32-37

Last-modified: 2013-11-07 (木) 00:01:38

37 :幼女の旗の下に:2010/11/27(土) 21:54:54 ID:gLoDo+DS

1 念のためサラに釘を刺す     …本当に大丈夫か?

290

エフラム達一行はキュアンをレンスターに送り届けるとその日は解散した。
一晩がかりの仕事となり、すでにすっかり日は上がり昼時間となっている。
さすがに眠たい。一度帰宅して一眠りしよう。
仲間たちが解散するとエフラムはサラを家まで送っていく事にした。
行く道の途上…多少の不安を覚えたエフラムは口を開く。

エフラム 「なぁサラ…」
サラ   「なに?」
エフラム 「お前…大丈夫か?」
サラ   「あら、司祭役の事?ひょっとして信用してないのかしら?」
エフラム 「そうは言わん。お前は悪戯好きだが人の一生の大事を引っ掻き回すような奴じゃないからな。
      ただ…俺も兄上の大事に少し心配症になってるのかも知れないな…しっかり頼むぞ」
サラ   「いいよ。任せておいて…私、一回やってみたかったんだよね…紋章町じゃだーれもロプト教で式挙げる人がいないんだもの」
エフラム 「そりゃあな…まあいい兄上の決めた事だ。頑張って勤めてくれよ」

ポフポフとサラの頭を撫でてやる。
いつもなら心地よさ気にするサラだが…この時は少し違った。
サラ   「兄様…寂しいの?」
エフラム 「そう見えるか?」
サラ   「少しね…感傷的になってるみたい」

自分を見つめ返してくる瞳はエフラムの内心まで見通しているかのようだ。
エフラム 「寂しくない…っと言ったら嘘になるな…俺たちは15人で支えあって生きてきたし…
      心の底ではそんな日がずっと続くんだと思ってた。それはありえないって頭じゃあ判ってる。
      それぞれ大人ってヤツになってみんな家を巣立つ時が来るモンだって…な…」
サラ   「兄様も?」
エフラム 「ああ…すでに俺は俺を支持してくれる多くの人に責任を負っている身だ。ガリアの人々…セリノスの人々…
      グレイル工務店の人々…党の同志たち。みんなのためにも俺自身もっともっと成長しないとな。いつまでも学生気分でいられる身じゃない」
サラ   「人より早く大人になりたいんだ?」
エフラム 「ああ、志を遂げるにはもっと大きな男にならねばな」

力強い笑みを作って見せる。
だがそれが自然に出来なかったのはサラの言うとおり感傷的になっているのだろうか。
サラ   「こういう時くらい甘えたらいいよ。寂しいなら…慰めてあげるよ兄様?」
エフラム 「…お前な…生意気言うな。そんなセリフは10年早い」
サラ   「あら…指輪をくれたじゃない? クスクス…そういう相手にたまに甘えるのは自然な事じゃないかしら?」
エフラム 「…自分の無知に溜息が出る…指輪の意味くらい知っておくべきだったな…」
サラ   「ふふふ」

からかうような笑みを浮かべるサラを軽く小突いてやる。
いつもどおりのささやかなやり取りにどこか胸が落ち着くのを感じる。
エフラム (俺もまだ未熟なんだろうな)
…内心そうも思ったが気遣ってくれる人間がいるのは幸福な事なのだろう。
もう一度サラの頭を撫でてやるとエフラムはその手を握って自宅まで送っていった。

38 :幼女の旗の下に:2010/11/27(土) 21:55:37 ID:gLoDo+DS

291

こうしてこの部屋に歩みいるのは幾度目になるだろうか。
タナス公オリヴァーは嘆息する。

ベグニオン元老党の貴賓室。
実質的な紋章町政庁と化しているこの建物。
政府の重要事項の決定の多くが実質的にここで下されている。
政庁での決定はここで下された決定をそのまま持ち込んで繰り返しているに過ぎない。
元老党が第一党とはいえ、政を私物化していると言われても仕方のないことだろう。

オリヴァー「これが開かれた政治の府というべきであろうかな…」
厳重なセキュリティー。鉄壁の護衛陣。
多くの人々が立ち入る事を許されない密室で今日も町の運営が定められていく。
そして話し合われる事は政治の事だけではない。党の事情についても定められていく。

ルカン  「諸君…すでに耳に入っていると思うが、北トラキアのレイドリックが失脚した。
      北トラキア党から除名されたとの事だ」
ヌミダ  「まったくバカな…何をやっておるやら…」
ルカン  「ランゴバルト殿。報告を」
ランゴバルト「…トラキア鉱山より機材の大規模納入を見合わせると経営者連名でわがドズル重工に連絡がありました。
       人員削減に繋がる機械化は地域の雇用のために望ましくないとのことで…」
バルテロメ「それもあのキュアンとかいう若造の仕業でしょうな。愚かなことです。
      経営者とは思えない愚昧な判断ですね」
ヘッツェル「ですがこれで北の勢力を連立に取り込むことには失敗したと言えるでしょう」
ルカン  「次回選挙も近い…我が党はすでに揺ぎ無い第一党ではあるが…議会が完全に掌握できるまで気を抜いてはならん。
      議席の7~8割は取りたい物だな。選挙参謀、資金面はどうか?」
選挙参謀 「はい、ベグニオングループの経営状況の好調により前回より3割増しほどの選挙資金を確保できる見通しです。
      バーハラ社のシェアを奪った経済効果が効いております」
レプトール「……」

