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Last-modified: 2011-05-30 (月) 21:12:26

364 名前: とある主人公の封印之剣(ソードオブシール) [sage] 投稿日: 2011/05/29(日) 12:46:53.34 ID:AEN2c4dB

第一章 とある学校の校外学習
 ここは任天都炎区、紋章町。ただの町というにはあまりにも広大な面積を持ち、
多種多様な民族や種族が暮らすこの町は、大まかに6つの地区に分けられている。
 最も古くから存在し、紋章町の起源とも伝えられるアカネイア地区。
魔物が存在しながらも、二柱の神の加護を受けているとされるバレンシア地区。
十二聖戦士の伝説が残り、トラキア地方を内包するユグトラル地区。
アカネイア地区とよく似た特徴を持つエレブ地区。
バレンシアと同じく魔物が存在し、聖石によって守られているマギ・ヴァル地区。
ベオクとラグズ、異なる種族が対立を繰り返しながら、共存への道を探るテリウス地区。
365 名前: とある主人公の封印之剣(ソードオブシール) [sage] 投稿日: 2011/05/29(日) 12:48:56.69 ID:AEN2c4dB
 紋章町に住むほとんどの者達はこれらいずれかの地区に住居を構え、その地区の中にある学校や、
あるいは職場へと通っているが、まれにその例外も存在する。
 広大な紋章町の地理についてはいまだ解明されていない部分が多く、これらの6つの地区がどのように
配置されているかは分からないが、6つの地区の丁度中央、地区と地区の挟間にあるが故にどの地区にも行け、
どの地区からでも訪れることのできる場所。そんな地区の空白地帯に、この町でも有名なとある兄弟達の家がある。
 普通の一軒家にしては大きく、建てられた当初はその大きさに見合った立派な佇まいであったであろう
その家はしかし、現在はあちこちに修理跡が見られる。
366 名前: とある主人公の封印之剣(ソードオブシール) [sage] 投稿日: 2011/05/29(日) 12:51:11.60 ID:AEN2c4dB
すべてをきれいに修理するだけの蓄えが無いのか、あるいは修理が追い付かないからあえて簡単な処置しかしていないのか。
壁のあちこちに板が打ちつけられており、いつまた新たな傷が増えるか分からないこの家で「コノヒトデナシー!」
・・・今また新たな傷が増えたこの家で、いつものように騒動は始まろうとしていた。

「あいたたた・・・。ひどいよ、ヘクトル兄さん!いきなりなにすんのさ」
「俺のせいじゃねーだろ!文句ならエフラムに言え」
「ほう。この壁に刺さっている『ておの』が俺の獲物だというのか?ついに脳にまで脂肪がまわったか?」
「何だとてめぇ!」
 連休初日の朝。今日もいつものように、ヘクトルとエフラムが喧嘩をしている。
兄弟全員が席に着けるよう大きめに作られた食卓にはすでに朝食が並べられており、ほとんどの兄弟が席についている中、
丁度向かい合う位置にいる二人のみが方を怒らせて立っている。
367 名前: とある主人公の封印之剣(ソードオブシール) [sage] 投稿日: 2011/05/29(日) 12:53:17.75 ID:AEN2c4dB
エフラムの隣に、巻き添えを食らった
リーフが血を流しているのもいつもの光景だ。リーフの後ろの壁には斧が深々と突き刺さっていた。
 リーフが常に懐に入れている傷薬を取り出したところで、居間の入口、ヘクトルの背後にあるふすまが開けられ、
同じ赤毛を持った二人が部屋の中に入ってくる。
「・・・はぁ。またやっているのか二人とも」
「うわ、リーフ兄さん大丈夫?」
 溜息をつきながら入ってきたのがエリウッドで、毎度のことながらも律儀にリーフの心配をしたのがロイだ。
二人の手にはそれぞれ、やや大きめのリュックをぶら下げられており、部屋に入った二人はそれを部屋の
