31-227

Last-modified: 2013-11-06 (水) 21:50:07

227 :助けて!名無しさん!:2010/11/09(火) 02:50:59 ID:yd0GKzTJ

ごめんなさい。ごめんなさい。

 ~ ノディオン家 ~

 金の髪が3人。円卓に座り、話し合っている。
「…兄として、妹を更正させたいのだがいい意見があるか?」
 上座に座っている男が言い放つ。
「はい、私に考えがあります。」
 手を挙げ発言するのも金の髪。次女であり、末っ子。
「よし、ナンナ。言ってみろ。」
 兄エルトシャンが促すと、コクリと頷きその場にいる自分以外の二人に資料を配る。
「…えっと『ラケシス義姉様調査報告書』?えらくかわいい字だね。」
 資料の表紙をみて思わず言葉をもらすデルムッド。
「うん、お友達のリーンに頼んで調査してもらったの。…身内の事だから気が引けたんだけど…。」
 ちょっと困ったような、申し訳なさそうな表情で答えるナンナ。
 報酬にアレスを1週間貸し与えたそうだが、エルトシャンとデルムッドの反応から察するに、それは特に問題ではないようだ。
「ああ、そういえばナンナのクラスメイトだったな、彼女は。…ならば間違いなかろう。」
 エルトシャンはこの資料の信用性は高いと判断した。
 余談になるが、リーンは、あの『火消し』フォルカの唯一の弟子と噂されているあさし…ダンサーである。
 あくまでも噂。『火消し』のターゲットは証拠すら残せず例外なく消されるから。
 もっとも、その噂抜きにしてもノディオン一家はリーンの能力を強く買っている。
 報酬にアレスを貸し与えるだけで凄腕の密偵に早変わり。ナンナはそんな無欲で信頼できるリーンだから依頼したのだろう。

「資料の4ページ~8ページを見てください。…ラケシス姉様の行動記録です。」
 大学で講演、ノディオン家の仕事の手伝い、地域ボランティア活動、AKJの活動…。
 蛇足つきだが真面目と言っていいかもしれない。
「…ああ、なるほど。ナンナはココに注目したんだね。」
 デルムットが何か閃いたようだ。あるページを指差して手に持ち示している。
「うん!そうなのデルムット兄様。私、この人しかいないんじゃないかなって思うの。」
 カリスマオーラをまとった4つの目が此方に向く。
「決まりだ。段取りを決めるぞ。」
 承諾の意に嬉しそうにするナンナ。早速、手はずを考えるデルムッド。
 ダブルカリスマ指揮☆5の策謀が渦巻く。

228 :助けて!名無しさん!:2010/11/09(火) 02:52:24 ID:yd0GKzTJ

>>227の続き。

 ~ 兄弟家 ~
 「ピンポーン♪」
 ふぅ…。今でもドキドキするなぁ。初めての時はこのベルを鳴らす事だって勇気も必死でしぼり出してようやく出来た事だもの。
 兄弟家の皆さんの休日には掟がある。それは掲示板ルール。初めて一人でお邪魔させてもらったときにリーフ様が教えてくれた。
 行き先と書き込んだ時間をホワイトボードに書き込み、原則、一番最後の人が残るというもの。

 きっと…

「ほーい、445回目の家族会議始めるわよー。」
「「「「「はーい。」」」」」
 食事の後とかの皆さんが揃っているときに、ミカヤさんの号令で始まって
「休日の留守番のルールについて!エイリークちゃんからの意見ね。」
 家族の不満や意見をみんなで話し合うの。
「お姉ちゃん的にもコレはキッチリ決めておくべきだと思うわ。みんなはどう思う?」
 それで、ミカヤさんや
「うむ。姉上の言うとおりだ。私も思うことがあった。」
 シグルドさんが音頭を取って
「シグルド兄さんも?僕も思うことがあったんだ。」
「兄貴達もか。実はおれも…。」
 エリウッドさんやヘクトルさんといった、兄弟の皆さんが思う事や考えた事を思い思いに言っていき
「エリンシア姉上が留守番をするケースが多いです。私も甘え過ぎていました。なので、エリンシア姉上には御休みの日をキチンと取って貰いたいのです。」
 エイリークさんや
「エリンシア姉さん!休みの日くらいは私たちに家事任せてゆっくり休んでよ。」
 リンディスさんが続いて
「「けってーい!エリンシア姉さんは休みの日はキチンと休む事!」」
 ロイ君やマルスさんが締める感じなんだろうな。
「あらあら…。みんなありがとう。」
 エリンシアさんも笑顔で答えて
「よおし!お姉ちゃんもそれでオッケーよ!じゃあ、細かいルールをきめましょ!」
 ミカヤさんが次の議題や深く掘った話題に振るのよきっと…

 ……それから、それから。

「……ナ?おー…。ナンナ?ぼーっとしてどうしたの?」
 私を呼ぶ声に現実に帰る私。
 目の前にはリーフ様。あれ?あ、私、ベル鳴らして
「ひゃうぅ!おはようございます、リーフ様!」
 あうぅ…。早速失敗しちゃったよぉ。
 今日のお留守番はリーフ様だったみたいです。
「…?おはよう、ナンナ。とりあえず上がりなよ。」
 リーフ様に案内されるままお邪魔させてもらう私。初めての時よりはドキドキしなくなったけれど、みんなでくる時とはやっぱり違く感じます。
 広間に案内されると、椅子に腰掛けるようにと言われた。
 リーフ様に言われるがままにする私。
「ナンナは紅茶だっけ。まってて、淹れてくるよ。」
 “私が淹れます!”って言ったけれど、“大丈夫、僕に任せてよ。”って優しい笑顔で制されちゃった。
 リーフ様が、キッチンに行ってくれて良かった。私、今、顔、真っ赤、だ。
 気分を落ち着けるために部屋のあちこちを眺めていると、くだんのホワイトボードが目に入った。

229 :助けて!名無しさん!:2010/11/09(火) 02:53:37 ID:yd0GKzTJ

>>228の続き。

 AM5:50 ミカヤ  :キャッホーイ!サナキちゃんの所いってきまーすミ☆
 AM7:00 シグルド :毎週思うのですが、ミカヤ姉上、早すぎます。…キュアンとエルトの所行ってきます。
 AM7:10 エリンシア:あらあら。おはようございます。今日はタニスさんとシグルーンさんと劇を見に行ってきますね。
 AM7:15 アイク  :休みだが流星軒の増設工事だ。あのガルザスも来ているらしいので手合わせしてくる。楽しみで仕方が無い。
 AM7:20 エリウッド:僕はロイ達の一日家庭教師の予定。オスティア家にお邪魔する予定らしいね。
 AM7:21 ロイ   :エリウッド兄さんに勉強見てもらうんだ。ウォルトやリリーナも見て欲しいんだって。
 AM7:30 ヘクトル :↑あんまり迷惑かけてくんなよな。ちと、アメフト部の連中に助っ人頼まれたから行ってくら。
 AM7:40 エフラム :今日はマギ・ヴァル亭で戦術書でも読み過ごす予定だ。多角面で戦術を磨きたいからな。
 AM7:41      :↑訂正。兄様は竜王家にいくわ。夜には帰すわ。
 AM7:43 マルス  :名無しさん、程々にしてあげてよ。僕はシーダと出掛けるよ。
 AM7:44      :↑善処するわ。ミルラ達にも伝えておくわ。
 AM7:45 アルム  :紋章町農業組合の集まりだからチャップさんの所に行くよ。あとマルス兄さん、良かったら僕の農場寄ってよ。花畑が見ごろだよ?
 AM7:50 マルス  :↑是非寄らせて貰うよ。シーダは花が好きだからね。
 AM7:55 リンディス:あたしもフロリーナ達と花畑みにいこっかな。
 AM8:00 マルス  :既に百花繚乱でしょう?主に百合的な意味で。ゆリンディス姉さん。
 AM8:01 リンディス:↑OK、今日は存分に狩りが楽しめそうだわ。

 …以下続く。

 …あの子ったら。エフラムさんはもうダメね。
 それはよろしいけれど、流石エルト兄様ね。既にキュアンさんも味方につけたのね。

「お待たせ、葉は安物でゴメン。でも、いい感じで淹れれたと思うから試してみてよ。」
 丁度落ち着けたタイミングでリーフ様が戻ってくる。
「…ん、美味しいです。リーフ様。」
 お世辞抜きでそう思う。本当にリーフ様は何をしても直ぐにコツを掴んでしまう器用な人。
「よし、お茶いれスキルUPしてるね。何でも極めてやんよ。…そういえば、今日はどうしたの?」
 あ、そうだった。用事を済ませないと失礼よね。
「これ、エルト兄様からリーフ様にって、預かってきました。」
 そう、今回の目的はコレ。

 “ラケシス姉様をシグルドさんとくっつけちゃおう作戦!”

