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Last-modified: 2012-08-29 (水) 20:21:22

9 :幼女の旗の下に:2010/06/12(土) 22:18:22 ID:1h0o6QR3

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1 オグマ案を採用する   ラグズ票か…取り込めれば大きな力になるな

ラグズ…主としてテリウス地区に居住する彼らは大まかに獣牙族、鳥翼族、竜鱗族に分けられる。
この内、竜鱗族は竜王家の一門であり、族長のデギンハンザーは竜王家の3巨頭に数えられている。
獣牙族、鳥翼族はさらに幾つかの種族に分かれてコミュニティを形成しており、
ベオクとは違った社会体制を築いて生活している。
彼らは紋章町の市民権を持ってはいるが、テリウス地区の行政はほとんどがベオクで占められており
ラグズもラグズで族長の元、狩猟採集等の自給自足に近い生活をしているのでぶっちゃけ政治なんぞに関心は薄かった。

単純にそれを表す数字的データとして前回選挙の棄権率97%、納税率13%という数字があげられる。
これに加えるなら30年ほど前まで行われていた徴兵制の兵役拒否率88%という数字もある。
ラグズにしてみれば「なんだってベオクに金を払ったり、若者をベオクの軍隊に入れなきゃならんのだ」というわけであるが、
ベオクに言わせると「あいつら税金も払わん連中に市民権など必要ない」となる。
ラグズの中にはネサラのように貨幣経済に疎い者や、古代さながらに貨幣を用いない生活をしてる者もいるため、
少数民族の文化的背景に鑑みる…という形で納税せずとも逮捕されたりはしないが、
ベオクにしてみればそれが面白くない者もいる。
ラグズとベオクの確執は深い。
とりわけ、兵役の義務を果たしてきた上の世代になるほどその感情は強い。
こういった対立感情は数百年に及ぶテリウス地区の悪癖であり、
現在でもさまざまな問題の火種となっている。

エフラム 「ふむ…なるほどな…」
テリウスに向かう列車の中でエフラムはカナスから簡単にラグズの事を教わっていた。
なんにしても支持を取り付けるにはまずは相手の事を知る事だ。

今回エフラムが同行者として伴ったのは、現役議員であるオグマ、ロイド、
ぜひ連れてってほしいと強く希望したシャナン、ラグズの歴史や社会についても学識の深いカナス、
それに後援者のグレイル工務店から店主のグレイルとアイクにも来てもらっている。
両者ともラグズに顔が利き、とりわけグレイルは獣牙族の大半…猫、虎、獅子の諸一族を束ねるカイネギスと面識が深い。

10 :幼女の旗の下に:2010/06/12(土) 22:19:14 ID:1h0o6QR3

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グレイル 「…ここから先は歩きだ。少し遠いぞ」

列車を降りた後は駅でジープを借りて3時間……あまり整備されていない道路を進み、
それすらも途切れた密林にたどり着く。
もはやこの先は車も入っていけない。
狭い獣道を一行は進んでいく。
カナス  「はぁ…はぁ…話には聞いてましたけど…これはすごいところに住んでいますね…」
アイク  「なんだ疲れたのか? もっと体を鍛えないといかんぞ?」
カナス  「はぁ…面目ない」
オグマ  「ここまで道路網が未整備とはな…これでは生活にも困るんじゃないか?」
グレイル 「納税率が低いから行政もラグズ居住地区へのインフラ整備は熱心にやらねぇんだよ。
      財源も無いしな。ラグズの連中にしてもベオクとは比べ物にならねぇ身体能力を持ってるから別に困らねぇんだ。
      化身すりゃ馬並みの速さで走れるからな」
ロイド  「…俺たちとは色々違うからな…連中に幼女を守るための政治を訴えて理解が得られるだろうか?」
エフラム 「子供を愛でる気持ちはベオクもラグズも変わらんよ。いや、人間だけではない。
      あらゆる生物全般に言える事だ。きっとわかってくれるさ。いやわからす。必ず説得する」
シャナン 「それはいいが…考えてみればサラにワープで送ってもらえばよかったんじゃないか?
      まさかこれほど遠いとは思わなかった…」
ロイド  「先に気づいてほしかった」
アイク  「いや、これでいいんだ。こうして歩くのもいい足腰の鍛錬になる」
さらに歩く事3時間、ガリアの密林の中心に族長カイネギスの大集落はあった。
カイネギスはこの集落だけではないテリウス全域の猫、虎、獅子のラグズを率いる有力者である。

