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Last-modified: 2012-08-24 (金) 20:15:20

33 :ラトナ様が見てる ~ 天馬革命 ~:2010/02/04(木) 16:49:49 ID:Lm4CptUr

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○月×日午後4時 エレブ地区3丁目の一本松にて待つ……

エフラムの手紙には簡潔にそれだけが記されていた。
「あまり人通りのあるところじゃないわね…外で話をしたいのかしら?」
周囲にもお茶をするような店はなかった気がする。
そんなことを考えつつもこの日のために選んだ服に袖を通す。
少し迷ったのだが屋外ということでジーンズを選んだ。
正直今の季節はスカートでは寒いし、足の細さにはちょっと自信があるのだ。
あまり気合を入れすぎたファッションをしても、エフラムがそういったことに関心が無いことはわかりきっている。
またスルーされて切なくなるだけだ。それに行く途中でナンパされてもうっとおしい。

むしろ、機能的かつワンポイントでシャレッ気を出そうというところで落ち着いた。

そろそろ約束の時間が近づいている。
髪のセットに少々時間がかかってしまった。
だが慌てて駆け出すようなことはしない。
そんなことをしたら髪が台無しになるし、この際少しくらい待たせてもいいか…なんてことも考えた。
エフラムのために綺麗に整えた髪のためだし、それに気付かないような男には軽いお仕置きだ。
「よしっ、戦闘準備完了!」
改めて気合を入れなおすと玄関をくぐる。
冷気が頬を撫でた。

…微かな期待と不安を胸に抱いて粉雪の振る外へ歩みだした。

34 :ラトナ様が見てる ~ 天馬革命 ~:2010/02/04(木) 16:50:31 ID:Lm4CptUr

27

ここはとある駅前のマンション。
一人の幼女が部屋の扉を鍵で開けていた。
チャイムを押すような真似はしない。
どうせ誰もいないことはわかっている。
最後に「ただいま」と言ったのは何年前のことだったか…
サラはランドセルをおろすと居間に目をやった。
机の上に1000G札とメモが残っている。
いつもどおりだ。メモには今日は帰れないからこれで何か買って食べるように…マンフロイ、とだけあった。
無造作にお札を掴むと財布にしまいこむ。

その時携帯が鳴った。これはミルラからだ。
「…何か用?」
『大変なのです、お兄ちゃんがあの巨乳の人とデートなのです!
 このままではお兄ちゃんがロリコンじゃなくなってしまうのです!!!』
巨乳というのはあのターナとかいう高校生のことだろう。
確かにエフラムとは年もそう変わらないし、(エフラムと同じ年のエイリークの同級生)
事実ならロリコンではなくなる。
エフラムを巡ってミルラはなにかと自分をライバル視してくるのだが、このことでは適当な相談相手がいなかったのだろう。
チキやファは幼すぎるしアメリアは頼りない。
「落ち着いて話してみなさい、なにかあったの?」
『はい、エフラムの所に遊びに行ったら、今日は巨乳の人と会うから遊べないって…
 ピンチなのですピンチなのです。エフラムが巨乳フェチになったら私たちは全滅なのです!』
「兄様に限ってそれはないと思うけどね…ま、小さな手でも打っておきましょう」

35 :ラトナ様が見てる ~ 天馬革命 ~:2010/02/04(木) 16:51:14 ID:Lm4CptUr

28

午後4時といえどもこの季節は薄暗くなるのが早い。
一本松の下にその男は佇んでいた。
無言で天を仰いでいる。
手紙に記した時間に10分ほど遅れた。
だが謝るつもりもない。エフラムのほうから頼んでこちらが時間を割いているのだ。
あくまでも自分はエスコートされるほう……いままで粉みじんにされた意地がたやすく甘い顔をすることを許さない。
「…それで今日はなんの用?」
あくまでも無愛想に…無愛想を装って声をかけた。
いつもの朗らかなターナの顔なんか見せてやらない。
失ってから慌てても手遅れなんだってことを今のうちに気づいてほしい。
「うむ…一度ゆっくり話しをしたくてな…ついてきてくれ……」
エフラムは無言で歩き始めた。その背を追って歩き出す。
3歩分ほどの距離…並んで歩く気にはなれなかった…

