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Last-modified: 2012-09-01 (土) 13:35:39

264 :幼女の旗の下に:2010/08/07(土) 04:20:08 ID:tVKzR3TF

207

3 屋上で黄昏る     入社してからいろいろあったなぁ…

…空を雲が流れてゆく…
屋上のベンチに腰掛けたシグルドはまったり空を眺めていた…
昼休みなら社員の姿もチラホラあるがこの時間では誰もいない。
シグルド 「…思えば大学出て入社して…色々あったなぁ…」
初めて出社した日…ちんぴらに絡まれてた女性を助けて遅刻した…ディアドラとの出会い。
それがどこかから会長の耳に入ったのか…銀の剣を頂いた。
預かってきたアルヴィスが「私がいればちんぴらなど燃やしてやったのに」と悔しがっていた。
色々と失敗もした。要領よく仕事をこなす有能なアルヴィスを見ながら、
どうすればああいう風に出来るのか頭を悩ませた。
新米の頃は掃除、お茶組み、雑用もなんでもやった。
1年が過ぎ…どうにか鳴れてきた頃に後輩が出来た。
後輩の前で失敗する姿は見せられないと今まで以上にがむしゃらに働いた。
数年が立ち…念願の係長になり…その頃にはアルヴィスは課長としてずっと先を走っていた。
仕事とKINSINN退治に追われる日々…どうにか時間を作ってディアドラとデートもした。
アルヴィスとは常にライバルだった。
同期が次々と上に行き万年係長と呼ばれるようになった。
キュアンとエルトシャンが相次いで結婚した。
祝福しつつも内心で焦る気持ちが沸いた。
そして左遷という人生の一大事を受けて…ディアドラに勇気を振り絞ってプロポーズして…
ヴェルダンから返り咲いて…

シグルド 「本当にいろいろあった…けど、まだ黄昏るのは早いかな。
      次はディアドラと一緒に社長に挨拶して結婚を認めてもらうんだ。
      貴族でなくてもディアドラに相応しい男だってわかってもらわねば…」

ベンチを立ったシグルドは屋上を去るべく帆を進めて…屋上の片隅で用務員の老人が花壇の世話をしているのに気が付いた。
前から誰が世話してるのか疑問だったのだ。それにしても老人は腰も曲がってて杖を付いている。
脚がふら付いていて見てて心配になった…
シグルド 「…何か手伝おうか?」
老人   「あ?」
どうやら耳が遠いようだ。シグルドは大きな声でもう一度繰り返した。
老人   「すまんのぅ…それでは草むしりをしてくれるかのぅ…ワシの腰では容易にできんでな」
シグルド 「ああ、構わないよ。弟の畑を手伝った事もあるからどうってことない」
どのみち今は休暇中で時間もあるしたまには会社の屋上で土いじりも良いかもしれない。
軍手を借りるとさっそく屈みこんで雑草をむしっていく。
しばらくすると老人はシグルドがいるのにかまわずホースで水を巻き始めた。
シグルド 「うわっ!?冷たっ!?」
老人   「あ?」
シグルド 「ちょ…水止めて水!?」
老人   「何か言ったかの?」
シグルド 「ああ水じゃな」
老人は蛇口を捻って水流を増す。
シグルド 「ちょ…逆逆!」
老人   「ところで朝飯はまだかのう?」