レテ   「おお、待ちわびたぞ。族長もグレイル殿に会うのを楽しみにしておられた」
集落の入り口では部族の戦士レテが一行を出迎えた。
アイク  「しばらくだな。元気にしていたか?」
レテ   「あ…ああ、その……なんだ……たまには顔を出せ…」
アイク  「そうだな。ガリアのジャングルは修行にはもってこいだ。また修行がてら寄らせてもらう」
レテ   「う…うむ……そうしろ」
一行はレテの案内でカイネギスの家に向かう。
ベオクが大人数で集落の中を進んでいるとどうしても目立つ。ちらほらとラグズ達がこちらを眺めている。
エフラム 「どうしたシャナン。さっきからキョロキョロして?」
シャナン 「ああ…いや…なんでもない」
     (…猫耳幼女…猫耳幼女…)

ぬこ幼女 「みゃあ?」
ちっちゃな幼女が物珍しそうに尻尾を動かしながらこちらを眺めている。
シャナン 「ムハ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!
      ぬぬぬぬぬこ!? ね…猫耳…尻尾…いかんいかんクールに…
      フッ…どうだろうお譲ちゃん…よければ写真を撮らせてもらえないか?」
ぬこ幼女 「ふみ? いーよ♪」
レテ   「なにしてる。さっさと来い」
シャナン 「あっせめて一枚…」

だがレテは問答無用でシャナンを引きずっていった。

11 :幼女の旗の下に:2010/06/12(土) 22:19:55 ID:1h0o6QR3

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一行は集落でも一番立派な家の応接室に通された。
出迎えたのは堂々たる体躯のラグズだ。

カイネギス「久しいなグレイル。今日は何でもワシに会わせたい者がいるとか…」
グレイル 「うむ、アイクの弟だ」
エフラム 「エフラムと申します。今日は一政治家としてカイネギス殿にお願いがあって参りました」
カイネギス「ふむ…込み入った話になりそうだな。ライ、お客人達に茶をお出ししろ」
ライ   「はっ」
カイネギス「それで願いとは? 次の選挙で票を入れてほしいということか?」
エフラム 「はい、是非ともお力を貸していただきたい」
カイネギス「我が友の紹介した者の願いだ。協力するにやぶさかではないが、
      知ってのとおりワシらはベオクの行政とは縁遠い生活をしておる。
      一族の者たちにはわざわざベオクの居住区まで足を運んで投票して、それでなんの恩恵があるのやら…
      と考える者も多い。ワシはその者たちになんと説いて号令をかければよいのか?」
エフラム 「一族の幼女のため…と説いていただきたい」
カイネギス「……」
オグマ  「我々の党は紋章町の全幼女のために活動しております。無論ラグズの幼女もその対象」
ロイド  「あらゆる方法をもって我々は幼女の保護と生活の向上に努めます!」

その時荒々しく扉が開いた。
筋骨隆々とした大男が歩み入る。
スクリミル「黙って聞いておれば何をたわけた事を! ラグズの一族の子供はラグズが面倒を見る!
      貴様らベオクにどうこう言われる筋合いはない!」
カイネギス「馬鹿者! 客人に無礼だろう!」
スクリミル「叔父貴! あの選挙とやらになんの意味があるというのだ!?
      入り札でわけのわからぬ口先だけの者を選んでそれがなんだというのだ!」
エフラム 「我らの幼女を愛でる気持ちを口先だけと抜かすか!?
      聞き捨てならん!」

たちまち場は一触即発の空気となる……

12 :幼女の旗の下に:2010/06/12(土) 22:20:37 ID:1h0o6QR3

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主な者たちが応接室で話をしている間、別室ではシャナン、カナス、アイクの3名が旅の疲れを癒していた。
…とはいえアイクに疲れなど絶無であり、アイクは庭に出て素振りをしている。
アイク  「ぬんぬんぬぅん!」
カナス  「はは…すごい体力ですねぇ…私などもう足が棒のようです…」
シャナン 「随分歩いたからな…どれ、私はちょっと集落の中を歩いてくる」
カナス  「シャナンさんも元気ですねぇ……」