連れてこられた場所は広い敷地をもつ東洋風の家屋だった…料亭だろうか?
その一室にてエフラムとターナは机を挟んで座布団に座る。
食事でもしながら話をするつもりだろうか……
「ターナ、単刀直入に言う。お前の人生を俺に預けてくれ!」
「ぶっ!?」
思わず茶を吹いてしまった。
「いいいいきなりなにを言うのよ!?」
ここここれってアレよね。プロポーズっ!?
ちょっと話が飛躍しすぎなんじゃないのっ!?
…やられた…完全にやられた……必死に装ってきた無愛想な表情も冷たい態度も全部崩されてしまった。

36 :ラトナ様が見てる ~ 天馬革命 ~:2010/02/04(木) 16:51:56 ID:Lm4CptUr

29

ターナを見つめるエフラムの視線は真剣だ。どこか鬼気迫るものすらある。
「……本気?」
「冗談でこんなことが言えるか…もちろんすぐに返事をしろなどとは言わない。よく考えてみてくれ」

どうしよう…こんな時どんな顔をすればいいのかわからない…
きっと今の自分は恥ずかしくなるくらい真っ赤になっているに違いない……

「俺はあれからずっとお前のことを考えていた……そして、怪我をした俺のところへ来てくれたお前の姿を見て確信した…
 お前こそ天使なのだと…」
「ちょ…ヨハンみたいなこと言わないでよ…」
それだけを言うのが精一杯だ。
赤くなった顔を見せたくなくてまともに目を合わせられない。
だがターナの心情を知ってか知らずかエフラムの言葉は続く。
「そう…お前こそ幼女の守護天使!」
……………………………は?
時が止まった…エフラムハナニヲイッテイルノ?
「そう…お前は修行に来た時、幼女への邪欲を断ちに来たわけじゃないと言っていた…かといって少年への欲でもないと…
 そして幼女に惑わされていた俺を怒った。」
「いや…ちょっと…」
いったん話を切ろうとするが、エフラムの言葉は止まらない。
「あの時お前は俺に用があると言ってた、すなわち修行に来たわけではなく俺を導きに来たのだ!
 それゆえ道を踏み外しかねなかった俺を叱り付けた…その姿に感じたものをあの時の俺は理解できなかったが、
 崖下でお前に救われたときに悟ったのだ。この慈悲の精神はまさしく幼女を愛でて守る精神に通じる!
 だからこそロリコンを許せなかったのだと!…ゆえに多分エイリーク辺りから聞いたのだろうが、
 俺の修行を助けに来たに違いない!
 まさしくお前は同志だったのだ!」
晴れ晴れとしたエフラムの笑顔。

37 :ラトナ様が見てる ~ 天馬革命 ~:2010/02/04(木) 16:52:37 ID:Lm4CptUr

30

あまりのことに絶句していると、エフラムが手を鳴らした。
「今日ここに来てもらったのは同志たちにお前を紹介しようと思ってな」
襖が開く。
そこにいたのはロイド、ライナス、ジャファル、オグマ、シャナン、ディーク……
「うむ同志よ、俺は白狼ロイドだ!女の同志は初めてだが、幼女を守る精神に性別は関係ない!」
「ライナスだ、よろしく頼むぜ!ベルン署の迫害なんかに負けずに頑張ろうぜ!」
「……ジャファルだ……」
「俺はオグマ…青髪王女ペガサス…もう少し君の年齢が低ければ…いやなんでもない」
「私は道場主のシャナンだ、ニート侍ではないぞニートではない」
「ディーク、守るべき幼女のゾーンは中学生までだ、ま、仲良くやろうぜ!」
焦って机を叩く。
「ま、まてまてまてーーーーーーいっ!?
 なによこの団体さんはっ!?」
「俺の同志たちだ。さ、今日は新たな同志を迎えた目出度い日だ。存分に楽しもうぞ!」
料理や酒が運び込まれたちまち宴会が始まる。
「えええエフラムーーーーっ!?
 じゃあ最初の人生預けてってのはなによーっ!」
「…ああ、すまんわかりにくかったか?
 俺と一緒に保育園の経営をしてほしいのだ」
目を瞬かせる。今日は驚くことばかりだ。
「保育園?」
「うむ、幼女を守り育む保育園。俺はいずれ保育士の資格を取ってゆくゆくは自分の保育園を持とうと思っていてな。
 だが男だけでは気の回らない部分もあろう…だからターナのように幼女への愛情深い同志が必要なのだ」
いや、私別に幼女への愛情がどうとかないんだけど…とはロリコン(ターナ主観)だらけのこの場では言い出しにくかった。
頭痛がしてくる……

