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Last-modified: 2007-06-15 (金) 22:30:43

通りすがりの……

 

~ある日の夕暮れ、主人公家にて~

ロイ   「ただいまー……あれ、シグルド兄さん。どこかに出かけるの?」
シグルド 「ん。ああ、ロイか。いやなに、ちょっと、夕飯のための買出しにね」
ロイ   「えっ、そんな、悪いよ、折角久しぶりの有給休暇でのんびりしてるっていうのに」
シグルド 「ははは、気にしなくていい。いつもはエリンシアに家事を任せきりなんだ。
      私は料理など出来ないが、せめて買出しぐらいは手伝わないとな」
ロイ   「うーん……分かったよ。それじゃ、僕も一緒に行く。荷物持ちぐらいなら手伝えるし」
シグルド 「そうか? じゃあ、着替えてきなさい。待ってるから」
ロイ   「うん、分かった」

ヘクトル 「あん、どうしたロイ、そんなに急いで」
ロイ   「シグルド兄さんが夕飯の買出しに行くっていうから、僕も手伝おうと思って」
ヘクトル 「……シグルド兄貴と?」
ロイ   「そうだけど……え、何かまずい?」
ヘクトル 「いや、まずいってことはないんだがな……なんつーか」
ロイ   「?」
ヘクトル 「大変だな」
ロイ   「え、何が……」
エフラム 「何話してるんだ、二人とも」
ヘクトル 「シグルド兄貴と出かけるんだとよ、こいつ」
エフラム 「……本当か?」
ロイ   「……あの、何かあるの?」
エフラム 「いや……俺から言えることはただ一つだけだ。死ぬなよ?」
ロイ   「え……」
ミカヤ  「ロイ、シグルドと出かけるって、本当?」
ロイ   「そ、そうだけど……」
ミカヤ  「頑張ってね。どんなことがあっても、くじけちゃ駄目よ」
ヘクトル 「気合入れてけよ」
エフラム 「無事に生還できることを祈ってるぞ」
ロイ   「な、なんなのさもう……三人で、僕をからかってるの?」
シグルド 「おーい、ロイー? どうした、何かあったのかー?」
ロイ   「あー、ううん、今行くよシグルド兄さん! ……じゃ、行ってきます」

シグルド 「うむ、この辺りに買い物に来るのも久しぶりだな」
ロイ   (何なんだろう、一体……気になるなあ)
シグルド 「思い返せば紋章町もずいぶん変わったものだ」
ロイ   「……ねえ、シグルド兄さん。兄さんって、誰かに恨みを買ってるとか、そういうことはないよね?」
シグルド 「? どうした急に」
ロイ   「いや……何となく、なんだけど」
シグルド 「ははあ、なるほど……いいかロイ、確かにウチは貧乏だが、私はお前達を養っていくためとは言っても、
      不正をしたことは一度としてないぞ。そんなことをして稼いだお金でご飯を食べてもおいしくないだろう」
ロイ   「あー、うん、そうだね。いや、でも別にそういう意味じゃ……」
シグルド 「おおロイ、スーパーが見えてきたぞ。いや懐かしいな、最近ではすっかり来る機会もなくなっていたし」
ロイ   (まあ、シグルド兄さんに限って、誰かの恨みを買って……ってことはないよね。でも、だとすると……)

シグルド 「うむ……ロイ、この『ネギ』というのは普通に『ネギ』でいいんだな? 『タマネギ』の略とかでは……」
ロイ   「いや、大丈夫だよ、エリンシア姉さんそんな変な癖ないから」
シグルド 「そうか。ではこの長ネギを買っていけばいいのだな」
ロイ   (まあ確かに買い物慣れしてない感じはするけど、別にヘクトル兄さんたちみたく騒ぎを起こす訳でもないし……)

レベッカ 「三千六百二十五Gになりまーす」
シグルド 「……おおロイ、うまいことぴったりの金額で払えそうだぞ」
ロイ   「良かったねシグルド兄さん」
シグルド 「うむ。いちいちお釣りをもらっていてはなかなかレジが回転しないからな」
レベッカ 「あのー」
シグルド 「ああ、これは失礼した。では、三千六百……」
ロイ   (別に、スーパーのレジで値切りを始める訳でもないし……)

シグルド 「大丈夫かロイ、重くないか」
ロイ   「大丈夫だよ兄さん」
シグルド 「うむ。ロイもすっかりたくましくなったな。兄さんは嬉しいぞ」
ロイ   (うーん、一体何が問題なんだろう……まあ、何事もないに越したことはないけど)

