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Last-modified: 2013-11-07 (木) 00:37:14

219 :幼女の旗の下に:2010/12/13(月) 02:47:29 ID:LgydufHc

302

ギラギラと灼熱の太陽が降り注ぐイード砂漠は金色に輝き黄金の海原とでもいうべき威容を見せていた。
その人の立ち入らぬ秘境ともいうべき地に建てられた地下神殿……
この地にノディオンの当主エルトシャンは妻と妹を伴って立ち入った。
ロプト教のダークマージにワープで送ってもらったのだ。

エルトシャン「…薄暗いな…こんなところで…まったくシグルドも物好きな」
グラーニェ 「少し変わった方ですから…よろしいじゃありませんかエルトシャン様」
ラケシス  (ぬぐぐぐぐっ! 兄様の名を気安く呼ぶんじゃないわよこのビッチ!
       い…いけないいけない…今日くらいは刃傷沙汰は我慢しないと…)
彼ら3人に陽気に声をかけてきた者がいる。
久々に会った友人にエルトシャンは表情を心持ち緩めた。
キュアン  「おう、ギリギリだったな」
エルトシャン「…仕方あるまい。仕事で海外だったのだ。これでも急いで帰国したのだぞ」
キュアン  「間に合っただけ御の字か…しかしこれでようやくアイツとも嫁さんのノロケ話を語り合えるってもんだ。
       3人で飲んでても一人だけ独り身だとその辺の話題に入ってけてなかったかんな。気を使ったぞ」
エルトシャン「お前が気を使ってたとは初耳だな…小耳に挟んだのだが政党運営で大変な目にあったそうじゃないか?」
キュアン  「さすがに耳が早い。レイドリックと色々あってな…だが考えようによっては悪くないさ。
       この機会に膿を出し切って党を一枚岩にできたってもんだ」
ラケシス  「それは結構ですわね…」
エルトシャン「ん?」
ラケシス  「いえ…なんでも…」

思わず呟きが漏れていたらしい。
…このところプリシラの独断専行が目に余るようになっているのだ。
幾度か諌めてもみたが…現会長たる自分のやりようを手ぬるいと感じているらしい…
ラケシス  (プリシラ…私たちは同志のはずよ…いつか私たちの正義が一致しなくなる日がくるのかしら…)

闇に包まれた地下神殿…ロプトウス…闇の竜の神像が祭られた祭壇では蝋燭が青白い炎を灯している。
祭壇は数段高く作られた台座の上に設けられており、階段で繋がっている。
階段下には新郎新婦の家族や親族、招待客らの席が設けられており準備は万端だ。
この結婚式を取り仕切るサラはロプトの紋章をあしらった黒いローブを纏い、
漆黒の闇を溶かしたような色の司祭帽を被っている。
周囲には妖気が満ちこの世ならざる妖しげな雰囲気を醸し出していた。
セイラム 「サラ様、準備万端整いましてございます」
サラ   「そ、じゃあ皆さんを席にご案内して。新郎新婦の方もすぐに入れるのね?」
セイラム 「はっ」

神官たちが扉の閂を外し重々しい鉄の扉が開いていく。
会場に足を踏み入れた招待客たちは思わずざわめいた。
青白い炎に照らし出された異様なロプトウス神像が目に入ったのだ。
エルトシャン「…シグルドのやつ…何考えているんだ」
キュアン  「ま…まぁいいじゃないか。本人が変わった式がいいってんだからさ」

彼らの声に気付いたのはリーフだ。
リーフ   「あっキュアンさんたちだ。エスリンさんもいるぞヒャッハー!さっそくご挨拶を…」
ロイ    「兄さんもう始まるってば。挨拶なら披露宴の時にゆっくりすればいいよ。つか今ルパンダイブするのはやめてよね」
リーフ   「僕信用ないなぁ…」
ブチブチ文句を言いながらリーフは前列の席に腰を下ろした。

220 :幼女の旗の下に:2010/12/13(月) 02:48:11 ID:LgydufHc

303

サラは全ての者が会場に入るのを見届けると片手を挙げた。
サラ    「セイラム…時間よ。はじめなさい」
セイラム  「は…」
懐から一冊の魔道書を取り出すと詠唱を始める。
セイラムの詠唱に合わせて会場を囲うダークマージ達も呪文を唱え始めた。
セリカ   「な…なによ。邪教徒の式は薄気味悪いわね!」
アルム   「セリカセリカ自重」
セリカ   「フン!わかってるわよ!……でもシグルド兄さんの結婚式で妙な事したらただじゃおかないから!」
エフラム  「心配するな。こういう段取りなんだろう」

