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Last-modified: 2012-08-27 (月) 21:39:36

425 :百合妹と兄:2010/04/26(月) 13:41:04 ID:syFcG04q

「お姉様!さようなら!」
「はいはい、さよーなら…はあ…」
下校途中に声をかけてくる下級生を適当にあしらうと、リンはため息を吐いた。
「何でお姉様なんて呼ばれるかなー…私にはそんな趣味無いのに…」
百合趣味の疑惑をかけられて以来、リンは必要以上に年下の女の子に慕われるようになってしまっている。
愛の告白を受けたのも一度や二度ではない。
(前にみんなに聞いてみたときには他より背が高いからとか…武芸に詳しくて頼りがいがあるからとか
 言われたのよね…そんな人他にもたくさんいるじゃない…何で私だけ…)
「あ、あの!リンディスさんですよね!?」
「え?あ、はあ…そうだけど」
私ってやっぱり不幸な星の下に生まれたんだと嘆いていると、見知らぬ少女から唐突に声を掛けられた。
制服を見ると、どうやら中等部の子のようであった。
「それで?何の用?」
「は、はい!あの…これ!」
ぐいっ、という擬音が相応しい有無を言わせぬ勢いで少女の手が目の前に突き出される、その手には
可愛らしい柄の封筒があった。どう考えてもこれはラブレターだ。
(うわあ…またかあ…)
このようなことは初めてではない。あまり慣れたくは無いが、慣れてしまった出来事である。
以前は狼狽して対応に困っていたが、今はその場できっぱり断ることにしている。
「悪いけど、私は…」
「これ!エフラムさんに渡して下さい…!」

(エフラム兄さんに、ねえ…)
彼女に話を聞くと、以前に町に侵入した魔物に襲われかけたが、間一髪で助けてもらい、その際に一目惚れしてしまったが
直接話す勇気が出ず、高等部の私に手紙を渡して欲しいとのことだった。
(相変わらず年下相手には凄い打率だわ…10割いっちゃうんじゃないの?)
その問題の兄は、家の庭で槍の鍛錬に精を出している。自分はそれを家の壁に背を預けて眺めつつ、エフラムのこと
を分析していた。
(顔は悪くないのよね…と言うか知ってる連中と比べてもかなり上の方にいくかも…ぱっと見は優男だし…
 細く見えるけどかなり鍛えてるから、男らしさもあるし…頭も勉強が嫌いなだけで回転は良い方だし…
 性格はちょっと堅いけどちゃんと話聞いてくれるから頼りがいがあるし…あれ?もしかして兄さんって良い男?
 いやいや何考えてんの私…実の兄に…)
自分の頭に突如浮かんだ妙な考えを払おうとぶんぶんと頭を振る。
(全く何考えてるんだろ…セリカじゃあるまいし…)
「リン、どうした?具合でも悪いのか?」
「うひゃぁ!?」
「ど、どうした!?」
「ああいや何でもないの…あ、そ、そうだ、これ…っ!?」
「…おっと!?」
「…!?」
妙なことを考えていた途中に、その対象である兄に声を掛けられたリンは酷く慌てたが、それを誤魔化すために
少女から預かった手紙を渡そうとした。だが動揺していたためか、足がもつれて体勢を崩してしまった。
そこをエフラムが支えたのだが、問題はその後である。
「…大丈夫か?」
「あ…うん…(やだ…何で私ドキドキしてるの…?)」
思いのほか勢いがあったのか、倒れこむような形で体勢を崩したリンを助けるため、エフラムはリンを抱き締めるかのような
形で支えた、それを認識したリンは自分の心臓の鼓動が大きく跳ね上がるのを感じていた。
(兄さんの胸板ってこんなに広かったんだ…こうなったこと無かったから初めて知ったなあ…って当たり前じゃない!兄妹なんだから…)

426 :百合妹と兄:2010/04/26(月) 13:42:42 ID:syFcG04q

「本当に大丈夫か?」
「う、うん…」
「そうか、なら良かった」
「…っ!?」
安著したエフラムは、優しげに微笑むとリンの頭をごく自然に撫でた。その瞬間、リンは背中に上級雷魔法を食らったかの
ような衝撃を感じた。
(やだ…兄さんに頭撫でられるの気持ちいい…そういえば兄さんに撫でてもらうのって初めてかも…)
「リン?」
「はっ!?いいいいや何でもないの!あ!こ、これ読んで!」
リンはそう言い放ち、少女から預かった手紙をエフラムに押し付けた。そして、脱兎の如き勢いでその場を去り
自室に駆け込むと、大きく息を吐いてへたり込んだ。
「はあ…何考えてるんだろ私…ありえないでしょ…」
先程の自分を思い返してみる。兄の胸元に顔を預けている自分、そして頭を撫でられて良い気分になって…
「いやいやいやいやいや!だから無いって!?あれは何かの間違いだから!」
必死に数分前の自分を否定する。なぜこんなに必死になっているのかは自分にもわからないが、とにかく否定しないとまずい気がした。
「はあ…本当に何なの…」

