30-204

Last-modified: 2012-09-10 (月) 19:46:35

204 :係長バカ一代 1:2010/09/30(木) 23:26:49 ID:49hEfDJQ

クルト「まあ他でもないんだが…実は君に課長の椅子を用意するという話があるんだ」
シグルド「え!?そ、それはありがとうございます!」
クルト「正式な肩書きは『課長補佐代理心得』というんだがね。まあ……課長みたいなものだから」
シグルド「みたいなもの……ですか?」
クルト「正式に辞令が下りるにはまだしばらくかかるが、大丈夫……と思う、たぶん」
シグルド「たぶん!?」

シグルド(私もとうとう課長……みたいなものか、長かったなあ……ん?)

女子社員A「ねえねえ聞いた?今度の人事」

シグルド(流石に女性は耳が早いな……まあ、たまには噂のネタになるのも悪くない)

女子社員A「シグルドさんが確か……課長補佐代理見習い改め班長主任とかいうのに昇格するんだって」
女子社員B「それって昇格なの!?」

シグルド(違う!私の肩書きは課長…補佐………えーと、何だっけ?)

女子社員B「じゃあ今度からシグルドさんのこと何て呼べばいいの?」

シグルド(そう!そこが一番重要なポイントだ!)

女子社員C「課長補佐……代理……心得ですって、長くて言いづらいわね」

シグルド(そこをもう少し短く省略して……)

女子社員B「それだったら、課長補佐でいいんじゃない?」

シグルド(おしい!あと一つ削って……)

女子社員B「いっそあだ名で呼んでみるとか……」

シグルド(え!?)

女子社員B「……シドとか……」

シグルド(私は某FFのキャラでもミュージシャンでもない!)

女子社員C「いくらなんでもあだ名は無いでしょ、今まで通り『シグルドさん』でいいんじゃない?」

シグルド(頼むから課長って呼んでくれ……)

205 :係長バカ一代 2:2010/09/30(木) 23:28:36 ID:49hEfDJQ

シグルド「いいか、よく聞け。地位や肩書きが人を作る……ということもある」

アーダン「……何ですか…いきなり?」
シグルド「つまりだ、分かりやすく言うと…私は係長の器だったわけではなく、係長の肩書きが私を係長にしてくれたんだ」
アーダン「係長の器でなかったというのは何となく分かります……」
シグルド「いや……そこだけ強調されても困る。つまりだ…極端な言い方をすれば、どんな駄目な奴でも肩書きを与えれば
     その責任感で人間がしっかりとしてくるいう事だ」
ノイッシュ「なるほど……」
シグルド「そこでだ、お前たちにそれぞれ肩書きを与えてみようと思う」
アレク「そんな事できるんですか?」
シグルド「簡単だよ、たとえばアレクはパソコンが得意だろ?」
アレク「ええ……まあ」
シグルド「だから、アレクは今日からパソコン部長だ」
アレク「パ、パソコン部長!?」
シグルド「ノイッシュは暗算が得意だから、暗算部長!」
ノイッシュ「あ、暗算部長ですか……正直、恥ずかしいんですが」
シグルド「確かアーダンは守りの堅さと堅実さが売りだったな」
アーダン「ええ……まあ」
シグルド「じゃあ、守備隊長で決まりだ」
アーダン「ち、ちょっと待って下さい!こんなことで何か社内の状況が変わるとは思えないんですけど……」
シグルド「まあ、騙されたと思って試してみてくれないか」

――数日後――

アゼル「あれ、パソコンの調子が変だな……こういうときはどうすればいいんだろう……」
アレク「そういうときは俺に言って下さいよ」
アゼル「あ、パソコン部長のアレクじゃないか、頼むよ」

レックス「やれやれ……細かい計算が多いな…キーを叩くのにも疲れてきたな」
ノイッシュ「それなら、その仕事は私に任せて下さい」
レックス「お!流石暗算部長だな!」

シグルド「……よし!」

レプトール「ずいぶん職場が活気づいているじゃないか」
シグルド「あ、専務」
レプトール「時折見せる君のひらめきには舌を巻くよ……」
シグルド「いえ、私だけの力ではありません。彼らのやる気があればこその結果です」

アーダン「守備隊長って……何すればいいんだろ……」

206 :係長バカ一代 3:2010/09/30(木) 23:31:02 ID:49hEfDJQ

二人の男が対峙していた。一人は剣を構え、もう一人は魔道書を手にしている。
突然、剣を持った男が魔道書を持った男に向かって駆け出した。
魔道書を持った男はそれに対して一切の動揺を見せることなく、何かの魔法を発動した。
次の瞬間、剣を持った男に火竜すら焼き尽くさんと言わんばかりの業火が降り注ぐ。
剣を持った男は、それを避ける素振りすら見せず、魔道書を持った男だけを見据えて駆け続けた。
剣を持った男に魔道書を持った男の放った魔法が命中する。猛火と爆音と煙が剣を持った男を中心に広がった。
魔道書を持った男は、勝った、と確信した。いくら剣を持った男が魔法に対する抵抗力が強いと言えど、この至近距離で
あの魔法の直撃を受けてはもはや立ち上がれまい。魔道書を持った男はそう考えた。
だが、周囲の煙が晴れたとき、魔道書を持った男の眼に映ったのは、炎に身を焼かれ、倒れ伏している男の姿ではなく、
両の足で大地を踏みしめ、己の眼前に剣を突き付けている男の姿だった。

シグルド「……私の勝ちだな」
アルヴィス「やれやれ……お前にティルフィングの加護があるとはいえ、まさかあの距離でファラフレイムの直撃を
      受けて倒れないとはな」
シグルド「この勝負に備えて、山奥の寺院で魔法に対する抵抗を高める訓練を積んでいた。お前に小細工は通用しないからな」
アルヴィス「結局ただの力押しか…泥臭い戦い方だ。……変わらんな、お前は」

アルヴィスが呆れた様子でそう呟くと、シグルドが無言で右手を差し出した。
アルヴィスは僅かに苦笑すると、しっかりとその手を握り返す。
次の瞬間、周囲から割れんばかりの歓声が巻き起こった。互いに譲れないものを賭けての戦いだった。
シグルドとアルヴィス、共に応援してくれた部下がいる。その者たちの思いを背負っての戦いでもあったのだ。
しかし、今ここには、勝者を祝福する声も、敗者を嘲笑う声もない。
互いに全力を尽くし、正々堂々と戦った二人を讃える声だけがそこにあった。

アーダン「えー、それでは、今回の会議の結論といたしまして、シグルド係長の企画を採用するということで決定します」

レプトール「決 闘 で 決 め る な!」

終わり