その背中を見送ったカナスは、ふと庭に視線をやる。
何とはなしにアイクの素振りを見物していたが、木の陰から尻尾が覗いている。
カナス  「?」
よく目を凝らしてみると、先ほど案内してくれたレテの尻尾のようだ。
ゆらゆらぴこぴこと尻尾を忙しなく動かしている。
カナス  (ああ…彼女はアイクさんに気があるようでしたからねぇ…
      気恥ずかしくて話しかけられないのでしょうか)
アイクやレテとは初対面のカナスであるが、レテの態度は判りやすすぎた。
なんだか揺れている尻尾が微笑ましい。
…が、いつまでも木の陰から出てくる様子はない。
自分と妻の青春時代を思い出す…穏やかな気持ちに背を押され、カナスは一つ助け舟を出してやることにした。
カナス  「精が出ますねアイクさん。そろそろ休憩してお茶にしませんか?」
持ってきた荷物の中から魔法瓶のお茶を出し、幾つか食べ物を広げる。
アイク  「ああ、すまないな。頂こう」
カナス  「そちらの方もご一緒にいかがですか?」
尻尾がピーンと固まる。今更尻尾が出てたことに気付いたようだ。
まさに恋は盲目である。
アイク  「ん? ああ、レテか。一緒にどうだ?」
…ここまで言われて隠れているわけにもいかない。
ひょっこり顔を出したレテはなにやらツンツンしながらこちらへ歩いてくる。
レテ   「そ…そこまで言うなら一緒にお茶を飲んでやらんでもない。
      だが勘違いするな! べ…別に私は木陰で昼寝をしてただけであって、
      話しかけるタイミングを計ってたわけじゃないんだからな!」
アイク  「……? よくわからんが握り飯だ。美味いぞ」
カナス  「おっといけない。家に電話をしないと…少し外しますね」
レテ   「…ありがと…」
カナス  「いえいえ…」
アイク  「?」
適当な事を言ってそそくさとその場を離れる。
気を使ったのもあるが、微笑ましい青春を見てなんだか妻の声が聞きたくなったのだ。
…もっともケータイの電波は通じなかったが…

13 :幼女の旗の下に:2010/06/12(土) 22:21:18 ID:1h0o6QR3

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集落の中をシャナンはカメラ片手にうろついていた。
言うまでもなく猫耳幼女の撮影が目的である。
お駄賃用にキャンディやチョコレートも用意してある周到さだ。
傍から見たらほとんど不審者であるが、シャナンに言わせると
「ち、違う! 幼女の美しい今という一瞬をフィルムの中に残しておきたいだけなのだ。ロ、ロリコンではない!」
ということらしい。

さっそく遊んでいる子供たちに声をかけてみる。
シャナン 「こんにちは、どうだろう、写真を撮らせてもらえるか?」
初めは慣れないベオクに怪訝そうにしていた子供たちもお菓子をあげるとたちまち集まってきた。
ぬこ幼女 「わーいチョコレートチョコレート!」
とら幼女 「飴玉もある~♪」
ぬこ男児 「ありがと兄ちゃん!」
シャナン 「はっはっは、よしよしいい子だ」
幼女たちの愛らしさに目じりを下げてシャナンは写真を撮りまくる。
シャナン (くっ…男児はいらん! あっちいけ!…幼女の前に出るなフィルムがもったいない!
      …と言いたいが、男児を追っ払うとロリコンと誤解されかねん…)
なるべく男児を避けて幼女をフィルムに収めていく。
とら幼女 「がおー♪」
しし幼女 「うがー♪」
ぬこ幼女 「ごろにゃん♪」
シャナン (ハァハァ…し…尻尾揺れてる…ぬこみみピコピコ…も、萌え~~~)
リィレ  「にゃんにゃん、甘い甘いうま~~」
シャナン 「…って、いつの間に!? あ…あのな…これは幼…子供たちのためにな…」
リィレ  「ケチなこと言わないの、にゃ~」

いつのまにか妙な2人組が子供達に混じっていた。
リィレ  「あ、カメラね。私がモデルになってあげる♪」
シャナン 「あっよせ!」
言うが早いかリィレはシャナンからカメラをひったくるとレンズに笑顔を向けて自分を撮影し始める。
リィレ  「にゃん♪」
シャナン 「ちょ…フィルムには限りが…」
キサ   「あら…こちら中々いい男ね。うふふお兄さん、ちょっとアタシと遊びましょうよ」
カメラを取り替えそうとしたら、もう一人の筋骨逞しい男に羽交い絞めにされた。
シャナン 「ま…待て!? 私にそんな趣味は……」
キサ   「あら照れなくてもいいじゃない♪」
シャナン 「ぎにゃ~~~っ!? よせ、やめれ~~~!?」