レプトールとランゴバルトの表情はどこか釈然としない。
無理もないだろう。袂を分けたとはいえ数十年尽くしてきた会社だ。
そう簡単に割り切れる物でもない。

39 :幼女の旗の下に:2010/11/27(土) 21:56:21 ID:gLoDo+DS

292

ヌミダ  「では前回以上の選挙工作が可能ということだな。議席の伸張は間違いあるまいて」
ルカン  「議会掌握が済めば次は大統領選だ。すでに支持基盤を弱体化させたあの老いぼれは選挙資金にすら事欠くだろうて。
      レプトール殿もランゴバルト殿もあの老人の懐古趣味にはうんざりしていたのでしょうな?カッハハハハ!」
レプトール「確かにバイロンは古い人間です。現代の政局をリードする人間ではない…だが…」
言いかけて…やめた。
自分が何を言おうとしたのかもとっさには判らなかった。

ルカン  「では次の話に入ろう。レイドリックのラインで我々は牙とコネを得た。こやつらは使い手があろう。
      他党の情報収集や妨害工作に当たらせようと思う」
バルテロメ「あのソーニャとか申すケバい女の組織ですかな?
      あの化粧は私の美的センスにはそぐいませんな…」
オリヴァー「ケバさならそなたも人の事は言えまいに…」
バルテロメ「何かおっしゃいましたか?」
オリヴァー「別に…空耳ではありませぬか?」
レプトール「…かの組織は反社会的行為をトラキアで行ったと聞き及びますぞ?
      そのような団体と繋がりを持っては弱みになりませぬか?
      万一マスコミに尻尾を掴まれたらスキャンダルになりかねませぬ」
ルカン  「そのための資金力ですぞ。新聞各社や報道関係の株式を買い進めております。
      経営陣にまで食い込ませれば報道の掌握も可能だろうて。心配にはおよびますまい」
ヌミダ  「株式と言えば肝心要のベグニオングループそのものの株式はどうなのですかな?
      すでに多くが我らの名義とはいえ経営陣の交代までは至っておりませぬが」
ルカン  「そこが思案のしどころだて…ペルシス公の拘留も限界に近い…下手をすれば社長派が息を吹き返しかねぬ」
オリヴァー「…株式の買取工作は私の方で進めておきましょう」
ルカン  「ほう、なにかよい策でもあるのですかな?」
バルテロメ「いくら金を積んでも社長派の株主達が株を手放すとは思えませんよ?
      ここまで粘った連中です。今更旗色を変えるとも…」
オリヴァー「私も無策でおったわけではない。ルートの開拓を進めておりましてな。いささか時間をいただければ…」
ルカン  「わかりました。この件はタナス公にお任せ申す。ではこの件はまた後ほど…」

うまくいった…オリヴァーは平然として見せていたが内心は冷や汗をかく思いだ。
社長派の株主とされる者の多くはダミー名義であり実際はオリヴァー本人の保有である。
代理人を仕立てたりして誤魔化してきたがそれもいつまで持つか心もとない。
ゆえに今回は自分自身で対応を買って出たのだ。
対策を打つ者自身がその本人だとは思いにくいだろう。

オリヴァー(ささやかじゃが時間は稼げよう…セフェラン殿…)

胸の内で盟友を思い浮かべる。
この勝負がどう転ぶか…チェックメイトの日は近いのかも知れない……

40 :幼女の旗の下に:2010/11/27(土) 21:57:05 ID:gLoDo+DS

293

それからの3日間は慌しく過ぎていった。
兄弟達は準備に追われ…だがそれは幸福な忙しさであった。
同時にいささかの寂しさを紛らわす効果もあったのだろうが……

マンフロイが準備したのはロプト教団の総本山、イード砂漠の神殿である。
なんだって砂漠の果てで式を…とも思うがロプトの教会は全国でも数が少ない。
それに総本山で盛大に…とのマンフロイの言葉もあった。

マンフロイ「招待客の方々は我がダークマージ達がワープの杖で送り迎えする。
      これならば砂漠でも不便はないじゃろうて」
シグルド 「それなら安心ですね。うん、よかった」
     (何故だろう…この大司教を見ていると殺意が沸いてくる)
マンフロイ「な…何かの? なにやら視線が痛いんじゃが…それより花婿殿も支度をせぬと」
シグルド 「あ、そうだったそうだった」
エリウッド「兄さんこっちこっち。ミカヤ姉さんが張り切ってるよ」
シグルド 「わかった今行く」

イードの地下神殿の廊下を早足で進んでいく。
所々にロプトウスのおどろおどろしい像が置かれており、地下だけに薄暗いが明かりは灯っている。
どういう仕掛けかわからないが廊下に吊るされたランタンの青白い炎は消える事がなくその異様さは人魂を思わせる。
シグルド (うーむ…喜びのあまり人と違う式をあげようとロプト式にしたが…なんか不安になってきた…まぁ後の祭りか…)

