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Last-modified: 2007-06-15 (金) 22:19:40

ひみつきち

 

エフラム 「ただいま……ああ、ちょうどいいところにいたな、三人とも」
ヘクトル 「あん?」
リン   「なに?」
エリウッド「どうしたの?」
エフラム 「いや、今日、ミルラとチキとファを連れてちょっと遠出したんだが」
リン   「相変わらずベビーシッターやってんのね、エフラム兄さん」
エリウッド「お疲れ様、エフラム」
ヘクトル 「ケッ、顔に似合わねえことしやがって」
リン   「あら、エフラム兄さんは結構顔はいいし、少なくともヘクトルよりはそういうのが似合ってると思うけど?」
ヘクトル 「チッ、言ってやがれ」
エフラム 「……話を続けるぞ。で、帰り道、ラウスの辺りを通ってな」
ヘクトル 「ラウス……っていうと」
リン   「あー、懐かしいわねえ」
エリウッド「そう言えば、昔はよくあの辺りに遊びにいったね」
ヘクトル 「おう。あの辺の陣地をエリックから奪い取ったのが俺らの初戦果だよな」
リン   「あんたってあのころから今と似たようなことやってたのね」
ヘクトル 「何言ってんだ、あのころはお前も一緒になってエリックの奴を叩きのめしてたじゃねえか」
リン   「え、そうだっけ?」
エリウッド「そうだよ……エフラムも一緒にね。僕はいつも止める側だったけど、もちろん三人を止められるはずもなく」
エフラム 「それでな……皆、秘密基地のこと、覚えてるか?」
ヘクトル 「あー……おーおー、あれな!」
リン   「これまた懐かしい単語だわね」
エリウッド「いろいろ持ち込んで遊んだっけ」
エフラム 「ああ。留守中にエリックたちの襲撃を受けて壊されても、何度も建て直したものだ」
リン   「うんうん……で、それがどうしたの?」
エフラム 「久々に行ってみないか、あの場所に」
ヘクトル 「お、いいねえ。まだガキが使ってんだろうな、あそこ」
リン   「でも、大丈夫かしら。結構遠くなかった? 夕飯までには帰ってこないと……」
エフラム 「いや、それが……まあ大丈夫だろう。それは保証できる」
エリウッド「じゃ、早速行ってみようか」

エリンシア「あら、四人揃ってお出かけ?」
ミカヤ  「最近じゃ珍しい組み合わせね……どこへ行くの?」
エリウッド「うーん……」
リン   「姉さんたちには秘密、よね?」
ヘクトル 「ははっ、ま、当然だな」
エフラム 「俺達だけの秘密だからな。じゃ、行ってくる」
ミカヤ  「……何あれ」
エリンシア「ふふっ……なんだか懐かしいですわ。
      皆、昔はあんな風に揃って悪戯ッ子の顔で、外に飛び出していったものです」
ミカヤ  「あー……そう言えば、そうだったわね。あの子達、出かけるたびに泥だらけになって帰ってきて」
エリンシア「服はもちろん、体を洗ってあげるのも大変でしたね……『風呂なんか面倒くさい』なんて言っちゃって」
ミカヤ  「素直に入ってくれるのはいつもエリウッドだけだったわね……
      そう言えば、リンもあのころはほとんど男の子みたいだったっけ」
エリンシア「そうそう! 何故だか無闇にヘクトルちゃんやエフラムちゃんの真似をしたがって、
      『あたし、一生お風呂になんか入らないもんね! べーっだ!』なんて舌出して」
ミカヤ  「ふふ……今のリンが聞いたら顔しかめそうな台詞……あれ?」
エリンシア「どうしました?」
ミカヤ  「……なんか、ヘクトルとエフラムとリンが三人並んで、わたしに向かって
      『やーい、ババア、年増、若作りーっ!』って言ってる記憶が……」
エリンシア「あ、それ、私もよく言われましたよ」
ミカヤ  「……で、言ったあとに、三人揃って『お尻ペーンペーン!』なんて?」
エリンシア「そうでしたわね。あのころはそれで本気で怒ったりもしましたっけ」
ミカヤ  「ふふふ……あの子たちも、手を焼かせる悪ガキ揃いだったわね」
エリンシア「本当に……ロイちゃんやセリスちゃんは、そういうところなんて全然なかったんですけどねえ」
ミカヤ  「そんなあの子たちも、今や立派な高校生か……時間が過ぎるのって早いわね……」
エリンシア「……さ、我が家の腕白さんたちのために、おいしい夕食を作ってあげないと、ね」

