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Last-modified: 2012-08-27 (月) 00:35:21

19 :ラトナ様が見てる ~ しっこくの森 ~:2010/03/09(火) 16:40:04 ID:+OBc3GLk

ルネス女学院裏庭。
放課後、裏山に続く道の入り口にエイリーク達3人は集まった。
怪しい泉の調査が目的である。
なんでも落としたアイテムを上位互換の物と替えてもらえるらしい。
各々が投げ込む物を用意している。
とりわけエイリークは家族全員から色々預かってきたらしく、
馬にかなりの大荷物を積んでいる。
「ぶるるるいっ!」
(もう、主ったらわたくし荷物運びなんかしたくありませんのに!)
…当たり前だが3人とも馬の言葉などわからない。
「すごいわねエイリーク、どんなのを持ってきてるの?」
「…とりあえず泉までのお楽しみにしましょう。それよりターナ…
 その…どうしてヒーニアス様がここに?」
エイリークは明らかに困惑していた。
そう、ここにはなぜかヒーニアスがいる。
「そうですわよ!ここは学院の敷地内!
 外部の殿方は立ち入り禁止でしてよ!」
エイリークとヒーニアスの間に立ってガード体勢を取るラーチェル。
「何を言う。エイリークと裏山でハイキングとあってはこの私がいるのも当然だろう?」
だがヒーニアスはどこ吹く風だ。
「あ…あはは、サンドイッチ作ってきたから、今日ばかりは見逃してあげて…
 ほら、何があるかわからないし女の子ばっかりだと心配でしょ?」
その言葉にエイリークもラーチェルも首をかしげる。
いつもなら真っ先にターナがヒーニアスを追い払いそうなものだが…
というか、なぜハイキングなのだろうか?
(ごめん2人とも…特にエイリークごめんなさい…うっとおしいでしょうけどしばらく我慢してね…)

そう…ターナはヒーニアスを泉に放り込むため、エイリークとのハイキングと騙して誘い出したのだ。
ダシになってもらったエイリークには悪いが、どうしても綺麗なヒーニアスにしたいのだ。

20 :ラトナ様が見てる ~ しっこくの森 ~:2010/03/09(火) 16:40:50 ID:+OBc3GLk

「ま…まぁターナがそういうのでしたら…ヒーニアス様は弓兵ですから私たちの後ろを進んでくださいね?」
「はははは、万一野犬や山賊が出ても私の弓で射倒してみせよう。大船に乗ったつもりでいてくれ」
胸を張るヒーニアスに対し、ラーチェルは不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「野犬はまだしも学園敷地に山賊なんていませんわよ。第一あなたこのメンバーの中じゃ
 どうみても最弱じゃありませんの。野犬に囲まれてアッー!タスケテエイリーク!と泣いてる姿が目に浮かびますわ!」
恋敵にまったく容赦ない言葉を叩きつける。
スク水がどうの、抱き枕がどうので毎回エイリークをドン引きさせて困らせているこの男には好感がもてない。
海に行った時もいいムードの所を邪魔されているし…
「ま、まぁいいじゃありませんかラーチェル。それよりそろそろ出発しましょう」
エイリークに窘められてやむなくラーチェルは矛を収めた。
4人で山道を進んでいく。
途中野犬(モーサドゥーグやケルベロス)が出たものの軽く蹴散らした。
横合いの茂みから突如現れたため、最後尾のヒーニアスが囲まれてアッー!タスケテエイリーク!となった所を
3人がかりで撃破したのだ。
ラーチェルの冷ややかな視線に対してヒーニアスは、
「ふっ私が囮となったからこそ皆が無傷なのだ。これも計算のうち。
 我ながら見事な策謀の王子よ」
などと自画自賛していた。
ターナは無言で頭を抱え、ラーチェルは珍しく突っ込みを入れた。
「単に逃げそびれただけじゃありませんの!」
エイリークは額に一筋の汗を流しつつも、
「ま…まぁありがとうございますヒーニアス様」
と、一応彼を立てている。内心はどうあれ…

21 :ラトナ様が見てる ~ しっこくの森 ~:2010/03/09(火) 16:41:40 ID:+OBc3GLk

しばらく山道を進むと、ややひらけた場所にでた。
そこには透き通った泉が太陽の光を反射して燦然たる煌きを放っている。
「わあ…綺麗な場所ですね…」
エイリークが感嘆の声を上げる。
ラーチェルはエイリークの隣に立つと、
「エイリークと一緒に見るからこそ美しいものをより美しく感じられますわ…」
などと言って2人ではしゃいでいる。
その傍らでヒーニアスはさりげなくターナを手招きした。
(ヒソヒソ…ちょっといいか?)
(ヒソヒソ…なによお兄様?)
(ヒソヒソ…うまいことラーチェルを言いくるめて2人でどっか行ってくれ)
(ヒソヒソ…そんなこったろうと思った…駄目よお兄様…これから泉を調査するんだから)
(ヒソヒソ…調査?…なんの調査だ?)
(ヒソヒソ…まあ見てればわかるわ)
ターナはヒーニアスの側を離れるとエイリーク達に声をかける。
「そろそろ始めましょ。2人は何を投げ込むの?」
ラーチェルは自信満々に魔導書を取り出す。
「もちろんイーヴァルディに決まってますわ!」
「……ま、まぁラーチェルの番は後にしましょうか。
 大切な神器ですし、まずは他のもので試してみましょう」
ラーチェルをさりげなくたしなめると、エイリークは馬から荷物を下ろしていく。
「さすがに全員分となると多いですわねぇ…みなさん何を預けられたんですの?」
「順を追って説明しますね」
荷物を袋から出しながらエイリークは昨夜の事を語り始めた。