 リーンの調査報告によると、実はシグルドさんが姉様と顔をあわせている回数がダントツで多い事がわかったの。
 もちろん、理由の一番目は“いつもの喧嘩”だけれど、それを抜きにしてもお二人が顔をあわせているときって意外に多いの。
 そのためにはリーフ様を初め、兄弟家の皆様の協力が必要不可欠だとおもったの。
 エルト兄様がシグルド様やその御友人達を担当。エルト兄様とシグルドさんは親友だから間違いわ。
 デルムッド兄様がラケシス姉様担当。エルト兄様や私だと駄目人間になっちゃうし、アレス兄様は論外。デルムッド兄様に任せるしかないの。頑張って、兄様。
 それで私は兄弟家の担当。まずはリーフ様の協力を得るのがいいと兄様に助言されるがまま、こうして兄様から渡された封筒を届けに来たわけです。
「ん?わざわざ、蝋で獅子の滅印までしてある。…あれ?僕宛?」
 きっとリーフ様達にも協力して欲しい旨が書いてあるのよね。
 …あれ?どうしたのかな?中の手紙を見るなり固まってしまったけれど?
「あ、是非参加させてもらうよ。…えっと、よろしく、ナンナ。」
 えっと?なんだか想像していて展開と違うなぁ。
 リーフ様の事だから、シグルドさんの事をちょっとからかいつつもノリノリでOKしてくれると思ったのだけれど。
 何故だか、あらたまった感じだし…。ちょっと照れてらしてるし…。
「はい、有難うございます…?えっと、それ拝見させてもらってもよろしいですか?」
 特に否定の素振りもなかったのでリーフ様からその手紙を受け取ると、そこには

『1週間後、私の屋敷で小規模ながらもパーティを行うことなった。
 そこで、リーフには妹のナンナのエスコート役を頼みたい。
 適任者はリーフ、妹を任せるならお前しかいないと俺は考えている。
 引き受けてはくれないだろうか?良い返事を期待している。』

 とあった。

230 :助けて!名無しさん!:2010/11/09(火) 02:56:09 ID:yd0GKzTJ

>>229の続き。

 …おいィ?私、聞いてないよ!エルト兄様!!!
 それにこの文面、色々と順序を飛ばしすぎているよぉ!!
 あ、でもリーフ様は承諾してくれたし…。でもまだそういうのじゃなくて、いずれそういう関係になれればいいなぁって…。あうぅ…。
「ナンナ、僕はどういう格好で行けばいいのかな?他の家族のみんなも呼んでいいかな?」
 えっと、私自身も寝耳に水というか、今知ったばかりというか、嬉しいような困ったような…。えっと、えっと…。
 わからないよお、私だって今知ったばかりだもの。どうしよう、どうしよう。

『~♪(聖戦OPのテーマ)』

 あわわ、携帯が…。えと、エルト兄様からね。ちょうど良かったわ。
 リーフ様を見ると、電話に出てもいいという表情だし、失礼します。
「P!ナンナです!兄様!聞いていないです!私どうして良いかわからないです!!」
「む…。電話がつながるなりいきなりだな。何かあったのか?」
「何かあったのか?って…。だから、私聞いてないです!パーティの事!」
「ああ。言ってないからな。」
「うぅ…、酷いです!私、物凄く恥ずかしい!どうして良いのかわからないです!大ピンチです!」
「そうか、リーフは了承したか。」
「――――ッ!!!」
「それでは、シグルドにも伝えるが、家族の皆様にも来て貰うように伝えてくれ。俺からはそれだけだ。言いたい事があれば後で聞く。P!」
「…ああ!兄様!!もしもし?もしもーし!?…一方的すぎるよもう…。」
 顔を上げるとリーフ様が此方を見ていた。
 うう、つい大声ではなしてしまった。えっと、落ち着かなきゃ。
「あの、衣装はおって連絡します…。急な御呼びたてですみません。あと、家族の皆様も是非来てください。」
 エルト兄様には敵わないなぁ。絶対に上手くいかせなきゃ。ラケシス姉様の改心の為に。
 …変な事にならなければ良いけど。

 ~ 一週間後のノディオン家 ~

 今回の招待者達には一つだけ厳守しなければいけないルールがあった。
『ソロでの入場はご遠慮してもらう』事。
 シグルドとラケシスの前、建前上、ペア以上にしておいたほうが不自然ではないからだ。

「俺なんかでいいもんよ?」
「いいのよ。早く行きましょ?」
 ミカヤとサザが入場を済ませる。荒れると思われたミカヤ争奪戦は、ミカヤがサザを指名した為、穏便に済まされた。

「何で僕が姉さんなんかと…。」
「ちょっと、まだそんな口叩くの?」
 マルスとリンが入場を済ませる。どうしてこうなったのかは、先週にさかのぼる。

231 :助けて!名無しさん!:2010/11/09(火) 02:58:33 ID:yd0GKzTJ

>>230の続き。

 ~ 先週のカダイン ~
「ごめんなさい。本当に待って!分身はらめぇ!!!」
 逃げるマルスに
「アンタは毎回毎回、どうして人が嫌がる事を書き込むのかしらぁぁぁ!!」
 抜刀姿勢で追いかけるリンと
「シーダちゃんは安全な場所に避難してもらったから安心してマルスちゃん。だから、もう諦めても大丈夫よ^^」
 とても綺麗で素敵で真っ黒い笑顔のエリス、さらに
「…貴方がいなくなればクリスは…。クリスが私の思いに気が付かないのは貴方のせい。貴方のせい。」
 トロンとボルガノンの書を左右に浮かせ同時に詠唱を始めるカタリナ。
「諦めたらそこでゲーム終了だから!僕はまだ死にたくないから!あと、カタリナは完全に逆恨みだからソレ!!」
 追い詰められても噛み付ける勇気。酷い有様のトライアングルアタックに吼える英雄。だが、勇気と蛮勇は違う。
「…うぅ…ぐす…。酷いです…。私とクリスのデートを何回も邪魔した貴方が…ひどい、ひどい…。」
 泣く仕草をしながらも詠唱をやめないカタリナ。真っ直ぐな激情家とソレを操る二人の策謀家。
「マルス!!カタリナさんが可哀想だと思わないの!?自分の弟として見損なったわ!!」
 熱い姉は真っ直ぐ騙され、太ももは小さく舌を出してエリスと目配せ。
「おかしいって!完全に言いがかりだからソレ!姉さんも少しは疑ってよ!!」
 当然、リンの後ろで行われている一連の流れはマルスからはまる見えなので、くやしさでいっぱい。
「でも、元をただせば、マルスちゃんがリンちゃんの事を悪く書かなければ良かった話じゃない^^」
 自分にあらゆる策謀の基礎を授けた相手が敵となってはこの劣勢を覆すのは難しいし、何より
「…そうです。リンさんの悪口を書いたのはマルス様です。…人を裏切る行為を平気でするなんて酷いです。」
 もう一人の策謀家が後押しする。どの口が言うのかと突っ込みたいが我慢できた。
「じゃあ」「…そろそろ」「覚悟してね^^」
「やめろー!死にたくない!死にたくなーい!!」
「大丈夫。死ねないから^^」
「ちくしょーーー!!!」
 今まさに、飽和するほどの死と生を与えられようとした瞬間。
「「「まって!!」」」
 突然現れた魔方陣から待ったが入った。
「エリス様、今回は許してあげてください。僕は、いつもの優しいエリス様でいて欲しいんです!」
 親友と
「カタリナ、その…あー、クリス、頼んだ。」
「んもう。自分で言ってよね兄さん。えっと、これからトハに行きたいのだけれど、道案内お願いできないかしら。」
 クリス達と
「リンディスお姉様、マルス様を許してあげて。」
 恋人。
「マリク。そのお願い聞いてあげたら、私のお願いも聞いてくれるわよね^^?」
「え、ええ。勿論です。エリス様。」
「…はい!トハでも漆黒ハウスでも、何処へでも付いていきます!!」
「いや、漆黒さんの家は知っているわ。」
「兄弟家から近いからな。じゃあ、よろしく頼む。」
 撤収する二組と
「いや、その言い方だとまたいらない誤解が…。」
 がっくし肩を落とし興が冷める姉。
 何はともあれ、事態は終息しつつあったが、最後の最後で、一部始終を聞いたシーダが一言。
「マルス様はリンディス姉様に対する愛が不足しています!愛を信じればみな幸せになれるのですよ?」
「「は?」」
 ハもる二人。
 そこから延々と繰り広げられる愛講義。
「ちょ…、セリカ臭がしてきたわよあの子!やめさせてよ、アンタの恋人でしょ?」
 ひそひそとマルスに説得を命じるリン。
「狂信者と一緒にしないでよリン姉さん。シーダがこうなったら相手を口説き落とすまで終わらない。喰らってみると解るけど、凄まじい精神汚染だよこれ。」
 諦めているマルス。何故か正座させられて並んで愛の暴力を受ける二人。
 ―3時間経過。
「…という訳なので、マルス様はリンディス姉様、リンディス姉様はマルス様に優しくしてあげてください。全ては愛です。」
「「はーい…。すべてはあいでーす…。」」
 よろしい!と、ニッコリ笑ってシーダは飛び去っていった。
「姉さん、今日はごめん…。」
「いいのよ、私こそチョットやりすぎだったわ…。」
 取り残された敗残兵はゲッソリ仲良く帰宅した。