彼らの疑問に応じるかのように、台座上のサラは親族、招待客の全てによく通る声をかけた。
サラ    「これよりこの結婚の立会人としてロプトウスと闇の眷属たちにお越し願います」
周囲の闇の司祭たちの詠唱に応じて…ヨツムンガンドが呼び出す亡霊やフェンリルの悪魔ら異形の者たちが姿を見せる。
たちまち客席にどよめきが走った。
サラ    「あ、危害は加えないから安心して。それでは私も…」
手にした魔道書を詠唱しはじめる。
ユリウスから借りてきたロプトウスの魔道書だ。
本来サラには使えないのだがこの式のために三日ほど練習して使えるようになったのだ。
魔道書から強大な邪気がたちのぼり暗黒の闇が形を成していく。
姿を見せた暗黒神ロプトウスの顔にそっと手を添えて撫でる…うまくいった。
練習では完全に使いこなしていたが本番ということで少し緊張もあったのだ。

クルト  「なな……なんと……こ、このような式など前代未聞…やはり…」
アズムール「今更言ってもはじまらぬぞ。花嫁の父としてどっしりかまえておれ」

セリス  「わーっユリウスのお友達だ!ロプトウスもお祝いに来てくれたんだね!」
ヘクトル 「いやその発想はどうかと思うぜ…正直俺は呪いの儀式に立ち会ってる気分だ…」
アイク  「…できるな…一手勝負を…」
エリンシア「はいはい後でね」
アイク  「…そうだな…」
リン   「こういうとき私たちフツーの人間は反応に困るわ…」

召喚が終わり、式は次の段取りに入る。
サラ   「新郎と新婦を祭壇へ」
2人のダークマージ達が復唱しレスキューの呪文を唱えた。
光り輝く2つの魔方陣からシグルドとディアドラが姿を現す。
花婿らしいスーツに身を包み薔薇を胸につけたシグルドと漆黒のウェディングに身を包んだディアドラ。
2人はお互いに…自然に手を伸ばして手に手を取り合った。

シグルド 「綺麗だよ…ディアドラ」
ディアドラ「嬉しいです…シグルド様」

221 :幼女の旗の下に:2010/12/13(月) 02:48:53 ID:LgydufHc

304

サラ   「これより兄弟家長男シグルドとバーハラ家長女ディアドラの結婚を執り行う…
      わが神ロプトウスと眷属たち…そしてお集まりいただいた全ての方々が証人となる」
巨大な闇の竜の瞳がギョロリと動きシグルドを睨みすえた。
サラ   「それでは新郎から…これを…」
そういってサラが差し出したのは小ぶりだが荘厳な装飾のなされた短刀だった。
シグルド 「これは?」
サラ   「…結婚の誓い…誓約書への血判を押してもらうわ」
言うが早いか一枚の羊皮紙を取り出すと古代文字で書かれた文面を諳んじた。
サラ   「私たちはロプトウスの御前に置いて健やかなる時も病める時も、
      生涯支え合い助け合い人生を添い遂げる事を誓約致します。
      この誓いに背きし時は即座に神罰を受けて地獄に墜ち、25億年の間転生せずに業火に焼かれて罪を償います。
      ………異存なければ血判を」
シグルド 「ふっ…二人の気持ちが同じならそのような事など恐れるに足りないさ。
      私は誓う!決して後悔などしない!我が愛しきディアドラを…神よ…どうか永久に守りたまえ!
      その証、とくと受け取るがいい!」
高らかと宣言すると躊躇いなく親指に小さく傷を付けて…滲んだ血を誓約書のシグルドの名前の脇に押した。
サラ   「さ、次は貴女の番」
ディアドラ「はい。闇の神様。夜は一日の半分を占め、暗がりはどこにでもあるものです…
      ですから…どうか…どこからでも私たちをお守りくださいね。
      シグルド様への生涯変わらぬ愛を誓約いたします…シグルド様。一緒に幸せになりましょうね」
シグルド 「ああもちろんだディアドラ」
2人の血判が押された誓約書を受け取るとサラはそれを祭壇に捧げた。
闇の竜が低い唸り声をあげる。
サラ   「…ここにロプトウスの祝福の元、新たな夫婦が生まれた事を宣告します。
      どうぞ、皆様の祝福を…」

