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Last-modified: 2012-08-27 (月) 00:40:16

48 :ラトナ様が見てる ~ しっこくの森 ~:2010/03/12(金) 14:03:30 ID:cDMYmWwo

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「それでは投げ込んでみます」
仮面の騎士の衣装(予備を)を手に泉のほとりに立つ。
ちょっとドキドキする。一瞬自ら飛び込んで
「あなたが落としたのはこのペタンコのエイリークですか?
 それとも巨乳のエイリークですか?」
…なんて光景が脳裏をよぎったが、考えてみれば巨乳のエイリークは別人なので思いとどまった。
あくまでも上位互換の別の品をくれる以上、別の人間が出てくると考えるべきだろうし。
「どうしましたエイリーク?」
衣装を持ったまま佇むエイリークに、若草色の髪の親友が声をかけてくる。
「いいえ、なんでもありませんよラーチェル」
そうだ、そんな無茶をやらかしたら何より大切なこの娘とも会えなくなるかもしれない。
柔らかな微笑を向けると勢いよく衣装を泉に放り込んだ。

その瞬間、泉から暖かな光が立ち上る。
「きゃあ!やっぱり噂は本当だったのですわ!」
光の中から現れたその姿は、シレジア家のラーナ様だった……
「ら…ラーナ様?」
ターナとラーチェルが呆然と口を開ける。
この2人とヒーニアスは貴族のパーティーなどでラーナと幾度か顔を合わせたことがある。
一人、ラーナを知らないエイリークのみが
「え、お知り合いですか?」
などとオロオロと戸惑っている。

「いえ私はそのような者ではありません、この泉の精霊です。
 それよりもあなたが落としたのはこの煌びやかな仮面の騎士の衣装ですか?
 それとも勇ましい仮面の騎士の衣装ですか?」
「いえ普通の仮面の騎士の衣装です」
「あなたは正直な人ですね。それではこの煌びやかな仮面の騎士の衣装をさずけましょう」
精霊の姿が霧のように立ち消える中、エイリークの手元には煌びやかな衣装が残った。
従来のものよりも、装飾がこっていて美しさに磨きがかかっている。

49 :ラトナ様が見てる ~ しっこくの森 ~:2010/03/12(金) 14:04:11 ID:cDMYmWwo

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「すごい、やっぱり噂は事実だったのですわ!」
「なるほど、これは驚いた」
口々に感嘆の声があがる。
神や竜や魔物が闊歩し、様々な不思議が起こる紋章町でも
このような童話のような不思議はそうそう出会えるものではない。
「さ、続けてどんどん投げ込みましょう!……あら?」
エイリークの家族のアイテム群を見渡していたラーチェルは、
片隅の風呂敷包みに目を留めた。
「これはなんですのエイリーク」
「あ、それはリーフからの預かり物です。そういえばまだ中を改めていませんでした」
何を預けるか保留していたリーフがこれを渡してきたのは学校に出かける寸前だった。
朝の忙しい時間ゆえ、そのまま確認せずに持ってきたのである。
「それじゃ開けてみましょうか」
風呂敷を開いてみると、中から新聞紙に包まれた箱状の物が出てくる。
表面にはメモが貼り付けられており、「このまま投げ込んでください」と書かれている。
「よく事情はわかりませんが、リーフがそうしたいならそうしましょう」
「え、ちょっと待ってよエイリーク。一応中身を改めたほうがいいんじゃないの?」
「そうですわよ、それにリーフ君が何を渡したのかも気になるじゃありませんか」
2人が口々に声を上げるが当人がそうしてほしいと言うならそうすべきとエイリークは譲らなかった。
そりゃ気になる気持ちもあるが…

こうして再度泉に物が投げ込まれる。
その瞬間、泉から大きな水しぶきがあがり、重厚なBGMが流れてきた。
デーデー!デーッデデデッ!
「ま、まさかこの曲は…」
誰かがそんな呟きを漏らす。
泉からマジ○ガーZのごとくせり上がってきた重厚な全身鎧。
顔を伺い知ることのできない兜。
赤いマント。
「漆黒の騎士様!?」
そう、そこに現れた男はまぎれもなく漆黒の騎士。
アイクやゼフィール、ユリア、アシュナードらと並んで紋章町最強クラスの一人に数えられる人物だ。