花婿の控え室には巨大な邪神像が置かれており部屋中に怪しげな古代文字が記されている。
なんでもロプト式の加護の言葉らしいが正直薄気味悪い。

その部屋では兄弟達が衣装を用意して待っていた…

ミカヤ  「もう、遅いわよシグルド!」
シグルド 「いやごめんごめん」
エイリーク「さ、着替えましょう。そろそろ支度を済ませて置きませんと」
シグルド 「ああわかった…って…一人で着替えられるよミカヤ姉さん!?」
ミカヤ  「いいからやらせて。お姉ちゃん…うん、お姉ちゃんへの孝行だと思ってちょっとじっとしててね」

自分より遥かに長い時を生きてきた姉の…これほど幸福に満ちた顔をシグルドは見たことがなかった。
きっと一生忘れないだろう。

ミカヤは丁寧に丁寧に…シグルドのYシャツのボタンを閉じていく。
ミカヤ  「お姉ちゃんはっきりと覚えてる。私に初めて兄弟が出来た日のこと…
      その頃にはお姉ちゃんはもう大人だったけど…子供みたいに大はしゃぎしたわ。
      柄にもなくユンヌに言ったっけ。神様私に弟を授けてくれてありがとうって」

首にネクタイをかけて結んでいく。
ミカヤ  「シグルドがね。初めて言葉をしゃべった日の事。
      たどたどしい声でねーちゃ…と読んでくれたわ。
      あの時は大喜びして家を走り回って階段から転げ落ちたっけ」

ベルトを締めて固定する。
ミカヤ  「エリンシアが生まれた日は私以上にあなたがはしゃいでたわ。
      ボクのいもーとだぁーっ!ってね。
      でもおねえちゃんがエリンシアにかかりきりになるとほっぺを膨らましてたっけ。
      あの頃のシグルドは悪戯が増えておねーちゃんを困らせてくれたわ」

41 :幼女の旗の下に:2010/11/27(土) 21:57:49 ID:gLoDo+DS

294

シグルド 「はは…この歳になってその頃の事を言われると少しくすぐったいな」
困ったような照れたような表情を浮かべる長兄。
歩み寄ったエリンシアがシグルドの髪に櫛を入れて丁寧にとかしはじめた。
エリンシア「ふふふ、私…うっすらとですけど覚えてます。
      ミカヤお姉さまに叱られて泣くお兄様の声」
シグルド 「エリンシアまでよしてくれよ」
エリンシア「いいじゃありませんか。覚えてます?
      最初の事…」

あれは幾つの頃だったか…アイクが生まれて間もない頃だった。
ミカヤとならんでキッチンに立つ小さな小さなエリンシア。
懸命にこさえた小さなお団子。
初めて作った小さな料理。
小学校に上がって間もないシグルドは歪な形のお団子をペロリと平らげて。

シグルド 「次はもっと美味しいのを食べたいよ」

エリンシア「なんて言うんですもの…あれからわたくしムキになって料理の練習をしたものですわ」
シグルド 「そ…そんな事を言ったのか? 私が?」
ミカヤ  「ああ、あったわねぇ。エリンシアが泣いちゃってフォローに骨を折ったわ。
      あの辺からシグルドは下の子達へかける言葉が優しくなったわね。
      子供心に思う所があったんでしょうね」

その時、壁に寄りかかっていたアイクが口を開いた。
アイク  「それで今のエリンシア姉さんの料理があるんだな。兄さんに感謝しないとな」
エリンシア「まぁ…そうとも言えますわね。私の料理好きの原点かも知れませんわ」
シグルド 「うむむ…言った側は案外覚えていないものだな…」
アイク  「兄さんは皆にとって原点だと思うぞ。俺が剣を学び始めたのも兄さんみたいになりたかった…というのがきっかけだったな」

幼い日のアイクは同世代の子に比べて身体も小さく腕っ節も強い方では無かった。
子供の喧嘩に大した理由はいらないもの、今では理由もよく覚えていないが近所の子と喧嘩をしてボロボロに負けてしまった。
悔しさと痛さにワンワン泣く小さなアイクにシグルドは言ったもの。
シグルド 「男の子が負けて泣くなんてダメだ!ボクが鍛えて強くしてやる!」

最近学び始めたばかりの剣。
子供用の小さな木刀。
アイクにはまだ重たいそれもシグルドならば振り回せる。
まだまだ未熟な習い始めのシグルドの剣術も幼く弱いアイクには無敵の剣に見えたものだ。

アイク  「あの日見た兄さんのように強くなりたくて俺は稽古に打ち込んだものだ」
シグルド 「今ではとっくに抜かれてしまったなぁ…そう簡単に抜かれるつもりは無かったんだが…」
アイク  「俺にとっては兄さんは今でも目標の一人だ。剣だけじゃない。男の生き様もな」
シグルド 「そう言ってくれるかアイク」

シグルドが脱いだ服を畳んでいたエリウッドが顔を挙げる。
エリウッド「人の背中は何よりも生き様を語ると言うね。僕にも忘れられない事があるよ」
アイク  「どんな話だ?」

瞳を閉じる。今でも鮮明に思い出せる。
あれはエリウッドがまだ小学校に上がる少し前の事。
雪の振る寒い夜だった。
息苦しさに目が覚めた…せきが止まらない。
熱があるのか身体が熱い。苦しさを訴えようとも声が出ない。
病気の苦しさ、心の不安はかかった者にしかわからないだろう。
あるいはこのまま死んでしまうのかと胸をざわつかせた。

