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Last-modified: 2007-07-08 (日) 00:45:23

実はいい人が多すぎる町

 

ヘクトル 「さーて、今日も元気に喧嘩に出かけるとするか」
エイリーク「お待ちください、兄上」
ヘクトル 「あ? どうしたエイリーク、血相変えて」
エイリーク「ヘクトル兄上が私闘に赴かれると耳にいたしました。
      どうか、ミカヤ姉上やシグルド兄上に心配をかけるようなことはお止めください」
ヘクトル (チッ、さてはマルス辺りが面白がってチクりやがったな……
      あー、エイリークもこう見えてかなり頑固だからなー。
      説得するのは面倒くせえし、リン相手にするときと違って『なら力づくで止めてみやがれ!』ってのも
      こいつ相手じゃちょっと気が引けるし……しゃあねえ、ちょいと方便といくか)
エイリーク「兄上?」
ヘクトル 「……仕方ねえな。お前にだけは話しておくぜ」
エイリーク「え?」
ヘクトル 「実はな……これはただの喧嘩じゃねえんだ」
エイリーク「私闘ではないと? それでは……」
ヘクトル 「実はな……黒い牙の連中に、ニルスを人質に取られちまってな」
エイリーク「な、それは本当ですか!?」
ヘクトル 「おう。で、川原に一人で来るようにって脅しが来たってわけだ」
エイリーク「ま、まさか本当にお一人で行かれるおつもりですか!? 危険です、せめてエフラム兄上に……」
ヘクトル 「いや、ダメだ。俺以外の奴が一人でも来たら、連中は問答無用でニルスを痛めつけるだろうよ」
エイリーク「そんな……」
ヘクトル 「それにな、これは俺の問題だ。まさかあいつらが無関係のニルスまで人質に取るとは思わなかった……
      俺が撒いた種だ、たとえ家族だろうが、他の奴を巻き込む訳にはいかねえよ」
エイリーク「兄上……そんな事情があっただなんて……ああ、ですが……」
ヘクトル (うわ、涙目だよ……ここまでアッサリ信じられると、マジでこいつが心配になってくるが……
      まあいいか、これで心置きなく喧嘩にいけるぜ)
エイリーク「……」
ヘクトル 「ヘッ、そんなに心配すんなよ。他の連中にも言っちゃいけねえぜ?
      ま、晩飯までには戻ってくらあ。じゃ、行ってく」
セリス  「あれ、どうしたの二人とも、深刻な顔して」
エイリーク「ああセリス、実はかくかくしかじか……」
セリス  「えぇ!? そんな、ヘクトル兄さん、一人で行くなんて無茶だよ!」
ヘクトル 「(うおっ、なんか面倒くさくなってきたぞ……!?)
      バーカ、心配すんじゃねえよ。あの程度の連中に遅れを取る俺様かよ」
エイリーク「しかし、兄上……」
セリス  「……分かったよ、兄さん」
エイリーク「セリス?」
セリス  「ここは黙って見送ろう、エイリーク姉さん」
エイリーク「しかし……!」
セリス  「僕だって、こんなだけど一応男なんだ。だから、分かるんだよ。
      男には、たとえ危険だと分かっていても、立ち向かわなければならないときもあるんだってことが……!
      そうだよね、ヘクトル兄さん?」
ヘクトル 「……あー、まあ、そんな感じだぜ、うん」
エイリーク「……兄上、セリス……ああ、私は一体どうすれば……!」
セリス  「大丈夫だよエイリーク姉さん、ヘクトル兄さんは凄く強いんだ、
      そんな卑怯な奴等なんかに負けはしないよ。きっと、ニルスを連れて無事に戻ってくるさ!」
エイリーク「……そうですね、ヘクトル兄上は、何者にも屈せぬ鋼の壮漢……
      きっと勝利を得て無事に戻ってきてくださいますよね……!」
ヘクトル 「……お、おう、だから安心して……」
エイリーク「ですが、ほんの少しだけお待ちいただけないでしょうか……!」
ヘクトル 「な、なんだ?」
エイリーク「いえ、兄上の安全を願って、これを(カチッ、カチッ)」
ヘクトル 「ひ、火打石……?」
エイリーク「はい。切り火と申しまして、厄除けのまじないです。
      己の力を信じている兄上に対して、こんなことをするのは無礼かもしれません。
      ですが、やはりわたしも女です、兄上の身を案じずにはいられないのです……」
ヘクトル 「……」
セリス  「グスッ……ご、ごめんねヘクトル兄さん、僕、あんなこと言ったくせに不安になってきちゃったよ……」
エイリーク「セリス……不安なのは私とて同じです。さあ、涙をお拭きなさい。私たちの兄上の勇姿を、笑顔で見送りましょう」
セリス  「……うん、分かってるよ。それじゃ、兄さん……!」
エイリーク「ご武運を、お祈りします……!(カチッ、カチッ)」
ヘクトル 「……行ってくる……」
セリス  「ああ姉さん、兄さんの背中がもうあんなに遠く……!」
エイリーク「ここまで来ては、もう止めることは出来ません。私たちに出来ることは、兄上の勝利を信じることだけです……!」
セリス  「兄さーん! 必ず、必ず無事に帰ってきてねーっ! 約束だよーっ!」
ヘクトル 「……」

 

 ~川原~

 

ライナス 「……遅い! ったく、ヘクトルの野郎、何をチンタラ……おっ!」
ヘクトル 「……」
ライナス 「……へへっ、やっと来やがったか……さあ斧を構えろ、今日こそケリを」
ヘクトル 「悪ぃ、俺今日はパスするわ」
ライナス 「はぁ!? いきなり何言い出しやがんだテメー、怖気づいたのかよ!?」
ヘクトル 「何とでも言え、とにかく俺は帰る!」
ライナス 「お、おい、いくらなんでも自己中すぎんだろ、それは!」
ヘクトル 「うるせーっ! 俺にだって良心ってもんがあるんだよ!」
ライナス 「訳分かんねーっつーの! オイ、待てやコラァ!」

 

 帰ったら帰ったで、泣いて喜ぶセリスとエイリークに心が痛んだり、
 事情を知ったリンやエリウッドの呆れた視線が胸に突き刺さったりして大変だったとか何とか。