232 :助けて!名無しさん!:2010/11/09(火) 03:00:21 ID:yd0GKzTJ

>>231の続き。

 ~ 回想終り ~
「いい?シーダさんが何処で見ているか解らないから、滅多な事は言わないでよね。」
「ゴメン、解ってる。さっきのは迂闊だった。」
 その一件で愛講義に恐怖を覚えた二人は見せ掛けだけでも仲良くしているふりをしようと同盟したというわけだ。

「ったく、兄貴の手伝いって聞いてきたのにこんな格好させられるなんて聞いてねえぞ…。」
「…でも、その、とっても似合っていましゅ!」
 タキシードを着こなすヘクトルはそのガタイの良さからある意味にあっていた。サングラスをかけようものなら並の人間であれば裸足で逃げ出す凄みがあるのだが。
 そして、それとは不釣合いにその横で真っ赤になりながらヘクトルを見上げるドレス姿の少女。
「何でそこで噛むんだよ。ま、オメーも普段のヤボくせえ格好よかいいんじゃねえか?中々さまになってるじゃねえか。」
「そんな事…。ヘクトル様のお役に立てれば…。」
 少ししゃがみ、フロリーナに目線を合わせて褒めるヘクトル。さらに続ける。
「しかし、わりぃな、兄貴の為とはいえ付き合ってもらっちまってよ。貸しにしとくぜ。」
「かかかか、貸しだなんて…。むしろご褒美です…。」
「あー?何か言ったか?俺は貸しはキッチリ返す主義なんだ。遠慮なんかしてんじゃねえよ。」
 真っ赤になってうつむくフロリーナ。美女と野獣(美男子だけど)が受付を済ませる。

 ~ ノディオン家控え室 ~
「スマンな、シグルド、リーフ。俺の大切な妹のエスコート役を頼んでしまって。」
 頭を下げ二人に礼をいうエルトシャン。
「いや、かまわんさ。エルトの言う事だしな。」
「僕のほうこそ、上手く出来るかわからないけれど。お役に立てれば幸いです。」
 答える二人。
「シグルド、リーフ、決まってるじゃないか。」
「兄さんもリーフ君も格好いいわ。」
 キュアンとエスリン。
「ふぅ、…ねえ、フィン、おかしくないよね。」
「ええ、バッチリです。リーフ様。」
 目ざとく部屋の隅に待機していたフィンを見つけて近くに寄るリーフ。
 流石に、エルトシャン、キュアン、シグルドと大親友が揃っている所に長居出来るほど、リーフは図太くはないようだ。
「あの三人って小さい時からずっと一緒だったんだよね。」
「ええ、幼い時は共に遊び、学生時代は共に切磋琢磨し合える良き友人達とキュアン様も仰っていました。」
 フィンと二人で、遠くから三人を見ていると不思議と胸と目頭が熱くなる奇妙な感覚に襲われる。
「…僕にもああいう友人が出来るといいな。」
 無意識に口から漏れた想い。フィンは何も言わずにただリーフと三人を見守っていた。
「おーい、フィン!我々はホールに行くぞ!」
 不意にキュアンの呼び声。
「解りました、キュアン様!…リーフ様、それでは!」
「うん。今度はもっとのんびりしようね。フィン。」
「ええ、いいですとも!」
 颯爽とキュアンの後に続くフィンを見送り、シグルドの元に戻る。
 ちょうど奥から、ラケシスとナンナが出てきたところだった。
「イイ。ナンナ、凄くいい。お姉ちゃんもうメロメロよ。…イーヴ!写真増し増しよ!三人であらゆる角度から余す事無くとりなさい!ノディオン家の名にかけて!!」
「…それはよろしいのですがラケシス様。既にシグルド様方がいらしているようで…。」
 一瞬の間。周りを確認し指を鳴らすラケシス。撤収する三兄弟。
「…コホン、ラケシスですわ。お二人とも本日は我ノディオン家によくおいで下さいました。ゆるりお楽しみくださいませ。」
 色々と残念な美女と
「あ、あの!今日はありがとうございます。私、頑張りますから、その、よろしくお願いします。」
 姉の醜態を必死でフォローしようとする健気な妹。
「…まあ、よろしく頼まれてやってくれ。あとラケシス、俺に恥をかかせるような真似はするなよ?」
 獅子の一睨みに、当事者でもないのに萎縮してしまうナンナとリーフ。
「はい、エルト兄様…。…シグルド様、今日はよろしくお願いします。」
「ああ、構わんさ。エルトはああ言っているが、普段どおりに接してくれた方が私は助かるな。」
 すかさずフォローするシグルド。シグルドが手を引き、ホールへ降りていく。
「僕達も行こうか。」
「…はい、リーフ様。」
 緊張気味の二人。シグルドの真似をして手を引くリーフと、ラケシスの真似をしてそれに従うナンナ。
「頼んだぞ。」
 それを見送り後に続くエルトシャン。

233 :助けて!名無しさん!:2010/11/09(火) 03:01:49 ID:yd0GKzTJ

>>232の続き。

 パーティーはエルトさんの挨拶で開会された。
 主催者とゲストとで開幕にダンスを披露するというプログラム。
 エイリーク姉さんにビシバシとしごかれた僕は何とか人前で見せれるレベルにはなれた。ナンナの足を引っ張ってしまったけれど。
 それにしてもすごいのはシグルド兄さん。お互い社会人の兄さんとラケシスさんは一緒に練習する事無く本番の数分前に少し打ち合わせをしただけでこなしてしまった。
「ラケシスがリードしてくれたからな。ダンスなど学生の時いらいでな。」
「いえ、私のミスもキチンとフォローしてくださいました。…シグルド様、謙遜されないでください。とても素敵でしたわ。」
 こればかりはラケシスさんも驚いたのではないかと思う。流石は我が家の自慢の長兄だとすこし嬉しくなった。
 それにこの様子なら、エルトさんやナンナの計画も上手くいきそうだし、言う事なしだ。

 ちなみに、今回は小規模(貴族視点)な立食パーティー。招かれた人々が思い思いに交流を深めているみたいだった。
 目まぐるしいほどのご馳走の洪水。煌びやかな装飾。
 色も香りも控えめで自己主張しすぎずに会場をを引き立てるように配置された花々。
 エリンシア姉さんがいつの間にか来場していたみたいだ。お相手は…ルキノさんでした。ジョフレさん、イキロ。
 我が姉のオーラは正に女王。そんな優雅なオーラを出しながらもシェフ達にレシピを聞いている所辺りは実に姉さんらしい。
 明日からの食卓がさらに楽しみなものになりそうだ。

 エリンシア姉さんの他にも、兄弟のみんなも遅れながらも来てくれたみたいで

「…お兄ちゃん、プリンが食べたいです。」
「兄様、私にはココアよ。兄様に教えたとおり、濃い目の奴。」
「ミルラおねえちゃんといっしょのがいい。」
「わたしもサラおねえちゃんといっしょのここあー」
 我が家のローエイジキラーも来てたらしい。
 サラがこちらに気が付いたのを見て、ナンナは微笑ながらサラと小さく手を振り合ってる。
「サラも楽しそうで良かった。それにしてもエフラムさん、すごい人気。あの様子じゃサラも苦戦しそうね。頑張って!」
 そういうなり、カリスマパワーをサラに送るナンナ。

 これ以上頑張らせたら、多分エフラム兄さんは帰ってこれな…、いや止そう。あの人はもう手遅れだ。

「…そういや、あの馬鹿羽馬、元気にしてるかよ?」
「馬鹿羽馬じゃないです、ヒューイです!!…あ、ごめんなさい…ヘクトル様。」
 白い柱に背を預けながら話す二人。黒の服とスミレ色のドレス。
「何で謝るんだよ。むしろこんだけ人がいるんだ。そのくらいで話せ。…まあ、その様子じゃ元気にしてるみたいじゃねーか。」
「はい、今も空で待っててくれてます。…でも、どうしてヒューイの事?」
 またいつもの声の大きさに戻るフロリーナ。それを見て、頭をかきながら答えるヘクトル。
「いやよ、根性ありやがるからな、アイツは。…俺に噛み付いたことのある馬は今まででアイツだけだぜ?」
「うぅぅ…。ゴメンなさい…。」
 自分の相棒の狼藉を思い出してうつむいてしまうフロリーナ。
 小さい体をさらに小さくさせてしょんぼりしてしまった彼女の頭にポフリと乗る大きな手のひら。
「だからそんな反応するんじゃねえよ!俺なりに褒めたつもりなんだが。ったく、早く顔を上げやがれ。はたから見たら俺がお前をいじめてるみてえだろ。」
「あう…ごめんなさい。へくとるしゃまのて、おっきい…。」
(ったく、おめえは謝ってばかりだな。)
 頬をかきながらも、悪くは無いという気持ちが強まったのを確かに感じた。
(まあ、今日ぐらいは面倒くさい女の相手もいいか。)
 天井を見上げながら、思いをはせていた、