42 :幼女の旗の下に:2010/11/27(土) 21:58:33 ID:gLoDo+DS

295

その時、隣の布団で眠っていたシグルドが目を開けて…慌ててミカヤを呼びに言った。
エリウッドは意識が朦朧として覚えていないが、家族は大変な大騒ぎ
ミカヤはエリンシアに下の子たちを寝付かせるように言いつけるとエリウッドを病院に連れて行く事にした。
その時エリウッドをおぶった大きな背中。
シグルド 「女の姉さんには重たいだろう。ボクがエリウッドをおぶっていくよ」
中学生になって身体も育った大きな大きな兄の背中。
朦朧とする意識の中で、それは何よりも大きく頼りがいのある存在だった。

エリウッド「あの時のことは…意識が微妙だったからほとんど覚えていないんだけど…
      とても苦しかったことと、それ以上に頼もしくて安心できた事だけははっきり覚えてるよ」
ミカヤ  「うんうん、今だからこうして笑って話せるけどあの時はおねえちゃん血の気が引いたわ」
シグルド 「ああ、エリウッドを落ち着かせようと必死に気張ったけど私も内心は不安でいっぱいだったぞ。
      よく無事に育ってくれた」
ヘクトル 「…んなことがあったのか…なんとなく騒がしい夜があった気はしたけどよ」
エリウッド「子供の頃の話だからね。覚えて無くても無理ないよ」
リン   「あんたはグースカ寝てたんでしょうが。まったくニブいんだから」
ヘクトル 「ちがわい!…と言い切れねぇのがアレだけどよ。でも兄貴の大きさを感じた事なら俺にもあるぜ。
      子供…とまではいわねぇけど中坊ん時だったな……」
リン   「あぁ…あの頃のアンタはちょっと荒れてたわよねぇ」

幼いころからやんちゃだったヘクトル。
子供の頃からガキ大将、腕力沙汰で勝てる子など近所にはいなかった。
身体は早く大きく成長し、でも心はまだ子供のまま。
自分より強い人間がいないと増長して…今思えば恥ずかしいが、中学時代は暴れていた。
兄や姉が諌めても聞かなかった。
そのあげくにソリの合わないエリックを叩きのめしてケガをさせた。
弱いくせに調子に乗ってるエリックが気に食わなかった。
ヘクトルに報いたのはシグルドの鉄拳。

ヘクトル 「な…なにしやがる兄貴!?」
シグルド 「黙れ! お前に殴られる側の痛みを教えてやる!」

それからはムキになって突っかかっていって…ボコボコにブチのめされて地に這わされた。
悔しさに震えるヘクトルにシグルドは怒鳴りつける。
シグルド 「いいか!男の拳は誰かを殴るためにあるんじゃない。そんなヤツから誰かを守るためにあるんだ!
      よく覚えておけ。次にこんなことをしたらこんなもんではすまさんぞ!」

ミカヤ  「あれからだったわよね。ヘクトルも少し落ち着いたっていうか…優しいところが出てきてさ」
シグルド 「わ…我ながら照れくさいセリフを言ったものだが…うん、私は今でもそう思ってるな」
ヘクトル 「あん時は頭にきてしょうがなかったけどよ…落ち着いて考えてみてさ。ボコボコにされて地面に転がってる時の気持ち、
      俺がぶちのめした連中も同じ気持ちだったんだろうな…ってよ…あ~上手く言えねぇわ」
エフラム 「ピザは語彙が乏しいからな」
ヘクトル 「人の事いえねぇだろロリ」
エフラム 「俺はロリではない!」
エリンシア「はいはい、こんな日まで喧嘩してはなりませんわ。ぶっとばしますわよ?」
ヘクトル 「う…わ、わりぃ」
エフラム 「す…すまん姉上」
二人のやりとりをシグルドは穏やかに見つめる。
シグルド 「ああ、わかってる。喧嘩するほどなんとやらだなお前たちは」
エフラム 「喧嘩か…本当におぼろげな記憶だが…幼い頃一度だけエイリークと喧嘩をしたな。
      兄上が仲裁にはいってな」
エイリーク「ありましたねそんな事も…」

43 :幼女の旗の下に:2010/11/27(土) 21:59:36 ID:gLoDo+DS

296

本当に本当に小さな頃。
5つになるかならないかの頃。
エフラムはエイリークといつも一緒だった。生まれる前から一緒だった。
いつも仲良し兄妹だった。おやつも一緒、玩具も一緒。
でも子供の喧嘩のきっかけなんて些細な事。
シグルドがくれたお菓子のビスケット。一枚余ったビスケットはエイリークの皿に盛られた。
なんでも一緒、なんでも公平。なのにエイリークのビスケットは一枚多い。
子供心に納得いかないエフラムはビスケットを取り上げる。
大泣きエイリーク、エフラムに食ってかかって大喧嘩。

二人の間に入ったシグルドはエフラムに拳骨を見舞う。
エフラム 「ずるい!エイリークばっかりかばうなんてひいきだ!」
シグルド 「エフラムはお兄さんだろう。エイリークを守らなくてどうするんだ。
      男がビスケットの一枚で騒ぐもんじゃない。お前が率先して譲ってあげなくてどうする。
      うちは家族が大勢いる。姉さんや兄さんだけじゃ全員は面倒を見切れない。      
      お前がエイリークだけじゃなく下の妹も守らなきゃいけないんだぞ?」

