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Last-modified: 2013-11-07 (木) 00:36:20

216 :路地裏の通り魔 前編 1/2:2010/12/13(月) 01:02:50 ID:LgydufHc

「通り魔?」

紋章町にある高校の教室ではここ最近現れる通り魔の噂で持ち切りだった。
声の主であるマルスは恋人のシーダからその噂を詳しく尋ねていた。
「はい、夕方や夜に路地裏を歩いていると突然魔法や矢や斧が飛んでくるみたいです」
「あっ、通り魔なら知ってるよー!この前実はいい人が槍でやられたって話だよ」
シーダの後ろから元気な声でアベルに手作り弁当を渡しに来ていたエストが話す。
マルスは…たぶんエフラム兄さんだ、と思ったが心の中にしまい話を続けた。
「ふーん…なんにせよ危ないことには変わらないね。シーダやエストも気をつけてね」
「はい、私はマルス様がいますから大丈夫です」
「はーい。まあ私もアベルがいるから大丈夫だよ」
「そうだね。まあ何かあったらまた僕に相談してね」

「通り魔か…噂通りならかなりの手練らしいな」
「そうね。ところで兄さん、カタリナ見なかった?」
「ああ、カタリナなら担任のアラン先生に尋ねたら風邪で休んでいるそうだ」
「そう…ならまあいいわ」

夜、補習で遅くなったルークは愛馬に乗って急いで帰路を駆けていた。
「お、そういえばここの路地裏は近道だったな。ちょっと暗いけど行くか」
ルークは通り魔の存在を知ってはいたがこの時は失念していた。

「…今日の獲物が来たようだな」
「…はい」
何も見えない闇夜である男と女が話していた。
「…あの小僧が動くまではあの学校の生徒を狙うのだ」
「…わかりました」
「…ではまた頼むぞ」
男はそう言うとワープで立ち去り、暗闇には女だけが残された。
そして、数秒後。何かが落下した音とルークの悲鳴が路地裏に響き渡った。
近くにいた巡回していたベルン警察の警官が路地裏に来た時には、
何かに押し潰されたルークが道に倒れているのだけが見つかったのだった…

「ルークが被害にあったか…」
翌日、教室では噂の通り魔にクラスメートのルークがやられたことで話題は持ち切りだった。
「マルス様、カタリナを知りませんか?」
「あれ、クリス。さっき妹のクリスも同じことを質問してきたよ」
「あいつもですか。それで、あいつはどうしました?」
「ああ、カタリナなら風邪で休みだと伝えたら見舞いに行くって…」
「そうですか。ありがとうございます。では俺はこれで…」
「うん…あ、僕からもカタリナにお大事にってよろしく」
「はい。きちんと伝えておきます」

217 :路地裏の通り魔 前編2/2:2010/12/13(月) 01:03:44 ID:LgydufHc

「カタリナ…風邪で3日も休むなんてよっぽど酷いのかしら?」

マルスから今日もカタリナが休んだと知ったクリスはカタリナの住む家に向かっていた。
手土産としてりんごを買っている。もちろん焼いて食べてもらうつもりだからだ。
「そういえばチキちゃんも美味しそうに食べてたなあ…」
以前、マルス様の家の隣に住む竜王家の少女、チキちゃんに食べさせた日のことを思い出す。
その時のようにカタリナも笑顔を見せてくれるのを期待して思わず笑みがこぼれる。

「…あれはターゲットか?」
「…いいえ。ですがターゲットに親しい者です」
「…ならさっさと襲ってきなさい」
「…ま、待ってください!ただ襲うよりも策があります」
「…言ってみなさい」

夜、兄弟家にマルス宛の電話が届いた。マルスが出ると焦った声のクリスが喋りだした。
「マ、マルス様!クリスが、クリスが帰って来ないんです!」
「…はい?今電話しているじゃないか?」
「あ、いえ…妹の方です。それよりも帰って来ないんです!」
「…たしかカタリナのお見舞いに行ったんだよね?」
「はい、俺が行った時にはまだ来ていないとカタリナが言っていました」
「なるほど…とりあえず僕の人脈で探してみるよ」
「すいません、ありがとうございます!」
マルスが受話器を置くと心配そうな顔をしたミカヤが横に立っていた。
「クリスちゃんがいなくなったんですって?」
「…うん。とりあえず僕の知り合いに頼んで目撃情報を尋ねてみるよ」
「私もサザや騎士様やペレアス様に聞いてみるわ」
「ありがとう。よろしくお願いします」
「みんなにもクリスちゃんを見てないか聞いておくわね」
ミカヤから伝わり兄弟全員の人脈でクリスの目撃情報を尋ねた。
しかし神隠しにでもあったかのようにクリスの情報はなかったのであった…

「…さて、この小娘を捕まえてどうするのかね?」
「…囮にします。ターゲットに1人で現れてもらうための」
「…ふむ、悪くないな。まあ成功したらターゲットはわかっているな?」
「…はい」
どこかの部屋で路地裏にいた男と路地裏とは別の女が会話していた。
男が路地裏同様ワープで立ち去った後、女は小さな声で呟いた。
「…ごめんなさいクリス。でもあなたを生かすためにはこうするしか…」

続く