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Last-modified: 2012-08-24 (金) 20:23:57

81 :とある主人公の封印之剣(ソードオブシール):2010/02/07(日) 04:51:16 ID:bNoCgREz

前々スレ、前スレからの続きです。

第四章 封印せし者(その3)

14
「・・・・・・」
「―――ッ!」
 黙して立つゼフィールと、彼に強い視線を向けるロイが睨み合う。
イドゥンは、胸の中で眠るファを抱く腕に無意識のうちに力を込めながら、
ロイを見つめていた。普段から被っている闇色のフードは外れ、オッドアイ
が悲しげに揺らめいている。
彼等が立っているのはベルン署の建物の裏手にあるグラウンドだ。
署員の集会用として、また、緊急時に大勢の竜騎士達が一斉に飛び立てる
ようにと作られた土の地面。広さは一般的な学校のグラウンドよりもやや
狭いくらいだろうか。一周四百メートルのトラックを引いて、その前後と
横に少し余裕を持たせれば一杯になる広さだ。グラウンドの両脇には針葉樹
が列をつくって植えられており、ロイのいる門の入り口から見て右手の樹々
の上からは赤く染まった太陽が見える。
しかし、ロイ達のいる空間を染め上げているのは西日の赤い光ではなかった。
(――これは、魔法陣だろうか?)
 ロイが、自分の目の前の地面に描かれた模様をちらと見る。巨大な円と、
その中に幾重にも重ねて描かれた幾何学的な模様。グラウンドの縦幅を直径
としたその巨大な円の中心部には、ゼフィールと、ファを胸に抱いたイドゥン
の姿があり、門のそばにいるロイは、円周上のすぐ外側の位置に立っている。
 自らは魔法を使うことのできないロイだが、夕日の赤をも塗り潰す、不思議な
薄紫の光を放つ線で構成されたこれが、魔法陣であることは予想がつく。
「これが気になるか?」
 ロイの視線が、自分達からその足元へと移ったことに気付いたゼフィール
がロイに声を掛ける。
「・・・興味、ありません」
「む?」
 ロイが視線を再び前方に向けて答える。しかし、その答えはゼフィールの
予想していたものとは違ったようだ。ロイは、ゼフィールとその背後に控える
ようにして立っているイドゥンを真っ直ぐに見据えて続ける。
「この魔法陣のようなものにも、あなたがしようとしていることにも、
僕は興味がないと言ったんです。
僕は、ただイドゥンさんとファを連れ戻しに来ただけだッ!」
「ロイさん・・・」
 ロイの言葉に、この場に彼が現れてから一時も彼から視線をそらさなかった、
しかし一言も言葉を発さなかったイドゥンの口から声が漏れる。
 その声にロイが視線を、今度は完全にイドゥンと、その腕に抱かれている
ファに向けて告げる。
「さぁ、帰ろう?イドゥンさん。きっと竜王家のみんなも心配してます」
 そうして、ロイが彼らに向けて足を一歩踏み出す。地面に描かれた魔法陣
の外ぎりぎりにいたロイの足が、円の内側へと入る。その瞬間――
 ドプリ――
「――ッ!?」
 ロイの体を、強烈な違和感が包む。
(体が・・・重い?いや、この魔法陣の中の空気がおかしいのかッ!?)
まるで、プール一杯に張られた蜂蜜の中に身を浸したように、空気が確かな
質量を持ち、身に纏わりついてくるような感覚がした。粘つく空気は呼吸を
も阻害し、息を思い切り吸おうと口を大きく開けると、本物の蜂蜜のように、
強烈な甘みが口の中いっぱいに広がる。
口腔内全てを満たし、肺の中にまで侵入する無遠慮な甘みは、不快感しか
生まない。しかも、それでいて(矛盾しているとは思うが)空気自体は当然
無味無臭のままだった。
「――ぐぅ・・・ッ!?」
「ロイさんッ!」
 ただちに強烈な吐き気に覆われ、口元に手をやりながら体をクの字に曲げるロイ。

