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Last-modified: 2011-06-01 (水) 22:25:30

124 :カレーうめぇ:2009/09/27(日) 05:10:55 ID:lQQ2fxEw

香辛料のスパイシーな香りが漂う部屋でアイクはカレーを食っていた。
この辛味がたまらん。食欲を誘う。なんか食えば食うほど腹が減ってくる気すらする。
皿いっぱいのカレーにちぎったナンをつけて口に運ぶ。
辛味が舌をくすぐり、スパイスが口の中に広がる。
なぜアイクがカレーを食べているのか、その理由は5時間ほど前にさかのぼる。

~5時間前~

アイクはマレハウトで落石をラリアットで跳ね返していた。
これも修行だ。
「むぅん!ぬん!ぬおお!」
豪腕に跳ね返された巨岩が空の彼方まで飛んでいく

グシャッ!コノヒトデナシー!

なにか聞こえた気もするが気のせいだろう。
やがて昼になる。
「腹が減ったな、弁当にするか」
エリンシアが持たせてくれた弁当を広げる。
色々入っておりどれも美味そうだが、特に鶏のから揚げが目を引いた。
「肉だ…」
笑顔で食う。

125 :カレーうめぇ:2009/09/27(日) 05:13:08 ID:lQQ2fxEw

弁当を食い終えて立ち上がる。食い足りない。もっと何かもってくればよかった。
「さてもういっちょういくか」
再び落石に立ち向かう。
その時風が吹き始めた。どこからかカレーの香りが漂ってくる。
「む、こんな山の中にカレーがあるのか」
ちょうど食い足りなかったところだ。
アイクはカレーを求めて岩山を歩いていく。

カレー屋マラドの店主フリーダは溜息をついた。
「はぁ…失敗だった…場所くらい見とくんだった…」
父の友人ボルトアクス将軍から山小屋を譲ってもらって開店したはいいが、まさかこんな人跡未踏の危険地帯だとは思わなかった。
店を畳むべきだろうか。
「仕込みどうしよ…」
とりあえず客が来た時に備えてカレーを仕込んでおいたのだが、開店2ヶ月、熊が出た以外まだ誰もこない。
自分で食うしかなさそうだ。
その時店の扉が開いた。
「うわぁ!?熊だ!」
入ってきた大きな影に、とっさに手槍を投げつける。
「ぬん!」
その大男は手槍を軽く弾いた。
「あ、すみません、遭難者の方ですか?」
人間だとは思わなかった。
山岳救助隊に無線を入れよう。それにしても手槍が刺さらなくてよかった。
「カレーを食いにきた」
「は?」
自分の聞き間違いだろうか。どこの世界にこんな岩山の果てにカレーを食いに来る人間がいるのか。
「カレーを食いにきた」
「い、いらひゃいませ!」
噛んでしまった。初めていうセリフだもん。

126 :カレーうめぇ:2009/09/27(日) 05:15:14 ID:lQQ2fxEw

(掃除しといてよかった…)
ほっと胸を撫で下ろす。どうせ客など来ないと思い、このところ3日に一度くらいしか掃除してなかったのだ。
しかしこの男何者だろう。
巨体でテーブルに向かってメニューを見ている。
メニューには本場のカレーの名前が並んでいる。
「ううむ、肉入りカレーはどれだ?」
「キーマやマトンになりますけど」
「じゃあそれを頼む」
仕込んどいてよかった。さっそく用意する。
皿に盛り付け、ナンとサラダを添える。
タンドリーもおまけした。自分だけじゃ食べきれないし腐らすのももったいない。
「お、おまちどおさま…」
店を構えてから初めてのお客だ。ガチガチに緊張しながらカレーを運ぶ。
「まちかねた」
香辛料の香りってのはどうしてこう食欲を誘うのか。
アイクは喜んでカレーを食う。
ガツガツと。
「ナンがなくなった。もう一枚頼む」
「は、はい」
すぐに用意する。ぶっちゃけ余ってるし。

その時再び扉が開いた!
「え!?一日に2人もお客さんが!?」
今度のお客は大男とは対照的な華奢な少女だ。こんな難所にどうやってきたのだろう?
大男が声をかける。
「ん、イレース、あんたも食いにきたのか?」
「あ…アイクさんとおいしそうな香りがしたので…」
イレースはアイクの向かいの席に座った。
「私にも…メニュー全品ください…」
そんな無茶な!?…というか全種類は準備してませんでした。すみません。お客くると思わなかったもんで。
「す…すみません…仕込みの関係で、全部は準備してないんですが…」
「じゃあ出せるだけお願いします」

127 :カレーうめぇ:2009/09/27(日) 05:17:52 ID:lQQ2fxEw

こうして2人はテーブルにならんだカレーをひたすら平らげていく。
カレーの香りが店内を満たし、2人のお腹を満たしていく。
だが、食欲を誘うこの香りに食えども食えども終わりがない。
もともと終わりの無さそうな2人だが。
「「おかわり」」
「は…はいただいま」
こんなに食って大丈夫なのかという気になるが、まだまだ余裕そうだ。
しかしなんだか幸せな気持ちになる。
美味そうに食べてもらったほうがカレーも料理人も幸せというもの。
フリーダは暖かな気持ちで2人の食いっぷりをながめるのだった。

「「おかわり」」
「すみません、もう材料切れです」
ほとんど仕入れていなかった。まぁ無理もないが…
「そうか残念だ、美味かった」
「…ごちそうさま…もっと食べたかったです…」
「次はもっと仕込んどきますんで、またよろしくお願いします!」
その言葉にパッと笑うイレース。
2人は会計をすませると仲良く去っていった。
「……嬉しそう…店畳まなくてよかったかな」
フリーダはさっそく仕入れのために山を降りる。

それから時折、修行中のアイクと、香りにつられて現れるイレースは向かい合って
カレー屋マラドでカレーを食べている。

3人にとっての至福の時間だ。
そしてイレースにとっても、アイクとカレーに囲まれてささかな幸福を感じる瞬間だ。
この幸福は何にも代えがたいものである。
(アイクさんとカレーで胸いっぱい…)

終わり