エフラム 「…子供心に納得いかなかったが…無理やり仲直りさせられた後、
      美味しそうにビスケットを食べるエイリークの顔を見ていたらそれでもいいか…と思えてきてな。
      思えばあれが俺が妹を守る兄たる決意をする…その最初のきっかけだったかもしれん」
シグルド 「うむ、お前はよく私の言いつけを聞いてくれた。聞きすぎた気もするが…」
ミカヤ  「それからはエフラム、何かって言うとエイリークや下の子たちを守るって付きまとってウザがられてたもんね」
エフラム 「ははは、姉上は冗談がうまい。俺がウザいはずあるまい」
セリス  「…………」
エイリーク「そうですよお姉さま。兄上がうっとおしいはずがありません」
マルス  「姉さんもまぁ…いや…言うまい…」

綺麗に身なりを整えたシグルドの胸に真紅の薔薇がエイリークの手で付けられる。
エイリーク「ふふ、これでどこから見ても立派な花婿さんですよ」
シグルド 「ああ、ありがとうエイリーク…とても綺麗な華だな。エイリークが選んでくれたのか?」
エイリーク「ええ」
シグルド 「そうか…うん、いいセンスだ。私はこういう物には疎いからなあ」
エイリーク「あらそうでしょうか?綺麗な物を綺麗と思う気持ちは兄上に育んでいただいだのですよ?」
エフラム 「なに?」
マルス  「ええ~? エイリーク姉さんのセンスは先天的なものでしょ?
      シグルド兄さんみたいに野暮ったい人から影響を受けたなんて思えないけどなぁ」
シグルド 「うむ、私自身ですらそう思うぞ」
エイリーク「本当に些細な事でしたから…あれは小学校に上がったばかりの頃だったでしょうか…」

ささやかな記憶。胸の内に秘めた思い出。
小学校の音楽の宿題。リコーダーの練習に励む幼いエイリーク。
でも最初から上手く出来れば苦労はいらない。どこかズレた音が出るばかり。
見かねたシグルド。でも自分もはっきり言って下手くそだ。教える自信なんてありはしない。
そんな時にふとひらめいた。幼い頃に遊んだ楽器。今でもそこそここなせそう。
シグルドが手に取ったのは一枚の葉っぱ。リーフではない本物の葉っぱ。
口に当てて音を鳴らす。唯一吹ける穏やかなメロディー。
シグルド 「さ、やってごらん」
エイリーク「こ…こうでしょうか…ふぅ~~!」
シグルド 「ああ、もう少し勢いを抑えて…こう」
口と葉の間から流れる静かな音階。どこか懐かしい曲。
あれをもう一度聞きたくて葉っぱがボロボロになるまで練習した。

44 :幼女の旗の下に:2010/11/27(土) 22:00:36 ID:gLoDo+DS

297

エイリーク「あれから音楽が大好きになって…いろんな楽器に手を出すようになりました」
リン   「一枚の草笛がね…人生わからないもんね」
リーフ  「その葉っぱはボロボロに…このヒトデ…いや違うよね」
シグルド 「そ…そういえばそんなこともあったような…ううむ、正直私の音痴な曲にエイリークが影響を受けたなんて信じられんぞ」
エイリーク「ふふふ、きっかけなんてそんなものかも知れませんよ」
リン   「んん…まぁそうよね……私もいつだっけ…いつだか兄さんが草原に連れてってくれたのよね…
      あれからかな。サカの魅力に惹かれたのはさ」
シグルド 「ああ、あったなぁ…ヘクトルと喧嘩ばかりしてるお前を見かねて連れてったんだったな」
リン   「よ…余計な部分まで思い出さないでよ…」

幼いリンは負けず嫌い。今でもそれは変わらないが。
男兄弟と遊んでばかり。エリウッドが剣を始めれば自分も始める。
稽古で負けては悔し涙。ヘクトルに何度も何度も突っかかって返り討ち。
腕を上げてもヘクトルも腕を上げる。その差は中々縮まらない。
壁に悩んだリンにシグルドは告げた。
シグルド 「一つの事にかかりきりになると帰って上手く行かないものさ。
      少し付き合わないか?」
初めて来た草原は雄大な広さ。
遥か地平線の彼方まで緑色の草の海。
リン   「わぁ……っ!」
悩んでいた自分が小さく思える。
心にかかっていたモヤが晴れていく。

リン   「あれから上手く気分転換できるようになって…上達も早まったのよね。
      そういえば兄さん。どうしてあの時サカに私を連れてったの?
      兄さんとサカが結びつかないんだけど…」
シグルド 「いや、たまたまTVで景色を流してたのを見てな。なんかいいんじゃないかと思ったんだ」
リン   「わ、わりといい加減…でもそんなものかも知れないわね。今こうしてサカに通う私、うん、
      今の私があるのもシグルド兄さんのおかげよ…」
マルス  「なんと…リン姉さんの獣性蛮性はシグルド兄さんの仕業でしたか…」
リン   「むぁるすぅ~~っ!!!」
マルス  「あっだめ姉さん!こんな目出度い日に暴れちゃダメですよ!」
リン   「アンタが余計な事言うからでしょーがっ!!!」