82 :とある主人公の封印之剣(ソードオブシール):2010/02/07(日) 04:52:17 ID:bNoCgREz

15
 イドゥンが、堪らずロイの下へ駆けだそうとするが、ゼフィールが無言のまま、
手だけでそれを制する。
「――! ・・・」
 彼女は一瞬だけ懇願するような、睨みつけるような視線をゼフィールに向けるが、
すぐに俯いて、駆けだそうとした足も動きを止める。
「こ、これは一体・・・?」
 口中を満たす空気に耐えながら、ロイが苦しげながらも口を開く。
 口元に置いた手を戻し、再び視線をゼフィール達に向ける。粘つくような
空気の感覚はなお残り、彼の身体に纏わりついている。
 その姿を見て、ゼフィールは別段愉快気な顔を浮かべるでもなく、ただロイの
言葉の矛盾点だけをつく。
「ふん。興味が無いのではなかったのか?」
「くっ・・・」
 確かに、直前にそうは言った。ゼフィールが何を画策していようが、この
足下にある魔法陣が何だろうが興味は無いと。ただ自分はイドゥンとファを
連れ戻しに来ただけだと。
 が、しかし。それはあくまでも『彼がどんな考えでいようと、戦ってでも
イドゥン達を連れ戻す』と言った意味での発言だ。この強烈な違和感をもたらす
空間では、まともに戦闘行動を取ることさえ難しい。
「まぁ、いい。せっかくここまで来たのだ、聞かせてやろう。
お前が今、感じているであろう違和感の正体。それは――これの力だ」
 言いながら、ゼフィールがその身を一歩横にずらす。その背。ちょうど、
グラウンド全体の中心であり、魔法陣の中心点であるそこに突き刺されている
ものが、ロイの目を釘付けにする。
「封印の、剣ッ!」
 そう、そこにあったのはロイの分身ともいえる剣。炎の紋章を宿す、この
町でも有数の神器にして、神将器をも超える光導く剣。つい数刻前、ゼフィールと
戦い敗れた時に持ち去られた【封印の剣】があった。
「なにを驚いている?儂が持って行った時にも意識はあった筈だ。
ならば、封印の剣がこの手にあるのも分かってここまで来たはずだ」
 そうは言っても、やはり実際にその目で見れば驚きの声くらい上げてしまうものだ。
しかも、この空気を侵している、吐き気を催す程に絡みつくこの違和感が、
自分の持つ剣の力なのだと聞けば――と、そこでロイはあることに気づく。
「封印の剣の・・・力?
剣の力を、引き出せているのかッ!?」
 今度は、間違いなく本気で驚く。封印の剣はロイの神器だ。その力を操れるのも
ロイだけだと、そう思っていた。・・・思いたかった。
(封印の剣は、ゼフィール署長を主に選んだのか?僕が・・・負けてしまったから?
いや、それよりも今大事なのは――)
 名実ともに自らの神器を奪われたということへのショックは大きいが、
それよりも重大な問題がある。
 今、ゼフィールの手には槍の形態をしたエッケザックスが握られている。
エッケザックスだけでも強大な力を持つ神器だというのに、それを上回る
封印の剣の力までをも彼が振るえるとしたら・・・。もとから少なかった
勝算が、限りなくゼロに近づいてしまう。
 ロイの顔が、強張る。背筋に、嫌な汗が浮かぶ。
「――く」
 たまらず、ロイの口から噛み殺したような声が漏れる。その様子を見て、
ゼフィールは彼が何を考えてるのかを悟ったのだろう。ロイの『勘違いを
訂正するために』口を開く。
「安心しろ。ワシでは、この剣の力を引き出す子は出来ん。封印の剣の真
なる主は、いまだお前のままだ」
「え?」
「正確には、『完全に』引き出すことは出来ないと言ったところか。ワシと
て、【英雄】の血を受けつぐベルンの長子。炎の紋章を代々受け継いできた
一族のワシならば、封印の剣の力を多少なりとも引き出すことは可能だが、
お前のように使いこなすことは出来ん。残念ながらな」
 最後の一言には、あるいは彼の本音かもしれない実感が込められていた。

