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Last-modified: 2011-06-06 (月) 21:47:05

134 名前: 狼と銀の乙女 1 [sage] 投稿日: 2011/01/17(月) 15:11:14 ID:uQFM23ct
「ただいまー…あれ?お客さん?」
「あ、おかえりマルス。今ニケさんが来てるのよ」
「邪魔しているぞ」
「いえいえおかまいなく。そういやミカヤ姉さんとニケさんってなんで知り合いなんですか?ニケさんと言えばハタリ砂漠の石油女王として知らない人はいませんよ。そんな人と貧乏人の姉さんが………」
「う、それは………」
「待て、ミカヤの弟君よ、そんな設定どこにあった?」
「作者が今回勝手につけました」
「メタ発言自重しろ。ま、それはともかく……ミカヤ、まだあの頃の事を言ってないのか」
「だって、皆に心配かけたくないし………」
「お前の弟妹もいつまでも子供ではない。良い機会だ、話してみたらいいだろう」
「………やっぱり私からは………」
「そこら辺は昔と全く変わらんな。仕方ない、私から話そう」
「なんか、長話になりそうだなぁ………」

あの頃の私は、とにかく全てに苛々していた。
別に家族に問題があったとか、自分の置かれている環境が悪かったというわけではない。家族は優しかったし、イジメなどにもあわず、恵まれていた青春時代だったハズだ。
何故荒れていたのか、その理由は今でも分からない。私はただ理由もなく些細な事で怒り、物や人に当たり、壊し、どんどん孤独になっていった。そして、私はそれでさらに苛々し、より一層荒れていくという悪循環をしていた。
ミカヤに出会ったのは、そんな時だ。

ミカヤと初めて出会ったのは、中学2年の時だ。1年の頃から荒れ始めた私は、当時既に教師も更生を諦める札付きだった。
進級してすぐの始業式、校長の話が暇になった私は、教師の静止を振り切り、昼寝でもしようかと、学校の屋上へと向かった。
珍しく生徒達に開放されている屋上は、私がそこでよく昼寝をするようになってから、誰も寄り付かない場所となってしまった。
ましてや今日は始業式だ。真面目な生徒が多いこの学校で、私のようにサボる奴はあまりいない。屋上には誰もいないだろう。
だが、その予想に反して、その日は屋上に先客がいた。
135 名前: 狼と銀の乙女 1 [sage] 投稿日: 2011/01/17(月) 15:12:19 ID:uQFM23ct
「……?」
屋上へ通じるドアを開けた私の前に、一人の女生徒がいた。一瞬驚いた私だったが、別に先客がいてもおかしくは無い。むしろ私以外に始業式をサボる勇気のある奴がいた事が興味を引いた。
「珍しいな。ここに誰かが来てるのを見るのは3ヶ月ぶりだ」
「……………」
声をかけたが、そいつは背を向けたまま何も言おうとせず、長い銀髪を揺らすだけだった。
「おい、聞いているのか」
私が少し苛つきながら足を踏み出したその時だった。
「来ないで!」
謎の先客は切羽詰まった様子で叫ぶと、屋上の手摺を越えて、外へと身を乗り出した。いつ下に落ちてもおかしくない。
「お、おい!ここは5階だぞ!落ちたら………」
「死ねるよね?」
「え?」
「私なんて……いない方がいいんだから………」
そいつは抑揚の無い声で、屋上からグラウンドを見つめながら、そう呟いた。その声を聞いた時、私の中の何かがプチッという小さな音をたてた。
気がつくと私はそいつの側により、背中に手を当てていた。
「よし、じゃあ突き落としてやる」
「え!?」
私が腕に力をこめようとすると、そいつはギョッとした様子でその腕を振り払ってきた。
「な、何するの!」
「いや、お前死にたいんだろ?人間は意外と頑丈だからな、5階ぐらいじゃ生きのびる事もあるから勢いをつけてやろうと」
「無茶苦茶じゃない!」
「じゃあ死にたくないのか?」
「そういうわけじゃ……ないけど………」
「なら話は早い」
私は再びそいつの背中に手を当てた。今度は片手じゃなくて、両手でしっかり突き飛ばそうとする。
「じゃあ三つ数えたら行くぞ、3、2………」
「や、やめてッ!」
カウントを始めた瞬間、そいつは私を突き飛ばすと、手摺を越えて端から戻ってくる。
「情けない……本当に死ぬ気だったのか?」
「あ、あなたが無茶苦茶過ぎるのよ!」
そいつが怒りの声を上げるのを聞いて、私は初めてそいつをゆっくりと見た。銀色の長い髪に、陶器のように透き通った白い肌、綺麗な瞳をしたそいつは、人形のような可愛らしさの中に、神秘的な雰囲気を持っていた。
だが、それと同時にどこか暗いものも背負ってるように見えた。
「本当に死ぬ気なら泣いて喜ぶぐらいして欲しいものだな」
「………ッ!」
そいつは私をキッと睨み付けると、立ち上がって屋上から出ていった。
「変な奴」
少し気になりはしたが、私は昼寝を始める事にした。
136 名前: 狼と銀の乙女 1 [sage] 投稿日: 2011/01/17(月) 15:13:47 ID:uQFM23ct
翌日、私は学校に重役出勤をした。少し寝過ごしてしまい、1時間目から授業を受けるのが億劫だったからだ。
教室に私が入ると、クラスメイト達が緊張した様子でこちらを見てきた。
「なんだ?私の顔に何かついているのか?」
ギロリと教室の皆を睨み付けると、全員すぐに目をそらした。歯向かう勇気が無いならさっきみたいな顔をするな、そう思いながら私は近くにいた女子に声をかけた。
「おい、そこの銀髪」
「!?………一体、なんですか」
声をかけた相手が振り返って、その驚きの張り付いた顔が見えた時、私はしまったと心の中で叫んだ。
そいつは昨日屋上から飛び降りようとしていた陰気女子だった。だが、声をかけてしまったのは仕方ない。私は初対面のように振る舞うことにした。
「私の席はどこだ」
「ここです」
そいつはそう言って自分の後ろの席を指差した。
ツイてないな。こんな奴の後ろなんてな。
「それは私も同じです」
「?……今、私は喋ってなかったぞ」
「……………」
銀髪は私を無視してプイとそっぽを向いてしまった。まあいい、こいつが何だろうと無視すればいいだけだ。
そして私が席に座り、机の上に足を投げ出すと同時にチャイムが鳴り、午後の授業の始まりを告げた。