シグルド 「ふふふ、お前たちはいつもそうだな」
マルス  「ええ、リン姉さんのケダモノっぷりは…いたいいたいいたいっ!?」
リン   「だから言うなっちゅうに!!!」
エリンシア「ほら、その辺にしときなさい」
リン   「まったく…命拾いしたわね」
マルス  「酷い有様ですよ…もう…シグルド兄さん。ボクからも一言」
シグルド 「ん?」
マルス  「シーダに会わせてくれて…ありがとうございます」

それは数年前の事。
アリティア中が紋章町の日常茶飯事、クレイジー&フリーダムな何かの事件でブッ壊れた時の事。
校舎が直るまで生徒たちは青空学級…とは行かず、他の学校の世話になる。
マルスも当然世話になる。皆はなるべく家から近いどこかの学校に。
マルスも当然そうなるはずが……

マルス  「ちょ…なんでボクだけタリスなんて離島の学校なんですか!?」
シグルド 「いやすまんすまん。役所の教育関係者に兄さん届けを出したんだが…残業で疲れててな。
      手続きを間違えてしまったんだ。今更修正できないらしくてなあ」
家から近い学校を選んで一時編入の手続きを取るはずが…この頃のシグルドは社会人になったばかり。
慣れない仕事でクタクタだった。
出した書類には何故かタリス中の名前、なんで間違えたのかは記憶に無い。
ぶつくさ文句を言いながら一ヶ月ほど離島の学生寮暮らし。
学校で出会ったペガサスナイトの少女。
たちまちマルスは一目惚れ。帰る日までに付き合いを申し込み晴れて二人は彼氏彼女。

45 :幼女の旗の下に:2010/11/27(土) 22:01:24 ID:gLoDo+DS

298

マルス  「今にして思えばシグルド兄さんのミスでシーダと出会えたんです。
      この事だけはどれほど感謝してもしたりません」
シグルド 「はは…は……私は弟に先を越されてちょっと複雑だったがな。
      あの時は彼女いない暦○○年目だったからなぁ…」
ミカヤ  「そこにダキューンダキューンとか入らないんだから全然いいわよ。世の中には大賢者もいるんだから。
      それに今はこうして晴れの日じゃない」
マルス  「そうですねぇ…次は誰になるやら。あ、順番と言えば君の番だよ。
      シグルド兄さんとのいい話を語ってくれるかい?」
アルム  「や…やっとしゃべれる…298も連番重ねた長編ネタで僕のセリフってあったっけ?
      均等に出番を振ってるネタでは無いにしろこんなに出番がないなんて…orz」
マルス  「メタネタは僕の専売特許だってば」
シグルド 「出番の多い少ないが男の価値じゃないぞ。アルムはよく家族を影から助けてくれたじゃないか。
      薄給の私にとってアルムの菜園が食卓を彩ってくれる事がどれだけ助けになったか」
アルム  「うん、そう言ってくれると嬉しいよ」

社会人になりたてのシグルドの給料はとても安い。
アイクもいまだ高校生。兄弟家はいつでも赤字。
給与明細を見て溜息を付くシグルドの苦悩…後ろ姿には家族を守る男の苦労がにじみ出ていた。
それを見かねたのはアルム。なにか自分に出来ることはないか。
アルム  「そうだ…僕の友達には農家が多いし、教えてもらって菜園をやれば少しは食費が浮くかなあ」
そうして始めた家庭菜園。
初めての収穫はまだ慣れておらずいい野菜は出来なかったけれど…
それでも食卓に並んだトマトの味は忘れない。
シグルド 「ありがとうアルム…お前にまで苦労をかけて済まないな…
      もっと遊びたいさかりだろうにふがいない兄ですまん…」
アルム  「ううん、兄さんばかりに苦労はさせないよ。それに…初めて土いじりに挑戦したけどさ…
      案外楽しいものだよ。趣味がてら…ううん…なんだかそれ以上に打ち込めそうな気がするよ」

アルム  「そうして始めた農業だけどさ。今じゃ人生の目標になってる。
      小さな菜園が始まりだったけど…きっと僕の人生は土と共に生きる物になるよ」
マルス  「そのきっかけはシグルド兄さんの薄給か…よかったじゃないかアルム。
      シグルド兄さんが高給取りだったら農業に目覚めるきっかけもなかったかも知れないよ」
アルム  「いやまぁ…ある意味そうかもしれないけど…」

シグルド 「薄給ですまん…orz」
エリンシア「いえ、今はお給料も上がったじゃありませんか」
リン   「まったくマルスのヤツまた余計な事を…」
シグルド 「いや、あれはあれで気を使ってくれてるんだ。混ぜ返していつもの賑やかな我が家を見せてくれている」
マルス  「さてなんのことやら」
セリス  「マルス兄さんきっと照れてるよ。だって耳が赤いもん」
マルス  「もう一度言うよ。なんのことやら」
セリス  「ふふふ…」
シグルド 「ああそうだ…セリスに渡す物があったんだった」
セリス  「え。僕に?」
リーフ  「セリスにだけプレゼントなんてズルい!僕にもなんかちょーだいよ!」
シグルド 「はは…すまないな。これは私とセリスにしか使えないからな。そら」

