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Last-modified: 2012-08-25 (土) 20:41:32

400 :家族の絆、マーシャとマカロフ:2010/02/28(日) 03:17:17 ID:F8JTQntb

どうしてあんな性格をしてるんだろう。
グータラで怠惰だし、お金とかという括りはなく、何かに関していい加減な性格。
「あーっもう! 兄さんの馬鹿!」
自然と拳に力がこもって、机を思い切りドンと叩く。
マグカップに注がれていたコーヒーの液面が思い切り震える。
それは今の私の情緒を表しているようで余計にイラついた。

悪く言えばロクデナシ、良く言おうとしてもせいぜい反面教師が関の山。
そんな兄の所為で金策に駆けずり回った昔を思い出しては、あの頃は今に比べるとうんと大変だったと思う。
今はグレイル工務店で働かせてもらっているおかげで普通の生活は最低限には送れるものの、
自分の稼ぎを理不尽な形で消耗してしまうことが度重なる。
ある時は賭博、ある時は買い物、というかほとんど詐欺被害。
自身が娯楽に興じるためには浪費を惜しまない、そういった生き方もあるのだと思う。
けれど、兄は借金をしてまでもそれをする。そして借金を返すために借金のエンドレス。
そして借金取りが妹の私の職場にまで押しかける毎日。
思い出すだけでも疲れが甦ってしまう。
考えるのも少し面倒になってきて、頭を机に突っ伏す。

401 :家族の絆、マーシャとマカロフ:2010/02/28(日) 03:18:25 ID:F8JTQntb

「―――シャちゃん、マーシャちゃん?」
誰かが呼んでいる声が聞こえて、私は意識を取り戻した。
頭を起こして周りを見ると、そこには職場で見慣れた人がいた。
「あ・・・ガトリーさん?」
職場の先輩であるガトリーさんは、私がこの職場で新人だったときに何かと良くしてくれた人で、
少し出まかせがあったけど、大体のことは教えてくれた恩人。
その彼が心配そうな表情を私に向けている。
「どうしたんだい?何か悩みごとでもあるの?」
と、気にかけてくれる素振りがうれしく、ちょっと相談してみようかな、と思った。
「実は・・・うちの兄についてなんですけど・・・」

日ごろから不満が溜まっていたのか知らないけれど、一度口火を切ってしまうと膨大な量の愚痴が出た。
あれが兄という人間なのだ、でもあれは唯一の肉親なのだ。
軽蔑したい気持ちと大切にしたい気持ちとが入り交ざって、どうしたいのかわからなくなる。
言ったことを掻い摘んで説明すると、こんな感じ。
眉間に皺をよせながら、それでも真剣に聞いてくれたガトリーさんが、ただそれだけで安心できた。

402 :家族の絆、マーシャとマカロフ:2010/02/28(日) 03:22:16 ID:F8JTQntb

「あのさ、マーシャちゃん」
鬱憤を大体吐き尽くしたところで、ガトリーさんが口を開いた。
「本当にお兄さんが嫌いだったら、そこまでお兄さんについて悩まないよね?」
「確かに、そう・・・ですね」
確かに、本当に嫌いな人なら、こんなに悩んだりしない。
縁を切って忘れ去ってしまったほうが幾分かマシな気がする。
「でも、マーシャちゃんは悩んでる。いやだ嫌いだと言ってる分、本当に大切なんだね」
「・・・はい」
普段は抜けているところがあるけれど、天然さんだから本質を突けるのかな、と思う。
先ほどまで胸中に渦巻いていた怒りは徐々にその色を失って。
冷静になっている自分を客観的に見ているような感じがした。
今まで自分は何であんなに怒っていたのだろう、そう思った。

「ガトリーさん、ありがとうございますっ!」
気がつくと、もうすっかり日は沈んでいて、多くの人々が仕事を終えて帰路についている時間だった。
いつもは怒鳴ってばかりだけど、本当は苦労しているだろう、あの兄を今日は労おう。
思い立ったが吉日、そう思い、荷物をまとめて帰ることにした。
職場から出るときにガトリーさんにお辞儀をし、帰路に着く。
今日の晩御飯は少し奮発してあげようかな、なんてことを思いながら。

「ところでさ、マーシャちゃん。今度デートでも――――ってあれ?」
ガトリーが少しかわいそうなことになっていたのは、彼女の知らないここだけの話。