「リン、少しいいか?」
「え!?う、うん…」
先程の出来事について必死に自問自答を繰り返していると、突然その問題の兄の声がドアの外から聞こえた。
リンの声を聞いたエフラムは、静かに部屋に入ると、真剣な表情で口を開いた。
「さっきの手紙のことなんだが…突然すぎてどうしていいかわからなくてな…」
「そ、そうだよね、やっぱり困るよね…ああいうの」
「だが、わからないとだけ言うのは無責任だしな…だからとにかく話を聞こうと思ったんだ」
「そ、そう?いいよ無理しないで…私が無かったことにしとくから…」
「いや、そういう訳にもいかないだろ。妹からの愛の告白を簡単に無かったことにはな…」
「……はい?」
…今何か聞き捨てならないことが聞こえた気がする。
「えっと…誰が何を?」
「だから…お前が俺を好きだと…」
「………ええええええ!?」
「…だからさっきの手紙に…」
「ちょ、ちょっとあの手紙貸して!」
エフラムから手紙をひったくると、動揺して血走った目で手紙を読む。そしてエフラムがなぜそのような結論に至ったかを
理解すると、リンはほぼ限界と言って良い声量で絶叫した。
「な、なんじゃこりゃああああぁぁーーーーーっっ!?」
手紙の内容は要約すると『以前、あなたに助けられてからあなたのことが頭から離れません。好きです』
といった文が書かれていたのだが、肝心の差出人の名前が書かれていない。
恐らく、手紙を書き上げたはいいが、余りの気恥ずかしさ故にあまり推敲せずに封筒に入れてしまったのだろう。

427 :百合妹と兄:2010/04/26(月) 13:44:37 ID:syFcG04q

(いや、ちょ、何これ!?差出人の名前が書かれてないラブレターを私が直接兄さんに渡したって事は、私が兄さんに好きですって
 言ってるようなもんじゃないの!?)
「正直、突然すぎてどうしていいかわからない。だから少し時間を…」
「いやいやいやいやいや!これは誤解!誤解なの!」
「…そうなのか?」
「そうなの!」
「じゃあ、お前は別に俺のことは何とも思っていないのか?」
「それは………ちが……」
喋っている途中に自分が口にしようとした言葉に気付き、リンは絶句した。今自分は何を言おうとしたのか。
「…リン?」
「…ちが……血が繋がってるんだから当たり前でしょ!この話はもう終わり!ほら出てって!」
「あ、ああ…わかった」
エフラムを部屋の外に追いやると、リンは大きく息を吐いた。そして先程自分が言おうとした言葉のことを考えてみる。
『違う』と自分は言いたかったのだろうか。
(そうよ…違うに決まってるじゃない…大事な兄なんだから、何とも思ってないはずないじゃない…
 兄さんは頼れる兄さんなんだから…それだけでしょ…)
先程の言葉は、親愛の情をを示すためのものだったと自分の中で結論を下した。そうだ、それ以外であるはずが無いと
自分に言い聞かせる。
「何か凄い疲れた…今日はもう寝よ…」
足に重りでも着けたかのような鈍い足取りでベッドに向かうと、もぞもぞと横になった。
布団をかぶって目を閉じると、今日のエフラムとのやりとりが頭に浮かぶ。
(兄さんに頭撫でられるの気持ちよかったなあ…あれは大抵の娘は落ちるわ…掌に魔法でもかかってるとしか思えないでしょ…
 でも本当に気持ちよかった…っは!?)
エフラムに頭を撫でられたときの感触を思い出すと自然に頬が緩んできた。そんな自分に気付くと両手で頬をぴしゃりと叩き、緩んだ顔を引き締める。
(いやいやありえないから!あれは何かの間違い!忘れろ私!でも気持ちよかっ…だから違ーう!?)
その日、リンは自分でもよくわからない感情に悩まされ、眠れない夜を過ごすのであった。

終わり