22 :ラトナ様が見てる ~ しっこくの森 ~:2010/03/09(火) 16:42:22 ID:+OBc3GLk

昨日、兄弟家の食卓にて。
「…と、いうわけでして……それで何か投げ込んでみたいアイテムがあれば預かりたいんです」
シグルドが唸る。
「ふむむ、そういえばレックスから似たような話を聞いたことがあるなぁ…」
「僕もハルヴァンからそんな話を聞いたよ」
リーフからもそんな言葉が出るあたり、似たような噂はどこにもあるのかもしれない。
「上位互換のアイテムねぇ…何がいいかしらね?」
「そういえばお鍋に穴が空いてしまったんでした…立派なお鍋に変えてもらえるのかしら?」
そんなことを口々に言いながら兄弟たちはアイテムを持ち寄った。
万一何もないかもしれないので失っても惜しくないものを…とエイリークは一応断っておく。
「俺はこれを頼む」
アイクが取り出したのは大きな肉の塊。
「修行先で倒した竜の肉だ。これをもっと美味い肉にしてくれ」
「ま…まぁ…わ、わかりました兄上…でもあまり期待しないでくださいね?」
「わかっている」
だがアイクの腹が盛大に鳴る。内心相当期待している。
その音についみんなクスクスと微笑ましく笑ってしまった。
リンはマルスをひっ掴んだ。
「姉さん、マルスを放り込んで腐った根性の消えた綺麗なマルスにしてやって」
「痛い痛いっ!無茶言わないでくださいよ!?」
「お黙り!あんたまたインサイダー…だっけ?…悪さしてるでしょ!」
「なんのことやら」
すっとぼけるマルス。証拠は何一つない。
だがそんなものはリンには通じなかった。
「目を見ればわかんのよ!制裁を加える!」
「ぎえーーーーーっ!?」
「あ…あの、リン?…さすがにマルスは投げ込めませんので…」
「そう?…残念だけど他のにするわ。じゃあこの香水をお願い、香り立つ草原の香りにランクアップしてほしいの」
そう言ってリンは小さな香水の小瓶を手渡した。
だがマルスが余計な茶々をいれる。
「知ってますか、元々香水とは体臭を誤魔化すためのものですよ。姉さんも暑苦しさ汗臭さをごまかすぃあああああっ!?
 ギブギブギブッ!?」
「実戦にギブアップはないっ!」
腕ひしぎ十字固めをかけられて苦しむマルス。
いつものことにエイリークは呆れながらもリンを止める。
「そのくらいにしてあげてください。マルスもあまりリンをからかわないように…」
「ふん、このくらいにしておいてあげるわ」
促されてようやくリンは技を解いた。なんとなくマルスが残念そうに見えるのはエイリークの気のせいだろうか。

23 :ラトナ様が見てる ~ しっこくの森 ~:2010/03/09(火) 16:43:04 ID:+OBc3GLk

10

「はぁひどい目にあった…じゃあ僕からはこれをお願いします」
マルスが出したのは竜の盾だ。
「守備の低めなシーダにプレゼントしようと思ったんですが、
 パワーアップしてもらえるならその方がいいでしょうし」
「ええ、わかりました」
「それじゃあ私からはこれをお願いしようかな」
そう言ってシグルドが出したのは銀の剣だ。
「よいのですか兄上?
 これはアズムール会長から授けられた大切なものでは?」
「うん、そうなんだけど私にはティルフィングがあるしな。
 私がティルフィングを使ってるとセリスはどうしても普通の武器になるし、
 この剣をやろうと前から考えていたんだ。いい機会だから強化してくれ」
「…兄さん…ありがとう」
嬉しそうに微笑んだセリスは小さなお守りを取り出した。
「じゃあ僕からはこれを姉さんにお願いするよ。
 エッダの教会で買ってきた縁結びのお守り、兄さんのとディアドラさんの分。
 これを強化してディアドラさんにプレゼントすればきっと兄さんも結婚できるよ」
「う…うぉぉぉぉぉぉぉん!セリスはなんて兄思いのいい弟なんだっ!?」
「生臭坊主の教会のお守りにご利益があるんですかねぇ…」
マルスの差し出口をリンが制する。
「余計なこといわないの!」
「そんな邪教のお守りなんてきっと呪われているに違いないわ!」
騒ぎ出したセリカをエイリークはおっとりとなだめた。
「まぁまぁ…それよりセリカはどうします?」
「そうねぇ……じゃあ…ミラ様のご神像をお願いするわ。きっとこれで神々しさも増して、
 信者が増えるにちがいないわね」
神像を湖に放り込むのはOKなのか?…とは誰もが思いながら口には出さなかった。