 ロイとリン姉さんとファリナさんには絶対に見せられないね。ロイはまだしも、後者の二人があの光景見たらきっとHDNな事になるね。

234 :助けて!名無しさん!:2010/11/09(火) 03:03:27 ID:yd0GKzTJ

>>233の続き。

「大豚ヤサイ少な目ニンニクマレハウト。しかし、肉が至高と思っていたが、俺は間違っていたかもしれんな。」
 料理を注文していたアイク兄さんがぽつりともらした。
「「な、なんだってー!!」」
 そしてそれに反応するライさんとセネリオさん。
「…餃子とはここまで美味い物だったとはな…。」
 真剣な表情で二人に語る兄さん。
「ちょ…!アイク、餃子の主成分って肉だから。皮に包まれて様々な具材がハーモニー奏でているけど主に肉だから!てか、今まで餃子を食べたこと無いのかよ!」
「酷い有様です。」
 ライさんが突っ込み、セネリオさんがいつものセリフ。
「では何故肉を隠す?視覚的に楽しめないだろう。」
「いや、お前、肉まんとか好きだろうに…。」
「あれはちゃんと肉と名前に入っている!聴覚的に食欲がわくだろう。…餃子、何故俺の前に立たなかった。」
「調理のしやすさとか、先人の知恵とか…、いや、もういい。女将さん、俺は味噌ラーメン頼む。」
「酷い有様です。女将、このワンタンメン美味しいです。」
 三者が不毛な議論を交わすその場所は、屋台。赤いのれんと立ち上る湯気。
 木製の長いすは立食パーティーの邪魔にならないように配慮したのか見当たらなかった。
 色々と酷い有様だが、アイク兄さんもセネリオさんやライさんと一緒に楽しめているみたいだ。

「…ナンナ、一言いいかい?」
「はい、リーフ様。」
 ニッコリと微笑みながら了承するナンナをみて、大きく息を吸った。
「何で立食パーティーにラーメン屋台だよ!おかしいじゃん!明らかに浮いてるって!隣にケーキとかスイーツ類が並んでるんだよ?
 赤絨毯の上に赤提灯って!大理石の床に流星軒の屋台って!ミスマッチだって!てか、増設ってアレ作ってたんだろ!何か新しいし!」
 今日ぐらいはツッコミしたくなかった。声のトーンは落としつつも一呼吸で言い切った。
「え?おかしい、ですか?」
 頭上にクエスチョンマークを出して、本気で解らないといった顔をするナンナ。
「え、なにそのはんのうこわい。僕がおかしいの?」
 貴族的には普通の事なのか?確かに僕らにとっての非日常(貴族の世界)に日常が混じっている図はシュール過ぎるが、それ故におかしく感じてしまうのか?
「何もおかしくないぞ、リーフ!」
 揺らぐ僕の前に颯爽と現れるゲイボルグ。
「キュアンさん!貴族的にはアレは有りなんですか!?」
「勿論だ。パーティーにラーメンは前代未聞だが、アイラは私達の親友だからな!」
 やっぱり普通じゃなかった!
「リーフ君、世の中には“立ち食いお蕎麦”っていうのがあるのよ?麺類が立食に向かないって懸念も、もう大丈夫!」
 僕を諭す様に優しく語り掛けるエスリンさん。いや、別にそういう事を言っているわけじゃないのですけれど。
「エスリンは何でも知っているな^^」
「貴方の為に勉強するのは、妻として当然ですわ。私もラーメンを食べてみたいです^^」
「ははは、こやつめ^^」
 うざ…おおっと!…キュアンさんもエスリンさんもラブラブだなぁ。フィンも大変だろうに。
「ごめん、ナンナ、何処もおかしくないよ。僕の勘違いだった。」
「はい!リーフ様。私達も何か手にとりませんか?」
 そうだねと、一言答えてナンナと歩き回ることにした。自然に出された手を引いて、僕達も皆に混じって楽しんだ。

235 :助けて!名無しさん!:2010/11/09(火) 03:04:53 ID:yd0GKzTJ

>>234の続き。

 ~ノディオン家近くの丘の上
 金髪の女性と、女の子がノディオン家の館を見下ろしていた。離れているため、明かりしか確認できないが、雰囲気は良好で盛り上がっているように感じられた。
「…以上、潜入してきた内容です。」
 夜の闇から現れた黒髪の女の子が、そっと金髪の女性に報告していた。
「そうですか。解りました。…マナ、ご苦労様。」
 金髪の女性が労うと、マナとよばれた少女はビクリとし、女性の隣にいた女の子の影に隠れて震えてしまった。
「姉様、あまり気を開放されては…。」
 マナと呼ばれた少女を庇うように、姉様と呼んだ女性と対面する。
「ラナ、召集は済んでいるのかしら?」
 微笑みながらも、闘気の放出をやめない女性。
「はい、エーディン姉様。」
 ゴクリと息をのみ答え、指を鳴らすラナ。
「バイゲリッター、全300騎参上しました!」
 髪型がアレな青年がラナの合図と共に答えた。
「最終目標は、いうまでも無いけれど、ラケシス。あと、万が一にでもシグルド様に矢を向けたらお仕置き部屋よ?」
 その場に居た全員が息をのむ。族長の姉の恐ろしさは全員、骨身に渡り知っているから。
「「「「「イエス!マム!!!」」」」」
 そして答える。これ以外の答えなど初めから無い。
「よろしい、第一陣は錐行陣を布いて突撃。第二陣は箕形陣で援護に回りなさい。では始めましょう。」
 エーディンが手を天に突き上げる。突撃の狼煙。開戦の角笛を高らかに吹くラナ。
 砂塵を上げて全軍突撃の姿勢のバイゲリッター。

 ~ノディオン家近くの湖畔
「ノディオン家のパーティーは順調。しびれをきらしたバイゲリッターが行動を開始しました。」
 女性の密偵が、赤い髪の女性に報告していた。
「…会長、語るに落ちたり。まさか、我々の最大の仇敵とそのような事をするなんて。」
 報告内容を聞くなり、芝居がかった様子で答える女性。
「しかし、今だ根回しは不完全。今だAKJ会には会長支持派がまだ半数以上はいます。」
 もう一人、その隣にいた女性が続ける。
「近くにSが居るっていう事は逆にチャンスよ。…会長支持派の連中には適当に理由をつけて“救出”という名目でもつけ参戦させましょう。」
 赤い髪の女性が、懸念をふき取る。
「プリシラ様…。本気なのですね。」
「ええ。…AKJ会は私が統べるべきなのです。今回の件で確信に変わりました。」
 実働部隊を召集したプリシラは、事が始まる瞬間を見計らっていた。
 ラケシスとシグルドを亡き者にするために。

