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Last-modified: 2012-08-24 (金) 20:04:27

392 :実はいい兄:2010/01/29(金) 22:48:29 ID:uG0X1gzY

いつもいつも、何回見直しても誤字をしてしまう自分・・・。
しかし、この度誤字では済まされないミスを発見してしまいました。

とある主人公の封印乃剣(ソードオブシール)
         ↓
とある主人公の封印之剣(ソードオブシール)

でした。
タイトルを間違えるって・・・orz
このタイトルは読んでいたライトノベルから拝借して、その関係で
封印の剣を漢字で書いたのですが、『乃・・・from』『之・・・of』
に近い意味のようです。あぁ、無知って恥ずかしいッ!!
次回からは何事も無かったかのように修正します。

恥ずかしいので、別のネタを投下させていただいて、気を紛らわせてみたり。

実はいい兄


「ふふふ。ついに、ついにやったぞッ!」
 マギ・ヴァル地区にある大きな屋敷。その居間で、男の歓喜の声が響く。
 その手には2枚の紙切れを握り、電話の受話器の前でガッツポーズを
つくっていた。
 すこしだけ癖のある銀髪に切れ長の瞳。理知的な雰囲気を持つその顔は、
美形といっても差支えないだろう。・・・普段は。
「・・・こほ。お兄様、顔、にやけ過ぎ」
 そう、男の顔は今、弛みにゆるみきっていた。彼を兄と言った少女がもう
少し心無いものならば、最後に『キモい』と付け足していたことだろう。
「おぉ!帰ってきたのか、ターナ!」
 男―ヒーニアスが、居間のドアを開けて自分に声をかけてきた妹の姿に気付く。
 どうやら、彼女の言葉自体は聞いていないようだ。いまだ弛みきった笑顔
のまま、妹に視線を移す。
「こほ・・・ただいま。それで、一体どうしたのお兄様?
玄関まで声が響いていたわよ」
 聖ルネス女学院の制服を着た青いポニーテールの少女、ヒーニアスの妹
であるターナが、兄の奇行について尋ねる。
「よくぞ聞いた、妹よ。私は遂に、エイリークの心を手に入れたのだッ!」
「はぁ?」
 兄の言葉に、ターナの顔に疑問色が深まる。ヒーニアスが以前からエイリーク
に好意を寄せているのは知っていたが、とても脈があるようには見えなかった。
(また、何か変な勘違いをしてるんじゃないかしら?)
 兄は頭は良いが、時々変な行動をとることがある。今回もその類だろうかと
ターナが不安に感じていると、ヒーニアスが再び口を開く。
「・・・というよりも、手に入れたも同然と言ったところか」
「どういうこと?こほ、こほ」
 兄の自信満々な顔(といっても、この兄の顔はターナが知っている限り大体
いつも自信に満ちているが)に、ターナが疑問を重ねる。
 そして、まるでその反応を待ち構えていたように、ヒーニアスがターナの
顔の前に手を差し出す。そこには、2枚の紙切れが握られており、その先に
見えるヒーニアスの顔は相変わらず、自信満々で弛みきっているという奇妙な
ものだった。
「・・・チケット?」
「そうだ。アカネイア劇場で公演している『美女と暗黒皇帝』のチケットが
手に入ってな。エイリークが喜ぶだろうと、つい今しがた電話で明日の予定を
聞いたのだ」

