続けている
力を込め、ドアを勢いよく開くと、そこには――

――何もなかった、人もいない、開けた瞬間音もピタリと止んでしまった
教室に足を踏み入れ、部屋の電気を点ける、やはり誰もいない
何だったんだろうと思ったが、とにもかくにも音の正体が気になった
あの木製の打楽器を連打するような音を奏でられる物をちょっと探してみた
どう考えても人が何かしている音ではない、
その学生の感覚だが一秒間に30連打ぐらいするような、けたたましい音だったのだ
早く帰りたかった事もあったので5分ぐらいの短い捜索だったが、
あんな音を立てられる様な物体は結局見つからなかった…

翌日、ひょんな事から謎の音を聞いた時と同時刻に
見周りの教師が問題の教室の二つ隣りの教室を見周っていた事を知った
謎の音を聞いたかどうか、質問してみたところ、そんな音は聞いていないとのこと
…あんなに大きく、けたたましかった音を?
ちなみにだがその時すでに問題の教室は見回って電気を消した後だったらしい
結局、何もわからず、その音は何だったのか、今もわからないままである――

リーフ「――終わり」
話が終わると同時にリンはセリスを解放した、
セリス「うぅ…全部聞いちゃったじゃん…酷いよ、リン姉さん」
リン「あはは、ゴメンゴメン」
マルス「学校って心霊スポットの代名詞だよね」
リン「そうね…学校行ってるとそういう話の一つや二つ聞いたりもするもの」
リーフ「ちなみに、怪談話すると…寄ってくるらしいよー?」
セリス「ホントにやめてぇー!!」
リン「ほらほら、幽霊なんて居ないわよ、落ち着きなさい」
セリス「僕もいないってわかってるよ、でも頭でわかってても嫌なものは嫌!」
ぶんぶんと頭を振り、今の話を忘れ去ろうとするセリス、
苦笑しながらリンが宥めている
リーフ(いない、と確信できないものが怖い…か)
一方リーフは目の前の…よく見えないが、マルスに視線を送っていた

――幽霊なんていないと思ってても、証明ができないのさ、
  それが人の幽霊に対する恐怖感みたいなものなんじゃない?

リーフの脳裏に肝試し前のマルスの言葉がよぎる
リーフ(まさしくその通りだね…)
今のセリスがまさにそれだった、おそらく心のどこかでは
幽霊がいるかもしれないと思っているのだろう、その事こそが恐怖なのだ
マルス「ん、階段の終わりだ、足元に気をつけて」
リーフ「了解」
セリス「あ、わかった…とりあえず気を取り直そう」
リン「先導、ありがとね」
全員が階段を無事下りきった、向って左に懐中電灯を向けると壁がある、
今度は目の前にも懐中電灯を向けるとそちらも壁
最後に右、階段を下りた先はまた廊下が続いていた
懐中電灯を廊下の奥に向けてみる、遠目に壁が見えた、どうやらそう長くはないらしい
リーフ「地下だからかな…少しひんやりした感じがするね」
セリス「単に薄気味悪いっていうんじゃないのコレ」
リン「…やっぱりお世辞にも空気はよくないわね」
リーフ「良かったら凄いって、さっさと済ませよ、マルス兄さん」
マルスから返事が返ってこない
リーフ「もしもーし」
今度は肩を揺さぶってみる
マルス「おっと…ゴメンゴメン、ボーッとしてた」
リン「しっかりしなさいよ、どうしたの」
マルス「だからボーッとしてただけだって、何もないよ」
リン「あっそ、とりあえずシャキッとしなさいよね」
マルス「はーい、じゃあ目指すは一番奥の部屋だからね」
セリス「よりにもよって一番奥…」
リン「目的地はわかったからライト貸しなさい、それまでに気合い入れときなさいね」
有無を言わさずリンはマルスからライトをひったくり、先導する
セリスがリンに追従し、マルス、リーフは後からついて行く形になる
リーフ「マルス兄さん、どうしたの? さっきから変だ」
前二人に聞こえない音量でマルスに話しかける
マルス「…そうだ君に聞いてみるか」
リーフ「ん?」
さっきから上の空なのは何か考え込んでたからか、と結論付け、リーフはマルスの質問を待つ
マルス「実はさっき、肝試しを始める前の一騒動を思い返してから何かスッキリしないんだよ」
リーフ「一騒動って、電話の時のアレ?」
マルス「うん…多分」
リーフ「多分って…スッキリしないっていうのは、引っかかる事があるってこと?」
マルス「そう、何か腑に落ちないんだ、心当たりはないかい?」
リーフ「んー…?」
腕を組み、しばし考えるリーフ、結論は…
リーフ「無いや、僕には何も思い当たらない、むしろ僕は違和感ないんだけど」
マルス「そうか、まあ、気のせいかな」
リーフ「気にしたら負け、とっとと用を済ませよ? 事を終えてから考えてもいいじゃない」
マルス「そうだね…今気にする事はないか、たまには良い事言うじゃない」
リーフ「それは貶してるのかな…?」
マルス「真っ向から貶してますが、何か?」
リーフ「うぉーい!」
人に訊いといてこの言い草である、マルスらしいといえばらしいが…