 と、曲がり角を一つ曲がった先で

ノール  「ヘルプミーッ!」
リオン  「助けてーっ!」
ロイ   「うわぁ、見知らぬお兄さん二人が亡霊戦死の群に押し潰されているーっ!?」
シグルド 「おお、これは大変だ。ロイ、ちょっと買い物袋を持っていてくれ。わたしはあの二人を助ける!」

 幸いにも亡霊戦士はシグルドが一発殴れば消滅したため、大した怪我もなく全滅させられた。

シグルド 「いやあ、召喚実験の失敗とは、やはり学者というのは大変な職業だな」
ロイ   「……まあ、研究の種類にもよると思うけど。でも、凄いねシグルド兄さん」
シグルド 「ん、何がだ?」
ロイ   「いや……よく、あんな迅速に助けに入れたね? 僕、一瞬何がなんだか分からなくなっちゃって」
シグルド 「そんな大したことじゃない。何というか、慣れてるからな」
ロイ   「……慣れてるって」

 と、また曲がり角を一つ曲がった先で、

エーディン「いやーっ! けだものーっ!」
ゲラルド 「ゲレゲレ(笑い声)」
ロイ   「うわぁ、どこかで見たことのある女の人が蛮族の国に連れ去られようとしているーっ!?」
シグルド 「おお、これは大変だ。ロイ、ちょっと買い物袋を持っていてくれ。わたしは彼女を助ける!」

 幸いにも、近くを歩行中だったマチスから馬を徴発できたため、シグルドは十分もかからずにエーディンを奪還できた。

シグルド 「いやあ、またもやさらわれるとは、エーディンも大変だな」
ロイ   「……知り合いなんだね、あの人」
シグルド 「ああ、わたしの古い知り合いでな。よくさらわれては友人達と一緒に取り返したものだ」
ロイ   「変な人……それにしても、今日はよく厄介事に遭遇する日だね」
シグルド 「そうか? これぐらいは日常風景だと思うが」
ロイ   「え? いや、そんな馬鹿な」

 と、またまた曲がり角を一つ曲がった先で、

レテ   「だ、誰かーっ! 妹が深い川に落ちてしまったーっ!」
リィレ  「助けてーっ! 猫は泳ぎが苦手なのよーっ!」
ロイ   「うわぁ、ちょっと抜けてそうなお姉さんがどんどん下流に流されていくーっ!?」
シグルド 「おお、これは大変だ。ロイ、ちょっと買い物袋を持っていてくれ。わたしは彼女を救い上げる!」

 幸いにも、シグルドは泳ぎが得意だったので難なくリィレを助けることができた。

シグルド 「いやあ、この川はよく人が落ちるなあ」
ロイ   「え……そうなの?」
シグルド 「ああ。わたしはかれこれ……そうだな、五十七回ほどこの川に落ちた人を助けたことがあるぞ」
ロイ   「そ、そんなに!?」
シグルド 「うむ。妙な話だ、ちゃんと柵もついてるのにな。まあ、たまたま私がその現場に通りかかるので、
      今まで死者は出ていないし、大きな事故として取りざたされることもないようだが」
ロイ   (……読めてきた! そうか、これがヘクトル兄さんたちが僕を止めた理由か……!)
シグルド 「どうしたロイ、急に立ち止まって……む?」
ロイ   「……なんか、曲がり角の先が赤く光ってるね……それに、この臭い……ひょっとして」

 と、三度目の曲がり角を曲がった先で、

パルマーク「火事だぁーっ!」
ロイ   「うわぁ、予想通りどこかの孤児院が天を焦がさんばかりに燃え盛っているぅーっ!?」
パルマーク「ああ、まだ子供達が五人も中に取り残されているというのに……!」
シグルド 「おお、これは大変だ。ロイ、ちょっと買い物袋を」
ロイ   「って、シグルド兄さん、まさか助けに入るつもりなの!?
      消防士さんだっているんだし……第一、危険だよ、見なよこの凄まじい炎!」
シグルド 「ああ、よく見えているとも。だからこそ、わたしは行くのだ」
ロイ   「ど、どうして!?」
シグルド 「無論、この中にいるのであろう子供達を助け出したいという気持ちもある、が」
ロイ   「が?」
シグルド 「ロイ……兄さんはな、生まれてこの方、火事を見るとこう、腹の底から怒りが湧いてくる人間なんだ。
      燃え盛る炎を見ていると、『わたしは絶対に炎などに身を焼かれはしない!』と証明したくなるんだよ。分かるな?」
ロイ   「いや、正直全然分からないんだけど」
シグルド 「とにかく、わたしは行く! 大丈夫だ、先程川に飛び込んだおかげで全身水浸しだしな!」
ロイ   「そ、そういう問題じゃ……ああ、行っちゃった……!」
パルマーク「おお……! なんと勇気のあるお方だ……!」
カイン  「この場合はどちらかと言えば蛮勇なのではないのか、アベル」
アベル  「いや……そうだとしても、こんな炎の中に突っ込むなど、生半可な覚悟で出来ることではない……!」
ロイ   「兄さん……!」