50 :ラトナ様が見てる ~ しっこくの森 ~:2010/03/12(金) 14:06:06 ID:cDMYmWwo

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「そなたが落としたものは…」
「ちょ…ちょっとお待ちなさいな!
 なんで精霊じゃなくてあなたが出てくるんですの!」
ラーチェルの疑問は当然だ。
「うむ、噂が広がって物を落とす人間が増えたのでな。
 精霊もさばききれなくなってバイトを雇っているのだ。
 今頃は彼女はヴェルダン地区の泉に転移してるはずだぞ」
どんなバイトだよ…
「それはともかくそなたが落としたものは、
 このDVD、爆乳おねいさん先生のいけない放課後授業か?
 それともムチムチナースパラダイスか?」
その言葉に女性陣が硬直する。
なにをどう聞いてもエロDVDでしかない。
「ちょ…なんて破廉恥な事をいうのよっ!?」
「レディーの前で失礼ですわっ!」
「仕方あるまい、元が巨乳OLもののDVDなのだから。
 むしろ婦女子がこのようないかがわしいものをもつのはどうかと思うぞ?」
漆黒の騎士に言われたエイリークは背筋に冷や汗をたらしている。
「いいいいえ決してそれは私のものじゃありませんっ!」
「ふむ、途中で知られるのがいやで手の込んだ事をしたのだな。
 あの葉っぱも存外小心な。堂々としていればムッツリーフなどと言われないのにな」
「お兄様は黙ってて!」
周囲が騒ぐ中、エイリークは一言。
「…落としたのは…その…ナースさんのものです」
「嘘はいかんぞ。よってこれは没収する」
「ええどうぞ……リーフ…そんなにも巨乳の上位互換のDVDがほしかったのですね…
 後で処刑します…」

51 :ラトナ様が見てる ~ しっこくの森 ~:2010/03/12(金) 14:06:47 ID:cDMYmWwo

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リーフの運命が定まった…それはそれとして次である。
「ふむ、まだ随分あるのだな。正直何回も同じ問答をするのは面倒だ。
 纏めて投げ込んでくれ」
荷物の山に漆黒の騎士も辟易したようだ。
4人は協力してエイリークの抱えてきた荷物をかたっぱしから放り込んだ。
「面倒だからはしょるぞ。これらを落としたのはそなたか?」
はしょりすぎだと内心みなが突っ込みつつも
「はい、その通りです」
との返事を返す。
「それでは上位のアイテムと取り替えた。
 返品は利かんぞ」
漆黒の騎士が指を鳴らすと、泉のほとりにアイテムの山が現れる。
「うわぁ…なんだかすごいわねぇ…」
「でもしっこくさんはどうしてこのようなバイトをしてるんですの?」
「禁則事項だ」
疑問や不思議は尽きないが、4人はアイテムの山を確認に当たった。
「これは…高級しっこくステーキですね。アイク兄上が喜びます」
漆黒の騎士が経営してるレストランの高級メニューだ。
高価ではあるが、値段に見合うだけの味をもった一品である。
アイク垂涎ものだろう。
「この水晶…漆黒さんの顔…というか兜が掘り込まれているんだけど…」
水晶を手に取ったターナは、微妙な姿に成り果てたそれを見て渋い顔をする。
「乙女が使うものだろう?
 この鎧と同じく女神の加護で占いの的中率が10%UPするのだ」
「いや…効果はいいとして…デザイン…」
「む、気に入ったのか?
 だがそれは乙女のものだからな。ほしければ自分の水晶を投げ込んでくれ」
「………」
呆れて物も言えない…
「こちらの鎧は……まぁ!完全に漆黒さんの鎧じゃありませんの!?」
「うむ、私の鎧のレプリカだ。女神の加護はないが、以前の鎧より守備と魔防が10UPするぞ」
この鎧を纏って斧を振るうヘクトルが目に浮かんだ…
兜で顔も見えず、傍から見れば完全に漆黒の騎士だ。