そう言って笑ったシグルドの手からセリスに差し出されたのは一振りの剣。
聖剣ティルフィング。
セリス  「え…え…ええええええっ!? まってよ兄さん!これは兄さんの大事な…」
シグルド 「ああ、大事な大事な私の愛剣だ。だからセリスに任せるよ。これで私の分まで家族を守ってくれ」
セリス  「う…受け取れないよ! 兄さんこそディアドラさんを守らなきゃいけないじゃないか!」
シグルド 「おや? あまり兄を見くびるなよ。ティルフィングに頼らずとも私にはアズムール会長から頂いた銀の剣で充分さ。
      これでしっかりディアドラを守ってみせる」
セリス  「でも…でも…」
シグルド 「私の剣技を一番受け継いでいるのはお前だ。だからお前に託すのさ」

46 :幼女の旗の下に:2010/11/27(土) 22:02:12 ID:gLoDo+DS

299

幼い弟妹に剣を教えた長兄シグルド。
それぞれの兄弟は自分にあったスタイルを見出すと次第にシグルドの手を離れたけれど。
一番シグルドの傍で学び続けたのはセリス。
シグルドともっとも近い剣を学んだ小さな弟。
誰よりも優しい自慢の弟。

セリス  「兄さん…」
これ以上断る事はシグルドに気持ちに背く。
セリスはもはや紡ぐ言葉を持たず黙って剣を受け取った。
暖かな神器の光が身体を満たしていく。
セリス  「ありがとう兄さん。ティルフィングに恥じないように…もっともっと強くなるよ…」
シグルド 「ああ…しっかり頑張れ…」

リーフ  「いいなぁ…神器いいなぁ…いいなぁ…いいなぁ…いいなぁ…」
ロイ   「こ…コンプレックス大爆発だねリーフ兄さん…」
マルス  「リーフには光の剣があるじゃん」
リーフ  「これ、トラ7以外では誰でも使える量産品じゃん…」
シグルド 「おや、量産品を甘く見てはいかんぞ?いい物も沢山ある」
リーフ  「だってさ…」
ミカヤ  「まったく仕方ないわねリーフは…その剣を貰った時の事…覚えてない?」
リーフ  「へ?…確か…」

あれは中学に上がったばかりの頃…
強くなった兄弟姉妹は次々と神器を手にして誇らしげに胸を張っていた。
でもリーフの手には鉄の剣。一振りの鉄の剣。
いくら剣の稽古をつんでも才能の差か神の気紛れか神器には選ばれない。
リーフ  「畜生…なんで僕は駄目なんだよ…」
そこに顔を出した長兄。
シグルド 「あまり気にするな。世の中神器の使えない人の方が多いんだ。
      いや、神器が無くても強い人なんていくらでもいるぞ」
リーフ  「兄さんは聖剣を持ってるからそう言えるんだよ…弟のロイまで凄い剣持ってる僕の気持ちなんてわからないよ…」
シグルド 「剣が凄くても使い手がダメならタダの飾りに過ぎないさ。皆懸命にやって剣に選ばれたんだ」
リーフ  「じゃあどうして僕は選ばれないのさ…」
…世の中努力しても上手く行かないこともある…まして一握りの者しか選ばれない神器の使い手においては…
シグルド 「選ばれないと思うか? だがお前を選んだ武器があるぞ。さ、受け取れ」
リーフに渡されたのは一本の光の剣。神器には及びも付かないけれど、買えば高いそれなりにいい剣。

リーフ  「…あの時は薄給のシグルド兄さんがなけなしの小遣いで買ってくれたって感動したっけ」
ミカヤ  「バカね…そうじゃないのよ…それはディアドラさんからシグルドへの贈り物の剣なのよ」
リーフ  「へ?」
慌てて剣とシグルドを見比べる。大事な大事な彼女からの贈り物。
リーフ  「そ…そんな大事な物を僕に…くれたっていうの? 普通おねいさんからのプレゼントなんて言ったら額に飾って一生ハァハァするレベルの宝じゃないか!?」
シグルド 「そ…その発想もどうかと思うが…まぁ…なんだ…お前にもそういう剣が一振りあってもいいと思ったんだ。頑張って修行してたからな」
リーフ  「に……兄さん…ありがとう…本当にありがとう…ディアドラさんからの贈り物…なんてワンダホーな響きなんだ…」
ロイ   「兄さん…その発想もどうかと思うよ僕…」
シグルド 「そう言ってやるな。あれも照れ隠し…には見えないが…まぁ本人が喜んでるならいいさ。ディアドラにハァハァしたら斬るが」
ロイ   「そ…そう…」

末の弟の髪をクシャリと撫でてやる。
シグルド 「ミカヤ姉さんじゃないが…お前が生まれた時…育っていった日々が私には印象深い。
      兄弟としては年が離れていたからな…どちらかというと父親のつもりでお前には接していた」
ロイ   「うん…だよね」
シグルド 「お前はなんでも言う事を聞くいい子だったが…欲を言えばもう少しだけむほん気を持って欲しかったかな。
      ヘクトルやエフラムで慣らされた私だ。今だから言うが子供の反抗期を楽しみにしていただけに少し寂しかったぞ」