83 :とある主人公の封印之剣(ソードオブシール):2010/02/07(日) 04:53:09 ID:bNoCgREz

16
 【英雄】の血とは、ゼフィールやギネヴィア、ベルンの家の祖先である
『ハルトムート』の血のことだ。
 現在紋章町があるこの地では、かつて各地で人と竜との争いがあったという。
その背景や経緯は様々であるが、その多くは人類側の英雄たちの活躍によって
人の勝利という結果で終わっている。
 ハルトムートは、エレブ地区での戦い【人竜戦役】を勝利に導いた【八神将】
の一人で、現代の人々からは敬意を評して【英雄】ハルトムートと呼ばれている。
 そのハルトムートが竜と戦う時に振るった剣こそが【エッケザックス】と
【封印の剣】なのだが、彼が継承し主と認められたのはエッケザックスのみだった。
そもそも、【封印の剣】に主と認められた者は、ハルトムート以外は長きに渡って
一人もいないのだ。
その意味で言えば、多少なりとも封印の剣の力を引き出すことの出来るゼフィールは、
ハルトムート以来の英雄と言えるだろう。
 今、ゼフィールの目の前にいる少年以外では。
「皮肉なものだな。祖を亡くして以来、誰をも主と認めなかった紋章と剣は、
ベルン以外の小僧をその主とし、その主は今、自らの分身であるはずの神器
の力によって苦しめられる」
 ゼフィールが口元にかすかな笑みを浮かべるが、その目には僅かの楽しみ
さえ含まれていない。
「・・・それでは、今、この空間を満たしているこの違和感は、不完全な
封印の剣の力だというのですか?」
 不完全と言うには、余りにも強烈だとロイは思った。今も体には空気が
重く纏わりつき、多少慣れてきたとはいえ、吐き気も完全におさまったわけ
ではない。
 普段は自分が使うので気にしていなかったが、剣の持つ『封印の力』とは
こんなにも不快なものだったのだろうか?
「『不完全』というよりも、『未完成』と言ったほうが近いだろう。
封印の剣の力は、知っての通り持ち主の感情を反映させたもの。
言わば、持ち主の願いを叶える力と言っても間違いではないだろう。
ワシが封印の剣に願ったのは、『力』あるものの力を『封印』することだ」
「力を――封印?」
 ゼフィールの言葉の意味が、ロイにはよく理解できなかった。ゼフィール
もそれだけで伝わるとは考えていなかったようで、続けて口を開く。
「そうだ。先ほど町であった時にも言ったが、この町には危険な力を持つ者
が多すぎる。
――お前たち兄弟を筆頭にな」
「・・・確かに、あなたはさっきもそう言って僕に攻撃を仕掛けてきた。
でも、どうして僕達が危険なんですか?そりゃあ、兄さん達の中には少しは
そういったところがあるかも知れないけど、だからと言って竜に襲われる
ような悪い人なんか、僕の家族には一人も居やしないッ!」
 ゼフィールの言葉に、ロイがきつい視線を彼に送る。その視線に反応した
のは、当のゼフィールではなく、その横でじっと話を聞いていたイドゥンだった。
「・・・私も、ロイさんの言う通りだと思います。ロイさんのご家族は、
皆さん本当に優しくしてくれます。ですから――」
「お前は黙っていろ、イドゥン。お前がなんと言おうと、ワシの計画は実行する。
この町を、平和な町へとつくりかえるという、ワシの理想のためになッ――!」
 なにか言葉を続けようとしていたイドゥンを、ゼフィールが自らの言葉
で押しとどめる。
 語気を強めたゼフィールの態度に、イドゥンは叱られた子犬のように俯きかけ、
「ありがとう、イドゥンさん。僕の家族を優しいと言ってくれて」
 ロイの言葉に、再び顔を上げ真っ直ぐと彼を見つめる。ロイの瞳はゼフィールに
向けるそれと違い柔らかく、それを見てイドゥンも口元にわずかに笑みをつくる。
 イドゥンが微かでも笑顔を浮かべたのを見て安心して、ロイは再びゼフィールに
視線を合わせる。
「――理想と言ったな。竜に町を襲わせ、僕の家族を傷つけることが、どうして
あなたの理想と結びつくんだ!平和な町をつくるだなんて、あなたのやっている
ことは真逆じゃないかッ!!」
 家族を危険と言われ、イドゥンにさえきつく当たる姿を目の当たりにし、
ロイの語調が荒くなる。

84 :とある主人公の封印之剣(ソードオブシール):2010/02/07(日) 04:53:52 ID:bNoCgREz

17
「僕の家族に、この町の平和を脅かすような人はいないッ!だから、今すぐ
に竜達を引かせ、イドゥンさん達を離せッ!」
 強く言い切るロイ。しかし、ゼフィールはその姿を見て呆れたような顔をしている。
「まったく理解していないようだな・・・。
お前の家族そのものがこの町に牙を剥くとはワシも考えてはいない」
「ならば・・・なぜッ!?」
 ゼフィールの物言いに、ロイはますます納得できなくなる。兄弟家の人間が
町に牙をむくと考えていないならば、危険だと断ずる理由が無い筈だ。
「今現在の、この町の状況を知っているか?」
「え?
――あなたが、イドゥンさんの力を利用して町に大量の竜を放ち、混乱して、いる?」
 突然の問いに不意を突かれたロイが、ややしどろもどろに答える。
 一体、ゼフィールは何を意図してこのようの質問をしたのか、理解しかねるからだ。
「町の人々はどうしている?」
「・・・ベルン署の指示で、避難したと聞いた。あなたは、無関係の町の人
までは巻き込むつもりが無いのでしょう?」
 ロイが、セシリアから聞いた情報と自分が見た町の状況から考えて答える。
「ふむ。まぁ、知らなくて当然か」
「? 一体、どういう――」
「今、この町の各地で戦闘が起こっている。ここまで来る中で気付いたかも
知れぬが、お前の兄弟達を始めとして、避難勧告に応じず、剣を持って竜共
に戦いを挑んでいる愚か者が多数いるのだ」
「・・・」
 ロイは黙って聞いている。正直、予想はしていた。兄弟家の兄や姉達ならば、
きっと自分のように町に飛び出してくるだろうと。そして、この町にはその
ような人物が多いということも。
 だから、ロイはまだ驚かない。ゼフィールの次のセリフを聞くまでは。
「一人で血気に逸る者はまだいい。そのような者、たとえ神器を持っていようと
竜の群れの前にはたやすく屈するだろう。
だが、お前は知っているのか?己からは決して戦いを望まないような者達も、
お前たち兄弟のせいで町に飛び出し、竜と戦っていることを!」
「――え?」
「まこと下らん。本来ならば竜と戦う力など持ちえないものが、徒党を組んで
竜に挑み、結局力届かず倒れていく。
力無いはずの者が、なぜそのような愚行に出ていると思う?」
 ロイは答えず、ゼフィールの次の言葉を待つ。
「『絆』だ。忠義、友情、愛情・・・。どのような形であれ、その絆の為に
死地に赴いている者がいるのだ」
「死地だって――ッ!?まさかッ!!」
 ゼフィールの言葉の中の不穏な単語に、堪らず口をはさむ。
「――案ずるな。ワシとて、この町の平和を望んでいる者だ。竜達には、
例え何があろうと息の根だけは奪うなと厳命してある。
もっとも、竜にも加減がいる相手とそうでない者がいるだろうが・・・
そもそも、そのような相手は簡単には死なんだろう。
現在、死亡者の報告は一件も届いていない」
「良かった・・・」
「・・・」
 その言葉に、ロイはほっと息を吐く。イドゥンも、声には出さないがその
表情が確かに和らぐ。竜達に直接の指令を送っているのは自分だが、その
視界や情報を共有しているわけではない。ゼフィールの口から出た言葉に
安堵した。
「だが、本来戦いを望まないような者や、戦う力を持たない者が戦場に出て
傷ついているのは確かだ。今現在、町で戦闘を行っている人数は百を軽く超える。
最初は大人しく避難していたものも、今では多くが町に出ている。
その原因が――」
「僕達、兄弟なのか」
 ゼフィールの言葉を、ロイが継ぐ。ここまで聞けば、ゼフィールの言いたい
ことがおぼろげながらロイにも見えてきた。

