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Last-modified: 2007-06-12 (火) 22:38:25

ボロい商売

 

ミカヤ  「ふぅ……たまには仕事もせずに町をブラブラするのも悪くないわね」
ロイ   「そうだね……ところで、何か、最近ご機嫌だよね姉さん?」
ミカヤ  「そりゃそうよ、あの忌々しいアニメがようやく終わったんだから!」
ロイ   「魔女っ子ミカリン……凄い人気だったからね」
ミカヤ  「町を歩くたびに小さな子供にミカリンに似てるとか変身してとか……辛い日々だったわ」
ロイ   「まあ、放映が終わったことだしその内そういうのもなくなって……って、あれ?」
ミカヤ  「どうしたの?」
ロイ   「なんか今、玩具屋のショーウィンドウに見覚えのある物が見えたような」
ミカヤ  「欲しい玩具でもあるの? あ、ひょっとしてお姉ちゃんにおねだり?」
ロイ   「いや、そういうんじゃなくて」
ミカヤ  「またまた、照れなくてもいいのに。お姉ちゃんに任せなさい、1000Gまでなら出してあげるわ!」
ロイ   「違う上に上限ショボイよそれ……あ、ほら、これだよ、こ……れ……」
ミカヤ  「……」
ロイ   「ミ、ミカリンフィギュア……!?
     凄い、コスチュームやらポーズやらオプションやらの違いで豊富な種類が」
ミカヤ  「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁ!?」
ロイ   「ね、姉さん、落ち着いて」
ミカヤ  「ちょっと、この店の責任者、出てきなさい!」
フォルデ 「はいはいなんでしょ……って俺責任者じゃなくてただのバイト店員なんスけどね」
ミカヤ  「そんなのはどうでもいいわ! 何なの、これは!?」
フォルデ 「何なのって……ああ、ミカリンフィギュアッスか。いい出来でしょこれ、人気高いんですよ大きなお友達に」
ミカヤ  「イヤァァァァァァッ!」
フォルデ 「……大変だな坊主」
ロイ   「いや、別に姉さんの頭がおかしい訳じゃなくて」
フォルデ 「そうなん? あー、そういやお嬢さん、ミカリンに顔がよく似てますね。記念にお一ついかがスか?」
ミカヤ  「いる訳ないでしょこんなもの!」
ロイ   「ど、どうも、失礼しましたー」

ミカヤ  「許せない、あんな、あんな卑猥な……!」
ロイ   「いや、別に卑猥なものじゃ……」
ミカヤ  「卑猥よ! 何あれ、あんなフリフリスカートのフィギュア、下から覗いたらパンツとか丸見えじゃない!」
ロイ   「そりゃそうだろうけど」
ミカヤ  「侮辱だわ、精神的な陵辱だわ!」
ロイ   「うーん、でも、別に相手はミカヤ姉さんを直接モデルにした訳じゃ……」
ミカヤ  「……本当にそうかしらね?」
ロイ   「え?」
ミカヤ  「ミカリン……あのアニメの主人公をモデルにしたにしては、デザインがずいぶんモデルよりだったと思うんだけど?」
ロイ   「つまり、ミカリンじゃなくてミカヤ姉さんを直接モデルにしたって言いたいの?」
ミカヤ  「そうよ、間違いないわ!」
ロイ   「確かに、言われてみればミカリンってよりはミカヤ姉さんそのものだったような……」
ミカヤ  「悪質なストーカーがいるに違いないわ……! 家にカメラとか盗聴機が仕掛けられてるのかも……!」
ロイ   「考えすぎじゃ……」
ミカヤ  「いいえ、こうなったら徹底的に真相を追究してやるわ!」
ロイ   「どうやって?」
ミカヤ  「困ったときの神頼み……おいでませ混沌の女神様!」
ユンヌ(鳥)「ハロー。どったのミカヤ」
ミカヤ  「かくかくしかじか。という訳で、犯人探しに協力してちょうだい」
ユンヌ(鳥)「えー、いやよそんなの、面倒く」
ミカヤ  「黙れこのクソ鳥が! プラハ呼んでフレイムランスでこんがり焼いてもらうぞコラァッ!」
ユンヌ(鳥)「ひぃぃぃっ! ご、ごめんなさい、協力します、協力しますぅっ!」
ロイ   (……相当怒ってるな姉さん……しかし、あそこまで姉さんの体型を知り尽くしてるなんて、一体誰が……)