そんなやり取りの末、どうにか水を止めてもらった…
すっかり水浸しだ。

265 :幼女の旗の下に:2010/08/07(土) 04:20:57 ID:tVKzR3TF

208

老人   「すまんのぅ…年を取るとどーも頭が働かんでな…」
多少ボケが来てるのだろうか…
シグルド 「いや、いいよ。日も照ってるしすぐ乾くよ」
老人   「それじゃあ次は木の剪定でもしてもらおうかのう。ワシの脚では脚立を上れんでな」
シグルド 「よし任せなさい!」
気のいいシグルドは引き受けた。…が。
老人   「…おととと…」
シグルド 「うわっ…あぶなっ!?うごふ!?」
脚立に上ったところ、よろけた老人が脚立を倒してしまう。
当然モロに転げ落ちた。
老人   「すまんのう」
シグルド 「ははは…私は丈夫だから」
…こんな調子で昼まで老人を手伝う事になった。
老人の手からすっぽ抜けた杖が後頭部に直撃したり、つま先に重い物を落とされたりと散々だったが
人の好いシグルドは怒るでもなく最後まで付き合った。
老人   「世話になったのぅ…」
シグルド 「いや、今日は時間もあったし構わないよ」
そろそろ屋上を出て家で昼飯にしよう。
シグルドが老人に別れを告げて踵を返すと、耳に呟き声が届いた。
老人   「時に銀の剣は大事にしておるか?」
シグルド 「へ?」
老人   「ああいや…なんでもない。年よりは独り言が多いでな」

屋上に至る扉が閉じ、一人になると老人はワープの杖を持って姿を消した。

266 :幼女の旗の下に:2010/08/07(土) 04:21:43 ID:tVKzR3TF

209

ディアドラ「おじいさま?おじいさま!?…そろそろお食事の時間なのに…」
バーハラ家の廊下を歩きながら家僕達に祖父の事を聞いてまわる…
脚も悪いのにまれにふらりと姿を消すアズムールの悪癖はディアドラの心配するところだ。
中庭を覗いてみる…
用具室からひょっこりと祖父が顔を出した。
ディアドラ「おじいさま…こちらにおいででしたか」
アズムール「心配かけてすまんのう…飯の時間かの?」
ディアドラ「ええ、こちらにどうぞ」
アズムール「うむうむ…時にディアドラや?」
ディアドラ「はい?」
アズムール「今日はよい男にあったわい…ボケた老人の悪さにも嫌な顔をせず付き合ってくれる気持ちの優しい男じゃ…
      昔…入社したての彼に剣を贈ったことがある。アルヴィスに預けたゆえ会うのは初めてじゃったがな」
ディアドラ「おじいさま…まさか…」
アズムール「許せ。お主が彼の名を呟くのを偶然聞いてしまっての…それでもしやと思ったんじゃが…
      剣を送ったきっかけとなった事件以来…交際しておったんじゃな?」
ディアドラ「はい…」

家族に言い出せなかったのも無理はない。
なにしろ大貴族と平民だ。
色々と難しい問題は多い。
単に身分の差にとどまらない…なにしろ生きてきた世界が違う。
加えてディアドラが一人娘である以上、婿を取らねばならないのだ。

アズムール「……何、クルトに言うつもりはない。ま、全ては彼が尋ねてきた時の事じゃな。
      余り思い煩うでない」
老人は髭をさすると孫娘を伴って食卓へと向かっていった。

数日後にはシグルドは幹部研修に入った。
課長の席は近い。

267 :幼女の旗の下に:2010/08/07(土) 04:22:27 ID:tVKzR3TF

210

ベルン署…
ゲイル警部が捜査資料を眺めている。
彼の元にはいくつかの案件が並んでいた。
ゲイル  「マギヴァル地区で公金横領……エレブ地区イリア地方で賃上げ要求のデモが暴動に発展…
      トラキア地区の犯罪発生件数過去最悪……」
溜息の出る内容ばかりだ…
ナーシェンが失脚して組織内部の刷新が済んだとはいえ、問題は常に山積みだ。
ツァイス 「単発の犯罪なら署長が回転して犯罪者を叩き潰せば終わりなんですがねぇ…」
ゲイル  「根幹からどうにかしなきゃ同じ事をしでかす奴が出てくるさ。
      俺達の仕事は地道に一件一件片付けていく事だよ」
ツァイス 「ところで…知ってますか?
      噂じゃあのナーシェンと繋がってた議員がマードック警視監やブルーニャ警視とコネを作りたがってるとか」
ゲイル  「ナーシェンのラインが潰れたからな。また警察にパイプを復活させたいんだろうよ。
      だがあのお二人なら心配はいらんだろ」
ツァイス 「確かに…ですが…ペルシス公の件がありますからねぇ」
ゲイル  「ああ…出所が近いんだったか?」
ミレディ 「おしゃべりはそこまで…事件よ。トラキア地区で紫竜会系のクラブが爆破されたわ。
      トラキア駐在の警官たちの第一報じゃ32人が重軽傷だって」
ゲイル  「ヤーさんの抗争か? このところ静かだったんだがな…付き合えツァイス」
ツァイス 「まったくトラキア地区のお陰で警官の雇用が守られてますね」
ゲイル  「仕事があるのはありがたいことさ。さ、急ぐぞ」

