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Last-modified: 2011-06-03 (金) 19:44:55

481 名前: 助けて!名無しさん! [sage] 投稿日: 2011/04/14(木) 18:00:10.62 ID:Gg3RpW9g
朝5時、兄弟家の近所に姉妹で住むフロリーナは鏡の前に座っていた。
「こ、こんにちはヘクトルしゃま!きょ、今日はよろしくお願いします」
男性恐怖症である彼女にとってたとえ好きな人でも例外ではない。
いまだにヘクトルの前でははっきりとしゃべることができないのである。
その点姉のファリナはヘクトルの前でもはっきりとしゃべることができるのをフロリーナはうらやましがっていた。
…そのファリナはファリナで女らしく振る舞えないことを嘆いているのだが。
鏡の前での挨拶の練習は姉2人が起き出してくるまで続くのであった。

そんなことはつゆ知らず、兄弟家のヘクトルは寝ていた。
居間でセリス達が朝食の準備を終えるまでは寝ているのがヘクトルの日常である。
そしておいしそうな匂いが漂い始めるとヘクトルは目を覚まし、居間へと向かうのだ。
目覚めたヘクトルはいつも通りドアを開き、居間へ入る。
兄弟は皆席につき、自分を待っている。朝食は皆で食べるのが兄弟家のしきたりだからだ。
「悪い、悪い。遅くなったな」
今にも食べたそうな表情のアイクを見て、軽い謝罪をしてから着席する。
そしてシグルドがあいさつをして朝食が始まるのである。一部ではおいのりをしているが。

「ところで、今日はヘクトルちゃんはどこに行くのかしら?」
食事も落ち着いた頃にエリンシアがヘクトルに尋ねる。
「ん、ああ。ちょっと街にでも行くつもりだぜ」
「ヘクトルが街に?誰かと行くの?」
普段街に行くなんて事は珍しい、野生の勘が働いたのかリンが更にその話題を掘り下げた。
これはまずい、リンはフロリーナが絡むとめんどくせえことになる。そう考えたヘクトルが誤魔化そうとした…が。
「あ、そう言えば昨日フロリーナさんがスキップしながら帰ってたね。そういうことk…」
そう発言したリーフが直後にアルマーズで壁にめり込む羽目になったが時既に遅し、リンが反応してしまった。
「へー、フロリーナと街に行くんだ。私も行こうかしら…」
「リン姉さん、そういうことばかりするからレズぎわk…あだだだだ!?」
マルスがからかおうとした瞬間にマルスの関節を極め、折るリン。これも毎度の光景だ。
「と、とにかく映画を見に行くって話だからな。そろそろ行ってくる」
あまり長居するとおそらく面倒なことになる。ヘクトルは逃げるように家を出るのであった。
「ねえ、リーフ…僕たちの扱い酷くない?」
「…兄さんのは自業自得だと思うよ」
482 名前: 助けて!名無しさん! [sage] 投稿日: 2011/04/14(木) 18:02:15.79 ID:Gg3RpW9g
「こ、こんにちは。ヘ、ヘクトル様、今日はあ、ありがとうごじゃいます」
「お、おう。こっちこそいいのか?俺だと寝ちまうかもしれないぜ?」
「い、いいんです。ヘクトル様と行けることに価値があるんです。それに…」
「それに?」
「ヘクトル様もきっと気に入って頂けると信じてますから」
上目遣い+健気な言葉。リンとかなら一撃で落とせるであろう攻撃にヘクトルは耐えきった。
(…む、なんだ今日のフロリーナは。いつもより可愛いじゃねぇか…)
「さ、さあ行きましょう」
「お、おう…」
そんななにこの初々しいカップルとかいう感じに映画館に入る2人。
その背後からリンがストーキングしていることは知らない。
「っていうかリン姉さんはそんなんだからレズって言われ…いだだだだ!?」
「うるさい、フロリーナをあんながさつな男に任せられないの!」

映画はFETVプロデュースのまがい物ではなく真っ当な制作会社の作品である。
内容としては恋愛物の皮を被ったアクション活劇で、退屈させない工夫が凝らされている。
フロリーナが横にいるヘクトルを見るとヘクトルは幼い少年のような表情で夢中になっていた。
見せ場のアクションシーンでは斧1つで様々な敵をなぎ倒す主人公である。
フロリーナとしてもこのどこかヘクトルに似ている主人公を見たかったのであったりするのだ。
そんな感じで映画を堪能する2人。とその近所で嫌味をぐちぐち言う姉と聞かされる弟。
「なんなの、あの主人公。剣相手に斧で突っ込むとか馬鹿じゃないの?ねえ?」
「リン姉さん…お願いですから映画ぐらい静かにお願いします…」