38 :ラトナ様が見てる ~ 天馬革命 ~:2010/02/04(木) 16:53:18 ID:Lm4CptUr

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「あ…あのねぇエフラム…」
どうにか振り絞るように口を開いた。
このままではなし崩し的に同志とやらにされてしまう。
「ん…なんだ?」
「わ…私は別にその…」
「ああ、わかっている。すぐに返事できることじゃないからな。だが、俺はお前と一緒に幼女を守っていきたい」
もうなにも言えなくなった…一本気な人間だとわかっていたがここまで幼女を深く思っていたなんて…
幼女……幼女……幼女……
頭を抱え込む…人生の目標に向かって一生懸命な男の人はかっこいいと思う。
エフラムもそうなのだが、ただ目標がどうして幼女なのだろう……
「簡単よ?それだけの価値あることだもの」
背後から声をかけられる。
なんだか思考を読まれた気がするが気のせいに違いない。うん。
「あ、あなたは……」
「サラ?どうしてここにいるのだ?」
そこにはサラの姿があった。
「サラ様キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!! 」
狂喜乱舞する男たち。
「な、何か用?」
子供相手に大人気ない気もするが、ちょっとつっけんどんな態度をとってしまった。
「兄様、ちょっと外しててね」
「ちょっ…」
エフラムが口を開く間もなくワープでどこかへすっとばした。
「貴方たちもね。2人で話がしたいの」
男たちもすっとばされる。
「ねえ、あなた兄様のこと好きなのよね?」
「そ…そうよ」
サラ…というその娘はターナに歩み寄った。
「別にね、私、あなたの邪魔をする気はないの。
 兄様が私にも構ってくれればそれでいいわ」
「でも好きな人を独り占めしたくなるのは当然のことじゃないの?
 …私だったら好きな人が他の人の方を向いてるなんて耐えられない…」
サラはターナの前に座るとその顔を見上げてきた。
「ええ、あなたはそうね。だからね。私、あなたとお友達になりにきたの。
 そうすればあなたは優しいから兄様をわけてくれるわ。
 あなたが兄様と付き合うようなことがあっても…ね。(ないと思うけど)」
「な…何を言ってるのよ…」
自分よりずっと幼い幼女に気圧されている。
なんだろう、この雰囲気は…

