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Last-modified: 2011-05-30 (月) 21:52:41

67 名前: 助けて!名無しさん! [sage] 投稿日: 2011/05/13(金) 00:25:22.74 ID:uoh+ZU01
 ~兄弟家、庭~

 青く晴れ渡った夏の空の下、降り注ぐ日差しを浴びながらアルムが家庭菜園の収穫作業を行っている。
 そのすぐそば、縁側に座って退屈そうに足をブラブラさせているのは、

サラ「……」
アルム「んー……」
サラ「……」
アルム「……ええと、サラ、だったっけ?」
サラ「……なに?」
アルム「さっきからずっとそこに座ってるけど、もしかして暇なの?」
サラ「あなたには関係ないと思う」
アルム「ははは、それは確かにそうだな」
サラ「……兄様」
アルム「ん?」
サラ「エフラム兄様は修行で遠くに行ってるし、リーフもナンナとお出かけしてるから」
アルム「ああ……そうか。君もついていけば良かったのに」
サラ「邪魔になるもの」
アルム「……案外気を使うんだな。二人は気にしないと思うけど」
サラ「強くなるっていうのは兄様の目標だし、リーフも何だかんだ言ってナンナのこと一番大事にしてるから。邪魔して、嫌われたくないもの」
アルム「……そうか。まあ今日は他の皆も出かけてるしな。君がいたいならずっとそこにいればいいよ」
サラ「そう」
アルム「……うん、いい出来だ。エリンシア姉さんも大喜びだな、これ」
サラ「……ねえ」
アルム「ん?」
サラ「……ええと……この家の中で一番影が薄い人」
アルム「酷い覚え方だな! アルムだよ、アルム」
サラ「あなたはさっきから何をしているの?」
アルム「ああ。収穫作業だよ。トマトの」
サラ「トマト……」
アルム「……そんなに顔をしかめてなくてもいいだろ」
サラ「野菜は嫌い。青臭いから」
アルム「ううん……いかにも現代っ子って感じだね」
サラ「そういうあなたはおじさん臭い」
アルム「酷いな本当……まあ影が薄い、よりはマシか。はい」
サラ「!?」

 アルムは唐突にトマトを一つ投げて寄こす。慌てて受け取るサラ。
68 名前: 助けて!名無しさん! [sage] 投稿日: 2011/05/13(金) 00:26:32.77 ID:uoh+ZU01
サラ「な、なによ急に」
アルム「食べてみな、それ。ああ、洗ってあるからそのままで大丈夫だ」
サラ「……? さっき野菜は嫌いだって言ったわ。嫌がらせ?」
アルム「違うって。まあいいから食べてみなって。騙されたと思って」
サラ「怪しい宗教勧誘みたい」
アルム「エフラム兄さんやリーフ兄さんも、好き嫌いしない女の子の方が好きだろうな」
サラ「……下手な脅しね」

 言いつつ、サラは顔をしかめながらトマトを一かじり。
 そして、驚いたように目を見開く。

サラ「……」
アルム「どうだ、びっくりするぐらい甘くておいしいだろ」
サラ「む……べ、別にびっくりなんてしてないし」
アルム「ははは、そうか? 僕は野菜を食べた人が今のサラみたいな顔をするのを見るのが毎回楽しみなんだけどな」
サラ「……」
アルム「まあとりあえず、おいしいと思ってもらえたなら満足だ。ちょっと待っててくれ、麦茶持ってくるから。
     みんなもその内帰ってくると思うし、せっかくだから今夜はウチで食べていけよ。他にもおいしい野菜はたくさんあるからさ」

 そう言って収穫した野菜を抱えたまま、縁側から家の中へ入っていくアルム。
 一人残されたサラは、手元のトマトをじっと見つめ、一かじりしながら小さく呟く。

サラ「……アルムのくせに生意気」

 ちりん、と涼やかに、風鈴が鳴った。