ファリナ「ったく、フロリーナときたら……」
リン 「あらファリナさん、こんな道端でどうかしたの?」
ファリナ「んー……ああ、フロリーナの友達の」
リン 「リンディスよ。どうしたの、なんだか苛々してたみたいだけど」
ファリナ「いやね……あんたんとこのヘクトル、何とかしてくれない?」
リン 「何とかって……え、なに、あいつまた何か迷惑を……!」
ファリナ「あいつって言うかさ……最近フロリーナがうるさいのよ」
リン 「え、フロリーナが……?」
ファリナ「そう。何かっていうと『ヘクトル様がヘクトル様が』って」
リン 「ゲッ……ほ、本当、それ!?」
ファリナ「ホント。ちょっと前までは『リンがね、リンがね』って……ああ、これはあんたのことよね」
リン 「そ、そうだけど……じゃあ最近はわたしのことよりも……!?」
ファリナ「うん。ヘクトルのことばっか」
リン 「グゥッ……!」
ファリナ「あれはマジよ。最近じゃあんたの家通って、お姉さん方からヘクトルが好きな料理とか教わってるみたいだし」
リン 「じ、事態がそこまで進行していただなんて……!
クッ、ミカヤ姉さんたちは『ヘクトルにまともな彼女候補が!』って無茶苦茶乗り気だし……!
あーもう、フロリーナもあの贅肉達磨のどこがいいのかしら!?」
ファリナ「って、ちょっと。兄弟に対してエラい言い様ね、あんた」
リン 「わたしはこの十数年、ずっとあれをそばで見てきたのよ? あのガサツなヘクトルにフロリーナなんて……!」
ファリナ「そうよね。わたしも口酸っぱくして言ってるんだけどねえ。あんたみたいな細っこいのがあいつについていけるわけないって」
リン 「本当よ! 大体ヘクトルときたら、だらしないわ口悪いわ下品だわ、その上学校もよくサボるわ……」
ファリナ「……ま、まあ、別にそれほど悪い奴でもないけどね」
リン 「え?」
ファリナ「まー、確かに考えなしっていうかバカな奴だとは思うけど。
でも約束は守るし弱い者イジメとかはしないし。表立っては不良ぶってるけど陰じゃ結構人助けとかも……」
リン 「……」
ファリナ「いや、わたしがそういうところ見たのは本当に偶然なんだけどね。
『面倒くせぇから黙っとけ』っていうから、その、なによ。二人だけの秘密と言うか」
リン 「……」
ファリナ「ま、まあね! でもそういう美点がかすんで見えるぐらい品がないし粗暴だし!
夢見がちなフロリーナとは、やっぱりこう……ちょっとね。
それよりだったらあいつの悪いところもちゃんと見られて、それでいて現実的なフォロー入れられるような性格の女の方が」
リン 「……ファリナさん」
ファリナ「え、なに?」
リン 「……なんていうか……あんたもう、駄目だわ」
ファリナ「え」