39 :ラトナ様が見てる ~ 天馬革命 ~:2010/02/04(木) 16:54:02 ID:Lm4CptUr

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見上げる瞳は深く妖しい。長く綺麗な髪からは香油の香りがする…
幼さにもかかわらず白皙の美貌はどこか吸い込まれそうだ…
(な…こ…この子綺麗…なんかロリコンの気持ちがわかってきた……
 な、何を考えてるの駄目よターナッ!?)
だがターナの動揺を見透かしたかのようにサラは顔を寄せると耳元で囁くのだ。
「ね、いいでしょう優しいねえさま。
 まさか私みたいな子供に妬いたりしないよね?」
サラの小さな手がターナの首筋を撫でた。力が抜ける…
「いいよね……ね…兄様は皆のもの…私と兄様が恋人になってもあなたにもわけてあげるから……」
どうにかサラを押しのけようとしても体がいうことを利かない…まるで魅入られたように…
耳を擽る吐息も頬を撫でる掌も全てターナの自由を奪っていった。
「あ…ぅ……わ、わかったわよ…ひ、独り占めなんてしないから…」
それだけを振り絞るように言うのが精一杯だった。
華やかな笑顔を浮かべたサラはターナの頬にキスをすると身を翻した。
「ありがと、それを聞いて安心したわ、ねえさま。
 今度お茶でもご一緒しましょ、それでは御機嫌よう」
(兄様が独占される芽はこれで摘み取ったわ…念には念を…ね。
 今なら兄様の正妻になってもいいよ、難しいとは思うけどね…)
サラがリワープで去った後もターナは呆然と宙を見上げていた。

40 :ラトナ様が見てる ~ 天馬革命 ~:2010/02/04(木) 16:54:47 ID:Lm4CptUr

エピローグ

横断歩道の両側でターナとエフラムが旗を振っている。
ここは信号が無いので小学生たちの登校時間にこうして活動しているのだ。
「「「おはようございま~~す!」」」」
「みんなおはよう!今日も元気ね!」
「しっかり勉強してくるのだぞ!」
あれからターナはエフラム(と同志たち)とともに幼稚園のバザーを手伝ったり、
通学路や公園を変質者がいないか見回りしたりするようになった。
生徒会活動の合間なのでそれほど時間は割けないが……

「うむ、ターナが手伝ってくれて助かる、ターナならベルン署にも誤解されんしな」
「…それだけは気をつけてよね…ホントに…」
思わずため息が出る。
結局ターナはエフラムの同志となることを受け入れた。
あくまでも地域の子供の面倒を見る、ボランティア的なものとターナは解釈することにした。
たまに本当にロリコンなんじゃ…と、疑わしくはなるが…。特にシャナンとか…。
でも子供は可愛いと思うし、そう思うきっかけを作ってくれたのはサラだ。
(私はロリコンじゃないんだからねっ目覚めてないからねっ!!!)

「おはよ」
噂をすれば…ではないが、ランドセルをしょったサラがやってくる。
いつもはリワープで登校してるはずなのだが、エフラムが通学路に立つ日はなぜか必ず歩いてくる。
「うむ、おはよう。今日も頑張るのだぞ」
「兄様が朝のディープなキスをしてくれたら頑張れそう」
今、聞き捨てならない言葉がっ!?
「ちょ…なにいってるのよ!?」
「あらいいじゃないねえさま、ねえさまも兄様からキスしてもらうといいわ、
 それとも私がしてあげようか?…そうすれば兄様とも間接キス…」
自らの唇を指先でなぞるサラ。
どこか蟲惑的な視線にドギマギしてしまう。
「こら、大人をからかうな」
エフラムがサラの頭を軽くこずく。
「ひどい兄様、幼女の頭を叩くなんて」
「そろそろ行かんと遅刻するぞ」
サラを急かして学校に行かせる。
そこでようやくターナは止まった息を吐くことができた…
「はふぅ…エフラム、サラの扱い上手いよね…私は駄目ね…あの子のペースに巻き込まれてばかり…」
「俺だって同じようなものだ、サラにはかなわん…さ、幼女の登校も終わった時間だし、そろそろ俺たちも学校に行かねば遅れる」
2人して駆け出す。
ここからの通学路は途中まで一緒だ。
そしてこうしているとエフラムとの距離が近づいたと思うのだ。
2人で何かの活動をするというのは、今までなかったことである。
エフラムはおそらく自分のことをエイリークの友達、あるいはヒーニアスの妹、という認識だったのだろう。
2人の間には1人挟んだ関係に過ぎなかったが、いまはエフラムは自分を同志、仲間と見ている。
「少しだけ…少しだけ…近くなったのよね」
ほんのわずかな革命……
かすかに近づいた心の距離。

一瞬、エフラムと保育園をやるのも悪くない…本気で考えちゃうかな…そんな思いが胸の奥をよぎった。

終わり