隅に置いてから―そこにはすでに、別のリュックが三つ並べられていた―自分達の席、エリウッドはヘクトルの隣へ、
ロイはエリウッドの席からはす向かい、リンの隣に腰をかけた。ほぼ同じタイミングで、興が削がれたとでも言うように
368 名前: とある主人公の封印之剣(ソードオブシール) [sage] 投稿日: 2011/05/29(日) 12:55:22.27 ID:AEN2c4dB
小さく舌打ちしながらヘクトルが、次いでエフラムが持っていた槍を自分の後ろの壁に立てかけながら腰を下ろす。
「まったく。すぐに武器を持ち出すのは、二人の悪い癖だよ」
 二人が取りあえず落ち着いたのを見て内心胸を撫で下ろしながら、エリウッドが二人をいさめる。
喧嘩の原因を聞くことはしない。どうせろくでもないことだと分かっているからだ。他の兄弟達もそれを知ってか、
リンは呆れ、マルスは我関せずをつらぬき、セリスはリーフの介抱をしている。
アルムとセリカは「今日からのお出かけ、楽しみね。アルム・・・」「そうだね。セリカ・・・」等と
二人の世界をつくり、アイクはヘクトルの斧がどうしてエフラムに避けられたかを分析しながら食卓の上の
肉をつまみ食いしようとし、それを「全員そろうまではダメです!」とエリンシアが止めている。
ミカヤは「今日も二人とも元気ね~」などとのんきな顔をしている。
369 名前: とある主人公の封印之剣(ソードオブシール) [sage] 投稿日: 2011/05/29(日) 12:57:39.13 ID:AEN2c4dB
唯一、エイリークのみがエフラムの
隣で二人を止めようとはしたが、努力は実らずだったようでため息をついていた。
 そんななか、当の二人は特に悪びれた様子もない。
「しょうがねぇだろ、エリウッド。俺達はシグルド兄上を見て育ったんだ。そりゃ、すぐに武器を振り回すようにもなるぜ」
「むしろ、ジークムントを取り出さないだけマシだと思ってもらいたいな」
「兄上!」
 あまりの物言いにエイリークが声をあげるが、どうせエフラム達の耳には届かないだろう。
外見こそ似ていないが、エフラムに振り回されるその姿はヘクトルに対するエリウッドの姿によく似ていた。
どうせまた繰り返すのだからこれ以上話しても無駄だとは分かっているのだが、そんな妹の姿に同情したのか、
エリウッドはもう一言付け加えることにした。
「・・・君達がそんなようでは、弟や妹が真似をするだろう?それでいいのか、エフラム?」
370 名前: とある主人公の封印之剣(ソードオブシール) [sage] 投稿日: 2011/05/29(日) 13:01:33.39 ID:Ey2Y2KAW
「うっ」
 急所を的確につかれた一言に、エフラムの顔が歪む。更に、
「もう手遅れですよ、エリウッド兄さん。現にリン姉さんは・・・あ痛ッ!ほら、もうこんなに暴力的に・・・あ痛たたたッ!!」
「うるさいわよ、マルスッ!人の話に茶々を入れるんじゃないわよ!」
「・・・わかった。少し、自重するようにしよう」
 確かに、少々元気がよすぎる妹の姿を見せられ(いつまで続くか)反省の色を見せた。
「君もだ。ヘクトル」
「へいへい、わーってるて。それより、シグルド兄上はまだかよ?もう腹が減っちまったぜ」
「そう言えば、ヘクトル兄さんが一番最後じゃないって珍しいね。
休みの日だと朝ごはんはいらないとか言って、昼まで寝ていることも多いのに」
 エフラムには通常の3倍の攻撃力を持つ特効武器でも、ヘクトルにはあまり効いた様子はない。
371 名前: とある主人公の封印之剣(ソードオブシール) [sage] 投稿日: 2011/05/29(日) 13:04:25.55 ID:Ey2Y2KAW
ヘクトルがこれ以上説教をされる前にと話題を変えると、ロイがそれに乗ってきた。
「おう。ちょっとばかし早く目が覚めてな。それに、今日からお前の林間学校だろう?
