29-206

Last-modified: 2012-09-03 (月) 19:26:24

206 :はじめての友達:2010/08/30(月) 00:21:29 ID:9OQXGIK6

クライネ 「ただいまあ」
カタリナ 「お帰りなさい、クライネ。疲れてるみたいですね」

暗殺者のアジトに帰ってきて、まず最初にアイネが出迎えてくれた。
いつもクズって貶してるのにいつも出迎えてくれるアイネは人を思いやる優しさがある。
そんな風に思えるのも「あいつ」のおかげなのかしらあ?

カタリナ「最近クライネ、楽しそうですね。何か良いことでもありましたか?」
クライネ 「べ、別にそんなことないわよっ!」

目敏くあたしの変化に気づくアイネにムッとなる。
まあ、あたしが自分で丸くなったと思うくらいなんだからアイネが気付かない筈もないわね。

クライネ 「でも…友達が、できたかもしれないわあ」
カタリナ 「本当ですか!?」

あたしの事なのに自分の事みたいに喜ぶアイネ。
前なら「うざい、クズ」で終わらせたのに。
ああ、あたし義理でも姉さんに沢山酷い事言ったわね。

カタリナ 「聞かせて下さいクライネ。貴女の友達の事や、出会いを」

アイネが微笑みながらあたしの頭を撫でる。
あたしより背が小さいくせに、全く!

207 :はじめての友達 2:2010/08/30(月) 00:22:13 ID:9OQXGIK6

クライネ 「そうねえ。話してあげるわあ。ありがたく思いなさいよ」

あたしはアジトの椅子に座って喋り始めた。

豪雨の日だったわ。
エレミヤ様からの任務で部下と山に行った日。
足元は直ぐに崩れて下山も出来なくて近くに山小屋も砦もない。
足首まで挫いて、あたし、こんなとこで死ぬんだ。って本気で思った。
部下におぶられて必死に山をおりてた。
その時、だったわ。

??? 「…お姉さん達、どうしたの?」

酷い雨の筈なのに、そいつのあの時の声は未だにしっかり覚えてる。

クライネ 「誰よお…っ!」

殺意は向けられてなくてもあんな山の中子供がいるなんておかしいじゃない。
あたし達はいつでもあいつを殺せるように臨戦態勢に入った。

リーフ 「僕、リーフっていいます。僕の兄さんの一人のアルムって人と隠れん坊してたんですが、この雨でしょ?兄さんも僕も山には慣れてるから下山する最中なんです」

リーフと名乗ったあいつは、全身びしょびしょで突き刺さるような雨の中、平然と笑っていた。

208 :はじめての友達 3:2010/08/30(月) 00:22:55 ID:9OQXGIK6

リーフ 「あそこに僕だけの秘密基地があるんです。一応雨風凌げるよう作ったから、来てください」

敵意は無かったし、この辺りの山に慣れてるみたいだったから大人しくついていった。
あたしにはまだエレミヤ様の役に立つって仕事があったからあんな所で死ねなかった。
秘密基地というだけあって誰にも気付かれないような位置にあった。
木や葉で本当に雨が凌げていて、中は全く濡れていない。
生き残った数人の部下も驚嘆の声をあげる。

リーフ 「タオルいります?風邪ひきますよ」
クライネ 「あ、ありが…と…」

見知らぬ他人に優しくされるなんて初めてで、どうしていいのかわからなかった。
今まであたし達みたいな孤児は蔑まれて虐められてきたから…。

リーフ 「お姉さん達は、どうしてあんな山の中にいたんですか?」

そいつは秘密基地の中の物をごちゃごちゃ触りながら言った。
エレミヤ様の事を話す訳にもいかない、あたし達はエレミヤ様の事には触れず事情を話し始めた。

209 :はじめての友達 4:2010/08/30(月) 00:23:39 ID:9OQXGIK6

リーフ 「そうですか…大変だったでしょう?この山、入り組んで迷路みたいですから」

部下が勝手にあたしが怪我をしてる事を言って、そいつは自分のタオルを躊躇いなく切ってあたしの足首に添え木を一緒に包帯で巻いた。

クライネ 「あんた…風邪ひくわよ」

先程言われた言葉を返せば、そいつは「耐久には自信があります」と言って笑った。
雨も酷くなる一方で、怪我もあり帰れそうに無いのを見てそいつは秘密基地に泊まればいいと言う。
秘密基地なのにいいのかと聞けば今更だからと微笑んだ。

リーフ 「お姉さん達が僕に助けられた事は、お姉さんをここにやった人には秘密ですからね」

なんという洞察力だ、全てバレていたと仲間と顔を見合わせた。
実際は兄の一人の使いっパシリとしてガーネフの陰謀を暴こうと調べていたらしいが。

210 :はじめての友達 5:2010/08/30(月) 00:24:21 ID:9OQXGIK6

何はあれどあたしはあいつに救われた。
それに、あたしはあいつから優しさというものを学んだ。

クライネ 「…それから、あたしはあいつと話すようになったわ。弓も使える奴だから一緒に狩りに行ったり。おねいさんハァハァとか言ってたけど、悪い奴じゃないし、サバイバルの事でも沢山勉強できた。あたしの初めての友達」

おまけにストレス発散とか言って叩いても許してくれるし、愚痴も嫌と言わずに聞いて返事もちゃんとしてくれる。

カタリナ 「優しい人ですね…クライネがリーフさんと会ってから本当にいろんな事がいい方向に行っています。クライネ、これからも仲良くするんですよ」
クライネ 「言われなくても分かってるわよ!」

明日は何の話をしようかしらあ?
「友達」ができてから、なんだかいろんな事が楽しくて寂しくて嬉しくて苦しくなった。
あたしにエレミヤ様に命がけで仕える以外に、幸せな事ができた。
なんだか、人生が楽しくなった。

終わり