21-525

Last-modified: 2011-06-01 (水) 23:25:12

525 :助けて!名無しさん!:2009/10/24(土) 15:41:49 ID:w5DzJHOU
「お兄ちゃん、今日も頑張ろうね!」
雀の声も太陽の光もないが、朝だった。
雀の声の代わりにガーゴイルの声、太陽の光の代わりにネレラスからの火山灰が降って来ているが、朝には違いなかった。
「ああ。今日は他には誰もいないからな。マギ・ヴァルの復興作業は特に難しいだろう」
ネレラスが噴火したのはかなり昔のことに思えてくるが、実際は先日のことだ。
どこかの誰かが砂漠で拾ったボルガノンの練習をしたせいで噴火が起こったと報道されている。
そこまで分かっていながら実名の報道がされていないあたり、かなり高貴な血筋の人間なのだろう。貴族は案外馬鹿だ。
「誰がやったかは知らんが、随分と傍迷惑だな。そうは思わんか、ミスト?」
赤い衣装の幼女社長を思い浮かべたところで、アイクが話を振ってきた。
「まあ、そうだけどね……。実際、迷惑なだけじゃないかもしれないけどね」
アイクはきょとんと首をかしげた。
こういう仕草を見ると、変わらないなあ、と苦笑してしまう。
昔から、アイクにもったいぶった発言をすると大体こうやって首をかしげるのだ。
……ジルなどは、この外見でその仕草をされることで、凄まじいショックを受けていたものだが。
「ほら、仕事が入って、工務店が儲かるし」
アイクの顔が、少し剣呑な表情を帯びた。
「死人も出てるんだがな。少し不謹慎だぞ、ミスト」
「死人が出たって、クロード神父が儲かるくらいでしょ。不謹慎っていうんなら、死人で商売してるあの人に言ったほうがいいと思うけどな」
「むう……」
言っているのは明らかに正論なのだが、こうやって簡単に言いくるめられてしまうあたり、考えが足りないと思う。
「あ、こんな話してる場合じゃないんだってば。不謹慎がどうこうっていうんだったら、ちゃっちゃと材木を運んじゃってよ」
「ああ、分かった」

ルネスやカルチノに降り注ぐ火山灰を大天空竜巻やソニックソードで吹きとばしたり、
ロストンの壊れた家やラグドゥ遺跡の深層あたりを建て直したり、
ポカラの里に襲来したドラゴンゾンビの群れをなぎ倒したり、
グラドを襲った地震を拳一つで打ち消したり、
ネレラスの火口で溶岩風呂修行をしているうちに数日が経った。
「そろそろ仕事も終わりかな」

526 :助けて!名無しさん!:2009/10/24(土) 15:43:24 ID:w5DzJHOU
「だろうな。これ以上地震や魔物の襲来がなければ、あと半日もあれば終わるだろう」
とはいっても、普通の工務店なら10年以上かかる仕事だ。そもそも、地震が来ても魔物が来てもラグネル一つで全部解決だろう。
「相変わらず作業効率がおかしいよね、お兄ちゃんって」
「そうか? 普通だろ?」
流石に引いてしまった。
山ごと材木を採ってきたり深海から石材を採って来たりすることが普通なら、この世には機械なんて生まれなかっただろう。
「お兄ちゃんって、全裸で滅びの風を食らっても生き残れそうだよね」
「実際、食らったことはあるしな」
「あるの!?」
というより、世界樹の迷宮が実在していたことのほうが驚きだ。
「まあ、冗談だがな」
「騙された!」
なんだか無力感。
アイクに弄ばれているというのは、少し屈辱だ。
「どうした、顔色が悪いぞミスト」
「いやもう……もういいや」
意趣返しか。
まあ、こういうやり取りも嫌いではないが。
「ねえ、お兄ちゃん。自分が変わってるって思ったこと、無い?」
「無い。努力すれば、誰だってこうなれるだろう。俺だって、元はそんなに強くなかった」
「そこまで努力できる人なんて、そうそういないと思うよ?」
「努力なんて、できるできないの問題じゃないだろう」

527 :助けて!名無しさん!:2009/10/24(土) 15:44:10 ID:w5DzJHOU
「じゃあ、何?」
「やるか、やらないかだ」
これだ……。
本気でそう思い込んでいるのだから、救いがない。いや、むしろ救われているのか。
誰もが人外になりうるという生き見本。どんなに弱くても強くなれるという生きた希望。
惹かれるのも仕方がないというものだ。
などと思っていると、不意にアイクの含み笑いが聞こえた。
「どうしたの?」
「いや……こうやって、腹を割って話すのは久しぶりだと思ってな」
「ミカヤさんとか、シグルドさんとかとはできないの?」
「気恥ずかしくてな。俺には出来んよ。その点、お前なら安心できるからな。気恥ずかしくもないし、秘密を握られて困る相手でもない」
何故だろう、今マルスやリーフに対しての本音が聞こえた気がする。
というより、何だろう、この雰囲気は。
まるで、告白でもされるかのような――
「そばにいてくれるだけで安心できる。だから、ずっと傍にいて欲しいと思っている」
「え……ちょっと、冗談で言うことじゃないでしょ、お兄ちゃん」
「冗談なんかじゃない。本気で傍にいてほしいと思っているぞ、友人として。……どうした、何故そんなに残念そうな顔をする」
「いや……予想通りの落ちで、意外性とか皆無だなあ、って思って」
「相変わらずずけずけとものをいう奴だな。まあ、」
そこがいいところだと思うがな。
ああ、やっぱり。
この男は、殺し文句を送るのが最高に上手い。