ちっとばかし会えなくなる弟を、しっかり見送ってやらねぇとな!」
 言いながら、ヘクトルはエリウッドの前を通るように身を乗り出し、大きな手でロイの頭をくしゃくしゃと撫で回した。
「ちょ、やめてよヘクトル兄さん!」
「あらあら。良かったわね、ロイ。お兄ちゃんに見送ってもらえて」
 微笑ましい弟たちの姿をみて、ミカヤの顔から笑顔がこぼれる。
「べ、べつにヘクトル兄さんに見送られたって嬉しくなんかないよ!」
「てめぇ、言いやがったな!」
「痛い、痛いってば兄さん!」
 ロイの言葉に、ヘクトルはロイの頭を撫でる手に力を込める。
ロイも、口では嫌がっているものの、その表情は嬉しそうだ。
372 名前: とある主人公の封印之剣(ソードオブシール) [sage] 投稿日: 2011/05/29(日) 13:06:30.31 ID:Ey2Y2KAW
「おはよう、みんな。今日も朝から賑やかだな」
 そうこうしているうちに、部屋にシグルドがやってきて、ようやく朝食が始まった。
「林間学校?今日からか?」
 あらかた朝食を食べ終えた頃、シグルドが部屋の片隅にあるリュックに気が付き話題を振ると、それにロイが答えた。
「うん、そうだよ。あれ、前から言ってあったよね?」
「・・・む、そうだったか。すまない。最近忙しくて、よく聞いていなかったようだ」
「別にいいんだけど・・・兄さん、最近本当に忙しそうだね?昨日の夜も僕が起きている内には帰ってこなかったし」
 言いながら見てみれば、シグルドの眼の下にはかすかにクマができていた。
昨晩は今日の為にロイが早くに布団に入った(もっとも、興奮して寝付いたのは結局いつも通りの時間だったが)のもあるが、
シグルドが仕事を終えて帰って来たのにロイは気付けなかった。
373 名前: とある主人公の封印之剣(ソードオブシール) [sage] 投稿日: 2011/05/29(日) 13:08:50.15 ID:Ey2Y2KAW
「あぁ、そんなことはお前達は心配しないでいい。それより、荷物が一、二・・・五つもあるが、全部ロイの荷物か?」
「まさか、そんなわけないよ!」
「ロイだけでなく、僕達も行くんですよ」
 ロイの言葉を、エリウッドが補足する。が、それだけでも説明としては不十分で、シグルドは更に
疑問符を重ねることになる。
「中学の林間学校に、エリウッドが?一体どうしてだ?」
「今回の行事は、もちろん中学の学校行事という面もあるのですが、学校と地域や家庭の交流を
深めるためのものなんですよ」
 エリンシアが、食後のお茶をシグルドに差し出しつつ説明する。
基本的に、弟妹達の学校からの連絡やプリントはエリンシアに渡されるので、ミカヤやシグルドよりも事情に詳しい。
「それで、今回は宿を地元にある・・・イリアに行くそうですが、生徒の親戚さんが経営している民宿を借りたり、
374 名前: とある主人公の封印之剣(ソードオブシール) [sage] 投稿日: 2011/05/29(日) 13:11:07.47 ID:Ey2Y2KAW
生徒の家庭からインストラクターというのでしょうか?お手伝いを募っていたんです」
「なるほど。それで、エリウッドが行くことになったのか」
「はい。僕はエレブ中の卒業生ですし、生徒会長をやっていましたので、その縁で頼まれたんです」
 エリンシアの説明でようやくシグルドにも状況が見えてきたようだ。
「それじゃあ、残りのリュックはヘクトルとリンのものかい?」
 エレブ中学のOBということでエリウッドが行くのならば、ヘクトルとリンも同様だ。
また、兄弟の中でも三人はよく行動を共にしている。シグルドの予想は当然のものと言えた。
「あ?俺がそんな面倒なことするわけねぇだろ兄上?」
「私も、フロリーナと遊びに行く予定なのよね。もっと早く知れてたら、私も一緒に行きたかったんだけど・・・」
 が、その予想は外れてしまった。そして、「それでは誰が?」とシグルドが質問するより早く解答が述べられる。
375 名前: とある主人公の封印之剣(ソードオブシール) [sage] 投稿日: 2011/05/29(日) 13:13:35.40 ID:Ey2Y2KAW
「一つは、俺のリュックだ。弟や後輩の面倒を見るのは好きだからな。
俺はエレブのOBではないが、問題ないそうだし、かまわないだろ、兄上?」