授業は数学だった。別に成績など気にしない私にとっては、教師の言う事を聞き流すだけの退屈な時間だ。
「じゃあアトス君、この問題を解いてみなさい」
「ハイ!先生!」
アトスとかいう学校一モテない老け顔のクラスメイトが、そこそこ美人の教師に興奮しながら立ち上がった。キモい。後で殴ろう。
「……というわけで答えは8です!」
「全然違います」
ざまあみろ。後で蹴飛ばしてやる。
アトスがクラス中から嘲笑を浴びながら座ると、教師は次に当てる奴を探し始めた。そして、一瞬私と目があう。
「じゃ、ニケさ………」
「アァ?」
「ヒッ………」
当てられそうになったので睨み付けると、教師は縮み上がって、別の奴を探し始めた。
「ミ、ミカヤさん」
「!」
私の前の銀髪―名前はミカヤらしい―が当てられると、教室の空気が変わった。
今迄は軽口を叩きながらも、和気藹々としたものだったが、今度は違う。悪意や憎悪、いわゆる負の感情が生み出す空気だ。
なるほどな、少し読めてきた。
137 名前: 狼と銀の乙女 1 [sage] 投稿日: 2011/01/17(月) 15:15:46 ID:uQFM23ct
「ハイ………」
蚊の鳴くような声でミカヤは立ち上がると、ボソボソと口の中で答えを喋りだした。が、勿論それは教師には聞こえない。
「ミカヤさん、もう少し大きい声で」
見兼ねた教師が注意をするが、それは逆に引き金となってしまった。
「おいミカヤァ!薄汚ねえてめえの声じゃ聞こえないとさ!」
そら見たことか。こういう連中は些細な事で他人を攻撃し始めるものだ。そして、ミカヤに対する暴言は続く。
「貧乏人だから喉痛めてんのかぁ!?」
「そうやって儚い子みたいなアピールしてんじゃないわよ!」
「どーせあんたなんて薄汚い手でここに来たんでしょうが!」
「生まれが卑しい子は態度も卑しいのよねえ!」
そんな感じで、クラスメイト達はほぼ全員がミカヤを侮辱し始めた。
……訂正しよう。これは予想以上だ。流石にここまでの悪態を教師の目の前でこれほど大多数が言うなど見た事がない。
私は教壇に立っている教師をチラリと見た。が、そいつは皆を止めるどころか、迷ったような表情で見て見ぬ振りをしている。止める気は無いようだ。
「どうなっているんだ………」
その瞬間、私の耳に一人の生徒の声が聞こえてきた。
「×××なんていう奴等は皆死ねばいいんだよ!」
「……×××?」
そうか、つまりこのミカヤとかいう奴は×××だったのか。通りでクラス中が敵になるだけじゃなく、教師まで迷うわけだ。だが、私は、
「おいお前、今なんて言った」
私が口を開いた瞬間、今迄騒がしかったクラスメイト達は一瞬で静まり返った。現金な奴等だ。
「×××がどうしたんだ?×××は卑しい存在で、そうじゃない奴等の方が偉いとでもいうのか?」
「だ、だけどてめえも知ってるだろ!×××は………」
「知っている。だが、それがなんだ?」
「グッ………」
「私はな、×××など心底どうでもいい。むしろお前らのようなそんなしょうもない事に囚われる奴の方が嫌いだ」
「て、てめえ!」
怒りと恥ずかしさで顔を真っ赤に染めたその男子生徒が、殴りかかってきた。その拳を軽く弾くと、私はそいつの頭を掴んで引き落とすと同時に、顎へと強烈な膝を叩き込んだ。
脳を揺らされたそいつは白目を剥きながら、床へと崩れ落ちた。そこそこの脳震盪というところだろう。
「気分が悪い。帰る」
騒然とし始めたクラスメイト達に向かって言い放つと、しつこく引き止めてきた女教師を突き飛ばして、私は廊下に出た。
その時、私の背中から誰かが叫んできた。
「待って!」
後ろを見ると、そこにはミカヤとかいうさっきの銀髪がいた。
「なんだ。気分が悪いと言っただろ、用なら手短にしろ」
「ありがとう」
そいつは私に向かって深々とお辞儀をしてきた。そんな事するんじゃない、苛々してくるだろ。
私はミカヤの側によると、深々と頭を下げたままのミカヤの腹に、鋭いパンチを入れた。
「う、く……カフッ………」
「勘違いするな。私は気に食わない奴を痛めつけただけだ。そういう風に感謝されるなんて、ウザくて迷惑なだけだ」
「あ、あなたは………」
うずくまりながらもこちらを見上げて、何かを言おうとしたミカヤの顔を蹴る。
ミカヤは口から少し血を垂らしながら、廊下で完全に倒れこんでしまった。
「うるさい。二度と私に関わるな」
なおもミカヤはモゾモゾと動きながら、こちらに何かを言おうとしていたが、私は無視して階段を降りていった。

続く