シャナム 「うーん、相変わらずいい出来だなこのフィギュア。今回もバッチリCM流さしてもらおう」
???  「取り分はこっちが8でお願いしますよ?」
シャナム 「ボリすぎだろ! 値切りのスキルをなめんなよ……そっちが6でどうだ?」
???  「7。別に、他の会社に流しちゃってもいいんですけどね?」
シャナム 「チッ、いい根性してやがる……しかし何度見ても素晴らしい造形美。次もこの調子で頼むぜ」
リーフ  「ははは、この器用さなら兄弟ナンバーワンの僕に任せてくださいよ」
ミカヤ  「ってお前の仕業かァッ!」
リーフ  「う、うわぁ! ど、どうしてここが……! バレないようにわざわざ借りた部屋なのに……!」
ミカヤ  「ふふふ……神の力を借りたのよ……!」
リーフ  「ぬ、ぬかった! FETVにスポンサーについてもらえば、ミカリンフィギュアで荒稼ぎできると思ったのに……!」
シャナム 「お、俺、知ーらねっと! (脱兎)」
リーフ  「ちょ、シャナム社長……!」
ミカヤ  「チッ、一人は逃がしたか……さて、覚悟はいいわね、リーフ?」
リーフ  「お、お許しをぉぉぉぉぉっ!」
ミカヤ  「許すかァッ! レクスオーラで光になれぇぇぇぇぇぇっ!」

ロイ   「……生きてる、兄さん?」
リーフ  「……なんとかね。ああ、精魂込めて作ったフィギュアが塵と化してしまった……」
ロイ   「借りてたっていう部屋もビルごと吹っ飛んだしね」
リーフ  「クソッ、修繕費だけで今回の儲けが丸々飛ぶな……」
ロイ   「相変わらず金勘定速いね兄さん」
リーフ  「もちろんさ。それに、これで終わった訳じゃないよ」
ロイ   「え、どういうこと?」
リーフ  「実は、部屋にまだ出荷前のフィギュアがいくつか隠してあってね」
ロイ   「それで?」
リーフ  「今回のことで、大人気のミカリンフィギュアは製造中止ってことになるだろ?」
ロイ   「うん、そうだね」
リーフ  「そうなると、もう市場に出回ってる分のフィギュアにプレミアがついて、高値で取引されるようになる訳だよ」
ロイ   「うん……って、兄さん、まさか」
リーフ  「ふふふ、時期を見計らって、一番高い値で在庫分を売り払ってやるぞ……!」
ロイ   「……転んでもただでは起きないってやつ?」
リーフ  「捕虜を取られたら、捕虜収容所に行って宝箱を回収するチャンスが出来たと思えばいいのさ!」
ロイ   「いや、その例えもよく分からないけど」
リーフ  「……とは言え、そこまでやってようやっとプラマイゼロ……ああ、どうして僕は後一歩のところで儲け損ねてしまうんだろう」
ロイ   「運が悪いからじゃないかな」
リーフ  「はっきり言わないでくれ!」

 という訳で、結局リーフの「ミカリンフィギュアで大儲け大作戦」は失敗に終わったのだった。
 が、今回のことでプレミアがついてしまったミカリンフィギュアは、リーフすら予想しなかった効果を生むこととなった。

 ピッ、ピッ、ピッ、ポーン♪

セーラ  「セーラ!」
ドロシー 「……ドロシーの……」
セーラ  「超ローカル、紋章町専門ニュース! イェーイ、ドンドンドン、パフパフー」
ドロシー 「……」
セーラ  「……せめてため息ぐらい吐いてほしいんだけど」
ドロシー 「もうそんな元気もありませんよ……ほとんどの番組をわたしたち二人で掛け持ちって、正気ですかシャナム社長は」
セーラ  「いいじゃない、その分画面に映る機会も増えて人気UPのチャンスだし!」
ドロシー 「エリミーヌ教団本部に帰りたい……」
セーラ  「まあまあ。ほら、これ飲んで元気出して(と、Sドリンクを差し出す)」
ドロシー 「いや、番組の最中にこんなことされても」
セーラ  「いいじゃない、ため息混じりに飲み干しなさいよ。
      その疲れ果てた姿が社会人の共感を呼んで、一部で大人気らしいわよドロシー」
ドロシー 「なんですかそれは」
セーラ  「ほら、街頭インタビューの映像もあるから」

係長S氏 「ドロシー嬢ですか。うむ、確かに彼女のタフさは社会人の端くれとして見習いたいところですな」
警備隊R氏「ドロシー嬢……上からの命令に逆らえないというのは辛いことですな。彼女にはゆるりと頑張って頂きたい」
聖社員A氏「……ボロボロになりつつ頑張る姿には共感を覚えグハァッ(吐血)」 