 十数分後

消防士  「だ、駄目だ! 家が倒壊する……! 一般市民の皆さんは離れてください! ここは危険です!」
パルマーク「ああ、孤児院が……! わたしの子供達が……!」
ロイ   「に、兄さーっん!」
カイン  「クッ……ひどい有様だな。あの人は死んでしまったのか……」
アベル  「……! いや、あれを見ろ!」

 アベルの指差した先には、燃え盛る炎の中から、何かを抱えてゆっくりと歩いてくる人影が。

ロイ   「兄さん!」

シグルド 「すまないロイ、心配をかけたな」
パルマーク「お、おお、よくぞご無事で……! 子供達は……」
男の子  「うわーん!」
女の子  「院長せんせーっ!」
シグルド 「五人とも、全員無事です。ほんの少しだけ火傷を負わせてしまいました、申し訳ありません」
パルマーク「そ、そんな! あなたこそ、全身煤けてしまわれて……」
シグルド 「ご安心ください、傷は一つも負っておりません」
ロイ   「ほ、本当なの!?」
シグルド 「ああ……言っただろうロイ、わたしは炎などには絶対に負けはしない!」
ロイ   「あくまでもそこにこだわるんだ……」
シグルド 「さて、帰ろうか。すっかり遅くなってしまったからな」
パルマーク「お、お待ちください、せめてお名前を……!」
シグルド 「名乗るほどの者ではありません」
パルマーク「し、しかし……!」
シグルド 「なに、ただの通りすがりのサラリーマンですよ。さあ行こう、ロイ」
ロイ   「う、うん……」

ロイ   「……とまあ、こういう訳で……」
ヘクトル 「ははは、災難だったな、ロイ」
エフラム 「運がなかったな」
ミカヤ  「ううん、むしろ、その程度で済んで良かったと考えるべきかも」
ロイ   「やっぱり皆は知ってたんだね、シグルド兄さんがやたらと騒動に巻き込まれやすい体質だってこと」
ミカヤ  「んー……というより、劇的な場面に出くわしやすいって言ったほうがいいと思うわ。
      以前占った結果では、シグルドはそういう二転三転する運命に翻弄される人生を送ることになってるんだって。
      だから、日常生活でもあれこれと変な出来事に遭遇しやすいのね」
ロイ   「はあ……でも、エリンシア姉さんは知らないんだねそのこと。買い物に行かせるぐらいだし」
ヘクトル 「知ってるのは俺らとアイク兄貴ぐらいのもんだぜ。他の連中がそんなこと知ったら、
      絶対シグルド兄貴を外に出さねえだろうからな」
ロイ   「なるほど……」
シグルド 「ああ、いい湯だった。おお、どうした皆、何の話をしてるんだ? 良かったらわたしも混ぜてくれ」
ミカヤ  「……まあ、本人はその辺無自覚なんだけどね」
ロイ   「それは見てれば分かるよ……」
シグルド 「? 一体何の話……」

 トゥルルル、トゥルルル、トゥルルル……

エリンシア「はいもしもし……ああ、アルヴィスさん。いつも兄がお世話に……
      兄ですか? ええ、おりますが……はい、少々お待ちください。お兄様、アルヴィスさんからお電話ですわ」
シグルド 「なに、アルヴィス課長から? ……はいもしもし……なんですって、ディアドラが!?」
ロイ   「……? どうしたんだろ……」
シグルド 「……分かりました、わたしもすぐに参ります……では(ガチャン)
      すまない皆、わたしはちょっと出かけなければならなくなった」
ロイ   「ええ!? ど、どうしたの急に!?」
シグルド 「ディアドラがさらわれたらしい……いや、詳しく説明している暇はない。すぐにでも出かけなければ……!」
ロイ   「で、でもそれは警察の仕事じゃ……」
シグルド 「そんなものを待ってはいられん。自分達で探しに行った方が早い! では、行ってくる!」
ロイ   「ちょ、シグルド兄さ……ああ、行っちゃった」
ミカヤ  「……本当、トラブルには事欠かない体質よね……」

<おしまい>