52 :ラトナ様が見てる ~ しっこくの森 ~:2010/03/12(金) 14:07:29 ID:cDMYmWwo

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「このお薬はなんですか?」
エイリークが掲げた薬瓶には怪しげな粉薬が入っている。
恐らくはエリウッドの毒消しの上位品だろうが…
「うむ、転移の粉を利用してつくった薬だ。これを飲むと病や癌細胞が全身に転移する」
「じゃあダメじゃありませんかっ!?」
「あ、そうか」
なにを考えてこんなもんを作ったのだろう……
こんなもん飲ましたらエリウッドが死ぬ。
後で廃棄決定。
「この盾も漆黒の顔が掘り込まれているな」
「漆黒シールドだ。守備力が+5される上アイオテの盾の効果もあるぞ。飛行系におすすめだ」
「ふむ、それは凄い」
感嘆しているヒーニアスだが、彼はこれがシーダへのプレゼント品とは知らない。
性能は申し分ないのだが……
「この漆黒さんのブロンズ像は…元はミラの神像だったのですね」
「10分の1サイズの漆黒像だ。よい出来だろう?」
「ええ…細部までリアルに再現されてます…」
軽く頭痛がしてきた。
見事に漆黒グッズのオンパレードだ。
「するとこのエタルドは銀の剣と交換で?」
ターナが手にとっていた剣はエタルドと瓜二つ。
「レプリカエタルドだな。
 本物ほどの威力はないが、それでも中々の名刀だぞ」
「このお守りセット…漆黒さんとミカヤさんの顔が入ってるんですけど…」
「私と乙女のように仲睦まじく…というご利益ある縁結びのお守りだ」
「もう!エイリークのお話によればこれはシグルド様とディアドラ様が持つものじゃありませんの!」
この所珍しくラーチェルは突っ込んでばかりだ。
本来彼女は突っ込みを受ける方なのだが…
「ダンベルの両端が漆黒像になっているな。
 どれ…持ち上がらん…っ」
ヒーニアスが歯を食いしばっている。
「特殊合金製だからな。合わせて100キロになるぞ。鍛錬に持ってこいだろう?」
「…ど…どうやって持ち帰りましょう…」

53 :ラトナ様が見てる ~ しっこくの森 ~:2010/03/12(金) 14:08:12 ID:cDMYmWwo

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エフラムの槍はしっこくランスとなっていた。
黒い柄に光沢が眩しい。
「投げても使えるよい槍だ。柄に結んだ私のSDフィギュア付ストラップはサービスだ」
「あ……ありがとうございます…」
そこまで答えていやな予感がした。
あれほど特別版をやりたがっていたロイのソフトはどうなったのか…
慌ててGBAのソフトを確認する…その姿は……
漆黒の騎士が表面を飾る「 漆黒エムブレム ~ 封印のエタルド ~ 」
「ストーリーはこうだ。平和な大陸テリウスにて、突如クリミア女王エリンシアが
 大陸をひょろひょろもやしから解放すると称して諸国に侵攻を開始した。
 デインの諸侯セフェランの息子漆黒は、戦死したアシュナード王の遺児ミカヤと手を取り合って
 この戦乱に立ち向かう…詳しくはプレイしてみてくれ。一大感動巨編だ」
(……ごめんなさいロイ…正直トライアルマップよりも興味を覚えてしまいました…)

こうして漆黒グッズが出揃った。
「ラーチェルはどうしますか?
 やはりイーヴァルディを?」
「……いえ、やめときますわ…ラーチェルディどころか漆黒ディになりそうですもの…」
「他にないか?
 なければ私は帰るが」
「そういえばターナはどうしますの?」
話を振られたターナの額には一筋の汗が滴っている。
このままでは「実はいいしっこく」とかになりそうだ…勘弁してほしい。
「あ…あのー漆黒さん…精霊さんはお戻りにならないの?」
「このところ多忙だからな。だが彼女に用があるなら連絡しよう。
 少し待っていてくれ」
転移の粉で漆黒の騎士が姿を消す。
道具袋を開けながら、
「そうと知っていれば色々もってきたのだが…」
などとぼやくヒーニアスを横目に見ながら泉の様子を観察する。
エイリークもラーチェルもターナが何を投げ込むつもりなのか、
興味深げに見守っている。
5分ほど過ぎただろうか。
再び漆黒が転移してきた。
「OKだそうだ。投げ込むがよい」
その言葉を受けたターナは全速力でヒーニアスに駆け寄った。
「お兄様!」
「ん、なんだ?」
ヒーニアスの返事も聞かずに襟首をつかむとズルズル引きずっていく。
「うおっ何をする!?」
だが耳を貸さない。
エイリークもラーチェルもターナの突然の振る舞いに戸惑っている。
「そお~れっ!」
「アッー!タスケテエイリーク!」
勢いよくヒーニアスを泉に叩き込む!
再び泉の表面が光を放ち……

続く