236 :助けて!名無しさん!:2010/11/09(火) 03:07:02 ID:yd0GKzTJ

>>235の続き。

 ~ノディオン家、バルコニー
「シグルド様、今日はお陰で大成功ですわ。」
 風に当たりたいと、シグルドをつれてバルコニーへ移動したラケシス。
 本当の理由はシンプルで、二人きりになりたかっただけ。彼女のわがまま。
「ああ、私も楽しませてもらったし、エルトの息抜きになればいいな。」
 夜空を見上げて口にするシグルド。満月。
 月明かりにてらされる二人。星が瞬く。
「すまない、ラケシス。いつも通りの話し方にしてくれないか?」
 困り気味の笑顔をラケシスに向けて注文する。
 キョトンとしながらも、コホンと咳払い一つして口を開く。
「え、ええ。でも、本当に大成功だと思うの。エルト兄様が満足そうに微笑んだのを見て録画できなかったのは一生の不覚ですわ。あの顔だけで三年は戦えますもの。」
「KINSHINは許さんが、確かにエルトは滅多に笑わないからな。貴重だな。」
 ちょっとぎこちないが普段に近い話題になって、お互いの肩から力が抜ける。
「しかし、いきなりエルトの話題とはな。まあ、ラケシスらしいが。」
「シグルド様だって、KINSHINは許さんぞーって。もう、声真似できるくらいに聞き慣れちゃいましたわ。」
 互いに顔を見合わせ
「「ふふ、あはは!」」
 互いの日常があまりにも可笑しく感じて声を上げて笑う二人。
 普段は互いの思想のズレで喧嘩ばかりしているが、実は、二人の仲は良いといえる。
 かたや大親友の妹、方や兄の大親友。二人をつなぐものは二人にとってかけがえの無い存在。
「シグルド様、もっとおそばによってもよろしくて?」
「…ああ。」
 遠慮してか、僅か半歩であるが距離を開けるシグルド。それを見て、面白くない気分になるラケシス。
「…シグルド様は、何故引き受けてくださったの?やはりエルト兄様の頼みだから?」
 シグルドが自分から離れた位置に立ったのを見て、ちょっとイジワルな質問をする。
「そうだな。確かにそれもある。」
 そのほかには?追撃を仕掛けようと自然とシグルドとの距離を詰めようと歩み寄ろうとした瞬間
「…!?ラケシス!」
 不意にシグルドに抱き寄せられた。
「…え?…えっ!!」
 突然の事に反応が出来ないラケシスと、ラケシスが居た場所に遅れて突き刺さる銀の矢。
「ラケシス!とりあえず逃げよう!この矢は君を狙っているぞ!!」
 対し、ラケシスは空から赤い星が落ちてくる事を確認し、すぐに声を上げる。
「…メティオ!?シグルド様、危険です!」
 言われるよりも早くに危機察知したシグルドはラケシスをそのまま抱き上げ、急いでその場から離れた。
 降り注ぐ矢の雨と小規模隕石群に、壁や窓ガラスが破れ、館内は騒然となった。
 ~ノディオン家、ホール
「すみません、警備中に奇襲にあい、私以外は怪我をおってしまって…賊はかなりの錬度です。」
 警備を担当していたクロスナイツの支団長がエルトシャンに報告をしていた。
「…そうか。あの矢と魔法の雨の中よく全員戻ってきてくれた。負傷した者達を医務室に連れて行ってくれ。」
 怪我をした団員達が医務室に運び込まれていくのを見送り、続けた。
「…来場されている方々よ!避難の準備は出来ている。だが、」
 エルトシャンは魔剣を抜き、月を射し続けた。
「だが、この危機、共に闘ってくれないか。無数の矢の雨、遠距離魔法、この地は今まさに死地だ。だがあえていう、共に闘ってくれと。」
 月夜に響く獅子王の号令。
「親友として当然だ!」
「…いうまでも無し。」
 月を射す刃が増える。ティルフィング、ゲイボルグ。
「うまい料理を振舞ってくれたし、なにより兄さんの親友だ。」
「ああ、アイク兄上もそういうと思っていた。」
 ラグネル、ジークムント。
「俺向きの話になってきたな!加勢するぜ!」
「ま、一応僕も加勢するって事で。」
「そう言っても、一番最初に剣を抜いたのはあんただけどね。」
 アルマーズ、ファルシオン、ソール・カティ。そして、
「さあ、僕達も行こう!」
「はい!リーフ様!」
 光の剣と大地の剣。
 その場にいた全員が各々の武器を天に指し、加勢するという意を示して見せた。

237 :助けて!名無しさん!:2010/11/09(火) 03:08:29 ID:yd0GKzTJ

>>236の続き。

「…この場に居るすべての者に礼を言う。」
 ぶっきらぼうに言うなり、愛馬にまたがり、先頭で突撃するエルトシャン。
「あれは、エルト流の照れ隠しだな。」
「ああ、多分物凄く嬉しかったんだな。」
 その後ろをニヤニヤ顔のシグルドとキュアンが続き、前線で戦うのが主な者達もそれに続いていった。
 
「…暑苦しいけど、嫌いじゃないわ。こういうの。…兄様に病気でもうつされたのかしら。」
 エフラムの猛烈な説得の末、後方支援に残されたサラが、竜王家の神竜達を説得した後ワープで家まで送り、呟く。
 サラ自身も帰るようにとエフラムに言われているが、親友達が残ってる状況で帰る気などまったく無い。
「今日はナンナをたてて目立たないようにしてたけど、普通だったらナンナもこっちで支援よね。」
「まあまあ、今日はナンナのフォローしてあげましょう。それとも私達も行っちゃう?」
 悪態をつきながらも、やる気充分のミランダと、そんなミランダの気性を理解しつつもフォローするティニー。
「あ、遠慮しとく。今、リーフの事見たら間違いなくボルガノンしちゃいそうな気分だから。」
「う~ん、確かに。私もトロンしちゃう気分かも。」
 お互いの胸の内を素直に晒し合いながら小さく声を出して笑う二人。
 後ろからそんな二人を見ていたサラも、クスクスと笑ってしまった。

「…で、ナンナは行ったけど、貴女はいいの?行かないの?」
 一転して、珍しく力強い声でサラが
「私は―」
「ふーん…。シグルドさんと距離を縮める大チャンスに見えるけど?いつものように照れを隠して元の関係に戻っちゃてもいいわけ?」
 他人の事なら割と冷静なミランダが
「でも、迷惑だと思うし―」
「今は一人の女として言わせてください。きっとシグルドさんは待っているはずです!会長!」
 AKJ会の人間らしからぬ発言のティニーが
「…もう、やってみせるわ。前線でナンナとリザーブして貴女達の仕事なくしちゃうから!」
 おどけて見せて馬にまたがるラケシス。
「ありがとう。ナンナはいいお友達を持ったわね。支援、お願いね。」
 ニコリと微笑んで前線へ向かうラケシス。見送る三人。
「…うん、ナンナのお姉様だけあるわね、ラケシスって。あの笑顔で頼まれるとね。」
「人をやる気にさせるわよね。さて、二人が仕事しやすいように、しっかり援護しなきゃね。」
「姉妹物かぁ…ナンラケなんt「「ティニー、自重」」では始めましょうか!」
 三人が放つ、パージ、メティオ、サンダーストームが敵の遠距離魔法をことごとく相殺していった。

238 :助けて!名無しさん!:2010/11/09(火) 03:09:47 ID:yd0GKzTJ

>>237の続き。

 ~バイゲリッター本陣
「報告します!ノディオン家にいた者達が武装し猛撃してきました!」
「騎兵・歩兵複数、天馬兵少数、混成部隊です!」
「AKJ会のプリシラ殿から、援軍の申し出が来ました!」
「報告!報告!!はやく取り次いでくれ!!」
 数で圧倒していたが、思わぬ猛反撃にあわただしく動く本営。
 ラナは前線の指揮にマナはその補佐に向かっている為、本陣が混乱をしてしまっている有様。
 負傷したものが次々とレスキューされていく。
 その様子を見ていた女性が一人、冷静に指示をだす。
「突撃してきた中でも一番戦闘力の高い部隊はラナとマナに任せなさい。こちらの最大戦力は間違いなくあの子達よ。」
「天馬兵の動き、こちらの射程を見切っていますわね。深追いさせないようにアンドレイに伝えなさい。各個撃破されるわ。」
「AKJ?…ラケシスを攻撃している私たちに加勢する意味が不明ね。そもそもシグルド様の不倶戴天の敵の申し出など受ける気もないわ。無視なさい。」
 妹達から引き継いで、エーディンが采配をふるう。

 ~AKJ本陣
「皆さん、とにかく前に出張っている弓騎兵の援護をしましょう。」
「彼らを囮にして、各魔法で一網打尽にします。」
「バイゲリッターはこちらの申し出を無視するでしょうけれど、構いません。利用しきってしまいましょう。」
 プリシラが采配を振るう。バイゲリッターを回復援護して、壁としてあつかい自分達の被害を出さないように作戦を決めたようだ。
「…それでは、会長とSを打倒するに至らないのでは?」
 直ぐ隣に居た側近の会員が小さく口にする。相手はラケシスだけではなく、あの恐ろしく魔防に秀でたシグルドもいる。
「大丈夫です。会員の中から選りすぐりの暗殺者を派遣しましたから。混戦に紛れて速やかに二名を討ち取ってくれるでしょう。」
「…そちらが本命ですか。」
 背筋ゾクリとするのを感じながらも、自分の配置に付く側近。

 ~前線・アイク達~
「…ぬぅん!!」
 剣を振るい、衝撃波で矢を叩き落していくアイク。
「アイク!突出はキケンです。」
「連中、弩も持ってやがるな。木に突き刺さった矢の深さがヤバイぞ。」
 片方は風の魔法で、片方はその身のこなしで矢を回避しながらアイクに報告する。
「だが、奴等の指揮官を抑えなければジリ貧だ。このまま突破する。」

 このアイクのように各人は各々の判断で散開し、敵にあたっていた。
 敵の規模を考え、伏兵、奇襲、突撃、様々ではあったが素晴らしい戦果を挙げていった。

239 :助けて!名無しさん!:2010/11/09(火) 03:11:34 ID:yd0GKzTJ

>>238の続き。

 ~空・フロリーナ・エリンシア~
「ひゃああぁぁ…!」
「頑張りましょう!あと少しです!」
 猛撃してくる弓騎兵を背中に、巧みに敵を分断していく天馬二人。
 弓騎兵が二人に気を取られている隙に
「かかれ!一気に距離を詰めろ!」
 手に持った槍を相手側に突き出し指令を送るエフラム。
 指令にあわせて伏せていた者達が一気に敵を討ち取っていく。
 その様子を空から眺め
「上手くいきましたわ。次はあの部隊をフロリーナちゃんがヘクトルちゃんの所に誘導しましょう。」
 転進してアミーテで次の目標の方向を刺すニコニコ顔のエリンシア。
「ううぅ、エリンシアさんとってもパワフルだよぉ…。」
 そんな弱気な発言をしながらも、しっかり付いていくフロリーナ。