……しばらくして、顔をキスマークだらけにしたシャナンは恐怖におののきながらカイネギス邸に逃げ帰ることとなる…

14 :幼女の旗の下に:2010/06/12(土) 22:21:59 ID:1h0o6QR3

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カイネギス邸ではエフラムとスクリミルが喧々囂々と争っていた。
スクリミル「わけのわからん貴族だなんだと柔弱な者どもを長としてる時点でベオクは信用ならん!」
エフラム 「俺は平民だ! 大体そんなこと幼女を守る志には関係あるまいが!」
スクリミル「ふん!言葉だけ大層でも俺は……」
カイネギス「ええい、いい加減にせい!」
スクリミル「お、叔父貴…」
叔父の一括にさすがにスクリミルも黙り込む。
カイネギス「いや、見苦しい姿をお目にかけた。すまぬな。
      だがこういう考えが我が一族では主流なのだ。
      ワシが命じればみなは従って選挙には行くだろう。だが、ただ票を投じるだけだ。
      お前たちの精神や志に理解を持ってのものではない」
エフラム 「それは私としても望むところではありません。
      あくまでも幼女を守る志の支持のために票を入れていただきたいと…」
スクリミル「ふん、わざわざ遠いベオクの町まで赴いて投票するほど俺たちは暇ではないわ!」
カイネギス「……まぁ…なんだ。ワシらは演説やら言葉だけでは物事を受け入れない性質でな。
      お前が子供たちのためを思っているのはよくわかったのだが、この際はそれを行動で示してもらいたい」
ロイド  「と言うと?」
カイネギス「腕試しだ。お前たちの力が我が甥をしのぐ物ならワシはお前を支持しよう。
      他の者たちもそれで納得するだろう。
      スクリミルも異存ないな?」
スクリミル「おう! この俺に勝てるベオクなら認めてやってもよい!」
オグマ  (この猛者たちを相手に力ずくか…これは他の政党が中々容易にラグズの支持を得られないはずだ。
      …いや、俺たちにしてもグレイル殿の協力が無ければ会ってすらもらえなかっただろう)
グレイル 「懐かしいな。俺がカイネギス殿と初めてやりあった時を思い出す」
カイネギス「ふふ…何十年前になるか……さあ、みな庭に出い!」

15 :幼女の旗の下に:2010/06/12(土) 22:22:41 ID:1h0o6QR3

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一同は庭に出た。長の家が騒がしいと興味津々で集落のラグズが集まってくる。
庭はたちまちギャラリーで埋まっていく。
確かにこの状態で勝てば手っ取り早く力を示せるだろう。

スクリミル「俺はいつでもいいぞ! そっちは誰が来る? 束になってかかってきても構わんぞ!」
エフラム 「馬鹿を言うな! 一騎討ちに決まっている!」
オグマ  「だがヤツは強い…人選はよく考えないとな…」
エフラム 「党首は俺だ、俺がいく」
ロイド  「お前ばかりに苦労はかけられんよ。俺に任せろ」
アイク  「俺がいってもいいぞ? 奴と手合わせするのは久しぶりだ」
カナス  「いや…アイクさんは党員ではありませんし…それでは私どもの力を示したことにはならないでしょう。
      …荒事には自信がありませんが、ルナの魔法なら先手を取れれば有効に戦えるかと」
アイク  「そうか…」
シャナン 「た…ただいま…ひどい目にあった…ん…なんかあったのか?」
オグマ  「シャナン、バルムンクは持って来てるか?」
シャナン 「ああ、もちろんだが…なにかあったのか?」
オグマ  「実はカクカクシカジカ…」
シャナン 「なるほどな…まてよ!?」
     (ギャラリーで集まってきてる獣耳幼女たちにかっこいいところ見せるチャンスではないか!?
      一族の強者を倒せば…「きゃー♪ お兄ちゃんつよいにゃー! 私をお嫁さんに…」なんて展開が期待できるかも!
      うは、漲ってきた!!!!!!)
シャナン 「是非!是非私にやらせてくれ!」
エフラム 「お、落ち着け…鼻息が荒いぞ…」
オグマ  「エフラム、それぞれの戦力をよく考えて人選をしてくれ」
エフラム 「うむ…そうか」
シャナン 「私だ!私がやる!」
ロイド  「なんでそんなにやる気満々なんだお前?」
シャナン 「フッ…党のためにこの力を尽くしたいのだ…この場は我が神剣バルムンクに任せてもらいたい…」

エフラム 「それでは…そうだな」

続く

1 エフラムが戦う 鍛えぬいた槍術とジークムントの力、見せてくれよう!
2 オグマが戦う  実戦経験豊富なベテラン傭兵だ、きっと期待に応えてくれる! …武器が銀の剣なのが微妙だが…
3 ロイドが戦う  最強の四牙の力、リガルブレイドの切れ味を思い知らせてやれ!
4 カナスが戦う  ラスボスも殺すルナの力、見せ付けてやれ! しかし筋肉痛でフラフラしてる…大丈夫か?
5 シャナンが戦う 流星剣とバルムンクならば必ず勝ってみせてくれる! なんかやる気も満々だしな!