ドロシー 「……」
セーラ  「プライバシー保護のため音声には加工を施してあります」
ドロシー 「いや、最後の人思いっきり吐血して倒れましたよね今!?」
セーラ  「プライバシー保護のため映像にも加工を」
ドロシー 「嘘だっ!」
セーラ  「細かいことは気にしないの。とにかく、あんたも人気が出てきたっての、分かるでしょ?
ドロシー 「……今の映像見る限りあんまり喜べないんですけど……」
セーラ  「またまた謙遜しちゃって……月のない晩は後ろに気をつけなさいね」
ドロシー 「ボソッと怖いこと言わないでくださいよ!」
セーラ  「甘いわね。あんたも変な人気が出てきた以上、紋章町トップアイドルを目指すこのわたしのライバルなのよ!」
ドロシー 「わたしはそんなの別にどうだっていいんですけど」
セーラ  「謙虚なところをアピールして地味萌えを狙おうったってそうはいかないわよこの田舎系ナンバーワンめ!」
ドロシー 「もうやだこの人……」
セーラ  「……っつーか……ちょっと、オルソン!」
イリオス 「イリオスだ!」
セーラ  「照明暗いわよ! もっと気合入れて太陽剣光らせなさいよ!」
イリオス 「これでも限界だ! 休みなしに連続十時間って、俺は蛍光灯かオイ! その上カメラマンやらADやらまで……!」
セーラ  「仕方ないじゃない、シャナム社長の命令なんだし」
ドロシー 「削れる費用はとことん削りますからねあの人……」
イリオス 「ちくしょう、この間の番組紹介で暴れまわりさえしなければこんなことには……」
セーラ  「文句言ってないで働きなさいよ。カスラックを首になったアンタを拾ってやった恩、忘れた訳じゃないでしょう?」
イリオス 「クソッ、俺はこんなところでは終わらん! 絶対に這い上がって貴族になってやるぞ!」
ドロシー (無理だと思うけど……)
セーラ  「さてさて、そんなこんなは脇に置いて、いよいよ本題ニュースの時間でーっす」
ドロシー 「切り替え早いし……ええと、今紋章町で人形が大人気らしいですね」
セーラ  「ノンノン。人形じゃなくてフィギュアよフィギュア」
ドロシー 「……詳しいんですね?」
セーラ  「そりゃもちろん。なんたってわたし、某新ブログの女王みたいにオタク受け狙ってるから。
      シスターでピンク髪でツインテールでツンデレで辛い過去持ち……完璧ね!」
ドロシー (そういうこと言っちゃったらむしろ反感買うんじゃないかな……まあいいや、いちいち突っ込むのも面倒くさいし)
セーラ  「で、えーと、人気なのは、この間の番組紹介でも取り上げたアニメのやつよね?」
ドロシー 「魔女っ子? ミカリン……ですね。原価の十倍二十倍の値段で取引されてるとか」
セーラ  「うわ、キモッ……じゃなくって、そういう収集に命を賭けてる人たちってすごーいっ! セーラうっとりしちゃう☆」
ドロシー 「いろいろと手遅れですよセーラさん……それで、その影響もあって魔女っ子? ミカリンの視聴者が増えてるとか」
セーラ  「DVDの売り上げが今週初めから爆発的な上昇……流行り物を追っかけてる訳ね。
      イヤね、キモヲタの上に主体性がないって、終わってるじゃないそれ」
ドロシー 「セーラさん、カメラ回ってますよ」
セーラ  「なーんて、毒舌キャラを演じちゃったりするお茶目なセーラちゃんなのでした、みゃは☆」
ドロシー 「はぁ……ええと、それで、DVD売り上げの好調に気を良くしたスポンサーが、
      第三期魔女っ子? ミカリンの製作を決定したそうで」
セーラ  「結局世の中金ってことよねー」
ドロシー 「そんなこと言っちゃ駄目ですよセーラさん。とりあえず小さなお友達も大きなお友達も喜んでいるらしいですし」
セーラ  「ふーん。わたしもネクラな下僕に頼んでフィギュア作らせようかしら」
ドロシー 「……うん、一瞬でゴミ捨て場に山盛りになってるセーラさん人形が浮かびましたよわたし」
セーラ  「おい」
ドロシー 「ちなみに第三期魔女っ子? ミカリンは人気が廃れない内にと来月から放送開始だそうです」

ミカヤ  「リィィィィィィフゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!」
リーフ  「こ、こればっかりは僕のせいじゃないってば!」

 おしまい