85 :とある主人公の封印之剣(ソードオブシール):2010/02/07(日) 04:54:34 ID:bNoCgREz

18
「そうだ。現在、エレブ中学の生徒やエレブ高校の生徒、ルネス女学院の者
やグランベル商社の社員・・・その他にも多くの者が、お前たち兄弟が町へ
出たことを知り、それを助けんとして行動を起こした。
・・・報告によれば、ワシの妹も、兄弟家の長女に誑かされて竜共と戦って
いるらしい」
「・・・僕達に町を害する意思が無くても、僕達のせいで危険へ飛び込む
町の人が大勢いる。だから、あたなは僕達兄弟が危険だと――」
「お前たち兄弟は危険だ。無自覚に人々を巻き込むその広く、強すぎる絆。
貴様らのためなら混沌うず巻く戦地にでも参ずるその絆こそがこの町にとって
の害悪なのだッ!」
 ゼフィールが、強く断ずる。確かに、彼の言うことにも一理あるのかもしれない。
ゼフィールの言葉を聞きながら、ロイが考える。
(町を飛び出した僕のために、危険を冒して駆けつけてくれたリリーナや先生達。
チャドやキャスだって、竜と戦う力なんて持たないのに来てくれた。
もし、その為に――)
 ロイの無茶な行動のために、誰かが大怪我を負ったり、最悪死んでしまう
ようなことがあれば。それは、確かにロイの罪だろう。イドゥン達を助け
たいがために、他の友人たちの身を危険にさらす。それは、間違っているの
かも知れない。だが、それでも――。
「・・・だから、この絆そのものが間違っているというのか?」
「そうだ」
 ロイの言葉を肯定するゼフィールの言葉にこそ、ロイは頷くことができなかった。
(それじゃあ、僕はイドゥンさんを助けに来ない方が良かったのか?
彼女と僕は友人でも、家族でもない。他の友達を危険にさらすわけにはいかないから――。
友達なんか、つくらない方がいい?僕の危険に、巻き込むわけにはいかないから――)
 だから、ロイに助けを求めてきたイドゥンとの間の絆も、リリーナやウォルトと
育んできた絆も、間違っているから無い方がいい。
ゼフィールが言っていることはそういうことだ。
「なにも、お前達兄弟に限ったことではない。アカネイア地区のハーディンも、
バレンシアのルドルフも、エレブのネルガルも・・・。
紋章町には、そのような危険性を持つものが多すぎるのだ」
 黙するロイに畳みかけるように、ゼフィールは続ける。
(確かに、ハーディンさんもネルガルさんも、部下やモルフを引き連れて騒動を
起こすことがあるけど・・・)
 ハーディンの部下は心から彼を尊敬しているし、ルドルフは紋章町全体の
ことを思って行動できる立派な人物だし、ネルガルだってモルフ達からは
慕われているし、ああ見えて子供や家族に甘いところもある。
 そんな、彼らの絆も間違ったものなのだろうか?
「ただ、慕われるだけならば良い。周囲に影響を与える者だろうと、自らに
戦う力が無ければ、この町にとっては脅威とはなりえん。戦う力だけを持ち、
周囲に対する影響を持たない者も、ただ自滅するだけならば気にする必要は無いだろう」
「・・・」
「だが、それを併せ持った者。お前達のような、自ら危険に飛び込み、それに
周囲を巻き込むような者がいるから、この町には争いが絶えんのだ。
ワシがどんなに力を振るおうと、続けざまに事件が起こり続けるこの町。
この町を平和な町につくりかえるには、事件を起こし、それに周囲を巻き込み
拡大させる者達から町を『開放』せねばならんッ!その為に――」
 次の言葉を待ちながら、ロイは考える。
(『平和な町につくりかえる』――さっきも、ゼフィール署長はそう言った。
なぜだろう?町の平和を望むのは正しいことの筈なのに、この言葉に引っかかりを感じる)
 違和感にロイが捕らわれているのにも構わずにゼフィールは続ける。
「その為に、【封印の剣】と【神竜】の力を揃えたのだ」
「――ッ!」
 ゼフィールの視線がロイから外れる。それと同時に、【封印の剣】と【神竜】
の言葉によってロイの意識が思考の海から引き上げられる。
「先に言った通り、ワシでは願いを叶えるだけの力を封印の剣から引き出せぬ。
我が願いは、お前達のように自らの力と周囲への影響力を持つ者の、『力』を封印することだ。
その力を引き出すために、この魔法陣がある」