47 :幼女の旗の下に:2010/11/27(土) 22:03:17 ID:gLoDo+DS

300

生まれたばかりの小さな命。
初めておしめを替えてやった時の事。
自分の名前を呼んでくれた時の事。
シグルドの胸に沸いた気持ちは兄としてというよりは父性だったのかも知れない。
ロイが生まれた頃、シグルドは高校に上がる頃だった。
ミカヤにごねて自分が世話をした。腕の中の小さな赤子を守っていかなければならないと強く思った。

シグルド 「…お前はよい子だ。とても気の付くできた弟だ。お前ほど周囲を思いやってやれるヤツは大人でもそんなにいない。
      だが…子供のうちから早く大人になりすぎることはないんだ。子供のうちしかできない事もある」
ロイ   「うん…」
シグルド 「たまには我侭を言え。本当にたまにならいいからな」

もう一度弟の赤い髪を撫でてやった。
いつもは子供扱いを嫌がるところだが…今日のロイは何も言わなかった。言えなかった…

シグルド 「姉さん時間は?」
ミカヤ  「あと一時間ほどね…おねえちゃん…感無量だわ…これが子供の結婚式を見る親の気持ちかしら…」
ミカヤが言い終えると周囲に静かな空気が流れる…
一瞬の静寂…その静寂を破ったのは微かな嗚咽だった。
赤い髪の妹が壁の方を向いて小さな肩を震わせている。
先ほどから話にも混ざらずずっと部屋の片隅で壁の方を向いていたセリカ…
誰もがシグルドの方に意識を向けていて気付かなかった…

シグルド 「セリカ…」
兄の言葉にセリカは溢れる言葉を留めておくことが出来なかった…
堤防が決壊したかのごとく思いをぶちまける。
セリカ  「なによ…なによなによっ!!!シグルド兄さんなんかどこへでもお婿にいっちゃえばいいでしょ!!!」
誰も口を差し挟む事が出来ない…
セリカ  「わ、わたしはせいせいしてるんだからっ!!!
      兄さんがいなくなれば思う存分KINSINNできるんだから!!!
      アルムと好き放題イチャイチャチュッチュッしてやるんだからぁ!!!!!」
シグルド 「それは…困るな…まめに帰ってきて見張ってやらないとな?」
セリカ  「ふ…フン! 兄さんのいない隙なんていくらでもあるわっ!!!
      兄さんがいない間に思う存分…存分に…KIN…し…」

椅子を立ったシグルドはセリカの両肩に手を置いた。
シグルド 「お前は昔から兄さんをKINSINNして困らせてたっけな。
      私もその度にムキになって暴れたものだ…だけどな…怒っていても…KINSINNアレルギーが発動してても…
      心のどこかで楽しかったんだと思う…ありがとうなセリカ」
セリカ  「な…なによそれ…今更優しい事なんて言わないでよ!
      KINSINNは許さんぞーって絶叫してティルフィングで切りかかってリーフを真っ二つにしてよ!!!」
リーフ  「ちょ…」
シグルド 「…とても楽しかった…けどな。楽しい事ってのは永遠じゃないんだ…何事にも卒業がある。
      私は…セリカにとってもきっとその時なんだろうな…だから…ああ、上手く言えないな。
      だから…セリカには笑って私を見送って欲しいんだ。それにこれは別れじゃない。
      私はマメに帰ってくるつもりだからな」
ポンポンと穏やかに赤い髪を撫でる…
その手に数万の言葉を込めたつもりで…
セリカ  「帰って…どうせすぐに帰ってくるもの!ディアドラさんに振られてどっかの赤ロンゲに寝取られて泣きながら出戻りするに決まってるもの!!!」
他人が聞いたら惨い事この上ない言葉だが…シグルドの笑顔は変わらなかった。
シグルド 「ああ、そうなったらつらいな。泣いて帰ってきたら暖かく迎えてくれ」
セリカ  「どうして言い返さないのよ…こんな時ばっかり優しくならないで…」
シグルド 「私はいつでも優しいぞ? 気付かなかったのか?」
セリカ  「シグルド兄さん……」

48 :幼女の旗の下に:2010/11/27(土) 22:04:12 ID:gLoDo+DS

301

それからは言葉にならなかった。
ボロボロと涙を流すセリカの肩を抱いてやることしかシグルドにはできなかった……
やがて小さくしゃくりあげたセリカはアルムが差し出したハンカチで鼻を噛むと、
懸命に…胸の中の寂しさ……やりきれなさ…切なさを必死に押し殺して小さく笑った…
セリカ  「…ごめんね…兄さん」
シグルド 「いいんだ。私はお前の兄さんだからな…」
セリカ  「ありがとう…兄さん…」
シグルド 「ああ…」
セリカ  「KINSINNを許してね…兄さん」
シグルド 「それは許さんぞーっ!」

軽く眉を吊り上げて見せる兄の仕草。
セリカ  「プッ…」
シグルド 「ククク…これがないと物足りないんだろう?」
セリカ  「ふふふふ…アッハハハハハハおかしー!!!」
涙を拭って…セリカは大きく口を開けて笑った…

続く

今回は選択肢は無しで…

一度シグルド兄さんの結婚ネタ書いてみたかったんだ…
次回作書く時はまた独身で兄弟家にいるシグルド兄さんを書くと思うけど、
自分の気持ちはシグルド兄さん好きの仲間たちにはわかってもらえると思う