「あぁ、もちろんだとも。ロイだけでなく、しっかりと他の子達の面倒も見てあげるんだぞ」
 なるほど、確かにエフラムほどこの役目が似合う者はいないだろう。シグルドはエフラムの問いに快諾する。
そして、残りの二つのリュックの持ち主は・・・
「私とアルムも、一緒に行くのよ。ね、アルム?」
「うん。一生懸命、みんなの面倒を見ようね」
 満面の笑みで―本当に楽しみなのだろう―アルムに笑みを向けるセリカ。それに、同じく笑顔で答えるアルム。
 ロイも楽しそうにリュックの中身をのぞきながら持ち物の最終点検をしている。そんな弟妹の様子を見て、
つい先ほどまで喧嘩をしていたヘクトルとエフラムも互いに顔を見合せながら笑みを浮かべる。
376 名前: とある主人公の封印之剣(ソードオブシール) [sage] 投稿日: 2011/05/29(日) 13:16:03.40 ID:Ey2Y2KAW
 そんな、和やかな空気の中――
「駄目だ、許さん」
 シグルドの静かな声が、その場の空気を一変させる。
「え――?」
「な、なんでさ!兄さん!」
「なんでもだ。とにかく、二人が行くことは許可できない」
 セリカが一瞬で表情を強張らせながら、乾いた声を出し、アルムは声を荒げて抗議する。
が、それに応えるシグルドの声はあくまで静かで、逆にそれが説得の余地を感じさせない。
「そんなのってないわ!理由を言ってよ!」
「・・・。冷静によく考えなさい。ロイ達の学校行事、それも宿泊を伴う林間学校を、
どうして同じ中学生のお前達が引率するんだ?」
 今度はセリカが声高に反論し、シグルドは一度大きく息を吐き出すと、ゆっくりと説明をする。
が、それでも到底二人は納得することができないようだ。
「僕達はロイ達の学年より上だ!ちゃんと引率できるよ」
377 名前: とある主人公の封印之剣(ソードオブシール) [sage] 投稿日: 2011/05/29(日) 13:18:08.85 ID:Ey2Y2KAW
「そうよ!私もアルムも、そういうの得意なんだから!」
 セリカの言うことは事実だ。アルムもセリカも友人達の中ではリーダー的存在であり、その場を仕切ったり、
大勢に指示を出すことは得意だ。これは二人に限らず、兄弟全員共通の才能と言えるものであり、
そのことはシグルドだってよく理解している。
が、それでも二人はまだ中学生だ。もし何かあった時のことを考えれば、心配して当然と言える。
そして、もしそうなれば傷つくことになるのはアルムとセリカ自身なのだ。だから、シグルドは心を鬼にして告げる。
「何と言っても無駄だ。この私が許可しない限り、学校だってお前達を連れていくことはできないだろう」
「で、でも、もう前から決めてたのよ。私達、楽しみにしてたのに・・・」
「あきらめなさい」
「でも、急に手伝いの数が減ったら、迷惑をかけるんじゃ」
378 名前: とある主人公の封印之剣(ソードオブシール) [sage] 投稿日: 2011/05/29(日) 13:20:13.01 ID:Ey2Y2KAW
「私から謝罪の電話を入れるから心配しないでいい。どうしても人が必要なら、姉さんやエリンシアに行ってもらおう」
「でも―――!―――!」
「―――。―――」
「―――!―――」

 そんなやりとりがしばらく続くと、ついにアルムとセリカが静かになった。
他の兄弟達は黙ってやり取りを見つめていたが、ロイは当事者だけあり不安そうな顔を浮かべている。
「ふぅ。やっと分かってくれたか?それじゃあ、二人とも・・・」
「――によ」
 黙った二人を見て観念したのかと思ったのか、シグルドが学校に電話しようと腰を浮かせたところで、
セリカが俯きながら震えた声を出す。
「ん?なんだ、セリカ」
 そんなセリカの声を聞き、シグルドが浮かせた腰を下ろし、セリカに向き直る。
 すると、セリカは勢いよく顔を上げ、キッとシグルドにきつい目線を向ける。
379 名前: とある主人公の封印之剣(ソードオブシール) [sage] 投稿日: 2011/05/29(日) 13:24:07.73 ID:AEN2c4dB
その目じりには、涙がたまっているのがシグルドには見えた。
「なによ!シグルド兄さんなんか、今日までロイの林間学校があるなんて知らなかったくせに!