86 :とある主人公の封印之剣(ソードオブシール):2010/02/07(日) 04:55:15 ID:bNoCgREz

19
 その言葉に、ロイが思い出したように足元を見る。そう言えば、そもそも
この魔法陣、それが作り出していると思われる空気の違和感を知ろうとして、
ここまでの会話の流れがあったのだ。
「この魔法陣は、我が署で・・・おそらくこの町でも有数の魔道の使い手で
ある者に描かせた。神竜の力を注ぎこむことによって、この場の精霊たちを
支配し、対象の力を奪うものだ。それを、封印の剣の力で増幅し、相乗効果
を生んでいる」
 精霊を支配――。そう言えば、理魔法は精霊に語りかける魔法だと、セシリアが
授業で言っていたことを思い出す。この体に纏わりつくような空気の違和感は、
精霊によって力を奪われているからか。
疑問に対しての答えを得たロイに、ゼフィールはさらに続ける。
「封印の剣の力は、かの神竜王の牙の剣(ファルシオン)に通ずるものがある。
それはつまり、神竜の力とも相性が良いということだ」
「だから、イドゥンさんとファを連れてきたのか」
 ようやく、事件の全貌が見えてきた。
 ゼフィールの目的は、町にとって危険である『自らの力と周囲への影響力を
持つ者』の『力』封印すること。その為に必要だったのが、ロイの持っていた
【封印の剣】と、二人の【神竜】の少女ということだろう。
 残る謎は限られてきた。後は、町中に竜を放った理由と、各地に散らばって
いる兄弟家を始めとした『標的』達に一斉に封印の力を及ばせる方法だが。
ここまでの話を聞いて、封印の剣の主であるロイにはすでに答えが見えていた。
それを、そのまま口に出して確かめる。
「この魔法陣の効果範囲は、本来はこの円内だけでなく、紋章町全域ということか。
町に竜を放ったのは、町を襲ったり、僕たちを倒すためでなく、あくまでも
僕たちを『弱らせる』ため・・・」
「その通りだ」
 ロイの回答に、ゼフィールが満足げな笑みを浮かべながら再びロイを見やる。
「封印の剣の力も絶対ではない。効果の中心地である陣内にいるものならば
ともかく、遠く離れたところに力を届かせるためには、神竜と魔法陣の力で
補助してやらねばならぬ。
そして、抵抗の意思を示すものには、その為の力をあらかじめ奪っておく必要がある。
といっても、もともとの対象が『力ある者』ゆえに、我が署員だけでは心許ない。
だが、竜ならば相手としては十分に釣りが来るだろう」
「――そういうことだったのか。神竜と、戦闘竜達が必要だから・・・だから、
イドゥンさんを無理やり。ファまでも・・・ッ!!」
 自らの目的のために、人を疑うことが出来ないイドゥンやファを巻き込んだ
ゼフィールに対して、初めて明確な怒りを感じるロイ。
 体中に纏わりつく違和感をも忘れ、足を一歩、ゼフィールに近づける。
「ふん。さっきから聞いていれば、まるでワシが誘拐犯のような言い草だな」
「――黙れッ!イドゥンさんとファを早く解放しろ!彼女達の家族が、どれだけ
心配していると思っているんだ!?」
 まるで悪びれた様子のないゼフィールに、ロイが更に激昂する。
「言った筈だ。ワシがイドゥンを利用しているのではない。イドゥンに、
ワシが協力してやっているのだと」
「確かに、あなたはそう言った。でも、この方法に彼女は反対したとも言っていたじゃないかッ!」
「ほう。よく覚えているな。だが、少なくとも現在進行している事態に対して、
彼女は協力している。
現に、今も彼女達は魔法陣に力を送り続けているのだからな。もう間もなく
すれば、時は満ちるだろう。そうすれば、この町中で戦っているお前の兄弟達に
封印の剣と神竜の力が降り注ぐ」
「――くっ。イドゥンさん、一体どうして!?」
 ロイが、心底分からないと言った顔をイドゥンに向ける。ロイの知っている
イドゥンは、少なくとも町の人々を襲ったり、兄弟家の人間に牙をむけるような
人物ではない。
 それが、何故?
「――私は、署長の言うことの、どこが間違っているのかが分かりませんでした。
間違っていないのだから、署長の言っていることは正しいのではないでしょうか?」
「イドゥンさん?」
 語り始めるイドゥンの表情は、どこか思いつめているそれだ。