ロイ   「それでさ……あれ、リン姉さんたちだ」
エイリーク「兄上方……こんな時間にどこかへお出かけですか?」
ヘクトル 「おう。そっちはお使いと」
エフラム 「ヴァイオリンの稽古の帰り、ってところか」
ロイ   「うん、まあね」
エイリーク「それで、皆様は、どちらへ?」
エリウッド「えーと、こういうときは……」
リン   「だーめ、教えてあげない!」
ロイ   「え?」
エイリーク「どうしてですか?」
ヘクトル 「そりゃ、ロイはガキだし」
エフラム 「エイリークはいい子ぶりっ子だからな。ま、大人しく家で遊んでるんだな」
エリウッド「ははは……ごめんね二人とも」
リン   「じゃあねー」
ロイ   「……何の遊びかな、あれ」
エイリーク「……ふふ、何だか、昔に戻ったみたいですね」
ロイ   「え? ……あー、確かにそうかも。あの四人、昔はいつもあのメンバーで出かけてたっけ」
エイリーク「何故だか私だけは仲間に入れてもらえなくて、ちょっと寂しかったりもしましたね」
ロイ   「僕も、いつも『ぼくも連れてって』なんて言って、
      そのたびに『駄目だ』って返されて、いじけてた気がするよ」
エイリーク「……でも、いつの間にかそういうこともなくなってましたね」
ロイ   「そうだね。リン姉さんはいつの間にか女の子のグループに入っちゃったし、
      ヘクトル兄さんとエフラム兄さんもちょっとずつ進む道が違ってきて……
      エリウッド兄さんは昔から大人しかったから、あんまり変わった感じしないけど」
エイリーク「……」
ロイ   「わわ、どうしたのエイリーク姉さん、急に手繋いだりして」
エイリーク「ちょっとね、思い出したんです」
ロイ   「何を?」
エイリーク「あのころ、兄上たちから仲間はずれにされるのが寂しくて……同じように、リーフやマルス、セリスが遊んでるところに
      加われずにいるロイと、二人きりで遊んでいたなあって」
ロイ   「そ、そうだっけ……ごめん、よく覚えてないや」
エイリーク「いいんですよ。ふふ、ロイも、あのころとあまり変わらず、素直ないい子ですね」
ロイ   「はは……なんかむずがゆいよ、その言い方」
エイリーク「……さ、家に帰って、兄上たちが泥だらけになって帰ってくるのを、二人で待っていましょうか」
ロイ   「うん、エイリーク姉さん」

ヘクトル 「おー、この辺も結構変わったなあ」
リン   「用事もなかったから全然来る機会がなかったもんね、最近は」
エリウッド「それでも、見覚えのある建物もたくさんあるね」
エフラム 「ああ……はは、見ろ、まだあったんだなあの柿の木」
リン   「柿の木……って言うと、よく柿盗もうとして登ったあれ?」
エリウッド「あそこのお爺さんに追い掛け回されるの、いつも僕の役目だったっけ」
ヘクトル 「うおっ、懐かしいな……ん? あの木、あんなに低かったか?」
リン   「……それに、この辺りも。昔は自転車使っても遠く感じたのにね。実際は歩いて十分そこら、か」
エリウッド「こんなに近いだなんて、思わなかったなあ」
エフラム 「……ちょっと、あそこの家の爺さんに挨拶してくるか。久しぶりだしな」
ヘクトル 「お、いいねえ」
リン   「またあそこの柿、食べたいわね」
エリウッド「大抵渋いけど、何故だか食べたくなるんだよね、あれ」

