182 名前: 白い巨塔 後編 [sage] 投稿日: 2010/01/16(土) 12:48:37 ID:0Nn0XfLi
1
バヌトゥ「それではお世話になりましたのう」
エリウッド「いえいえ、どうかお大事に」
ユミナ「ちゃんと忘れずに通院しないとだめよ。気をつけてね」
糖尿病のバヌトゥが目出度く退院した。
完治とはいかないが、自宅療養に移るくらいには元気になった。
エリウッド「……いいな」
ユミナ「ん、なんか言った?」
エリウッド「…いえなんでも」
時折、病を癒して患者が帰っていくのを見るとどうしようもなく切なくなる。
本来それは嬉しいことだし、エリウッドも心から喜んでいるのだが、
人間どうしようもない気持ちというものもある。
ユミナ「ほら、ぼさっとしてないで…私は検査室入ってるからエーディン先生の手伝いをしてきて」
エリウッド「あっはいっ!」
幼女に使われるのにも慣れてきた。
家でこの話をしたら、
エフラムが羨ましそうにしている…ように見えたのはエリウッドの先入観によるものだろう…多分。
183 名前: 白い巨塔 後編 [sage] 投稿日: 2010/01/16(土) 12:49:23 ID:0Nn0XfLi
2
デギンハンザー「………無理か………」
エーディン「アデランスで出来ないことを病院に来られましてもね…」
がっくりと肩を落としたデギンハンザーが診察室を出る。
エリウッド「お次の方、グローメルさんどうぞ」
さっそく問診が始まる。
エーディン「本日はどうされましたか?」
グローメル「……山や高い所に上ると…無償に駆け下りたくなるんです……
初めは気にしてなかったんですが…何度も岩に潰されるうち、自分は病気なんじゃないかって…」
検査結果を眺めながらカルテになにやら書き込んでいく。
エーディン「恐らく低レベルAI症ですね。お薬を出しておきます。
それと暁なら上方が有利ですので、寝る前にこれを十回唱えるといいでしょう」
グローメル「な…なるほど…やはり下にいくのは間違いなんだな!ありがとうございました!」
エリウッド「…ふと思ったんですがこの病院って何科なんでしょうね?」
エーディン「総合病院よ、つまりなんでもあり」
エリウッド「……つ、次の患者さん…オグマさんどうぞ」
オグマ「ああ……俺は…先生…俺は変態なんでしょうか?
ユミナに萌える…それはいいんです」
エリウッド「いいんですかっ!?」
エーディン「エリウッド君、静かに…それで?」
オグマ「だけど…最近はユベロとユミナが時々入れ替わってるのを知ったら、
ユベロもいいと思うようになってしまって…」
エーディン「大丈夫、あなたは正常です。小さい子供に萌え萌えするのは、種の保存のための本能です。
どんな動物も小さい子を守るもの、貴方はおかしくなんてありません。
ただ一つ言えるのは…手は・出・さ・な・い・よ・う・に?
両方私が…ゴホンゴホン…」
エリウッド「先生……」
エーディン「あ、ああ忙しい忙しい! ほら、エリウッド君、次の仕事がまってるわよ?」
(しかし、いいことを聞いたわ…女装美幼年と男装美幼女ハァハァ)
184 名前: 白い巨塔 後編 [sage] 投稿日: 2010/01/16(土) 12:50:18 ID:0Nn0XfLi
3
ようやく仕事にも慣れ、それなりに充実(?)した日々を送っていた。
だがそんな日々にも終わりが近づいていた。
フィオーラの出所がまもなくであり、ニニアンも数日中には職場に戻れるそうだ。
エリウッド「もともと短期のバイトだもんな」
一人ごちる。
最近当直をするようになってから学校の勉強もやや滞ってるし…
それに家計の手助けもできた。そろそろ日常に戻ってもいいだろう。
アラン「ごほごほ……看護士さん、なにか悩み事かな?」
エリウッド「え?」
アラン「いや…私の思い過ごしかも知れないが、病をえたころの私と同じような顔をしていたからね
うわぶはっ!?げーほげほ!」
エリウッド「あっ大丈夫ですかっ!?」
慌てて背中をさする。
アラン「ごほごほ……ああ楽になったすまない…」
この男の名はアラン。
成長率低下症という謎の奇病に冒されて入院中だ。
元来人はある程度年をとると若い頃に比べて成長率が低下する。
例:烈火マーカス → 封印マーカス
(個人差があり老齢でもウェンデルのようにそれなりの成長率を保つ者もいるが)
だがアランはまだ30も半ばだというのにジェイガン並みの成長率になってしまった。
アラン「看護士さん……私の見立てだが君も何か病を持っているね?」
エリウッド「ええまあ……」
小さく頷く。
185 名前: 白い巨塔 後編 [sage] 投稿日: 2010/01/16(土) 12:51:00 ID:0Nn0XfLi
4
エリウッド「生まれ持ったものです。遺伝的なものかはわかりません。
僕の兄弟はみんな健康そのものですしね」
アラン「ご兄弟は元気なのか、結構なことだね」
エリウッド「ええ、本当に元気な兄弟たちでいつも振り回されてます」
思わず苦笑する。
何度、蝶サイコー!!!!!