87 :とある主人公の封印之剣(ソードオブシール):2010/02/07(日) 04:56:07 ID:bNoCgREz

20
「私にはわからないのです。兄弟家の皆さんは、いつもいつも危険なことばかりして、
怪我をしています。それは、皆さんに危険に飛び込むだけの力があるから。
だから、その力がなくなれば、怪我をしないですむようになる。そう思ったのです」
「でも、こんな騒ぎを起こせば、竜王家の人たちも心配するよ!」
「それは・・・」
 兄弟家のため。彼女がこの件に協力している理由は(全てではないだろうが)
それが含まれているらしい。ともすれば、ゼフィールの言うこともあながち
間違っていないのかも知れない。ロイもまた、ゼフィールの言葉を完全に否定
するだけの言葉を見つけられてはいなかった。
 だが、それを置いても、彼女達を可愛がり、慕っている家族達からすれば、
彼女がこのような騒動を起こしていることは悲しいに違いない。そう思って
放ったロイの言葉に、イドゥンも言い淀む。
「それは、心配せずともよい」
「「え?」」
 挟まれたゼフィールの言葉に疑問の声を上げたのはロイだけではなかった。
「さすがに、竜王家全体にまで動かれるのは厄介でな。事前にメディウス老
に話は通してある」
 メディウスは、竜王家の長老だ。彼に話を通し、許諾を得ることは、即ち
竜王家全体の許諾を得ることに等しいといっても過言ではないだろう。
「――おじい様に?それで、おじい様はなんと?」
「好きにしろとのことだ」
「そんなッ!」
 驚きの声を上げたのはロイだ。
「メディウスさんは、イドゥン達のことを心配するに決まってる!好きにしろだなんて・・・」
「ワシは嘘を言わん。今回の計画でイドゥン達が傷つくことは無いからな」
 ロイの言葉を遮り、ゼフィールはイドゥンを見下ろしながら続ける。
「お前が望むように、お前が決めろとのことだ。ファのことも、姉である
お前に任せると仰せつかった」
「私が・・・決める。私は――」
 迷うイドゥン。それを、
「お前は、ワシが間違っているというのか?」
「いいえ」
「ふ。ならば話は決まりだ」
 ゼフィールが言葉で畳みかける。
「ゼフィールッ!!」
「黙れ小僧。もはや、お前には止められん。イドゥンは渡さぬぞ」
 イドゥンを自分の都合がいいように誘導しようとするゼフィールに、
ロイが堪らずに足を踏み出す。
 ゼフィールも、イドゥン達を隠すかのようにその身を前に進める。
「イドゥンの望みも知らずに、しゃしゃり出るか、小僧」
「――確かに、イドゥンさんが、どうしてこんなことをしたのか、僕には
まだ理解できない。
あなたの言葉を、間違いだと断ずる言葉さえ、今はまだ持たない」
「ならば下がれ。お前ではワシには届かん。無駄に怪我をするだけだぞ」
「下がるものかッ!」
 熱くなるロイに対して、ゼフィールは冷静だ。自分の正しさと優位性を
疑うこと無く告げる。
「間もなくだ。間もなく、お前も、お前の兄弟達も完全に力を奪われる。
強大な力をなくした只の人となれば、お前達も馬鹿な行いはしないようになる
だろう。そうすれば、お前たちを支えている下らん『絆』という呪縛から、
周りの人間も『解放』される」
「――本気で言っているのか?」
 ゼフィールの言葉を聞きながら、ロイが足をもう一歩前へ出す。ゼフィールも、また。
「悪いけど、あなたの計画は絶対に失敗する。例え、僕達の力を奪ったとしても、
誰かが危ない目に逢えば、何の力が無くても僕は、兄さん達は飛び出す!
たとえ、僕達に何の力が無くても、みんなが僕たちを支えてくれるッ!
力があるから、この『絆』があるんじゃない。この『絆』があるから、
僕達は強くなれるんだッ!!」
「餓鬼の見る夢だ」