393 :実はいい兄:2010/01/29(金) 22:49:20 ID:uG0X1gzY


 『美女と暗黒皇帝』――たしか、ある国の王女と別の国の王子が結婚する
ものの、皇帝となった男の暴走によって国が荒れると言った内容の悲劇だった
はずだ。なぜか暴走した男の方が同情を集めているらしいが、前評判以上の
好演のようで、学校でも話題に上がっていた。と、ターナが思い出す。
「そういえば、エイリークも見に行きたがっていたわ。でも、すごい人気で
チケットが手に入らないって・・・」
「ふ。私の手にかかればチケットの一枚や二枚手に入れるのはたやすい」
 ヒーニアスは大したこと無さげに言うが、そんな筈は無いだろう。
 アカネイア劇場の券というだけでもプラチナチケットなのに、その中でも
人気の演目だ。自分やエイリークには決して言わないだろうが、相応の労力を
支払ったに違いない。
「こほ。それで、エイリークは何だって?」
「もちろん、一緒に連れて行ってくれと言っていた。
これで土曜日・・・明日のデートで私と一日過ごせば、彼女はもう
私の虜となることは間違いないッ!
ふふふ。明日が楽しみだ」
「・・・まぁ、そうでしょうね」
 その同意は、とうぜんエイリークが彼の虜になると言った件(くだり)に
向けられたものではない。観劇の誘いを、エイリークが断らなかったことだ。
 エイリークは演劇部に所属している。劇や舞台と言ったものは大好きだし、
しかも家庭の経済事情からなかなか本格的な劇場鑑賞はできない。
 ターナとエフラムがそうであるように、ヒーニアスとエイリークも昔馴染み、
幼馴染であるわけで、その彼からの劇場への招待誘いならばエイリークも断る
ことは無いだろう。
「それじゃあ、変な失敗に気をつけてね。お兄様」
 そう言って、ターナが居間を後にする。
「もう部屋に行くのか?ターナ。いつもはここで休んでから行くだろう」
「うん。・・・なんか、調子が悪くて。こほこほ。しばらく寝てるから、晩御飯
にも呼ばなくていいわ。
それじゃあ、おやすみなさい、お兄様」
 振り返らずに言って、ターナが去っていく。
「そうか、よく休むんだぞ。兄は、明日の準備をしなくてはいけないので
構ってやれんのでな!」
 その姿を、ヒーニアスは少し心配しながら、しかし明日のことを思ってやはり
興奮を忘れられずに上機嫌な声のまま見送る。

――そして次の日。

「よし、準備は万全だ。あとは、途中の花屋で彼女に似合う花束を買うだけだな」
 昨日と同じ居間で、やはり弛んだ顔のヒーニアスが一人ごちる。
 紋章町内でも格式のある劇場に行くということで黒いスーツに身を包んだ彼は、
元々の育ちの良さもあいまって、なかなか様になっている。
 彼が居間に置いてある手鏡を持って髪の形を最終確認していると、その鏡に
パジャマ姿の妹が部屋に入って来るのがうつる。
「こほこほ。おはようございます、お兄様」
「――大丈夫か、ターナ。顔が赤いぞ」
 昨日より大分具合が悪くなっているのか、熱に浮かされたような顔で、
足取りもややおぼつかずにターナが居間に入って来る。
 それを見て、流石のヒーニアスも顔の弛みを消し去り、妹に向きなおって
尋ねる。
「――うん。やっぱり風邪みたい。こほ。今日は一日、部屋で大人しくしているわ」
「しかし、家に誰もいないのだぞ?」
 ヒーニアス達の住む屋敷には、普段は召使が多く働いているが、今日はたまたま
休暇をとらせている。ヒーニアスが家を出れば、この家に残るのはターナ一人
になるということだ。
「こほ。大丈夫よ。私だってもう、子供じゃないんだから。
それよりも、エイリークとの待ち合わせ時間は大丈夫?
あの娘、きっと約束の時間よりも早くに着くわよ。こほッこほッ!」

394 :実はいい兄:2010/01/29(金) 22:52:15 ID:uG0X1gzY


「しかし・・・」
 ターナの言葉に、しかしヒーニアスは心配の顔を消せない。
「もうッ!私なら大丈夫だって言ってるじゃない?
とにかく、私はまた部屋に行って休んでいるから、お兄様も久しぶりのチャンスを
逃さないように、頑張ってねッ!」
 そう巻くし立てて、ターナが再び部屋に戻る。
 朝食を取るでもなく、ヒーニアスと会話だけして戻った彼女は、一体何をしに
この部屋に来たのだろうか?
(頑張って、か。もしかして、それだけを言いに来たのか?)

