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Last-modified: 2007-07-08 (日) 15:22:43

髭と彼女

 

シグルド「ん?あそこにいるのはオイフェじゃないか」
セリス「あ、本当だ。オイフェさーん!」
オイフェ「これはこれは、シグルド様にセリス様。今日はお二人でお出かけですか?」
セリス「ねぇオイフェさん。シグルド兄さんは学校の先輩だったからわかるけど、僕まで様付けしなくてもいいんじゃない?」
オイフェ「ハハハ、これは私の性分ですのでお気になさらず」
シグルド「今日は休日出勤もないのでね。家でゴロゴロしてるのももったいないのでセリスを連れて散歩してるのさ」
オイフェ「……セリス様、家を出てから何か変わったことはありましたか?」
セリス「えっ? そうだなぁ。 今日は家を出て最初の曲がり角で斧を持った3人組の強盗に襲われたり、
    海賊にナンパされて困ってるエーディンさんのそっくりさんを助けたり
    アイク兄さんとお隣のしっこくさんの闘いに巻き込まれそうになったくらいしかないね」
シグルド「うむ、今日は平和だな」
オイフェ「確かにいつもと比べれば平和かもしれませんね」
セリス「それにしても前から思ってたんだけど」
オイフェ「なんでしょう?」
セリス「なんだかまだその髪型とお髭に違和感があるよ」
オイフェ「む、やはり似合っていませんでしょうか?」
シグルド「いや、むしろハマってはいると思うんだが……昔の印象が強すぎるということだろう」

 

オイフェはシグルドの後輩であり、最近グランベル大学を卒業し無事就職した。
それはいいのだが、近況報告にシグルド宅を訪れて数ヶ月ぶりにオイフェを見た二人の反応は……
セリス「ねぇねぇシグルド兄さん、あのおじさん誰?」
シグルド「こら、セリス。お客様に失礼だろう? いやいや申し訳ありません汚い自宅で。(揉み手)
     ところでお名前を伺ってよろしいでしょうか? 無精者でして役員の方のお顔まで覚えておりませんでして」
オイフェ「いえ、あの…私です、シグルド様。 オイフェです」
シグルド「………」
セリス「………」
オイフェ「社会の一員として勤めることになりましたので髪形を変え、髭を伸ばしたのですが」

 

その後10分ほど微動だにせず固まっているセリスとシグルドを相手に、オイフェは延々と自分がオイフェであるという説明を繰り返す羽目になる。
ちなみに他の兄弟達も同じように固まっていて誰も突込みが出来なかった。

 

セリス「あの時はびっくりしたよねー、リーフ兄さんやマルス兄さんなんて『これは新手のオレオレ詐欺に違いない!!』とか言い出すし」
シグルド「さすがにあの変わり様には驚いたな。 前は髭はきれいに剃ってて長髪で真ん中分けだったのが
     口髭に七三分けだからな」
オイフェ「自分が童顔だという自覚がありましたし、社会に出る以上見た目だけでも貫禄をつけたかったのですよ」
シグルド「ところで仕事は順調なのか?」
オイフェ「ええ、近いうちに課長に昇進することになりそうです」
シグルド「!!!」
オイフェ「『パッと見重役なんだから外見負けしないように頑張らなきゃ!!』と彼女にも言われてますしね」
セリス「!!!」
シグルド「彼女……いるのか?」
オイフェ「ええ。あ、申し訳ありません。待ち合わせの時間が近いので、失礼させていただきます」
シグルド「あ、ああ……」
セリス「え、と。 が、頑張ってくださいね」
オイフェ「ええ、ありがとうございます。それではお二人ともお気をつけて、では」

 

去っていくオイフェを見送る二人(正確にはシグルドの背中)には木枯らしが吹き荒れていた。
セリス「ええと…兄さん? あの、その、なんていうか元気出してね?」
シグルド「ふ…ほっといてくれセリス。 ああ、どうせ私は万年係長さ!
     家に帰ったら帰ったで情操教育をやり直させようとすると妹に逆切れされてハブられるダメ人間さぁ!
     ディアドラだって最近はあの赤毛とばっかり会ってるんだぞ!!今日もだ!!
     『最近いつも休日はいないし』って私は毎週休日出勤だったんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
セリス「に、兄さん落ち着いて!!」

 

結局この日は落ち込んだシグルドを慰めつつおとなしく帰宅したため、
セリスの身の安全に気が気でなかった年長組はホッと安堵の息をついたのであった。