88 :とある主人公の封印之剣(ソードオブシール):2010/02/07(日) 04:57:04 ID:bNoCgREz

21
 ロイの叫びは、しかしゼフィールに届くことは無い。
「ロイさん・・・」
「下がっていろ、イドゥン」
 徐々に狭まっていく二人の距離を見て、イドゥンが声を上げるが、それを
またゼフィールが制する。
「お前は、黙って見ていればいい。下手に力を持ったものの蛮勇を。それに
多くの者を巻き込み続けてきた罪人への裁きを」
「・・・見ていてくれ、イドゥンさん。僕は、あなたの迷いを断ち切れない。
署長の言葉を間違っているとも言いきれない。だから――見ていて。
言葉が無いのなら、僕は剣を持って僕の信じる道を証明してみせるッ!!」
 二人の男が、一人の少女に後見を任せる。それは、もはや戦いが止められない
ことの証―もっとも、そんなことは最初から二人とも勘付いていたが―。
「剣を持って証明だと?正気か小僧。貴様の神剣は、もはや我が手に落ちている。
神器と戦えるのは神器だけ。今のお前では、エッケザックスの相手には不足すぎる」
「神器なんか無くたって、強い人を僕はたくさん知っている。それに――」
 ロイが駆けだす。ゼフィールは、右手に持ったエッケザックスを掲げ、
その姿を槍から巨大な剣へと変えて構える。
「――愚かな。死んでも、文句は言うなよ」
 ゼフィールも駆けだし、二人の距離がゼロに近づく。ゼフィールは掲げた神剣を、
思い切りロイに向かって振り下ろす!
「ロイさんッ!!」
 イドゥンの、叫び声が響く。ロイは、己に迫る大剣とその主の威容を目に
収めながら、腰に吊るした細剣に――ではなく、背中に背負ったものに手を
伸ばす。そして――

――ガカァーーーンッ!!

 轟音が響き渡った。

89 :とある主人公の封印之剣(ソードオブシール):2010/02/07(日) 04:57:50 ID:bNoCgREz

22

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 その頃、エリウッド達はベルン署に向かって急いでいた。
「オラァッ!!」
「やぁッ!」
 エリウッドの背後では、十字路の両脇から迫る竜を相手にヘクトルとリンが
神器を振るっていた。
 その上空を、気絶した主を乗せた飛竜が逃げ去るように飛んでいくのが見える。
 そして、エリウッドの前方にも一体の竜。エリウッドは、渾身の力を込めて
その手に握った竜殺しの剣を振るう。しかし――
「――! しまったッ」
 エリウッドの持つ剣は竜の鱗を傷つけるもの、竜殺しどころか、その深く
を貫き、戦闘力を奪いきることさえ敵わなかった。
「グルゥアアアアッ!

――ザシュッ!

――――ア?」
 半端に傷づけられた竜が怒り、エリウッドをその牙で串刺しにしようとした
ところで、竜の背後からエリウッドの方へ向かってくる影が、竜にとどめの
斬撃を浴びせた。
 竜は、自らの身に何が起こったのかも理解せぬままに、どう、と倒れる。
「無事か、エリウッドッ!」
 竜が倒れた際の土煙りの中から、エリウッドの良く知る声が聞こえてくる。
「シグルド兄さんですか!?すみません、助かりました」
 煙が晴れて、その中からシグルドの姿が見える。
シグルドは「なに、気にするな」といいながら、エリウッドの手に持っている
剣を見て、呆れたような声を出す。
「――全く、これだけ町に竜が溢れる中、無茶なことをしたものだな、エリウッド。
お前は、兄弟の中ではセリスの次に私とよく似ている。いや、年が近い分、
今はまだお前の方が私に似ているのかな?」
 その言葉を受け、エリウッドが自らが手に持っている剣に目をやり、次いで、
シグルドが握っているそれに視線を移す。
「シグルド兄さんに似ているとは、光栄ですね。――ティルフィングは、セリスに?」
「今のは褒め言葉のつもりじゃないんだがな」
 シグルドがバツの悪そうな笑みを浮かべる。その手に握られているのは、
彼の象徴たる神器、【聖剣】ティルフィングではない。普段の護身用に用いている
(それでもかなりの業物ではあるが)『銀の剣』だ。
 一方、エリウッドの手にあるのは『ドラゴンキラー』。竜殺しの剣とは言え、
彼の神器である【烈火の剣】とは比べるべくもない武器だ。
「ティルフィングは、セリスが持っているはずだ。私にはこいつの方が手に
馴染むのでね」
「しかし、竜と戦うのに神器も無しではつらいでしょう?
! ほら、肩から血が出ていますよ、兄さん」
 シグルドの傷に気づき、エリウッドが懐から傷薬を取り出す。
「あぁ。これは竜にやられたものではないよ。それに、神器を手放したのは
お前もだろう?エリウッド」
「それは――」

――ガカァーーーンッ!!