「いやー面白かったぜ。いつもなら寝ちまうんだが今日の映画は別だったぜ」
「は、はい、ヘクトル様に気に入ってもらおうと探しましたから」
「そうか。わざわざすまないな。大変だったろ?」
「い、いえ。情報はいろいろありましたし…その…ごにょごにょ…」
「ああ、天馬騎士のコミュニケーションか。エリンシア姉貴もよく言ってたな」
「ええ、エリンシアさんはとても情報通です」
「はは、姉貴はよくわからないけど知り合いも多いからな。筋肉好きだけど」
「そ、そういえばエリンシアさんとリリーナちゃんもよく一緒にいますよね」
「ん、ああリリーナはあれで筋肉好きだしな。まあ姉貴と違って贅肉も好きらしいが」
「へ、ヘキュトル様はリリーナちゃんみたいな子が好きなんですか?」
「好きっていうかああいう娘とかがいてもいいかなって感じだな」
「き、奇遇ですね。わ、私もああいう女の子が娘に欲しいです!」
「そこ強調するか?まあいいけどな」
「…あ、あの!今日はサンドイッチを作ってきたんですがい、一緒に食べませんか?」
「お、悪いな。お前の料理はうまいからな。ありがたく食べさせて貰うぜ」
サンドイッチを取り出したフロリーナはベンチに腰掛けてランチボックスを広げる。
早速座ったヘクトルは1つを掴むと豪快にほおばる。
「うん、うめえ。姉貴のサンドイッチもうまいけどフロリーナのもうまいぜ」
「あ、あ、あ、ありがとうございます」
「ほら、お前もこっちばっかり見てないで食えよ。俺が食っちまうぞ?」
そんな初々しいカップルのように仲良く食べるヘクトルとフロリーナ。
離れたところから見ていた2人はというと…
「く、食っちまうですって!不潔よ!やっぱりヘクトルはダメよ!」
「…食うっていう意味でそういう解釈をするリン姉さんのほうが…いえ、何でもないです」
「だいたい味わって食ってないじゃない!フロリーナの料理なんだからもっと大事に…」
「しかしあまいなあヘクトル兄さんは、そこでフロリーナの料理なら毎日く…うぎゃああ!?」
「マルス…そんなに死にたいのかしら?今宵のソールカティはよく斬れるわよ?」
「な、何でマーニカティじゃないのさ…ぐふっ」
483 名前: 助けて!名無しさん! [sage] 投稿日: 2011/04/14(木) 18:04:17.90 ID:Gg3RpW9g
マルスが死にかけ、リンが暴れた間にヘクトルとフロリーナは食事を終え、ベンチから立ち上がっていた。
「さて、これからどうする?特に問題ないなら俺の行きたいところに行くけど」
「あ、あの…ヘクトル様が行きたいところで問題ないです」
「おう、じゃあ行くか」
出発する2人を見たリンは先程までと違って勝利の笑みを浮かべていた。
「ふ、どうせヘクトルのことだからゲーセンとかに行くに決まってるわ!」
「…もうつっこみませんよ。まだ追いかけるんですか?」
「当たり前じゃない!フロリーナが愛想つかすところを見てやるわ」
「…やれやれ」

「あ、あの…ここは?」
「ん、いやこないだお前が欲しがってるって話を聞いてな。金ならあるし好きなの買ってやるよ」
リンの思惑は外れ、ヘクトルが連れてきたのは街にあるおしゃれなショップ(店員はララベル)だった。
「で、ですがヘクトル様に買ってもらえるようなことを私は…」
「あ、ああ気にすんな。毎回映画とか食事に連れてってもらってるしたまにはいいだろ?」
「は、はい…ありがとうございます」
「あら、アイクの弟じゃない。可愛い子を連れて、彼女?」
「べ、別にそんなんじゃねえよ。それよりフロリーナが欲しがってる物を見せてくれ」
「ああ、この間の子の…この時計ね」
ララベルが取り出したのはシンプルな装飾の腕時計だった。
「腕時計か?なんか意外だな」
「じ、実は最近姉さんからもらった時計が壊れてしまって…」
「なるほど、じゃあそれ1つくれ。いくらだ?」
「…このぐらいだけど払えるのかしら?」
ララベルが差し出した値段表を見てヘクトルは驚愕する。それは闘技場で数回稼ぐ金額と変わらないのだ。
「腕時計ってこんなに高いのかよ…」
「あ、あのだから自分で…」
「ええい、言った手前引く訳にはいかねえ。これをくれ!」
「はーい、あなたもせっかく大事な人がくれたのだから大事に使うのよ?」
「はい…ありがとうございます」

買い物後、特にあてもなく街を歩いて時間を潰し、日が沈みかけた頃。
「ふう、今日は楽しかったな。また誘ってくれるか?」
「は、はい。こちらこそ時計…ありがとうございました」
「き、気にすんな。あれぐらい闘技場に通えばすぐに取り戻せるさ…」
「わかりました。それでは失礼しますヘクトル様」
「おう、また明日学校でな」
フロリーナが自宅のあるアパートに向かい、ヘクトルも自宅のある方向へ歩き出した。

「あら、ヘクトルお帰り。たまには私と稽古しない?」
庭にいたリンがにこやかに誘ってくる。何か嫌な予感がしたが断る理由もないので承諾する。
「おう、いいぜ。ちょっと荷物置いてくるから待っててくれ」
この時庭に行けば血まみれのサンドバックと化したマルスを見ることができたかもしれない。
それを見逃した時点でヘクトルの運命は決まっていたのだろう。リンが手に持っているのはアーマーキラーだった…

「ねえフロリーナ。なんで腕時計を大切にしまってるの?」
夜、帰ってきたフロリーナはヘクトルに買って貰った腕時計を箱に入れたまま机に飾っていた。
「うん、いいの。これは大切な物だから」
「よくわかんないけどまあいいわ。フィオーラ姉さんに貰った時計は修理から帰ってきたの?」
「うん、だから明日から姉さんから貰った時計で大丈夫よ」
その後、フロリーナがヘクトルから買って貰った時計を使うことはなかったという。