会場が万来の拍手に包まれる中、会場の人々を見渡して手を振り替えしていた二人。
ふとディアドラがシグルドに視線を転じると…彼女は一つだけ大事な…
式には含まれていないけれどこれがないと締めくくることができない大事な事があるとシグルドに囁いた。
シグルド 「…それはなんだいディアドラ?」
ディアドラ「ふふふふっ…わかっていますでしょうに…」
そっと瞳を閉じる…
シグルドは年甲斐もなく頬を赤らめた。シグルドの方は人生最初のキス。ファーストキスなのだ。
ディアドラに恥を欠かせないためにもスマートに決めたいが…
ディアドラの両肩に手を当てて…そこから…
シグルド (お…落ち着け…キスの仕方くらいは私だって知ってるぞ。ドラマとかで見たことあるからな。同じようにやればいいんだ…)
……などと自分に言い聞かせている間にディアドラの方からさりげなく…唇を重ねた。
シグルド 「はは…すまないな。君にリードさせて…」
ディアドラ「シグルド様だけが気負う事はありませんよ。これから二人で色んな事を協力しあっていくんですから…」
シグルド 「そうだな…これからずっと一緒に…な」
腕の中の愛する人を抱きしめて…この時のシグルドは幸福の絶頂だった。
ともにこの幸福を分かち合って行きたい…そう思ったら…二度目のキスはシグルドから自然にできた。
二人は瞳を閉じてこの時の幸福と祝福を享受していた。

222 :幼女の旗の下に:2010/12/13(月) 02:49:51 ID:LgydufHc

305

サラ   「………………」
アツアツの二人の側で居場所がないのは同じ祭壇上のサラである。
声を発して邪魔しても悪い。
サラはロプトウスを魔道書の中に還すとリワープを使って客席のエフラムの膝の上へと転移するのだった。
サラ   「無事…終わったよ。褒めてくれる?」
エフラム 「ああ…」
サラ   「兄様?」
エフラム 「いや、なんと言っていいのかわからんのだ。こういう感覚初めてなんでな…」
サラ   「教えてあげようか?」
エフラム 「…いや、分かってる」
ミカヤ  「そうね…分かってるわね」
ロイ   「じゃあさ、みんなで言おうか」
アイク  「うむ、大きな声でな」
ヘクトル 「兄貴が本気で大声出したら皆の鼓膜が破れちまうよ。上手く加減してくれ」
アイク  「そうか…」
エリウッド「それじゃいっせーのせでいくよ」
マルス  「いっ」
エイリーク「せーのっ」
ミカヤ  「せっ!」

一同   「二人ともっ結婚おめでとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!!!」

祭壇上の幸福な二人…その二人を会場の片隅から見上げる男がいた。
彼は席を立つと扉を潜って会場を出る。
それに気付いた彼の弟が彼を追ってきた。
アゼル  「兄さん…」
アルヴィス「ゆくぞアゼル。元部下の披露宴に顔を出せないのは残念だが仕事が押しているのではやむをえん」
アゼル  「…ふっきれたんだ…」
どこかアルヴィスの顔は晴れやかだった。
アルヴィス「惜敗より惨敗の方がすっきりするものだ。私はディアドラにあれほど綺麗な笑みを浮かべさせることができなかったな」

それに…絶対に口には出さない事だが……ディアドラはおぼろげな記憶の中の…母に似ていた。
幼い日に失った母の……
アルヴィス(結局…私は彼女に依存して甘えたかった…共に支えあう生き方を選べなかった。私が敗れるのは当然だ…だが)

これだけは口に出しておきたい。
アルヴィス「ディアドラを泣かすなよ? その時はロプトの地獄より先に私の劫火で焼き尽くしてやるからな」

小さく呟くとアルヴィスは弟を伴って神殿を後にした。
仕事が彼の決済を待っているのだ。

223 :幼女の旗の下に:2010/12/13(月) 02:50:47 ID:LgydufHc

306

結婚式はつつがなく終了し、披露宴へと移行した。
アレク、ノイッシュ、アーダンがカラオケで結婚式の定番の歌を歌っている。
アレク  「かんぱぁい♪」
ノイッシュ「いまきみぃはじんせいの♪」
アーダン 「おおきなおおきなぶたぁいにたち~♪」

ヘクトル 「いいな。俺も一曲」
リン   「それはだめ」
ヘクトル 「でもよ」
リン   「そ れ は だ め」
ヘクトル 「けっ…そこまで否定するこたねえだろうが…」
披露宴の料理は意外にもまともなご馳走だった。
ロプト教とて人間、祝い事も普通にあるのだろう。

ディアドラと並んでアレク達の歌に手拍子を打ってるシグルドの笑顔を見て…サラはふっと表情を緩めた。
サラ   「たまには…いいね。こういうの」

食事も済ませてお腹も一杯だ。
会場の人々も席を立って知り合い同士で声を掛け合ったりしている。
自分はどうしようか?

続く

1 エフラムのお膝に乗る  ここが私の指定席…もぅ…幸せな様子に当てられちゃったのかもね…
2 リーフで遊ぶ      今日はとても目出度い日…だから苛めは…まぁ…自重?
3 マンフロイに声をかける おじいさまは私がお嫁に言ったら寂しい?……なんて聞いてみよ

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