 ――ボーン。ボーン。ボーン・・・
 その時、壁に掛けられた年代物の柱時計の鐘が九つ鳴る。
 エイリークとの待ち合わせ時間は十一時だ。
(まだ余裕はあるな・・・)
 そう考えながら、ヒーニアスは電話機を取る。掛ける先は・・・

(いいなぁ、お兄様)
 部屋に戻り、布団に潜りながら思う。
 羨ましがっているその内容は、当然今日のデートのことだ。兄の思惑通り、
今日の今日でエイリークの心が手に入るとは到底思わないが、それでも、彼女の
好みに合わせたデートは、二人の距離を多少なりとも近づけることだろう。
 兄妹で、同じ妹兄に恋をしている。ヒーニアスとターナの状況は同じで、
最近とんと脈が無いのも同じであった。そして、それはこれからも続いてく
ような、そんな嫌な予感がしていた矢先の出来事である。
 ヒーニアスとエイリークのデートの話を聞いて、羨まないわけがないのだ。
(私も、エフラムと・・・。
でも、無理よね。エフラム、最近は年下の女の子の面倒を見てばかりだもの)
 そういえば、エフラムと最後に遊んだのは何時だっただろうか?
 それを思い出そうそしてしかし思い出せないことに、ターナの胸が締め付け
られる。
(あぁ、今ここにエフラムがいてくれればいいのに)
 熱が出た頭は、下らない妄想を湧き起こし、寂しさをかきたてる。
 そんなことを考えながら、しかし体はやはり眠りを求めているのか、ターナ
の意識が闇に落ちていく・・・。

――コンコン。
「ん・・・。お兄様、まだいらっしゃったの?どうぞ。こほ」
 ノックの音に、ターナの目が覚める。一体どれだけ眠っていたのだろうか。
 ぼんやりとした頭で時計を見ようとしていたターナの目は、しかしすぐに
覚めることとなる。
「ターナ、入るぞ」
 声と共に入ってきたのは、銀の髪を持つ兄ではない。碧の髪と瞳を持つ
その男は・・・
「エフラムッ!?一体、どうしたの!こほッ」
 眠る前に頭の中に思い描いていた人物が、目の前に現れた。
「あー。ちょっと、な。ヒーニアスに会いに来たら、お前が風邪をひいてる
と聞いたので、様子を見に」
「お、お兄様に?」
 胸元の毛布を必死に手繰り寄せながら、ターナが身を起こす。
 毛布の下はパジャマだ。とても、不意打ちで訪れた想い人に見せられるような
ものではない。
(て、それよりも・・・え、エフラムが私の部屋にッ!)
 小さい頃はお互いの家や部屋を行き来していたが、中学に上がってからは
兄と父以外の男性を部屋に入れたことは無い。
 しっかりと片付けをされているものの、やはりかなり恥ずかしい。

395 :実はいい兄:2010/01/29(金) 22:53:09 ID:uG0X1gzY


「起こしたみたいですまなかったな。やはり、相当熱があるのか?
顔が真っ赤だぞ」
 そういって、エフラムがターナに近づいてきて、そして、その大きな手を
彼女の額に当てる。
「ッ!!?!」
 ターナの顔が、一気に、更に赤くなる。エフラムは外から上がってきた
ばかりなのか、ひんやりと冷たい手の温度が、余計に彼と触れ合っている
ことを意識させる。
「ふむ。やはり大分・・・」
「エ、エフラムッ!!」
 エフラムの言葉を、ターナが大声でさえぎる。
「? ――ッ!」
 その声に一瞬ぽかんとしたエフラムだが、直後、涙目で見上げてくるターナ
を見て、ようやっと自分のしていることに気づき、慌てて身を引いて彼女から
顔を背けた。
「――す、すまんッ!つい、エイリークやミルラと同じように扱ってしまった。
婦女子に勝手に触れるなど、嫌がられて当然だったな!」
「べ、べつに嫌というわけじゃ・・・。ただ、驚いただけよ」
 ターナがまだ赤い顔のまま言うと、エフラムが今度はきちんと彼女の方を
向いて謝罪する。
「とにかく、すまなかった」
「・・・もういいわよ」
 エフラムの顔も、ターナと同じように赤くなっていた。
 顔を赤くするということは、少しはターナのことを女性として意識して
いるのだろうか?
 そう考えると、彼女の心が妙に軽くなった。
「ま、まぁとにかく、早く良くなるといいな。
それじゃあ、俺はこれで失礼する」
 やや顔の赤いまま、エフラムが告げる。
「え、もう行ってしまうの?」
 せっかく会えたのに――と、声には出せないが。
「あぁ。もともと、様子を見てすぐ帰るつもりだったからな。
それに、この後ちょっとした用事ができたんだ」
「また、小さい子の面倒?こほ、こほ」
 寂しそうな顔を浮かべて咳をするターナに、「横になっていろ」と告げて
からエフラムが楽しげな笑顔を浮かべる。
「小さい子・・・か。そうだな、最近は前よりも手間がかからなくなって
しまったが、俺にとってはまだまだ小さい妹の面倒だ。もっとも、年は変わらんが」
 エフラムの言葉に、横になったターナが怪訝な表情をする。
 同い年の妹、その条件に該当するものは兄弟家で一人しかいないが、その
一人は今日、自分の兄の面倒を見ることになっているはずだ――。
 ターナの顔に浮かんだ疑問に気付いたのか、エフラムがやや困った顔を
浮かべて、それに答えてくれる。
「あー。少し、ヒーニアスの奴と勝負してな。
さっきあいつから電話があって、いちいち俺に『エイリークは頂いた』などと
訳のわからんことをぬかしてな。
聞いたら、今日エイリークと劇を見に行く予定だったらしいが・・・」
 彼にしては歯切れの悪いもの言いだ。そう思いながらも、ターナは黙って
先を促す。
「それで、『これでお前もようやく妹離れが出来るな、シスコン男』とまで
電話口で言われ、頭にきてな。その劇場のチケットとやらを賭けて、あいつ
と勝負しに来たんだが・・・」
「こほ・・・それで、結果は?」
 二人と付き合いの長いターナには、話が大体読めてきた。 
「俺の圧勝だ。わざとじゃないかと思うぐらいな。それで、チケットを受け取り、
あいつの代わりに退屈な劇場へ行く羽目になったということだ。
その時、君が寝込んでいると聞いてな。それで、様子を見に・・・」