 ~戦場中央・ヘクトル~
「効かねえっての!」
 敵の矢を弾き落としながら真っ直ぐ単機で進んでいくヘクトル。
 徐々に敵に詰め寄りながらも、妙な事に気が付く。
 更に飛来した矢の入射方向に向かって思い切り手斧をぶん投げた。
 数秒後に鈍い音がし、ドサリと何かが崩れ落ちる音と同時にレスキューの魔方陣。
「…負傷したら即レスキューか。周到だな、連中。」
 だが、目的の物はあった。やはり気のせいではなかった。
「この後陣の部隊、ふざけた獲物持ってやがるな。めんどくせえ…。」
 舌打ちしながら、次の敵を待つ。
 だが、空を見上げると見慣れた天馬騎士が一人こちらに向かってきていた。
「馬鹿野郎!こっちにくんじゃねえ!!!」
 しかし相手は空の上、声が届いているのか疑わしかった。

「よし、雌伏の時は去った。…あの天馬兵は存分にトンボるぞ。いいなスコピオ!」
「解りました!アンドレイ兄さん!!」
 素敵ヘアーの二人が一気にフロリーナに詰め寄る。
「「捕らえた!!」」
 二人の構えた獲物は銀の長弓。達人クラスで無いと扱えないし、扱えても命中させにくい代物。
 しかし、この二人、髪型はアレだが達人。ターゲットは射程の中。

 ヘクトル様が何か叫んでいる。大丈夫です、間合いは見切っていますから。
 貴方のお役に立ちたいんです。貴方のように強くないけれど、貴方のようになりたくて。
 だから、…っ!?、どうして、私、痛い、肩が、空、ヒューイ、槍が…、あれ…?
「フロリーナァァァ!!!!」
 …ヘクトル様、声おっきい、近くなって、痛い、肩に、矢が…。
 またヘクトル様の上、失敗しちゃった…。
「おい!大丈夫か!…ったく、俺が居なかったらお前、やばかったぞ…?」
「ヘクトル様、…ごめんなさい、痛…。またヘクトル様の上に落ちちゃって…。」
 肩に深く突き刺さっている普通よりも長い銀の矢。ああ、これは長弓用の、か…。失敗しちゃったなぁ…。
 ヒューイは、無事…、よか、った…。

240 :助けて!名無しさん!:2010/11/09(火) 03:13:48 ID:yd0GKzTJ

>>239の続き。

「…おい、馬鹿羽馬、エリンシア姉貴を呼んできてくれ。」
 柄にも無く馬なんかに頼む俺。人間の言葉なんかわかるわけねえか…。
 アイツのそばでジッと俺を見ていて動こうとしねえ。
「死んでねえよ。…姉貴が来てくれねえと俺じゃ治してやれねえんだ。」
 頷いた、のか?理解できているのか?だが、アイツのそばからはなれねえ。
 首を何度も頷いて見せている。…こっちに来いって事か?
「…ああ?来いってか?」
 一応確認すると、大きく頷きやがった。こいつ、頭いいんだな。
 アイツの壁になるように立って俺を見る。…ああ、そういうことか。
「コイツは俺が絶対に守る。だから頼まれてくんねーか?」
 そうなんだろ?…違ったら恥ずかしすぎんぞ?
 その一言を待っていたとばかりに羽ばたき夜空を翔ていった。
「…この落とし前は、コイツを狙った奴をボコボコにしねえとはらせねえな。」
 フロリーナの正面に立ち、アルマーズを構え、トマホークの握りを数回確認した。
 ~最前線・アイク~
「ぬぅん!」
「流石はアイク義兄上、かなり、やる。」
 ラグネルの衝撃波を拳で粉砕しながら対峙する二人。
「え?なにあの子、こわい。」
「ひどい世紀末です。」
 その様子を見て呟く二人。
「ラナ様!アイクさんが“俺に勝てたらセリスは任せる。”だそうです!ね、アイクさん!」
「…?そんな事は一言も言ってないぞ?」
 大声でラナに向けて発するマナ。首を傾げるアイク。
「まことか?アイク義兄上!」
 闘気を爆発させるラナ。衝撃波で周りの物が吹っ飛んでいく。
 その瞬間、超高速でアイクに接近するマナ。
 そしてヒソヒソ声でアイクに提案する。
「…本当にすみません、あわせて下さい。ラナ様はこうでも言わないと多分遠慮して実力出し切れないですし…。」
「む、まだ本気じゃないのか。それなら本気を出してくれ。その方が手合わせの甲斐もある。」
「じゃあ、さっきの設定でオッケーでいいですか?」
「確かに強い女性なら俺は任せていいと思う。」
 この間、約0,3秒。
「はい、間違いありません!ファイトです!ラナ様!」
 超高速でラナの隣に戻った黒髪おかっぱは元気にハキハキ笑顔で言い切った。
「ありゃ、黒髪の方が曲者だわ。つーか早すぎだろ。俺の目でもギリギリだったぞ。」
「…まあ、手を出したらアイクに怒られますし、成り行きを見守ります。」
 半ばあきれ気味の参謀二人は、言葉通り成り行きを見守ることにしたようだ。

241 :助けて!名無しさん!:2010/11/09(火) 03:15:01 ID:yd0GKzTJ

>>240の続き。

~戦場中央やや後陣~
「…よーし、無事にトンボれた。これなら総長にも姉上殿にもお叱りは受けまい!」
「流石兄上、パーフェクトなトンボとりだった。感動した。」
 小賢しい動きをしていた天馬騎士の片割を落とせたので、二人は安心して本陣に戻ろうとしていた。
 バイゲリッターの掟に、“無戦果の者、これを罰する”というものがあるからだ。
「なーにが感動した、よ。」
「…まったくだね。」
 声がしたと思った刹那、二人は落馬していた。むなしく走っていく本陣に走っていく、無人の二頭の馬。
 伏せ兵の奇襲かとすぐさま体勢を立て直し、手に持った弓を構え、
「「何奴だ!」」
 二人のステキヘアーが揃ってほえた。
 だが、ほえるもつかの間、相手は既に目の前にいた。
「で、私のフロリーナ撃ったのどっちよ?」
 質問に答えずにこめかみをひく付かせて怒る緑髪。
「…あえて突っ込みません。」
 肩を竦めながらも牽制をやめない青髪。
 二人の喉下に突き出されたソール・カティとファルシオン。
「「…くっ、参った…!撃ったのはスコピオ(アンドレイにいさん)だ。」」「「ちょ!!」」
 武器を捨て答える二人。だが、答えはバラバラ。
 顔を見合わせ、互いに罪を擦り付け合う二人。
「ハッ!面倒くせえ!んじゃ、右の奴は俺がぶっ飛ばす。」
 そんな二人の背後から怒りの混じった声。
「ああ、あとテメー等の部隊は、漏れなく全部レスキューだ。」
 ボロボロになったトマホークが二人の前に投げ捨てられた。
 これから察するに、一人で終わらせてきたようだ。
 ボロボロになったコレがまるで自分達の未来予想図のようで、ステキヘアー達は戦慄した。
「で、フロリーナさんは?」
 簡潔にマルスが。
「無事だ。姉貴が来たから任せた。」
 簡潔にヘクトルが。
「そ、良かった。じゃ私は左の奴にするわ。」
 簡潔にリンが。
 アルマーズを構える。ソール・カティを構える。肩を竦める。
「「ま、待て、降参だと…!アッー!!!このヒトデナシー!!!!」」

 ~バイゲリッター後陣・リーフ・ナンナ~
 金と茶の髪の二人組が金と青の髪の二人組と対峙していた。
「ふーん、じゃあ二人は乗り気じゃないと。」
 光の剣を鞘に収めるリーフ。それを見て各人が手に持った武器をしまう。
「まあな、そもそも、パーティーの邪魔なんてほかの奴等が勝手にやってくれればいいさ。」
 構えてたイチイバルを背負い、ファバルが答えた。
「リーフが相手なら別にいいかって思ったけど、ナンナさんが居たらやりにくいし。」
 キラーボウを下げ、レスターが続いた。
「ねえ、今の酷くない?僕の事なんだと思って…」
「それはよろしいけれど、せめて理由が知りたいよ。折角、シグルドさんと姉様をそろえれたのに。」
 しきりにライブを断るファバルを無視して、三人にライブをかけながら疑問を口にするナンナ。ナンナに遮られて涙目のリーフ。
 ともかく、二人に戦意が無い事は幸いだった。
「いや、そもそも、それが問題なんじゃないのか?」
 夜空を見上げてファバルが呟いた。
「「あっ!」」
 リーフ、ナンナ共に合点が行った。