 何かを言いかけたエリウッドの声を遮り、遠く、ベルン署の方角から音が
響いてくる。

「――ロイのやつだな?」

90 :とある主人公の封印之剣(ソードオブシール):2010/02/07(日) 04:59:05 ID:bNoCgREz

23
 自分達の相手を片づけて、ヘクトルとリンが二人の下に近づいてくる。
リンはシグルドの姿に驚いたようだが、今はそんなことを話している余裕はない
と思ったのか、軽く視線であいさつをするにとどめる。
「そうか、やはりエリウッドはロイに託したんだな」
「はい。まだ、完全に継がせるつもりはありませんが、僕はこの体ですから、
いつまであれの主でいられるか分かりません。その時のために槍の訓練も積んでは
いますが、やはり自分の分身とも言える神器を手放すのは惜しいです。
だから、もしも誰かに継がせる時が来たら、それは弟たちの誰かがいいと
決めていました」
 シグルドの問いに、エリウッドが答える。
 彼等が話しているのは、エリウッドの神器、神将器デュランダルについてである。
 竜との戦いにおいて最もその力を発揮するはずの剣は、今は彼の手に無い。

 遠く鳴り響いてきた、雷鳴のような音に、エリウッド達は視線をその音の
した方角、おそらく、末の弟が戦っているであろう場所に向ける。
(負けるなよ、ロイ。その剣は少し扱いに手を焼くが、きっとお前を助けてくれるはずだ)
 エリウッドは、血を分けた弟と、自らの分身である愛剣に思いを馳せる。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 ベルン署から、雷のような音が聞こえ、空気がびりびりと振動してくる。
「ロイ――!」
 リリーナが、真っ直ぐに署へと視線を向ける。が、その前には無数の竜が
おり、署の姿は見えなかった。
「神器同士がぶつかり合う音ですね。しかし、ここまで振動が響いてくるとは」
 リリーナの横で弓に矢を番えながらウォルトが話しかけてくる。
 リリーナ達は、ロイを見送った後、竜を引きつけながらベルン署前の大通り
を後退し、ある程度距離をとったところで、引き付けた竜が署の警備に戻ら
ないよう、その場にとどまって交戦を続けていた。
「古来の人々は、雷鳴を天上の神々の戦いだと思ったと言うけれど・・・」
「実際、神器同士の戦いが起こると、恐ろしくなりますね」
 この町では、神器を持つ者同士が争うことは少なくないが、それでも神器
を持ち出してまで争うことは多くないし、その力を本気でぶつけあうことも
少ない。神器同士の戦いは、時に予想を超えた被害をもたらすからだ。
「でも――今、ロイはその戦いの中心にいるのね」
 リリーナの顔が、不安に曇る。それを見て、ウォルトはしかし明るい声で
告げる。
「信じましょう、ロイ様を。そうすれば、きっと大丈夫ですよ」
「なぜ?」
 言い切るウォルトの声に、リリーナは疑問の声を上げた。相手はあのゼフィール
署長だ。楽観などできようはずもない。だが、それでもウォルトは変わらず、
明るい、自信に満ちた声で告げる。
「だって――ロイ様を信じて裏切られたことなんて、今まで一回も無いじゃないですか」
「――くす」
 その、あまりにも無責任(に聞こえる)物言いに、思わずリリーナが笑ってしまう。
「あれ?僕、なんかおかしいこと言いました?」
「くすくすくす。ううん、大丈夫よ。ありがとう、ウォルト」
 リリーナが不安な顔を消して良かったはずなのに、どこか釈然としない顔を
浮かべる幼馴染に、リリーナがお礼を告げる。
そして、再び視線をもう一人の、赤毛の幼馴染が戦っているであろう方向に向ける。
(信じて・・・いいんだよね?ロイ――)

91 :とある主人公の封印之剣(ソードオブシール):2010/02/07(日) 05:00:18 ID:bNoCgREz

24

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 ――ガカァーーーンッ!!

 轟音と共に、エッケザックスを握ったゼフィールの手に痺れが走る。
「こ・・・これはッ!?」
 その視線の先には、燃えるよう髪と、烈火のごとき激しさを秘めた大剣。
 ロイはエッケザックスが迫る瞬間、背に背負っていたそれに手を伸ばし、
思い切り振り抜いていた。あまりもの衝撃にそれを包んでいた鞘代わりの
白い布は千々の破片となって宙を舞う。強大な力同士のぶつかり合いによって
その場の気流は乱れ、まるで二人を包み込むかのように、白い吹雪が舞っていた。
「神器と戦えるのは神器だけ――あなたはそう言った」
「馬鹿な・・・なぜ、それをお前が持っている」
 ゼフィールが、驚愕しながら足を一歩後退させる。
「僕達の『絆』を間違っているとも、下らないとも言った」
 ロイが、『それ』を両手に掴んで構える。彼の身の丈をも超える巨大な剣。
その銘は――
「でも、その『絆』のおかげで、封印の剣を失くした僕でもここまで来れた!
みんなのおかげで、この剣が僕の手にある!
『絆』のおかげで、僕は、あなたと戦う資格を得ることが出来たッ!」
 その銘は、デュランダル。竜を滅するために創り出されし神将器。
 神竜戦役において【勇者】ローランの振るいし【烈火の剣】。
「その『絆』を否定するあなたを、僕は絶対に認めることなんかできないッ!!」
「小僧がぁ――ッ!」
 今、【英雄】と剣と【勇者】の剣が戦場にて刃を交わす。