3騎の飛竜がベルン署を飛び立っていった。

268 :幼女の旗の下に:2010/08/07(土) 04:24:05 ID:tVKzR3TF

211

幼いサラの左手には地味だが品の良い装飾の指輪がはまっている。
その横でエフラムは頭を抱えていた…
サラ   「あら…どうしたの兄様? そんなに嬉しいの?」
エフラム 「…………お前な…………そういう重大な事は指のサイズを聞いた時に教えてくれ…」
サラ   「ふふふ…いいじゃない。婚約とか結婚とか社会の型にはまった形を整えるだけの約束よ。
      そこまでこだわるようなものじゃないわ」
エフラム 「充分重大だと思うがな…」
サラ   「大きくなったらお兄ちゃんのお嫁さんになる~!…ははは、じゃあ待ってるぞ約束だ!
      …なんて感じの気軽で微笑ましいエピソードだと思うけど?」
エフラム 「お前だと冗談にならん…いや、そもそも幼女だから気軽な冗談というのは俺は好かん。
      相手が誰であろうと約束は果たさねばならん。よし!婚約するぞ!」
サラ   「あら嬉しい。でもいいの?ミルラが泣くよ?」
エフラム 「む……俺は幼女を守る者としてミルラを泣かせるわけには…」
サラ   「兄様がミルラを正妻にして私が愛人でも私は構わないよ?
      さらにチキファアメリアも愛人に…」
エフラム 「いや…ちょっと待て…なんでそうなる?」
サラ   「だって兄様ロリコンだもの」
エフラム 「俺はロリコンでは…」
サラ   「幼女に婚約申し込んだらロリコン。だからその証拠にこの指輪は預かっておくね。
      兄様のロリコンの証として…」
エフラム 「…好きにしてくれ…それはお前に贈ったものだからな」
クスクスとサラは微笑むと左手の薬指に嵌った指輪に口付けをした。
なんだかんだとおちょくられたが気に入ってくれたようだ。
ついそんな姿を見てると頭を撫でてしまう。
なでなで。
サラ   「兄様は幼女を撫でるのが好きね」
エフラム 「幼女に限定するな」
サラ   「あ、ごめん。妹もよね。兄様ロリでシスだもの」
エフラム 「…なんとでも言え。幼い者や妹を愛で守るのは兄の責務だ」

その時2人の上を3騎の竜騎士が飛んでいった。
エフラムはいつものクセでサラを抱きかかえて電柱の影に身を隠す。
…3騎はすぐに見えなくなった。
エフラム 「いったか…」
サラ   「さすがロリコン兄様ね。とっさに警官を避けるなんて」
エフラム 「違う。あいつらはいつも冤罪と誤解で他人を追い回すからな。無用なトラブルを避けたまでだ」
サラ   「冤罪でも誤解でもないと思うけど? 現に今こうして未成年者略取を…」
エフラム 「しとらん! それにしてもトラキアの方に飛んでいったな…向こうで何か事件か?」
サラ   「かもね…」

続く

1 気にせず事務所へ向かう ま、今は事務所に帰って指輪をネタに姉さまでも弄りましょ
2 リーフに知らせる      トラキアだし…リーフ何かしでかしたのかな? 
                   しばらくぶりにいぢめてあげたいし、そのついでに知らせてあげようか?
3 ジャファルに調査させる  この道の専門家だしね。情報収集ならお手のものでしょ