243 :助けて!名無しさん!:2010/11/09(火) 04:06:19 ID:yd0GKzTJ

規制怖い。>>241の続き。

 ~別働隊のシグルド・ラケシス~
「しかし、敵の援護勢を奇襲するのに、何故、私とラケシスの二機だけなのだ?」
 少しばかり手勢が足りないのでは?と不思議に思うシグルド。
 その発言を、自分と二人なのが不服なのかと取って、
「エルト兄様の指示はですから従ってください。シグルド様は指揮☆2なのですから。」
 悪態をつくラケシス。
「ちょ…、☆2は関係ないだろ…。あ、あれ、目から汗が出てきた。」
 露骨にブルーになるシグルド。どんなに給料がカットされても、ボーナスを少なくされても耐える事のできる鋼の心にも弱点はある。
「で、でも、凄く頼りになるって兄様もいっていましたし、わ、私もそう思いますわ!」
 流石に言い過ぎたとフォローを入れるラケシス。
 だが、そんなやり取りをしていたのもつかの間。
「「…お命、頂戴します。」」
 二人の隣をかけていく何か。
「…くっ!」
「シグルド様!!」
 シグルドの腕に切り傷。襲ってきた何者かは闇の中。
「…アサシンか。陣防衛の為に伏せておいたのか、それとも最初から私達を狙ってきているのか…。」
「ああっ、すぐに治療を…。」
 開けた場所まで突き進み、馬から下りて背中合わせになる二人。
「数もわからんなコレでは。迂闊に動けないし、かといってこのままでは包囲されてしまう。」
 周りを警戒しつつ無言で頷きながら、治療にあたるラケシス。
 ワープの杖を持ってこなかった己の浅はかさに悔しさと焦燥が募る。
「…なあ、ラケシス。」
「…はい、シグルド様。」
 背中合わせの闇の中。星が瞬く。
 満月の下。絶体絶命。
「…今日は、楽しかったな。」
「…はい。とっても、とっても楽しかった!…だから!…だから!」
 何かを覚悟したように頷くシグルドに、様子を察して目に涙を浮かべるラケシス。 
「私が特攻する。…君はエルトの妹だ。…絶対に守るさ。」
「…シグルド様。…エルト、兄様が、悲しむ、から…。無事で…。」
 背中越しにシグルドに抱きつくラケシス。まわされた手をそっと撫でるシグルド。
 少しの間、離れる二人。
(…?あれ?)
 ふと、シグルドの援護にと、リブローを手に持とうとしたが、何故かトーチの杖が所持品に紛れていることに気が付いた。
 涙を拭い、おもむろに掲げた。
「…あ!ヤバ!!」
 焦りながらキョロキョロとしている緑の髪と、周りに突っ伏している何人もの黒ずくめのアサシン。
「貴女は、リーン…?」
 見知った顔が、顔の半分を覆面で隠し、手に持った血染めの刃をブンブン振りながら右往左往している図は滑稽極まりなかった。
 更に言葉を重ねようとした刹那、
「…シグルド殿、これを飲め。楽になる。」
 二人の間合いにいとも容易く現れた影に遮られた。差し出された小瓶。
 驚き、影を見る。覆面をしていたし、顔も知らない男だがわかった。これが“火消し”だと。
 その無気配と速度は、もはや空気の中から人が出てきたとしか表現できなかった。
「…あ、ああ。すまない。やはり、これは毒、か。」
 トーチのお陰ではっきり見えたシグルドの顔は青ざめていて、素人目でも状態が不味いのが見て取れた。
「レストで解毒できない特殊配合の暗殺毒だ。…その解毒剤を飲み、ジッとしていろ。…周囲の掃除はしておく。」
 リーンがトテトテと三人の方によってきて覆面をはずしニッコリ笑う。
「ええ!これで安心です!師匠、凄く強いんですよ!」
「…お前も働け。…護衛対象に傷を負わせ、無駄な会話。…依頼金は返すようだな。」
 表情を変えずに闇に溶けて消えるフォルカ。
「私は、報酬にアレスのレンタル延長でお願いしまーす!」
 ちゃっかり報酬を受け取る気のリーンは、覆面を付け直し、フォルカの後を追って闇に消える。
「…礼を、言いそびれてしまった、な。」
 ホッとしたが、辛そうな息遣いのシグルド。
「ええ、後で必ずお礼を言いましょう。彼等を信じ、ジッとしてましょう。」
 フラフラのシグルドを地面に座らせ、その隣に座るラケシス。

244 :助けて!名無しさん!:2010/11/09(火) 04:07:31 ID:yd0GKzTJ

>>243の続き。

「…あの、シグルド様、横になって…地面は痛いでしょうから、その、私の、膝を使ってください…。」
「…すまないな。実は、かなり、きついんだ。ホッとしたせいで立ち上がることも出来ない。」
 なすがまま、されるがまま、ラケシスに体を預けるシグルド。
 意識が危ないのだろう。普段であれば絶対に聞き入れない様な事。それで、良くは無いが、ある意味ではよかった。
 青いシグルドの顔に反比例して真っ赤な顔のラケシスは思った。
「…こんな状態で、特攻だなんて言って…。本当に無茶言って…。」
「あの時は、できたさ、守って、見せたさ。」
 心臓の高鳴りが全然止まらないラケシス。
 意識の半分が眠ってしまっているシグルド。
「でも、良かった。…シグルド様が無事でいてくれて…。」
「…私も、さ。ラケシスが、傷つかないで、良かった。」
 湯気が出るほどに、毒も回っていないのに、頭が重くなったように、フラフラする。
 先ほどからシグルドの口から発せられる言葉が、世界を回す。
「…あ、あの、シグルド様は、どうして、私の事…、やはり、エルト兄さ……親友エルトシャンの妹、だから?」
「…違う、君は、私の、大事な…。」
 意識を失ったのか、言葉を紡ぐのを止めてしまうシグルド。
 毒はラケシスにも回っていたのかもしれない。目がぐるぐるして、もうわけがわからない。
 徐々に顔色が良くなっていくシグルドを膝に乗せ、体を揺らさず、自分にレストをふろうと頑張るラケシスは滑稽だった。

 何とか落ち着けたラケシスは、シグルドの寝顔を膝の上に乗せ、その頬をなぞりながら微笑み、一転して冷たさ混じる声で放った。
「…で、その木の陰に隠れている者、5を数える前に出てきなさい。5,4,3…」
「物騒な事だ。流石はラケシス義姉様。…ってこれ師匠とユリシーズさんの会話!Cキタ!」
「…2、1.」
「ちょ!出てきてます!出てきてますってば!貴女の未来の妹はここにいまーす!!」
「過度なメタ発言はよしなさい。」
 自称、未来の妹を目の前に座らせ、続ける。
「…さて、リーン、聞きたい事があるんだけど?」
「…アレス3週間。」
「は?」
「私から情報を聞くりょうき「面倒くさいわね!いいから聞く!!」…はい。」
 ラケシスの怒った態度を見ておとなしくするリーン。
「で、いつからいたの?」
「…え?」
「トーチともす前のアレは?」
「…ええっと。」
「アレスはレンタル無しね。」
「…あ、じゃあ勝手に奪いにいきまーす。」
「フォルカさんに言いつけるわよ?」
「…ごめんなさい。お義姉様。それだけは、それだけは。」
 他言禁止、破れば即“火消し”に消火という事で落ち着いた。
「でも、さっきまでのラケシス義姉様、すっごく可愛かったです!」
 言葉での反撃が成功したことに喜び小さく舌を出して闇に消えるリーン。
「…ほんと、困った妹だ事。」
 まんざらでもない様子で微笑むラケシス。

245 :助けて!名無しさん!:2010/11/09(火) 04:10:00 ID:yd0GKzTJ

もうチョットだからさるさんはイヤァァァ

 >>244の続き。
 ~AKJ本陣~
「…プリシラ様、暗殺部隊は全滅。会員ナンバー042がSに負わせた致命毒も解毒されてしまった模様。」
 側近がプリシラに報告する。
「“火消し”ね。敗れていった者を収容し完了しだい、全員離脱!」
 各々がリワープやワープで撤収していき、プリシラだけが残り
「会長、貴女のやり方ではこの世にKINSHINは認められません…。世の法を完全に覆すには、生温いのです…。」
 無理矢理にでも妹を兄にくっつけてしまう。刷り込みと洗脳でもいいから。世の兄妹を“そういう物”とする事。
 ラケシスのように、“兄が大大大好きでも、他に好きな人がいるならば応援してあげるべき。”という考えは温い。
 “すべての妹は等しく兄を愛さなければいけない。”法律にしてもいい甘美な調べ。
「…私は負けません。すべての妹と兄の為に。」
 一人ごちて、リワープをかかげて消えうせた。