今日になって急にそんなこと言うなんてずるいわ!」
「・・・」
 セリカが激昂するのも無理はないと思ってか、シグルドは黙ってその言葉に耳を傾けようとする。
「いろいろ言ったって、本当は私とアルムが仲良く出かけるのが嫌なだけなんだわ!
いつも、私達にだけ厳しくして――!」
 シグルドを睨んでいた目を、今度はつらそうに瞑り、その端からはとうとう涙がこぼれてきた。
そして。
「いつも、仕事仕事って、家族のことなんかほったらかしにして!」
―「セリカ、言いすぎだよ」とアルムがブレーキをかける前に、セリカは次の言葉を口にした。してしまった。
「兄さんなんか、本当は私達のことなんか愛していないんだわ――ッ!!」
380 名前: とある主人公の封印之剣(ソードオブシール) [sage] 投稿日: 2011/05/29(日) 13:26:27.80 ID:AEN2c4dB
「セリカッ!!」
 アルムのとっさの叫びの後、――シン、と部屋の中が静まりかえる。
「・・・あ」
 一瞬の間の後、セリカは自分の言った言葉の意味を反芻する。そして、その顔からさっと血の気が引いて行く。
―しまった!と、アルムは思った。こうなる前に、セリカを止めなければいけなかった。
それは自分の役目だったのに、アルム自身がセリカの言葉でシグルドが折れてくれるのを期待して、
止めるのが遅れてしまった。が、そんなことは後の祭りだ。
今はとにかく、この場の空気をどうにかしなければならない。そう思って、アルムは口を開く。
「し、シグルド兄さん。セリカは・・・」
 が、アルムがフォローを口に出す前に、すっとシグルドは立ち上がる。
アルムの位置からではその表情を窺い知ることは出来なかったが、見えないでよかったともアルムは思った。
381 名前: とある主人公の封印之剣(ソードオブシール) [sage] 投稿日: 2011/05/29(日) 13:28:30.86 ID:AEN2c4dB
「――今日は、社で大事な会議がある。遅刻するわけにはいかないので、私はもう行く」
 言って、シグルドは自らの鞄を持って部屋を出て行こうとする。
「兄さん――!」
 セリカが立ち上がり、悲痛さを感じさせる声でその背を呼び止める。
が、シグルドは足を止めたものの振り返ることをせず、静かに口を開くだけだった。
「・・・ロイ、こんな出立になってすまない。気をつけて行ってきなさい」
「う、うん」
 何と答えればいいのか分からず、ロイは曖昧な返事をする。セリカは、まだジッとシグルドの背を見つめている。
「エリウッド、エフラム。『三人』を頼んだぞ」
「・・・分かっています」
「まかせてくれ」
 二人の返事を聞き、シグルドは一度頷いてから、部屋を出ていく。
その背に向かってもう一度セリカが呼びかけるが、今度は立ち止まることさえなかった。
382 名前: とある主人公の封印之剣(ソードオブシール) [sage] 投稿日: 2011/05/29(日) 13:31:42.02 ID:AEN2c4dB
 そして、少し経って玄関の閉まる音がやけに大きく響いた。
その間、誰もしゃべることもせず、ただその場の凍てついた空気に耐えるのみであった。
「なによ。どうして、否定しないのよ」
「セリカ・・・」
 立ちすくみ、うつむきながらセリカが震える声を出す。
「どうして・・・どうして、そんなことないって言ってくれないの?」
 それは、悲しみか怒りか。アルムにも、セリカ自身にも分からなかった。
「シグルド兄さんの・・・」
 それでも、胸の内にある得体のしれない感情を吐き出すため、セリカは先ほどと同じように顔を上げ、
キッとキツイ視線をシグルドが去って行った玄関方に向けた。
「シグルド兄さんの、バカーーーッ!!!」
「このひとでなしーッ!」
 そして、セリカと、ついでにライナロックに焼かれた誰かの叫び声が、朝の紋章町にこだました。

第一章(後編)につづく