396 :実はいい兄:2010/01/29(金) 22:54:33 ID:uG0X1gzY


――はぁ。
 話を聞いて、ターナから溜息が漏れる。どうやら、彼女の朝の励ましは
逆効果だったらしい。
「そう・・・。ごめんなさいね、エフラム。お兄様が迷惑をかけてしまって」
「いや、気にすることは無い。
・・・それでは、今度こそ失礼する。エイリークが先に行って待っているようだからな」
 そう言って、エフラムがもう一度ターナに「早く良くなれよ」と声をかけて、
部屋を出ていく。
 その後ろ姿を見つめるターナの胸に、暖かいものが満ちていく。
(二人っきりで、こんな時間を過ごしたのはいつ以来かしら?)
 再び思い出そうとして失敗するターナ。しかし、眠りに落ちる前の寂しさ
はもうなかった。
 まだ熱で頭はぼーっとしているが、それでも満ち足りた心で、
「こほ。それで・・・お兄様?入ってきていいわよ」
 部屋の外にいるであろう兄に声をかける。

「まったく、せっかくのチャンスを棒に振ってしまうんだから」
「なに、私がその気になれば、この程度の機会はいつでも設けられる」
「また強がり言っちゃって・・・!こほこほ」
 呆れたような、それでも嬉しそうな声で、ターナがヒーニアスに言う。
 ヒーニアスは朝居間で見たスーツ姿のままで、ベッドの横の椅子に足を組んで
腰かけている。
「・・・それに、エフラムまで連れて来て。部屋の中を見られて、とっても
恥ずかしかったんだからッ!こほ、こほこほッ!!」
「別に、見られて困るようなものは置いていないのだろう?
ならば構わないはずだ。
・・・さぁ、もう寝ろ。治るものも治らんぞ」
 そう言いながら、ヒーニアスがターナの毛布を直す。
「うん。・・・ねぇ、お兄様?」
「分かっている。お前が寝付くまでは、私もここにいる。
だから、安心して休め」
 まるで幼い子のようにこちらを見つめてくるターナに、ヒーニアスが静かな
声で言う。その切れ長の瞳は、彼のイメージに似つかわしくなく柔らかく
微笑んでいた。
「うん。ありがとう、お兄様――」
 そうして、ターナが瞳を閉じる。
 それを見ながら、ヒーニアスは少しだけ物思いにふける。
 正直、惜しいことをしたと思う。エイリークと遊びに行くなど、本当に
めったに無い機会なのだ。苦労して手に入れたチケットも、エフラムに勝負の
景品として渡してしまった。
 しかし、それでも――
(――まったく。私も、エフラムのことを馬鹿に出来んな)
 彼の心は今、確かに満たされていた――。

 ある冬の出来事。いつもの彼らとはまた別の家族の一場面。

おわり