 ~バイゲリッター本陣~
「…成程。そういう事か。」
 魔剣を鞘に収め、馬から下りる。
「エルトシャン様、何故、剣を収めるのですか?」
 全軍撤退の指令を出した後、落ち着いた物腰でエルトシャンに投げかける。
「友人のブリギットの妹だからだ。それに…」
「それに?」
 頭を下げるエルトシャン。
「非は俺にある。すまなかった。」
 更に謝罪の言葉を続ける。
「何故、謝るのですか?お恥ずかしいのですが、冷静になってみれば私の暴走ですわ。」
 思わぬ行動に対応に困るエーディン。ペースが乱れ、溜め込んでいた闘気が薄れていく。
「エーディン、君は、シグルドに惚れているのか。」
 さらっと言うエルトシャン。
「ななな!いきなり何ですか!!」
 完全に霧散する闘気。恐怖の象徴であるラナの姉は、ただの恋する修道女にジョブチェンジ。
「でなければ説明が付かん。…俺の妹のラケシスが憎いだけというのであれば、このタイミングはありえまい?」
 真っ赤なエーディンと対照的に、冷静に淡々と述べるエルトシャン。
「…シグルドには何も言わん。アイツの事を想う人には無粋な真似をしてしまった。だから詫びている。」
「(う、この人苦手かも…。)ええっと、その、こちらこそ、ラケシスさんに酷い事をしてすみませんでした…。」
「ラケシスの事は構わん。それほど柔じゃない。…ラケシスと今後は仲良くしてやって欲しい。年の近い友人が少ないんだ、あいつは。」
 妹の事を大事に思っているのか無下に扱っているのか量りかねるが、多分、前者。兄は兄らしく妹の事が大事なのだろう。
「あ、エルト兄様!それと、エーディンさん!」
「あれ?何か想像していた図とまるっきり違う。…クレーターとか出来てると思った。」
「姉上?…エルトさん恐るべし。戦闘モードの姉上を止めたのか…。」
「ああ、どんな説得も弾き飛ばし、あのラナすらも恐怖する我らがユングウィ家の真の恐怖の象徴たる姉上を止めた…。」
 ナンナとリーフ、ファバルとレスターが思い思いに口にする。
「ナンナとリーフか。早かったな。…スマンが呼んで欲しい人がいる。」
「ファバル、お疲れ様。レスター、空気を読むお勉強をお仕置き部屋でフルコースね。」
 頷くナンナ、泣くレスター。
 レスキューを手渡すリーフ、弟を慰めるファバル。

246 :助けて!名無しさん!:2010/11/09(火) 04:12:05 ID:yd0GKzTJ

>>245の続き。

 ~一方のアイク一行~
「…ラナ様を焚き付けるのに大声出して恥ずかしかった。」
「お前さんの姉、ありゃ異常だぞ?一時間もアイクとやりあえるとはな。」
「ええ、アイクとあそこまで渡り合えるのは、グレイル団長、漆黒の騎士殿、ラグズ王方くらいだと思っていましたから。」
 いつの間にか三人仲良く観戦していた参謀’s。
「…でも、負けちゃいました。…あーあ、ラナ様を慰めるのに3日はかかるなぁ。」
 困り顔のマナ。
 一方のアイクは、ラグネルを鞘に収め、ラナに背を向け空を見上げる。
「どうやら終わったみたいだな。」
 遠距離魔法も矢の一本も降ってこない。先程とはまるで違う戦場。
「さ、ラナ様、帰りましょう。…私達、皆負けちゃったみたいですね。怖いけれど皆でエーディン様に怒られましょうね。」
 地面に仰向けに倒れ、腕で涙を隠しているラナに、そっとリカバーをかけに行くマナ。
「全力、出したのに。悔しい、残念、ごめんなさい、セリスさまぁ…ぐすっ…。」
「ラナ様、アイクさんも認めてくれたみたいですよ。だから泣かないで?」
 いきなり話を振られ、思わず振り返るアイク。
「…む。…ああ、ラナ、だったな。これからもセリスと仲良くしてやってくれ。あんたとの手合わせ、かなり充実していた。」
 飾らない本音でラナを彼なりに褒めた。
「さて、俺達も撤収するか。食後の運動だと思えば悪くなかったな。」
「ええ、アイクが満足していれば僕は何でもいいので。…ついでに屋敷の修繕の営業もしておきます。」
 背伸びしながらライ。仕事熱心なセネリオ。

 ~エルトシャン一行~
「まあ、そういうわけだ。…起きてしまった事は仕方がない。」
「そうなのね。後日正式な形でお詫びに行きます。…館の修繕費は当然当家で出させてもらうわ。いい?エーディンもうやっちゃダメよ?」
 呼び出され、事情を聞いたエーディンの姉のブリギットがエルトに頭を下げて詫びる。
「…ごめんなさい、エルトシャン様、ブリギットお姉様。」
 隣に立ちそれに続くエーディン。
「いや、あまり責めてやるなブリギット。俺もエーディンの気持ちも解らなくない。」
 キョトンとするブリギットと赤くなるエーディン。
「アイツはお人よしで性格が良くて強くて気配りも出来てギャグは寒いが正義感が人一倍強い男だからな。惚れて当然だ。それを取られそうになれば、な。」
 先程とちがい、ギャラリーの多くなったこの場所で、先程と変わらない口調で言うエルトシャン。
「あ、あの、エルトシャン様、これは、公開処刑ですか?」
 真っ赤になって顔を覆い隠すエーディン。
「すまんな。間違っていたか?」
「…え、間違って、ないです、けど…だからこそ、というか…。」
 クエスチョンマークを出しながらエルトシャン。頭から湯気が出ているエーディン。
「え?天然?エルトさんって天然なの?」
「エルト兄様はいつもあんな感じです。」
 リーフとナンナ。
「あのエーディン姉上が乙女になってるぜ。パティに見せてやりたかったな。」
 ニヤニヤ顔のファバル。
「だろう。…だが、ラケシスには詫びてやってくれ。あいつは本当に今日を楽しみにしていたんだ。」
「…はい。」
「ナンナ、ラケシスを呼んでくれ。」
 エルトシャンの譲れぬ一点は妹の楽しみを壊した事の詫びであった。
「はい、エルト兄様!」
 元気な声で返事をするナンナ。レスキューをかかげ、魔方陣がラケシスを転送する。

247 :助けて!名無しさん!:2010/11/09(火) 04:16:05 ID:yd0GKzTJ

>>246の続き。

 だが現れたのは、シグルドを膝枕して微笑を絶やさずにいるラケシス。
 一瞬の間。ラケシスが風景の変化に気が付き、周囲を確認し
「え、違うんです兄様!これは深い事情って、え?何この状況?公開処刑?」
「ぐ、ぐぅぅ!!羨ましい…!!!」
 真っ赤な顔で必死に弁解するラケシス。予想外の不意打ちに爆発しそうなエーディン。
 膝枕をしていたシグルドをエルトシャンに任せるラケシス。シグルドに肩を貸すエルトシャン。
 事情をしり落ち着けたエーディンが一言。
「…今日はごめんなさい。」
「いいの。ハプニング続きだったけれどいい思い出になりそうだから。」
 謝るエーディンにニッコリと微笑む。そして彼女の前に手をさしだし
「強敵だけど負けないわよ?」
 握手を求める。
「…ええ!私もこれからは正面から挑ませていただきますわ!」
 負けない笑顔でガッチリ握手に応じるエーディン。
「それにしても、本当に大丈夫なのかしら?レストで浄化できない毒ってかなり危険なんじゃない?」
 エルトシャンの肩で依然として寝息をたてているシグルドの頬をつつきながらブリギット。
 その刺激で目を覚ますシグルド。だが、まだ覚醒しきらずにいた。
「…んー、ブリギットか…?…君が、欲しい。」
 意識を投げ捨てている彼が問題発言。
 流石のエルトシャンも顔をしかめて肩を貸すのをやめた。
 当然、先程まで仲良く握手をしていた二人にも聞こえていて
「もう、シグルド様ぁ!?」
「…使え。」
 大きく溜息をつき、ミストルティンを妹に貸すエルトシャン。
「シグルド様は目を覚ますべきですね。」
「姉上、これ。」
 背負っていたイチイバルを姉の前に差し出すファバル。
 図ったかのようなタイミングでレストをするリーフとナンナ。
「え、なにこの状況、公開処刑?」
「「シグルド様!お仕置きです!!」」
「あー!このひとでなしー!!」
 そして、シグルドは夜空を飾る星のひとつになった。

「上手くいったのかな?…姉様楽しそうだから上手くいったんだよね。」
 0時の伝えるアラームがなり、今日が終わる。 
「いいなあ、どうせお仕置きされるなら、おねいさんのほうがいいよねぇ。」
「…クスクス、シンデレラの時間は御仕舞。」
 リワープの魔方陣からサラが、
「今日はずーっと我慢していたからね!」
 ボルガノンの詠唱を既に始めているミランダが、
「ジャスト0時、いい夢見れたかよ、リーフ様。」
 トローンを詠唱しながらポーズを決めているティニーが、
「やれやれ、また僕か。参ったね。」
 いつも通りの光景にリーフが、
「ええ、私達はまた元通りでいいじゃないですか。」
 魔法の切れたお姫様が。
「そんなわけだから。」
「リーフ様。」
「覚悟してくださいね。」
「…ふふ、リーフいぢめもたのし…。」
「あーっ!このひとでなしぃぃ!!!!」
 夜空の星になるリーフ。

「…なあ、リーフ、お前は毎日こういう目にあっているのか。」
「ようこそシグルド兄さん。こちら側の世界へ。」
 今日限りにしてくれ。シグルドの溜息交じりの声にリーフはふきだした。
                                         おしまい。