になったやら数え切れない。
アラン「兄弟仲がよいのはよいことだよ。君は面倒見のよい人だし、なにかと頼られているのだろう。
……しかし周囲が健康だとどうしても思うところがあるのだね」
エリウッド「………ええ………時々思います…どうして僕はみんなのように丈夫に生まれなかったんだろうって…
子供の頃、年の近い兄弟と遊んでいても、いつもどこかで気を使わせていたような気がするんです。
それだけ思われるのは嬉しいことですけど…同時にどうしようもない気持ちにもなるんです」
こうして心情を吐露するのは子供の頃姉の胸で泣いた時以来な気がする。
エリウッド「すでに気持ちの整理はつけて、この病気と付き合いながら生きていくつもりでいましたけど、
ここで働いて…病気を治して退院する人たちを見たら…
嬉しい反面、凄く妬ましい気持ちになって……でもそう思う自分が嫌で……
って何を言ってるんでしょうね僕は」
アラン「私も何度同じことを思ったかな。人間そう聖人君子にはなれないものだよ。
だが病人の痛みや苦しみをよくわかって、その身になって察することのできる君はよい看護士になれると思うよ」
少しだけエリウッドは申し訳ないような気持ちになった。
そこまで考えてはじめた仕事ではなく、エーディンに誘われるまま軽い気持ちではじめたバイトだったからだ。
186 名前: 白い巨塔 後編 [sage] 投稿日: 2010/01/16(土) 12:51:41 ID:0Nn0XfLi
5
アラン「…私は時折思うことがあるよ。
いつまでも今の仕事にしがみついていないでさっさと退職したほうがいいのかもしれないとね。
いつまで勤められるかわからない私よりも若い連中に経験値を与えたほうがいいんじゃないかってね。
だが体の動くうちは囮でも壁役でも、あるいは2軍での第2輸送隊だってなんでもやるつもりだ。
…なんのことはない、つきつめれば心の奥では人のためですらない。
自分が少しでも世間の役に立ってるって、自分を慰めたいだけなんだ。」
エリウッド「アランさん……」
アラン「君ができることは私よりもずっと多い。正直な気持ちを言わせてもらえば、私は君が羨ましい。
…余計なお世話かも知れないが君には頑張ってほしいな…すまなかったね話につき合わせて」
エリウッド「いえ、僕こそ聞いてもらってありがとうございました!」
少しだけ気持ちが晴れた気がする。
エリウッドは落ち着いた足取りで次の仕事に当たるべく病室を後にした。
それから数日…
エーディン「今日までありがとうエリウッド君、色つけておいたから」
エリウッド「いえ、僕こそお世話になりました!」
最後のバイト代を受け取る。
ニニアンとフィオーラが帰ってきて、今日が最後の仕事だった。
帰ってきたフィオーラがロッカールームで、
エリウッドの着ていた看護服の匂いを嗅いでいた気がするが気のせいだろう……多分。
187 名前: 白い巨塔 後編 [sage] 投稿日: 2010/01/16(土) 12:52:30 ID:0Nn0XfLi
6
エリウッド「それじゃ帰ろうか姉さん、エフラム」
偶然というべきかこの日はミカヤとエフラムが病院に来ていた。
ミカヤ「ロリコンは脳の病気よっカウンセリングを受けなさい!」
…というわけでミカヤがエフラムを無理やり引っ張ってきたようだが、
エーディン「小さい子供に萌え萌えするのは正常です。人間として年長者として当然のことです」
などと診断され、
エフラム「やはり幼い者を守るのは人として当然なのだな!」
ミカヤ「………」
という結果に終わった。
3人での帰り道…
エフラム「やはり俺は正常だったのだ、医者のお墨付きなら間違いない!
ところでエリウッド。ユミナはまだ幼いのによく働いていたな。
ご褒美に撫でてやったら子供扱いするなーっ…なんて騒いでいた。
ハハハ、可愛いもんだ」
エリウッド「…あ、…ああ、そうだね…ハハハ」
乾いた笑いを立てる。
…エリウッドは知っている。
エフラムが撫でて愛でたユミナは入れ替わったユベロだったことを……
あの時はユベロ(実はユミナ)と仕事をしていて偶然気付いたから間違いない。
その事をエフラムに教えたらオグマのように苦悩するんだろうか……
隣でミカヤは憮然としている。
ミカヤ「あああああ……誰かエフラムのロリコンを更正させて…」
エフラム「だから俺は問題ないと診断されたではありませんか姉上」
エリウッド「あ、ちょっと寄るところがあるから先に帰っててもらっていいかな?」
ふと思い立つとエリウッドは2人と別れて本屋に入った。
専門書のコーナーに入る。
…目当てのそれは…あった。
医学の入門書を手にとると2~3ページ捲ってみる。
……いくらエリウッドが成績優秀でもチンプンカンプンだ……
エリウッド「……病人の身になれる医者……っていうのも悪くないんじゃないかな?」
少し高かったが、その本をエリウッドはレジに持っていった。
その足取りはどこか力強いものであった。
終わり