24 :ラトナ様が見てる ~ しっこくの森 ~:2010/03/09(火) 16:43:45 ID:+OBc3GLk

11

「咄嗟に思いつかないな…まあ考えておいて、明日姉さんが登校するまでには渡すことにするよ」
これはリーフの言葉である。
エリンシアはダンベルを取り出した。
「これはネットオークションで手に入れたバアトル様の使用済みダンベルです!
 これをスーパーでエクセレントなダンベルにしてくださいね」
「は…はぁ…その…ダンベルがランクアップって…もっと重いダンベルになるんでしょうか…」
「ふふふ、楽しみです。リリーナちゃんと2人で一晩中ダンベルについて語り合う…
 ああ、仲間がいるって素晴らしい…」
「……」
もはや突っ込みようがなくなったエイリークは苦笑するしかない。
ヘクトルからは鎧一式を預かった。
「守備力をもっと強化したいからな。よろしく頼むわ」
そこにロイが茶々を入れる。
「腹回りがきつくなったから鎧を新調したいんじゃないの?」
「ば、馬鹿ぬかせ!?」
どもってあまり強く否定しないあたり事実なのかもしれない。
「僕からは…そうだね。封印の剣のソフト」
これは意外だ。
「いいんですかロイ? 何もなかったらソフトは水に浸かって壊れてしまいますよ?」
「うん…その時はもう一度買って再プレイするよ。
 トライアルのギネヴィア様まで出したセーブデータは惜しいけど…ただどうしても僕はこのソフトを強化したい」
何週ものクリアデータの入った貴重なソフトをかけてまで…どのように強化してほしいのか?
みなの疑問にロイが答える。
「覇者の剣あるでしょ?
 メタな話しちゃうけど、覇者の剣が連載していた月間ジャンプのアンケートハガキの読者プレゼントにさ。
 特別版の封印の剣のソフトを20名様に進呈ってのがあったんだ。
 僕はおこずかいはたいて雑誌を買い漁ってハガキを出しまくったけど当たらなかった…」
「通常版とはどう違うのです?」
「うん、トライアルマップが1面増えていてね。
 アル達でプレイできるらしいんだ…それが事実なら僕はやってみたい!」
そうまで言われれば引き受けざるをえない。
エイリークはロイのソフトを、大切なセーブデータをかけてまで託されたソフトを、
宝物を扱うような丁寧さで受け取った。

25 :ラトナ様が見てる ~ しっこくの森 ~:2010/03/09(火) 16:44:35 ID:+OBc3GLk

12

エリウッドは毒消しを出した。
「毒の上位互換を病とするなら、万病に効く特効薬が…げほごほ」
もしそうなら素晴らしいことである。
ミカヤからは水晶を預かった。
「どうせならお客さんがこれは凄いっ!…って思っちゃうようなのにしてほしいわ。
 お姉ちゃんも頑張って稼ぎを増やさなきゃ!」
エフラムが渡したのは銀の槍だ。
「興味がある…鉄→鋼→銀…で一般的な武器は最上位になるが、その上が神器や特殊武器以外であるのか…」
瞳に好奇心が見てとれるのは槍コレクターならではだろう。
「それじゃあ確かにお預かりしました、明日を楽しみにしてくださいね」
道具を纏めたエイリークが自室に戻ろうとするのを慌てて引き止める声がする。
「ま、まってよ!僕を忘れてるよ!?」
「え?……あ、アルム!…ああいえその…アルムは何がいいでしょうか?」
「その、え?…が僕の心に刺さる…僕はこれ…この鉄の鍬を勇者の桑にしてほしいんだ。
 そうすれば収穫も2倍になる気がするよ」

「~という感じでみんなから預かってきました」
語り終えると大荷物を泉の前に並べるエイリーク。
「これだけ並ぶと壮観ですわね…ところでエイリーク自身は何を投げ込みますの?」
「私自身はこの衣装の予備にします。どういうデザインになるのか興味ありますし」 
そう言ってエイリークが出したものは仮面の騎士の衣装。
「なるほど…アイテムのランクアップっていうと、性能面で考えちゃうけど、
 衣装ならデザインだもんね」
そこにヒーニアスが割って入ってきた。
「なんだかよくわからないが泉に物を投げ込むのか?」
「色々あってね…」
かいつまんでターナが事情を話す。
「ふむ…それでターナ、お前は何を投げ込むのだ?」
「……ま、まぁみんなが投げ込み終わるまで待つことにするわ、それまで内緒」
とりあえずエイリークやラーチェルに先にやってほしい。
さすがにいきなり投げ込んでヒーニアスが変なものになったら困るし、
まずは効果を見てからだ。
自分の運命を知らないヒーニアスは自分も何か入れてみようか…などと道具袋を開けるのだった。

続く