エフラム 「……」
ヘクトル 「……ちぇっ、殺してもくたばらなさそうな、元気すぎる爺さんだったのによ」
エリウッド「五年前、か。そんな昔に亡くなっていたなんて……」
リン   「……柿、前と違って熟れてておいしいわね」
エフラム 「そうだな……ああ、確かあそこの角を曲がったところじゃなかったか」
ヘクトル 「秘密基地の原っぱか……! おおそうだそうだ、覚えてるぜ」
リン   「早く、行ってみましょ!」

ヘクトル 「……」
エリウッド「……マンションになっちゃってる、ね」
リン   「……何となく、こういう予感はしてたけど」
エフラム 「跡形もないな、これは……」
ヘクトル 「おうおう見ろよ、あのガキども、マンションの遊具なんかで遊んじまってよ」
リン   「いいじゃない、別に」
ヘクトル 「ばっか、ガキが自分の手で基地も作らねえでどうすんだよ。
      あーあ、やだね最近のガキは。誰かに何か用意してもらわねえと遊ぶことも……」
エフラム 「……いや、待て」
エリウッド「二人とも、見てみなよ。あの駐車場の隅の、木立の影」
ヘクトル 「あぁ……? おっ」
リン   「……あっ、ひみつきち!」
エフラム 「……ダンボールで組み立ててあるな」
エリウッド「なるほど。あの場所なら、マンション側からは見つからないね」
ヘクトル 「へへっ……なかなかやるな、最近のガキも」
リン   「はは……基地っていうかボロ小屋って感じだけど」
エリウッド「僕らのだって似たようなものだったじゃないか」
エフラム 「……それでも、あの子供らからは、あれが立派な基地に見えてるんだろうな」
エリウッド「……ははっ」
ヘクトル 「……へっ」
リン   「……ま、そうよねきっと」
エフラム 「……さて、そろそろ帰るとするか」
エリウッド「そうだね。ああ、もう空があんなに赤いよ」
リン   「カラスが鳴くからかーえろっ、てね」
ヘクトル 「うわ、懐かしいな。それ聞いたら急に腹が減ってきやがったぜ」
エリウッド「今日の夕飯何かなあ」
リン   「早く帰らないと夕飯抜きになっちゃうわね」
エフラム 「……よし、久々に家まで競争するか」
ヘクトル 「はあ? オイオイお前、俺ら何歳だと思ってんだ、いくらなんでも」
エフラム 「別に、お前はやらなくてもいいぞ? デブのヘクトルじゃ、俺の足には追いつけないだろうからな」
ヘクトル 「あ、言いやがったなテメエ! よっしゃ、んじゃ家まで競争だぜ!」
エフラム 「望むところだ」
エリウッド「やれやれ、こういうところはちっとも変わって……」
リン   「ちょっと待って。その勝負、わたしも混ざるわ」
エリウッド「……そういや、あのころは君もそうだったっけね」
ヘクトル 「おら、合図出せよエリウッド」
エフラム 「いつでもいいぞ」
リン   「どんときなさい!」
エリウッド「はいはい。それじゃ、よーい、どん!」

エリウッド「はははは……皆全力出してるよ。ひ弱な僕のことも少しは考えてほしいなあ」
ヘクトル 「おいエリウッド、何やってんだ!」
リン   「早くしないと置いてくわよーっ!」
エフラム 「皆揃って戻らないと叱られるじゃないか」
エリウッド「はいはい、今行くよ。
      ……皆の背中を追うこの位置は、昔も今も変わらない、か。
      いや、ずっとそうなんだろうな。昔も今も、これから先も、ずっと」

<おしまい>