31-523

Last-modified: 2013-11-06 (水) 23:21:00

ユリウス「まあ、何にせよヤアン兄がニートであることに変わりはないよな」
ユリア「おじい様方は隠居していらっしゃいますからニートとはまた違いますものね」
ニルス「家の中取り仕切ってるの、基本的にムルヴァおじさんとかだもんね」
ミルラ「お父さんは働き者です」
ユリウス「ヤアン兄も働けよ」
ヤアン「クククッ……高貴な者が労働に従事するのは理に適っていないとは思わんか?」
ユリウス「言い訳する気もないなこのおっさんは……」

ムルヴァ「……大変だったな、ヤアン殿」
ヤアン「ムルヴァか。ククッ、盗み聞きとは趣味が悪いな、貴様も」
ムルヴァ「偶然だ。若者たち……特にユリウスやニルスは少々目上の者に対する礼儀に欠けるようだ」
ヤアン「仕方があるまい。私が貴様と違って仕事をしていないのは事実だからな」
ムルヴァ「……表向き、対外的には、な」
ヤアン「それでいいのさ。諜報活動というものは隠れてやるものだよ」
ムルヴァ「そのせいで若者たちにはごく潰し呼ばわりされているぞ」
ヤアン「若い連中に、私の仕事を知ってもらう必要はあるまいよ。敵を欺くにはまず味方からというしな。
    家の中の者たちですら貴様のみが竜王家を仕切っていると思いこんでいるこの状況は、私にとっては大変都合がいい。
    その方が、有事の際に動きやすいからな」
ムルヴァ「理屈は分かるがな。……紋章町に変わったところは?」
ヤアン「特にはないな。至って平穏だ。いつものように人も竜も神も魔も、境界なく愉快に過ごしているようだ」
ムルヴァ「……だが、その平穏はいつ破られてもおかしくはない」
ヤアン「無論だ。冷静に考えてみれば、この街は危険なものが多すぎる。事実、過去にいくつも危うい事件が発生しているしな。
    クククッ……そのたびに大抵借りを作る形になっているあの兄弟たちと、我が家の若い連中が懇意にしているというのも不思議な巡り合わせよな?」
ムルヴァ「あの家の者たちは皆……表面的にはどうあれ、根の部分では誠実で善良な者たちだ。
      おそらくこれからも、何度も手を貸してもらうことになるだろう。
      自ら紋章町の守護者を任ずる竜王家の者としては、いささか情けないことではあるがな」
ヤアン「利用できるものは何でも利用しようではないか。竜の力とて万能ではないのだからな」
ムルヴァ「理屈は分かるがな」
ヤアン「クククッ……相変わらず頭の固い奴だ。まあいい。お前のそういった実直な性質を隠れ蓑にしつつ、私は今日も陰で情報収集するとしよう」
ムルヴァ「何かあればすぐに報告してくれ」
ヤアン「分かっているさ。それでは、な」